綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話 作:ファウストの劫罰
すいませんっ!!!
そしていつの間にかGW終わってたっ!!!すいませんっ!!!
水泳部の大会は終え、本当に短い付き合いだった3年生も引退していった。
その後の夏休みの部活動は全て任意の自由練習となった。
夏休みも残り1週間と少しを残すのみ。
水泳部の連中は飽きずに自由練習となった後も、毎日部活動に励んでいるらしいが、強制力が無くなった途端、俺が部活にいく頻度は目に見えて落ちた。
自由練習という話だし、それが本来の正しい姿なんだが、かや乃は少し寂しそうにしていた。
「大会が終われば燃え尽き症候群になってもおかしくは無さそうなのにな。どうして、あんなにやる気に満ち溢れてるんだ。あの連中。。」
俺は今日も部活動の自由練習には参加しないことを選んだ。
今日は大事な用事がある。部活動なんかに割いてる時間は無い。
俺が独り言を零していると、待ち人はドアを開けてやってきた。
「悪いな。今日も来てもらって」
「悪いなんて思ってないでしょう?」
「社交辞令を知らないのか」
約束した時間ぴったりに現れた堀北は鼻を軽く鳴らす。
俺は茶柱先生に話を通し、ポイントを支払うことで、今いる家庭科室をここ4日貸し切っていた。
それも全て、堀北にお菓子作りを教えて貰う為だ。
「今日で最後にするつもりだ。この4日間助かった。今日もよろしく頼む」
俺は花嫁修業のような分野には当然弱く、知識もからっきしだ。その点、堀北は嫁レベルが相当高いため指導役に向いている。
「…そう。なら、いいわ。」
「なんだ。明日から俺に会えないのが寂しいのか?」
「…どうして、そういう事になるのかしら?あなた、頭にお花でも咲いてそうね」
確かに彼女達を抱えるのには両手じゃ足りないからな。
頭の上にも花が咲いてるかもしれない。
「だって、俺の事が好きなんだろ?」
「…っっ!!あ、あれは。…社交辞令よ」
「社交辞令でキスをするのか?」
「〜〜っっ!!そ、それ以上その話をするなら帰るわよ」
堀北の顔真っ赤にして必死に出した理論を論破した所で堀北がエスケープしようとしたのでこの話はやめておく。
「冗談だ。だが、俺は堀北と料理するのが楽しかったんだ。だから、自分だけ寂しいって感じてるのも癪でな」
「…なら、明日からも…やればいいじゃない」
「堀北が俺と会えないのは寂しいからどうしてもやりたいって言うなら考えてもいいんだがな」
「……。そ、それは。。」
ここで口ごもること自体が明日も俺とこの部屋で料理をしたいと言っているのと同じなんだがな。
「その話を続けたいことはやまやまだが、時間がなくなりそうだ。そろそろ始めよう」
「…そ、そうね。始めましょう」
調理器具も環境も整っているこの家庭科室を貸し切れる時間は有限だ。
今日だけはお菓子作りを中途半端で終わる訳にはいかない。
「一貫性がないわね。今日は。」
俺が買ってきた色とりどりの具材を見て、堀北は首を傾げる。
昨日まで、用意された具材を見て、堀北は驚くことに俺が作ろうとしていたお菓子を当てていた。
昨日、アプフェルシュトゥルーデルというマニアックなものも見事に当てられて、堀北のお菓子分野での博識さは完膚なきまでに分からされた。
「今日作るのはホールのケーキだ。だが、色々とデコレーションしようと思っている」
「なるほどね。ここら辺はデコレーション用ってことね。」
「ああ。昨日作ったやつより簡単だが、昨日よりも完成度が必要だ」
「…。あなたがお菓子作りが趣味って事ですら可愛い子ぶってるのに、さらにデコレーション?随分と嗜好が変わっているのね」
「可愛いは性別の壁を超えるんだよ」
堀北の嫌味には適当に返しておく。
堀北にネットで拾ってきたパティシエが紹介していたホールケーキのレシピと完成図の写真を見せる。
「…もう何も言わないわ。手間もかかりそうだし、早速取り掛かりましょう。」
インスタ映えではなく女の子が喜びそうな見た目の可愛らしいケーキに堀北は怪しむような目をしたが、何も言ってくるつもりはないようだ。
堀北と俺は共同作業に取り掛かった。
食戟が始まっているかのような緊張感の中作業は進んでいく。
「これくらいの色でいいかしら?」
「ああ。流石だな」
ピンク色に染めた生クリームの色合いやスポンジ生地の完成度等を逐一確認しながら進めていく。
あくまで調理工程を進めるシェフは俺で堀北はアシスタントという形で進めていく。
焼く工程に入ってもその後のデコレーションについて2人で試行錯誤していると時間はあっという間に過ぎていった。
ネットで拾ってきたままのものではなく、少しアレンジを加えてオリジナリティを出していく。
パティシエ顔負けの本気度で取り組み、俺達のデコレーションホールケーキは完成した。
「やっと出来たわね。。」
「ああ。文句無しの出来だ。ありがとう」
「私はサポートしただけよ。」
「そのサポートがなかったらこのケーキは作れなかった」
ピンクと白を基調としたいかにも女の子らしい色調でデコレーションされた土台の上に、王道の苺とブルーベリーで見た目が良くなるように緻密な計算の元に飾り付けられていて、食べるのが勿体無いくらいの完成度だった。
「…それで、これは誰に渡すのかしら?」
もう、堀北じゃなくても察することが出来るだろう。
デコレーションを見ても、誰かに渡すことを前提としたものであることはすぐに分かる。
「気になるのか?」
「助力した私には知る権利があると思うけど?」
「みーちゃんだ。堀北は知らないだろうが、今日は彼女の誕生日なんだ。後で渡しに行くつもりだ。」
「…そう。誕生日ね。。」
「どうだ?お前も来るか?」
作り手の堀北に祝う意思はないにしろ、その資格があるだろう。
「遠慮しとくわ。そんな間柄じゃないもの」
堀北とみーちゃんの関係は良好と言えるものじゃない。予想通りの返事だった。
「そうか。まあ、渡す時は堀北にも手伝ってもらったことを言っておくよ」
「必要ないわ。それに、それは彼女が喜ばないんじゃないかしら?」
そうだな。みーちゃんとしては複雑な感情になるだろう。
だが、それを分かった上で俺はこの事実を伝えるだけだ。
「まあ、堀北がそう言うならやめておくか。」
「そうすることをオススメするわ。」
それきり会話は途切れて、俺達は無言で手を動かして、後片付けを済まして、家庭科室を共に出る。
「本当に助かったよ。ありがとうな。堀北」
「……ええ」
「さっきからやけに静かだな。…まあいい。俺は鍵を返しに行ってくる。またな。堀北」
「…まって。」
堀北から静止の声がかかり俺は立ち止まる。
「なんだ?」
「…私が誕生日でもあなたは私にも同じようにしてくれたの?」
「して欲しいのか?」
「質問に質問で返さないで」
確かに今のは狡い返しだったかもな。
俺は少し思案した後に答えを返す。
「同じようにはいかないんじゃないか?堀北が誕生日なら、堀北に手伝ってもらうことも出来ないしな」
「…そういう話じゃなくてっ。。」
歯切れが悪く、要領を得ない返事。口をもごもごとしている堀北を見かねて、俺は求められているであろう言葉を続ける。
「だから、堀北の誕生日の時は特別考える必要があるな。だから、楽しみにしといてくれ」
「そ、そう。ならいいわ。」
堀北の俺を上目遣いで見る目はその答えで満足したように見えた。が、その後すぐに目を細める。
「で、その私の誕生日はいつか知っているのかしら?」
「2月15日」
「え……?…なんで知ってるのよ」
まさか俺が知っているとは思わなかったのだろう。
俺の即答に小さく驚いたような声と少しの硬直。
堀北に手伝ってもらうこと流れになった時から、この会話の流れは想定していたからな。
「堀北のことなら何でも知っているからな」
「…まるで、ストーカーのセリフね。」
「知らなかったら怒りそうな雰囲気を醸し出してた癖に酷いやつだな」
堀北にとって、俺が堀北に詳しいことは気味悪い事じゃなくむしろ、嬉しいことだ。
言葉は非難するような比喩だが、表情は柔らかい。
「…私はあなたのことまだ全然知らないわ。あなたはいつなのよ。」
自分の誕生日を特別視したことなどないが、堀北が俺の誕生日を特別視してくれるのならそれはきっと喜ばしいことのはずだ。
「10月20日だ。聞くからには祝ってくれるって思っていいのか?」
「…そうね。条件次第では考えなくもないわ」
「条件?」
堀北は自分で言った割には俺に問いかけに、中々答えない。
俺の催促するような目に追われて、顔を赤くしながら唇を震わせて、何とか言葉は紡ぎ出される。
「…な、なまえ」
「名前?」
堀北の呟くような言葉を拾って意地悪く俺は聞き返す。
堀北は1つ咳払いして、深呼吸して、ハキハキとした声で言い直した。
「名前で呼ぶことを特別に許可して上げてもいいわ」
それは堀北らしい上から目線で叩きつけられた要求だった。条件と最初に言っておきながらこの言い回し。堀北の会話の運び方が崩れているのは指摘するまでもない。
「素直じゃないな」
「う、うるさいわね。元はと言えばあなたがはっきりしないからよ。名前で呼んだり名字で呼んだりお前って呼んだり。。」
どうしようもないほど素直じゃないそれの内側にはどうしようもないほど素直な気持ちが隠されている。
その捻くれが看破されてブツブツと言い始める堀北。それを止めるように俺は名前を呼んだ。
「鈴音」
「…もう1回」
「鈴音」
俺が名前を呼ぶ。堀北はたったそれだけのことに喜びを感じて、それを嚙み締めているのを隠すように唇を固く結んで閉じている。
「改めて言葉にして思ったが良い名前だな。由来は知らないが、その名の通り、俺は鈴音といると心が安らぐし癒されている」
鈴の音色はヒーリング効果の他に邪気を払う性質もあると言われている。いわゆる、魔除けの意味も持つということだ。
堀北が魔除けの鈴の音なら、その場合、魔は何になるんだろう。
「な、何よそれ。。あなたは安らいでいるかもしれないけど、私は逆よ。嵐の渦中にいるみたいに落ち着かないわ。」
「なら、名前で呼ぶことはやめといた方がいいんじゃないか」
「…それはダメよ…。名前で呼ばれないことの方が不安になって落ち着かないの」
心が忙しいやつだな。こいつは。
「あの夜が無かったことになるみたいで嫌なの。」
俺が堀北を名前で呼んだことをそこまで深く考えられているとは思わなかった。
堀北が真剣な表情で言うあの夜から約3週間が経過した。
それでもなお、あの記憶は何より強く刻まれている。
「俺も無かったことにするつもりはない。鈴音。これからはそう呼ぶことにする」
「そ、そう。ならいいわ」
堀北は自分が描いた通りの展開になったことに腕を組んで満足気に何度か頷く。
「鈴音。本当に名前だけでいいのか?」
「…ど、どういうことよ」
「そうか。分からないならいい。」
「ま、待って。」
「なんだ?」
俺が話を切る雰囲気を見せると鈴音は焦ったように声をあげた。
「ま、まって」
残り少ない夏休み。この先に俺と鈴音が会う予定はない。
当分会えないことに対しての未練が堀北の後ろ髪を引く。
俺は無言の圧力で堀北の言葉の続きを待つ。
「…まだ、足りてない。」
「ああ」
あまりに言葉足らずなそれを俺は優しく肯定する。
「こっち。」
鈴音は短い言葉と硬い動きで俺を手招く。俺は操り人形のようにそれに従い鈴音の正面に立った。
鈴音は恐る恐る俺の左胸に手を伸ばして触れてきた。
二人しかいない廊下は静寂に包まれていて、お互いの一挙手一投足や息遣いが際立つ。
「…やっぱり。まだ遠いわ。」
鈴音は何かを感じとったようで、顔にわずかの焦燥感を漂わせた。
俺はあの夜の再現のように、鈴音の頭を俺の胸に押し当てるように抱え込む。
「これでもまだ遠いか?」
「さらに遠くなったわ」
「それは困ったな。」
物理的な距離を詰めたところで、感じる距離感は変わらない。
鈴音は俺の胸から少し顔を離して、俺の右手を取って自分の胸部へと誘導した。
例に漏れず、操られるままに鈴音のしっかりと柔らかな弾力を持つ膨らみへと着地する。
俺が言葉を発しようとしたタイミングで鈴音はまくしたてるように言葉を紡ぐ。
「い、いいからっ。集中して」
鈴音の顔は朱色に染まっており無理をしていることは一目瞭然だが、退く気がないことは、目に映る覚悟から読み取れた。
鈴音は瞬きも惜しむように俺の顔を一点に見つめるように観察してくる。
「ど、どう?」
「意外と大きいんだな。」
「ばっ、ばかっ。…他にあるでしょ。。」
鈴音は俺の下心に満ちた感想を聞いて、照れてはいるものの俺の手を跳ねのけようとはしない。
それほどまでして、俺に何か分かって欲しいんだろう。
集中すればするほど鈴音の甘い匂いや柔らかな感触ばかりに気がいってしまうんだが。
「鼓動。こんなに速くなるもんなんだな」
わざわざ左胸を差し出してきた状況とこれまでの流れから俺は答えを導き出す。
「…ええ。私自身もこんなの初めてよ」
俺の普段通りの機械じみた鼓動と、鈴音の極限まで速く高鳴る心拍音との温度差。
あの夜も今と同じ温度差を抱えながら眠った。
これが鈴音が感じている俺との距離だろう。
「俺との違いに絶望でもしたか?」
「いいえ。少し寂しかっただけ。」
プライドの高い鈴音が寂しいという感情を俺に吐露する。
先程のケーキ作りの時の回答も兼ねているようだ。
「悪いな。鈴音が俺のことを好きでも、俺は鈴音のことを好きじゃない。」
この温度差の理由はこれに尽きる。
「…はっきり言うわね。。」
鈴音は苦虫を嚙み潰したよう表情で睨んでくる。
「そっちの方がいいんだろ?どうする?諦めるか?」
「あなたの話は今の話でしょう。」
「そうだな。今の話だ」
「私、諦めの悪い女なの。私に好かれたのが運の尽きよ。覚悟しておいて」
「あなたのその鋼鉄の心臓。私の熱で溶かすから。」
鈴音は俺の胸に威力高めの拳を繰り出し、婉曲的な宣言を吐き捨てて俺から踵を返した。
俺は呂布カ〇マじゃないんだがな。。
鈴音にはポエマーの資質があるのかもしれない。
ひよりに告白した時のセリフを自分で思いだし、俺が言えることでは無いなと思い直した。
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その日の夕方。俺はみーちゃんの部屋に訪れた。
みーちゃんとは連絡のやり取りはあるものの実際に顔を合わせるのは豪華客船以来だ。
ノックをするも、返事はない。
どうやら出掛けているらしい。
女子フロアで右往左往するのも不審者っぽくて気が引けるが、誰にも見つからないことを祈って待つことにした。
「あれ、こんなところで何してるの?」
俺の祈りは惜しくも届かず、みーちゃんじゃない人物に目撃されてしまう。長谷部だ。幸い一人のようだ。
「人を待ってるんだ」
「誰を?」
「内緒だ。」
今まであまり絡みのない人物だったが思いの外、深掘りして聞いてくる。だが答える義理も無い。
「うわー。そういう感じ?」
「それはこっちのセリフだ。長谷部は案外軽いノリで話すタイプなんだな」
「女子ってだいたいこんな感じじゃない?」
「それ、偏見だと思うぞ。」
「そんなことより、当ててあげよっか?待ってる人」
おみくじで大吉でも引いたのだろうか。
テンション高めの長谷部が俺の思っていた人物像とは程遠くて若干の戸惑いを覚える。
無口で一匹狼のイメージだったが、フラットな口調からコミュニケーション能力が低いわけではないことは窺える。
好んで一人を選んでいるタイプだろう。
俺が長谷部の人物像のインプットをやりなおしているその間にも待ち人は誰でしょうクイズは進行していたらしい。
「綾小路君が待っている人は次のうちどれでしょう?1.みーちゃん 2.みーちゃん 3.みーちゃん 4.みーちゃん。さあ答えてください。」
手をマイクに模した形にして俺に突き出してくる、
長谷部は答えを確信しているような問題の出し方をしてきた。しかも、俺に自白させたいのか実質一択の回答権を与えられる。
いい性格してるな。。
「正解だ。てか、分かってるなら聞いてこないで欲しいもんだな」
俺は手を軽くあげてお手上げのポーズを取る。俺の手荷物を見ればだいたい察しが付くだろう。
「いきなりそれを言うのも性格悪いかなって」
「さっきの問題の出し方をしてそれを言うか」
「さっきのはほんの冗談だよ。てか、さっきからツッコミ鋭いね~。いつもそんな感じだったけ」
長谷部から見る俺は軽井沢グループの講師役の一面と無人島試験でクラスを引っ張った一面くらいだろうか。
「どんなイメージを持たれているか知らんが普段からこうだ」
「ふ~ん。」
あからさまに興味なさげな返事。いや、あまり俺の言葉を信じていないような雰囲気もあるな。
「話はそれだけか?」
「うーん。じゃあ、ついでに一個聞いていい?」
「ダメだ」
俺の返事を聞く耳は最初からなかったようで、中々切り込んだ質問をしてきた。
「みーちゃんと付き合ってるの?」
「付き合ってない」
「うわ。即答?その割には祝う気満々って感じだけど」
「友達でも誕生日くらい祝うだろう」
「ほんとにそれだけ?なんか怪しいな」
存外しつこく食い下がってくるが、ほんとに言えることはそれだけだ。
「でも告白されたんでしょ?」
長谷部もある程度の情報は掴んでいるようでさらに神風特攻を仕掛けてくる。
「さっき、ずけずけと物を言うのは性格悪いとか言ってなかったか?」
「だって、気になるんだもん」
若干語尾をあざとくして、性格の悪さを誤魔化している気もするな。
「赤の他人に話す気にはならない」
「他人じゃなければいいってこと?じゃあ、友達になってよ」
「悪いが、動機が人の恋愛沙汰を根掘り葉掘り聞くためのやつとは友達になるなって親に躾けられてきたんだ。親を裏切らないためにもその提案には乗れないな」
「ぷっ。なにその言い訳。やっぱり綾小路君、お笑いセンス高いよ。ボケも混ぜてくるなんて」
全く心に響かない褒め言葉だな。。
「決めたっ。やっぱ私と友達になってよ」
「だから…」
「もうみーちゃんとの話は聞かないからっ。それならいいでしょっ?」
「お笑いセンスを友達の選定基準にしてるのか?」
おもしれー女。とは思わない。
「それだけってわけじゃないよ。信用できない?」
「まあ、正直に言えば。」
「うわー。流石にそこは噓ついた方がいいんじゃない?流石の私も傷つくよ。」
あからさまなリアクションを取る長谷部は傷ついているようには見えなかったが、流石を二回言っているあたり、内心にはダメージがあるかもしれないな。
「でも信用できないんじゃ仕方ないね。今なら、友達のよしみでみーちゃんが帰って来るまでの部屋の提供とプリンも一つおまけでつけるけどダメ?」
長谷部が指した部屋はみーちゃんの一つ隣。どうやらみーちゃんの隣の部屋だったらしい。
掲げるレジ袋の中にはプリンが2つ入っていて、適当を言ってる訳でもない。
「それに、綾小路くんとしても、これ以上誰かに目撃されるのも避けたいんじゃない?」
プリンはともかくとして、部屋の提供については俺のメリットがある提案だ。
純粋な厚意である可能性もゼロじゃない以上、これ以上無下にするのも失礼か。
「分かった。長谷部の厚意に甘えることにする」
クラスでどこのグループにも所属してない長谷部に根掘り葉掘り聞かれることよりも、他の人に見つかった時のリスクの方が面倒だしな。
俺がレジ袋から除くプリンを見る視線に気付いて、長谷部は目を光らせたように言う。
「やっぱり綾小路君もプリンには負けるか〜。まあ仕方ないよね。プリンは人類の叡智の結晶だし。今日はツイてて良かったよ。」
プリンの誘惑に負けたことになってる上、長谷部はプリンを神格化し過ぎている節があるな。
「ツイてたって?」
「よく聞いてくれたっ。このプリン、当たりくじがついてる商品でね。凄い低確率なのに、1個買ったらもう一個ついてきたんだよ。1発でだよ?凄くない?」
早口で捲し立てる長谷部は幸福感に溢れていた。
「…それは凄いな。」
「私としては1人で2個食べても良かったんだけど、やっぱり誰かとこのプリンの美味しさを共有しながら食べるのも通だよね。いやぁ、綾小路君もプリンが好きでよかったよ。」
「ああ。俺も嬉しいよ」
なんか話が逸れそうで。と心で呟いておく。
「今日から私たちプリ友だから。よろしくね」
いつかプッチンと縁がキレそうなカテゴライズだな…。
「ああ。よろしく頼む」
私、友達が少ないから嬉しいよーなんて言う長谷部に裏はないように思えた。
その後流れるように、シンプルの中にも可愛さが散りばめられているような長谷部の部屋に招かれ、プリンを挟んで俺達は友達になったことを祝った。
なんだこれ。
「それで、綾小路君はCクラスの椎名ちゃんと付き合ってるの?」
確かにみーちゃんの話は聞かないと言っていたが、これまた直球な質問だった。そして裏はやはりあった。
だが、椎名の方は持ってる情報が少ないらしく、適当に誤魔化すことが出来た。
油断も隙もない長谷部と友達になってしまい、みーちゃんが帰ってくるまで質問攻めにあったことは言うまでもない。
俺のささやかな反撃により、長谷部に今彼氏がいないことだけは聞き出しておいたが俺が与えた情報量に比べたら釣り合わない。
だが、プリンが劇的に美味しかったのでここは勘弁してやろう。
プリ友ってなんだよ。。。