綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話 作:ファウストの劫罰
櫛田は脊髄反射をも超越した速度で水着を元ある位置に戻した。
水着を拾い上げる。胸を隠す。水着を着用する。
その流れるような一連の動作は思わず目を見張ってしまうものだった。
まあ、目を見張る理由は別にもあったかもしれないが。
櫛田のアクシデントを招いた原因とも言えるカップルたちは櫛田の一糸まとわぬ背中にどす黒い何かを感じ取って、『ごめんなさーい』と大きな声で叫びながら逃げて行った。
ウォータースライダーよりもよほど恐ろしかったに違いないだろう。
「……」
「……」
俺の2.3歩先を歩く櫛田から、時折重い溜息が聞こえてくる。
今の櫛田は生理の時の茶柱先生よりも近寄りがたい存在になっているに違いない。
「……」
「……」
『異性の胸を意図せず見てしまった時の対処法』
こんなラブコメ主人公まっしぐらのテンプレートな展開で俺がどう行動すればいいか。
言うまでもないがホワイトルームの教材の範囲外で俺の中にその答えはない。
俺はこの状況を打開するための手段を暗中模索した。
まず初めに思いついたのはシンプルに謝罪することだ。
だが、俺の謝罪に「なにが?」と切り返された時に返す言葉を俺は持ち合わせていない。
そもそも前提として、櫛田もあれが事故であることを理解している。
俺に求められているのは謝罪ではなく、記憶の消去だろうな。
逆に「ありがとうございました。眼福でした」と伝えるのはどうだろう。
俺は張り倒される未来がすぐに見えて、この思考がどれだけ馬鹿げていることかを自覚した。
……結局、櫛田のほとぼりが冷めるのを待つことしか出来なかった。
触らぬ櫛田に祟りなしだ。今の櫛田を冷ましてくれるのは時間しかない。
だが、そんな俺の健闘は虚しく終わる。
その後すぐに、腹痛を言い訳にして遅れた割にはうざいくらいに元気な池と山内がやってきて、櫛田の不機嫌お構いなしに地雷を踏み抜いた。
「桔梗ちゃーん。ごめーん。待った~?てか、その"水着"めっちゃ可愛いね」
「おい寛治!ずるいぞっ。桔梗ちゃん俺の方が可愛いと思ってるぜ。その"水着"!!」
2人は隣にいる俺には目もくれず、ヘラヘラと盛り上がる。
櫛田のこめかみに馬鹿(彼ら)には見えない怒りマークが浮かんでいた。
「…うるさいなぁ。」
櫛田は不機嫌を取り繕うこともせず彼らを跳ね除けた。
なんだか炎上しそうなその台詞は、予感のままに、発火装置となった。
普段の優しい櫛田に夢見ていた池と山内は変な汗が全身から噴き出たように焦る。
「おいっ。綾小路。お前何かしただろ!!」
櫛田の本性が垣間見えたのにも関わらず、愚かにも、彼らは綺麗な夢から醒めることが出来ず、俺に矛先を向けてきた。
「何もしてない」
俺のその言葉に反応して、あの事件から一切俺に焦点が合わなかった櫛田の目がギロリとこちらを捉えた。
櫛田の心中を代弁するならば、「人様の胸を拝んでおいて、何もしてないって何???」といったところだろう。
だが、「何かした」と言えば、櫛田の不機嫌の理由を池や山内に追及されるのは避けられない。
神様。仏様。櫛田様っ…。ここはどうか、合理的な判断をっ。
俺の祈りが届いたのか、櫛田は俺を目で攻撃してくるだけで何も言わなかった。
「噓つけっ!!お前が何かした以外、有り得ないだろっ!!」
山内のしつこい追求が心底面倒だ。
『俺は何もやってないっ!!冤罪だっ!!』と言っても信じてくれないだろうな。ここは。。
「本当に分からないのか?」
俺は至って冷徹に真顔で切り返すことにした。
「な、なにが。」
「今日を楽しみにしていた櫛田にとって、腹痛なんて適当な理由で遅刻してきたお前らは、まともな謝罪もせずに軽薄そうにヘラヘラとした態度を取った。いくら優しい櫛田といえど怒る理由として十分じゃないか?」
「…え。」
二人は目を見開いて驚く。
櫛田が楽しみにしていたと言う事で、彼らの良心に罪悪感を植え付けることも忘れない。
櫛田は訝しげに俺を見ていたが、どんな表情を浮かべようとも、俺の言葉を否定しなかった時点で池や山内にとってはそれが噓でも真実に変わる。
俺は声を潜めて、池と山内だけに聞こえるように言う。
「櫛田はこう言っていた。謝ってほしいわけじゃない。ただ、納得できる理由が欲しいだけだって」
彼らの中に隠し通さなきゃならない後ろめたいことがあるのは分かっている。
地雷を踏みぬいたからにはその責任を取ってもらわないとな。
「で、でも…。」
池は喉が詰まったような声で躊躇うような目で俺を見る。
「言い訳する相手は俺じゃない」
橋渡しみたいな役に任命されるのはごめんだ。
しかも、それは吊橋だ。この橋を俺が通ろうとすれば、向こう岸にいる櫛田がロープを切り落としてくるだろう。
櫛田は下手に介入せずにいまだ訝しげに傍観していた。それは見方を変えれば、池や山内を非難する目にも見えた。
「桔梗ちゃんっ。ごめんっ。遅れた本当の理由は言えないけど。。今日を楽しみにしてたのは本当っ!!」
「そ、そうなんだよっ!俺は今日のために生きてきたといっても過言じゃないっ!」
池と山内は目を合わせて主張をすり合わせるように言い訳を並べた。
彼らが、今日を楽しみにしてた事実など、櫛田にとっては発展途上国の政治情勢よりどうでもいいことだろう。
「…なんで言えないの?」
不機嫌の理由は別にあるはずの櫛田だが、この流れに乗ることにしたようだ。
「えっ。それは、その……。…そ、そうっ!ちょっと、女の子には言えない男子特有のあれっていうか…」
「そ、そうそう。ほ、ほらっ。小学校の時、女子だけ不自然に集められて何かやってただろ?あれの男子版みたいなもんだよっ!とにかく女子には言えないんだ!」
歯切れ悪く言い訳する池に、意味の分からない例えを重ねる山内。
「女の子には言えないか。じゃあ、綾小路君には言えるんだよね?綾小路君聞いてきて」
「えっ!?」
戸惑う池をよそに櫛田は笑顔で俺を橋渡し役に任命してくる。
先程の橋渡しにならないために逃げたというのに、結局その因果はまわりまわって俺の元に降りかかってきた。
逃げられない運命ってあるんだな。
もし、この手にゼノブレイドがあればこの未来も変えれたはずなのに…。
くだらない思考は捨て、捨てられなかった因果を渋々拾い、俺は櫛田に従い池達の側に寄った。
二人は数秒コソコソと話したにのちに、急に馴れ馴れしく粘っこく肩を組んできた。
「綾小路。お前も男子なら分かってくれるはずだっ!!」
「お、おう」
池の妙な迫力に押されて肯定してしまった。ていうか、肩組まないでほしい。
ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべている姿を見るに、何かしらを思いついたようだ。
「…その桔梗ちゃんってエロいじゃん?」
池の唐突な発言に山内は首を勢い良く振り、激しく同意する。
俺は数十分前の出来事を思い浮かべてしまい、誠に遺憾であるが、話を前に進める意味を込めて、
「まあ、そうだな」
「そして、そのエロさは破壊的なわけっ。そんな桔梗ちゃんの水着姿なんか目にしたらなあ?」
池が含みのある目で俺を見てくる。
「勃っちゃってもおかしくないっ!!」
池が言いあぐねていた言葉の続きを山内はお構いなしに勢い良く言い放つ。
「…それで?」
「はあ?男ならここまで言えば分かるだろ!!その対策をしてたら遅れたんだよっ」
風俗から厄介客扱いされているおっさんみたいな思考回路してやがる。こいつら。
その上、朝から男子が集まってそんなことをしているなんて想像もしたくないほどの地獄絵図だった。
…待てよ。それなら、外村があそこにいた説明がつかない。そして今、彼らから外村の名前が二人から出る気配もない。
池や山内が自分の矜持をドブに捨てるような話をしてまで、外村のことを隠す理由はなんだろうか?
いや、もしかしたら…
「綾小路君。話終わったんでしょ。はやくこっち来て」
俺の思考は櫛田の介入によって中断された、
ってか、池や山内の話をどう説明すべきなんだ。俺は。。
池や山内は他人事のように俺のことを見ていた。こいつら、俺に全責任を一任する気だな。
俺は櫛田に手を引かれて、池や山内から死角にあたる建物の物陰まで連れ込まれた。
「最初に言っとくけど、断片的に聞こえたから。」
山内の馬鹿が騒いでたしな。聞こえていてもおかしくない。
それに、俺が噓をついて時に後出しでそれを言われるよりはだいぶ良心的と言えるだろう。
「…本当に、汚い話だったけどいいのか?」
「勿体ぶらないで。」
関係ないという櫛田に俺は彼らから聞いた話を一言一句違わず話した。
「きも」
その二文字は狗巻先輩よりも強い呪力が込められた呪言だった。
だが、逆に言えば、櫛田の反応はしかめた顔とその二文字だけでとどまった。
「…そこまで怒ってないんだな。」
「心底から反吐が出そうなくらいには気持ち悪いとは思ってるけどね。だけど、そんな話は皆が公にしないだけでありふれた話でしょ」
櫛田は公にしないのが当たり前なんだけどねと平然と補足する。
だが、それは櫛田が皆のその公にしない事情すらも情報として所持していることを示している。
櫛田は建物の影から池や山内がプールに溢れる水着姿の女の子達に目移りしまくっているのを確認した後に、俺を影がより深いところまで引っ張りこんだ。
あいつら、ほんと反省する気ないな。
「綾小路君はどうなの?」
「何の話だ。」
「さっきの話。」
言葉足らずな問いかけの意図は私をエロい目で見てるのかということだろうな。
池や山内の手前では肯定したが、櫛田に対してはそうしない。
「俺は池や山内とは違う」
「ふ~ん。」
何を思ったのか櫛田は俺の背中に手を回して力一杯抱き着いてきた。
例の代表取締役は柔軟性を兼ね備えており、俺と櫛田の間で押し潰されても形を器用に変えている。
だが、心なしか苦しそうに見えた。
お、お前…、代表取締役じゃなくて、部下と上司に板挟みされる中間管理職だったのか。。
「これでも?」
「…おい」
櫛田は上目遣いで俺を捉えて芯のある声で言う。
「言っとくけど……」
「私の胸。安くないから」
櫛田の行動はさらに過激化して、俺の足の間に太腿をねじこんでくる。
「はやく認めた方がいいよ?」
わざわざ、櫛田は俺の耳元に口を近づけて囁く。
櫛田の息遣いが耳から脳に直接侵入してくるが、俺は脳は別の思考でフル回転していた。
俺が櫛田の胸を見てしまったことと今の状況に相関性がないように思えて仕方なかったからだ。
いくら死角にいるとはいえ、池や山内がこっちに来る可能性だってあるはずなのに。
彼女は命綱なしで綱渡りしているかのような多大なリスクを払っているが、それに対するリターンが見えてこない。
「櫛田。お前は何が目的なんだ?」
自分でも空恐ろしいほど、冷静な声が出たと思う。
この身体的密着に対して性的興奮など微塵もなかった。
俺からすればハニートラップにかけられているようなものだ。
櫛田の打算の裏側が見えない以上、俺の警戒心は強まるだけだ。
「…やっぱり、あの話は本当?」
なるほど。どおりで相関性なんて見えてこないわけだ。
櫛田の今の行動の本懐は、あの事故とは一切関係ないのだから。
「それは勘違いだ。」
「今の櫛田は微塵もエロくない」
「…なにそれ。」
「池や山内ならそれでいいかもしれないが、俺相手にそんな小手先の誘惑は通じないってことだ。」
「…きも。」
櫛田は諦めるように俺から距離を取る。
俺を攻めてた時とは一転して、幼い子供が拗ねるように静かになった。
体を張ったのに自分の思い通りにならなかったことがよほど気に入らないらしい、面倒なやつだな。
「自称安くない胸を見た代償にしては、水着で抱き着いてくるなんて安い誘惑だったな。次からは全裸で頼む」
俺は櫛田の体じゃなく、それを恥じらう櫛田にエロスを感じたのだ。
そこをはき違えて、体を張っただなんて思ってもらっては困る。
「櫛田と一緒で俺の"それ"は安くないんだ」
俺の意趣返しに顔面にある表情筋を全て引きつらせて言う。
「…私と一緒にしないで。この○○○○○○○」
その放送禁止用語はおよそ女子の口から出てはいけない言葉だっただろう。
心の中では中指を立てていたに違いない。
それは消化不良として胃の中に残っていた言葉だったのか、それを言った後の櫛田は開き直ったように清々しい表情だった。
「好き勝手やっておいてひどいやつだな」
「あれ、この言葉自体は否定しないんだ?」
「否定も肯定もしないさ。それはチョコレートの箱のようなもの、開けて見るまで中身は分からない」
「なら、あの子はかわいそうだね。甘くて美味しいチョコだと思っていたものが、馬糞だったようなものなんだから」
事故といい、誘惑といい、立て続けに空回りしてしまったあげくに開き直った櫛田はいつもより語気が強く、歯に衣着せることを知らない。
「さっきから例えが女の子とは思えないな」
「覚えておいた方がいいよ。女なんて皆こんなものなんだから」
櫛田の主語を大きくして押しつけがましく貼り付けたレッテルは主観に過ぎない。
だが、俺の女の子へ抱いている印象もまた主観だ。
なら、俺よりも情報力のある櫛田の方が説得力があるように思えた。
「…話、終わった?」
池達が話が長いことに心配をおぼえてやってきた。
「池君。山内君。次、遅刻したら許さないから」
櫛田が学校でよく見る完璧な笑みを浮かべたことで、池と山内の心配そうな表情が一瞬で晴れる。
魔性の女だな…。
「綾小路君。そういえば、まだ来てないの?」
それは、俺が呼んだ人物についての話だろう。
池と山内は話についてこれずに、ぽかんとしている。
「もう来ててもおかしくないんだ。ちょっと携帯を確認してくるから、皆は適当に遊んでててくれ」
俺は携帯を取りに行くために更衣室に向かった。
俺の背中にさっき櫛田によって晴れたはずの池や山内の心配そうな視線がささり、俺の予感は確信に変わった。
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寮近く停留所からこのプール施設までのバスは30分サイクルで運行している。
本日の予定はロビーに8時に集合して、8時半のバスに乗る予定だった。
俺と櫛田は問題なくスケジュール通りに行動できたが、遅刻組の二人は一時間遅らせてのスケジュールとなった。
彼らが俺達と合流したのは10時10分だった。
9時半のバスに乗ったなら15分後にはここにつくはずだ。
なら、ここに着いてから俺達と合流するまでに空白の時間が生まれる。
その時間の使い道は……。
これか。
俺が見つけたこれは彼らが立派な犯罪者であることを立証できる証拠品だ。
彼らはそれすらも理解できない子供のようだ。
犯罪の中でも性犯罪は相当傷の深い犯罪だと思う。
罪を償った後も、性犯罪者として世間から避けられて、社会復帰が限りなく不可能に近いものになるからだ。
「馬鹿もここまでいけば罪だな」
俺の独り言は誰もいない更衣室に静かに響いた。
――――――――――――――――――――――――
「おそいっっ!!」
開口一番、大声で文句を叫び、流れるプールの近くにいた俺たちに近づいてきたのは伊吹だった。
その後ろでは憔悴しきった顔の真鍋・山下・薮・リカちゃんの4人がいた。
伊吹の子守は大変だったのだろう。
「え。もしかして、待ち合わせしてたのってリカちゃん達?」
櫛田とリカちゃんは仲がいいのか、まるで遠距離恋愛の恋人と再開した時のように手を合わせて喜んでいる。
「ああ。」
「関わりあったんだ。なんか意外だね。」
池と山内も櫛田と同じ感想を抱いているようだ。
まあ、人の目につく場所で真鍋達と話した覚えはないしな。
「急に誘ったのに来てくれてありがとう。」
「全然いいよ。暇だったし」
真鍋達は二つ返事とはいかないまでも、断ることはせずに来てくれた。
断ればどうなるか。彼女たちはよく理解している。
「何無視してんのよっ!!」
真鍋達に指示して連れてきてもらった伊吹とは、最初にこの施設に入った時に一度目が合っている。
それから2時間近く待たせているからな。怒っていても無理ないだろう。
Cクラスの猛犬は威嚇するように吠えているため、この場の空気が重くなる。
池や山内はビビり、真鍋達は諦め、櫛田は笑顔の状態でこの場が固まった。
伊吹はこの場の人間からどう思われようとどうだっていいと思っている。この集団に混ざれというのは無理な話か。
「なんだ伊吹。そんなに俺に会いたかったのか」
俺が伊吹を軽くあしらうと、問答無用で俺の顔面を狙った不意打ちの上段回し蹴りが飛んできた。
俺はそれを難なく受け止めるだけでなく掴み切る。
大きくあげた足を捉えられ、片足でバランスを器用に取る伊吹。
だが、いくら体幹に優れているとはいえ、片足を取られた状態では主導権は俺にある。
先程の伊吹の威嚇に攻撃力が1段階下がった池や山内は命の危機を感じて、俺の背中より2.3歩下がったとこに場所にリポジショニングした。
池、山内。惜しいな。
さっきまでの位置取りなら、水着姿の伊吹が大股を開いているサービスショットが冥土の土産に見れたというのに。
「はっなせっ!!」
伊吹は体を縦に一回転させた。片足にして恐ろしい身体能力だ。
だが、俺の拘束はその程度では解かれない。
「伊吹。せっかくプールにきたんだ。楽しんだらどうだ?」
「うるさいっ。はなせっ」
「少し大人しくしろ。分かったならはなす」
伊吹は俺の要求に顔を顰めた。
「…わかった」
伊吹にしては折れるのがはやい。俺の要求の隙をついてまだ暴れられても面倒だな。
俺は人ごみが流れている流れるプールの人と人の隙間を狙って伊吹を突き落とした。
ばちゃんという音と共に水飛沫が舞う。
「一周したら帰ってきてくれ」
伊吹はすぐに流れるプールの人ごみにのまれていった。簡単には上がってこれないだろう。
俺と伊吹の一連のやり取りを見ていた一同は分かりやすく引いていた。これが巷に聞くドン引きってやつか。
「お、おい綾小路。あれ、大丈夫なんだろうな?」
「全然大丈夫じゃないだろうな。もしかしたら龍園を連れて戻ってくるかもしれない。」
まあ、そんなことは有り得ない訳だが。
「はあああっ!?まじかよっ!!」
「伊吹にはここで9時に集合って旨を伝えていたからな。待たされたことに怒ってたんだろう。その時はお前らの名前を出して何とかするさ」
「お、おい。じょ、冗談だよな?」
「勿論。大真面だ」
俺は一切の表情の変化なく焦る二人に申告する。
「お、俺たち、友達だよな?」
都合のいい奴らだな。
それに、本質を見れば俺に友達と呼べる人間は一人もいない。
「悪い。俺は自分の身を守るためなら、友達を投げ捨てれる人間だ」
「「この、裏切りものおおおおおっっっっ!!!」」
エレン・イェーガー顔負けの迫真の台詞と共に彼らは逃げて行った。
少し脅そうとしただけなんだが。思ったよりも臆病で軟弱者らしい。
立ち去る姿に意外にも、未練はないように見えた。
例のあれが心に残っているからだろうな。
予想してた展開通りじゃなかったが、池と山内は排除することができた。結果オーライってやつだな。
「いいの?追いかけなくて」
真鍋が無様に去っていく二人を見て俺に問いかけてくる。
「ああ、問題ない」
「帰っちゃった人はしょうがないね。これからどうしよっか。」
櫛田がリーダーシップを発揮し始めたが誰一人として嫌な顔はしない。
それなりにこの4人ともパイプがあるようだ、流石といったところか。
特にリカちゃんは櫛田と会ってから終始ニコニコしていた。
内気なタイプのリカちゃんは櫛田にとって格好の的だろうな。
「私はなんでも~」
「なら、少し早いけどご飯食べない?なんか疲れちゃって。。」
「そうだね。少し早いけど、今なら混んでないだろうし丁度いいかも!!」
トントン拍子に話は進んでいく。
「綾小路君はどう思う?」
満点の笑顔で櫛田は俺にも律儀に意見を聞いてきてくれる。
「皆は俺に構わずご飯に行ってくれて構わない。俺はここで伊吹を待つことにする」
「え。悪いよっ。私も待つよ?」
櫛田の演技じみた気遣いもここまでくると御家芸だな。
「大丈夫。それに、きっと俺一人でいるほうがいい」
「綾小路君がそういうなら…」
見せつけるように渋々引き下がる櫛田。
「ああ。ありがとうな」
「うんっ!私にできることがあったらすぐに電話かけてねっ」
細かい気遣いも忘れない抜かりの無さに俺は心の中で敬礼しておいた。
「じゃ、また後で。」
「ああ。」
俺に背を向けてフードコーナーの方へ5人は歩いて行った。
Cクラスの中に一人Dクラスの櫛田が混ざっているのに浮いている感じはない。
むしろ、赤の他人が見れば、櫛田とその他に映るくらいの存在感だった。
さて、俺は少し伊吹と遊んでやることにしよう。
そう、心に決めて、俺は首を鳴らした。
タイトル思いつかない
次でやっと夏休みが終わります。