綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話 作:ファウストの劫罰
部屋の前のプレートを見て、櫛田の部屋であることに間違いがないことを確認する。
俺が、扉を3回ノックすると、中から元気な返事が聞こえて、扉は開かれた。
「待ってたよ〜入って入って〜」
緊張していた俺が馬鹿みたいに思えるほど、軽快な調子で俺は招き入れられた。
そう思うと、櫛田の私服姿の品評も落ち着いてできる。
果たして、櫛田は明るめの色調の私服姿だった。
イメージにも雰囲気にもピッタリだ。逆に暗い服装でもギャップで映えそうではあるけど。
櫛田の持つポテンシャルの高さは服如きじゃ隠せないらしい。
玄関には靴が3足並んでいた。
約束の時間の10分前に来たが、どうやら4人目のようだ。
廊下を抜けて部屋に入る。
入学初日なのに、女の子らしい装飾チラホラあり、可愛らしくも大人っぽい景色が広がった。
そしてそこに、平然と自然にいるのがこの男。平田洋介なのである。
「綾小路くん。待ってたよ。」
そして、俺の耳に手を寄せて、
「正直肩身が狭かったんだ」
と小さな声で囁くように言う。
…そういうのやめていただきたい。
「綾小路くん。やっほ〜」
そう言ってきたのは松下千秋である。
「ああ。こんばんは」
「うわ!今朝のノリどこ行ったの!って感じだね〜」
「まあまあ、無理にやらせてもシラケちゃうだけだよ」
意外な方面からカバーが入る。櫛田だ。
彼女ならノらせる方に行ってもおかしくないのに。
机の上には既に6人分の食器がセットされていた。
何もしていない俺がご飯だけ預かるのも気が引けた。
「これ、少ないけど差し入れだ。準備と食材の買い出しありがとう。」
俺は櫛田に準備していたお菓子をとりあえず渡しておく。
「いやいや、そんなに気を遣って貰わなくていいのに~」
そう返す櫛田は朝出会った時の優しい櫛田に見えた。
「綾小路くん。やるね〜」
松下千秋からそんな風に囃し立てられる。
案外こいつもお調子者なのかもしれない。
程なくして、残りの2人は同時にやって来た。
小野寺かやのと王美雨の2人だった。
「やっほ〜」「こ、こんばんわ。」
と2人とも違いがよく分かる挨拶で部屋に入ってくる。
狭い一室に女子の割合が増え、瞬く間に、The女子の香りが充満する。
平田の耳に手を当てて思った疑問をぶつけることにした。
「これ、誰が集めたんだ?」
「綾小路くんを呼ぶように提案したのは僕だよ。」
「なんで俺なんだ?」
「難しい質問だけど。僕は綾小路くんにもこの会にいて欲しい存在だと思ったからかな。」
どうも、平田大先生の言葉は曖昧模糊としている。
どうやら、この会はただの親睦会じゃなさそうだ。
「ちょっとそこの男子イチャイチャしない!」
松下が俺達を指差して、そんな風に揶揄う。
小野寺は面白がり、王美雨は顔を赤めている。
櫛田はいつもと同じ笑顔でそこにいる。
「じゃあ、櫛田さん。そろそろ始めようか。」
「あ、そだね!じゃあ、みんな揃ったということで、Dクラス親睦会にかんぱーい。」
櫛田の音頭で皆も各々コップを持ち上げる。
俺は本日2度目の乾杯である。さっきはコーラだったが、今回はお茶。まあ、鍋を囲むのにジュースは合わないか。
そして、櫛田はキッチンの方で仕込んでいた鍋を見に行った。
小野寺と王美雨の会話の矛先が平田に向いたのを見て、俺はキッチンに向かうべく立ち上がった。
「綾小路くん?どうしたの?」
「鍋、机に運ぶの俺がやるよ。」
櫛田にばかり準備をさせるのは、気が引ける。
こういう男手仕事くらいはやらないとな。
「ありがと。別にいいのに。」
櫛田は鍋を軽く混ぜながら、俺のほうを見ずに言う。
「綾小路くん。変わったね」
「一日で人は変われないんだぞ」
「んーん。綾小路くんは見違えるレベルで変わったよ。バスを降りた時。綾小路くん。凄くぎこちなかった。そうだね。例えるなら高校生を必死で演じてるみたいだったんだよ」
俺があの部屋から外に出て初めてまともに喋ったの櫛田だ。
最初はどうしていいか分からなかった分、今の俺が不思議に見えるんだろう。
「いや、あの時は新環境に緊張していただけだ。今はだいぶ慣れてきただけで、元々こうだったんだよ。」
俺としてはこの主張を通すしかない。
「うん。そうかもしれないね。」
櫛田は俺の言葉を全く信じていない。そのことを隠す素振りはしなかった。だけど、表面上はそれでいいよと認めてくれるらしい。
鍋が一定の温度を達したのか、IHがアラーム音を鳴らす。
彼女はその音でIHの電源を切り、いつもと変わらぬ笑顔で振り向いた。
「じゃあ、悪いけど鍋宜しくね。綾小路くん。」
「ああ。」
俺は櫛田に手渡されたミトンを手に着けて、向こうの机に鍋を持って行く。
無事着陸することを成功した鍋の蓋を開けると、鍋の香りが湯気と一緒に広がった。
「「「おいしそー!」」」
櫛田、平田、俺を除く3人はそんなリアクションをする。
「流石だよっ!!櫛田さん」
平田が褒めたのに便乗して、俺も「こんな美味そうな鍋初めて見た」と口にしておく。
本当は鍋なんて食べたことないが…。
櫛田は照れながら「ありがとう」と満面の笑みで応える。
さっきの櫛田から感じた面影はその笑顔からはさっぱり消えていた。
鍋を6人で囲むと食材は6人にあるだけ吸収されていきすぐになくなった。
そして、その頃にはすっかり打ち解けていた。
王美雨は本人の希望により、みーちゃんの名前で皆から親しまれ、小野寺もその流れに乗っかて、かやのと呼ぶことになった。櫛田と松下は好きに呼べという事だったので、俺は苗字のまま呼ぶことにした。
平田??
洋介と呼んでほしそうにこちらを見ているが、全力で無視して平田と呼ぶことにしている。自己紹介でも言ってたもんな。こいつ。
だが、変な誤解されるのはごめんだ。
鍋を食べ終わったあとは、じゃんけんを負けた2人組が洗い物を担当することとなった。俺は見事に最初に1人負けして、その後接戦の末、みーちゃんが負け、俺とみーちゃん2人で洗い物が決定した。
「じゃ、やるか」
「う、うん」
今日でみーちゃん対して分かったことはやはり、内気である事だ。
自己表現がまだ拙い部分が目立って見える。
入学初日で緊張しているのかもしれないが。
「じゃあ、俺が食器洗うから、タオルで拭き取っていってくれるか?」
「うん。わかった。」
暫く2人、無言で洗い物に勤しんでいるとその沈黙を破ったのは意外にもみーちゃんだった。
「綾小路くん。ありがとう」
「それは何に対してお礼なんだ?」
「綾小路くんがそれでいいならいいの。でも何かお礼を言いたくなっちゃったから。。」
しりすぼみになっていく声。
俺にはなんのお礼かさっぱり分からないな。
鍋を皆で囲んでいた時、さりげなく、みーちゃんの方にお肉を寄せたり、会話に入りづらそうにしてたみーちゃんに答えれそうな話題を振ってあげたり。うーん。それくらいか。思い当たる点は全て俺の思惑通りだ。
だが、みーちゃんはそのどれもが自分の不器用が招いた事だと勘違いしている。
俺の表面的な優しさだけを汲み取ってしまったみーちゃん。
これは打算の上に成り立った優しさの形をした悪意であることを見抜けない。
「どういたしまして。」
俺はみーちゃんの顔を見て、それだけ短く返す。
そして、みーちゃんに対して分かった点を簡潔に表現すると、鈍臭い。その一言に尽きる。
この洗い物も俺が1人でした方が遥かに早く終わっている。勿論、性格上、丁寧に拭き取っている点もあるだろうがそれを加味した上で遅すぎる。
みーちゃんのペースに合わせながら、皿洗いを進める。みーちゃんが拭き終わったら次を渡すを繰り返す。
長い時間をかけて皿洗いは終わった。
「ちょっと、時間かけすぎじゃない?おそーい」
洗い物を終えてキッチンからもどると、かやのはオーバー気味に遅いことを指摘する。
「悪い、俺が丁寧にやりすぎた。」
「まあ、いいけど〜」
かやのはその答えで満足したらしい。
まあ、元より、別に嫌味を言おうとしたんじゃない。
思ったことを口にする。それが小野寺かやのなのだ。
だが、それは俺が想定してた通りの展開だ。
みーちゃんのほうを見ると、何かに気付いたような表情をしていた。
自分が拭き終わったタイミングで毎回次のお皿が来る事に違和感を覚えたのだろう。
俺が、みーちゃんのペースに合わせていた事実に今、気づいたのだ。
そして、それは、責任感の強い彼女にとって、俺に借りを作ったように思うだろう。
みーちゃんは俺の裾を軽く引っ張り、俺にだけ聴こえる小さな声で謝ってくる。
「ごめんね」
「気にしなくていい」
言葉ではそう言ったがみーちゃんは大いに気にするだろう。
今日、みーちゃんには小さな感謝の積み重ねと自分の不器用が招いたことに対しての謝罪を貸し付けた。
別に感謝されたくて、謝って欲しくて、やっている訳じゃない。
俺が返して欲しい形は別にあるのだから。
この後は俺が持ってきたお菓子を皆で食べながら雑談する。
10万ポイントの使い道や行ってみたい場所などなど。
この学校はある意味、夢の国に他ならないだろう。
俺にとってもそうなることを願うばかりだった。
時刻が9時を回り、解散となる。
平田のあの曖昧模糊としていた態度は何だったのだろう。
今日のはどっからどう見ても親睦会以外の何物でもなかった。考え過ぎだったのだろうか。
女子はもう少し残るようで俺と平田だけが退散する形になった。平田と同じエレベーターに乗る。
「綾小路くんはどう思う?10万ポイント。」
ここで、俺は気づく。こいつは気付いている。10万ポイントの不気味さに。こいつは勘づいている。10万ポイントの裏に隠れる何かに。
だけど平田はそれを表には出さない。
だから俺も、平田に対して平田が欲しがっている答えは返さない。
「10万ポイント。今日だけで俺は2000pt近く使ったんだ。別に大きな買い物も贅沢もした訳じゃない。1回外食に行って、少しお菓子買った。それだけ。俺は思うんだよ。1食1000円のご飯を3回食べる。これが月30日あればあっという間に9万ポイント。10万ポイントは案外、妥当な額なんじゃないか?皆、中学の頃のお小遣いと比較してるのかも知れないが、その時は親が払っていた見えないお金があった。食費とかな。それを自分で賄うとなったら10万ポイントくらいすぐになくなる。」
「そ、そうかもしれないね。」
「だろ?」
俺の意見はクラスの何も考えていない奴らとは違い、屁理屈がくっついている。それだけで平田は見えていた視界を閉ざしてしまう。
エレベーターは俺の階にすぐに辿り着いた。
「まあ、平田。あんまり考えすぎるなよ。おやすみ」
「うん。おやすみ。」
平田と俺はエレベーターで分かれて各々の部屋に別れる。
平田はポイントの重要性や裏の仕組みにも気付き始めている。平田は本当は今日の親睦会では、そういうことを話し合いたかったんじゃないだろうか。
だけど、平田にはポイントを捨ててでも、守りたいものがあるように思えた。なら、俺の意見を聞いたくらいでブレてはいけない。俺に、現状を変えるだけの根拠を、覚悟を求めるのはお門違いだ。
――――――――――――――――――――――――
学校二日目。
授業は基本的に方針説明のみだった。
進学校にしては明るくフレンドリーな先生も多く、多くの生徒は拍子抜けしている。
10万ポイントという大金で緩んだのは財布の紐だけではなく、空気も顔もだるんだるんだ。
須藤は全ての授業で爆睡し、携帯を触っている生徒もチラホラ見える。それに気付いても、先生は注意しなかった。
そんな中、2日目の昼休みが始まる。
「綾小路くん、お昼一緒にどうかな?」
そう話しかけてきたのはみーちゃんだった。
「2人でか?」
「あ、うん。他の人もいた方がいいよね?誰か誘える?」
「かやのはどうしたんだ?」
「かやのちゃんは昼休みすることあるんだってさ。」
昼休みが始まったばかりだと言うのにもう、かやのの姿は教室にない。流石、体育会系だな。行動力も半端ない。
「堀北、一緒にお昼でもどうだ?」
「冗談は顔だけにしてくれるかしら?」
「別に冗談じゃないんだが」
「そう。悪いとは思ってないけど、丁重にお断りするわ。」
隣の席にいた堀北は、話はそれだけ?と言った顔で俺を見る。堀北は意地の悪い冷笑を浮かべて、教室から出て行った。あいつ、友達いないだろ。。
「少し待ってくれるか?」
「うん、全然いいよ」
俺はみーちゃんに待ってもらうように言い、携帯でメッセージを送る。すぐに既読はつき、心いい返事を貰う。
「1人友達を誘った。多分みーちゃんは初対面になるけど大丈夫そうか?」
「うん。綾小路くんの友達なら悪い人じゃないと思うし。多分、恐らく大丈夫。」
自信なさげではあったが、まあ、同じようなタイプでもあるし上手く共鳴してくれるんじゃないだろうか。共鳴って表現はおかしいな。うん。
「待ち合わせする形にした。行こう」
「うん」
俺はみーちゃんを連れて、その相手が待ってる場所に向かう。と言ってもすぐに近くだが。目的のCクラスの前まで行くと、俺たちに気付いた椎名は駆け寄ってきた。
「綾小路くん、お誘いありがとうございます」
「ああ、こちらはクラスメイトの王美雨だ。」
俺の紹介を聞いて、みーちゃんは椎名に挨拶する。
「初めまして、王美雨です。皆からはみーちゃんと呼ばれてます。是非、そう呼んでください」
「みーちゃんさん、初めまして。椎名ひよりです。では、私のこともひよりと呼んでくださると嬉しいです。」
みーちゃんは昨日、馴染むまでは自分の名前の呼び方に対しての要望なんて言わなかった。恐らく、俺たちが快くニックネームを受け入れたのが彼女の成長に繋がったのだろう。図らずか、あの時の平田大先生のような挨拶だな。
「椎名。みーちゃんさんは変じゃないか?」
「ああ。そうですね。確かに変でした。みーちゃん。みーちゃん。うん。もう完璧です」
椎名の天然っぷりを俺が揶揄うと、みーちゃんも可笑しかったのか笑い、初めましての緊張で固くなっていた空気が緩んできた。
俺たちは食堂に3人で食堂に向かった。
初めて来た食堂にはそれなりの人で溢れていた。
3人で券売機に並ぶ。
そこには妙な物も販売されていた。
「「山菜定食?」」
俺と椎名の声が重なることで、目が合う。
椎名ははにかむように照れる。
「二人は仲がいいね」
俺達の様子を見て、みーちゃんそんなことを言う
「はい。読書友達なんです。」
「ああ、昨日、出会って意気投合したんだ」
「それより、ここにも無料の物が置かれているのは驚きました。」
椎名にとっては、俺たちの関係は0円の山菜定食以下の話題らしい。
そう思ったが心做しか、椎名の頬が赤くなっているように見える。なるほど。こういう揶揄いにはあまり慣れていなくて、話題を変えることを選んだっぽいな。
俺は0円の山菜定食の券を押す。
「俺は今日はこれにしてみる。好奇心もあるしな。」
「なるほど。でも、それだと足りなく無いですか?」
「いや、実は昨日の夜に間食してしまって、罪悪感があるんだ。だからこれくらいが丁度いい。」
後ろに人が並び始めそうなのを察して俺は早々に決める。
二人も俺に釣られて、急ぐように2人とも日替わり定食を選んだようだ。
各々が券を定食に交換する。
無料の山菜定食は人気が無く、すぐに俺の順番が回ってきた。なので、俺は先に席を確保しておこうと思い、席を探そうと周りを見渡した。すると、1人の生徒と目が合う。
「ねぇ、もしかしてあんた、テーブル席探してる?」
目が合った軽井沢は声をかけてきた。
同じ席には、篠原、佐藤も同席していた。
「ああ、よく分かったな」
「うん、だって、1人か2人で座る目的なら、結構空きがある。けど、そんな風には見えなかったから」
なるほどな。目が合う前から俺の事見てた訳か。
「良かったら、ここ使う?もう食べ終わったから今から戻るとこだったんだけど。」
軽井沢達が座っていた席は端の人気そうなソファ席で、その提案を断る理由はなかった。
「そういうこと有難く使わせてもらう」
「OK、じゃあ、篠原さん、佐藤さん、戻ろー」
「「うん。」」
「すまないな」
軽井沢が立ち上がると、その2人も続くように立って席を空けてくれた。
教室に戻っていく彼女らは話しながら去っていく。
「綾小路くんと軽井沢さん仲良いの?」
「んー。今さっき初めて話した」
「そうなんだ。流石だね軽井沢さん」
「綾小路くんってちょっとかっこいいね」
「え、佐藤さん。もしかしてそういう感じ?」
「いやいや、そういう訳じゃないよ。第一印象だって!」
「でも、なんか山菜定食持ってなかった?」
「「え。」」
篠原のその指摘で軽井沢と佐藤が振り返った気がする。
山菜定食は女子ウケしない。これは覚えておこう。
俺は席の確保に成功したので、まだ並んでいた椎名とみーちゃんを待つことにする。椎名とみーちゃんが受け取ったタイミングで手を上げてこっちに気付くようにする。
幸い、俺にすぐ気付いた。
良かった。聞く話によると、フードコートでキョロキョロしていると蛙になってしまうらしいからな。
しかも、キョロキョロしてる本人じゃなくて、それを見た人が蛙になるらしい。メデューサよりも恐ろしいな。
椎名とみーちゃんは俺の正面に2人座った。
「席ありがとうございます」
椎名のお礼には聞きなれたもんだな。
「いや、気にしなくていい。俺の方が早く受け取れたしな。早く座りたかっただけだ」
そう答えると、みーちゃんと椎名ボソボソと会話している。どうやら、二人で日替わり定食の列に並んでいた時に相当打ち解けたらしい。
いただきますと言って食事が始まる。
すると、俺の味気のない山菜定食のプレートの上に
唐揚げがそれぞれ1つずつ置かれる。
当然そんなことをできるのは正面の二人しかいないわけで。
「俺は自分で山菜定食を選んだんだ。気を遣わなくていいんだぞ」
「いえ、逆です。この日替わり定食、私達にしては量が少し多いので、食べて欲しいんです。そうですよね?みーちゃん」
「うん。良かったら受け取ってくれないかな?」
なるほど。こう言われてしまえば、遠慮することが失礼になってしまう。上手いこと言ってきたもんだ。
「じゃあ、有難く頂く」
「はい。気にしないでください」
結果的に言うと。この唐揚げは有難かった。
山菜定食の山菜は味気が無く、ご飯は全く進まない。
唐揚げがあって良かった。。
それにしても山菜定食を取る人は俺以外にもチラホラいた。わざわざこの山菜定食を選ぶ理由は金欠以外に無さそうだ。
雑談を混じえながら箸を進めて思う。
二人とも食べる行儀が良い。箸の持ち方も綺麗だ。
みーちゃんは確か昨日、中学1年生の時に日本に来たと言っていたな。箸の持ち方といい所作はもう、和風美人と遜色ないな。
雑談に花を咲かせながら箸を進める。
椎名は本の話題は振ってこなかった。みーちゃんがついて来れない場合、話に入れないことを危惧したのだろう。
「そういえばCクラスはどんな感じなんだ?」
椎名に疑問を振る。抽象的な質問になったが、聞きたいことは理解出来るだろう。
「そうですね。。皆さん仲が良いとは言えないかも知れません。皆さんが仲良くすることが1番ですのに。」
「具体的な話を聞いてもいいか?」
「はい。いえ、むしろ綾小路くんとみーちゃんになら聞いて欲しいです。」
椎名曰く、龍園という生徒が率いてるらしい。邪智暴虐の王の如く、クラスの人達を従えているようだ。だが、初めからそうでは無かったらしい。龍園君の上からすぎる態度に数名、昨日時点では反抗していたようだ。だけど、今日学校に来た朝にはもう反抗する生徒はいなかったようだ。
「こ、怖いクラスなの?」
「そうは言ってもクラスにもお話が合う人はいます。ですが、その人も龍園君に怯えているようです」
「Dクラスで言えば須藤の様なものだな。」
そう言うと、みーちゃんは納得したように頷く。
須藤の評価はDクラスでは底辺突っ走っている。
「須藤君はどのような人なんですか?」
俺は須藤の印象と日頃の態度を説明する。
「なるほど。上手くは言えませんが、龍園くんとは似て非なるもののように思います。」
「須藤は人を従えるタイプじゃないからな。」
椎名はそれを聞いても、何かが喉に刺さっているような表情を浮かべる。龍園という生徒は知らないが、一癖も二癖もありそうだな。
他クラスの話を聞こうくらいに思っていたんだが、どうやらそれは地雷とも言える話題で先ほどまでの明るい空気が淀んでしまった。
「みーちゃんは本を読んだりするのか?」
俺は無理矢理この場の空気を変えることにする。
椎名は飛び付くように反応する。
「本で中学の時までは中国に居たから、漫画の文化が好きかな。。その、、少女漫画とか。」
生憎、俺は触れたことの無いテリトリーだ。
だが椎名は違ったようだ。
「少女漫画は何を読まれるんですか!?」
椎名のイケイケどんどんの姿勢に若干みーちゃんは引いていたが話に花が咲いた。
話の内容は俺は全く知らない物だったが、二人の仲が深まるきっかけにはなっただろう。
それにしても喜怒哀楽の表現が激しいと厄介な部分もあるな。哀しい顔をした椎名はさぞ哀しく見え、空気が重くなる。これは諸刃の剣のようなものだな。
食事も既に終えていたが、椎名とみーちゃんとの雑談は昼休みが終わるギリギリまで続いた。
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あっという間に2日目の授業は全て終了した。
そして、放課後。部活の説明会があると校内放送で伝えられた。
「なあ、堀北――」
「私は部活動に興味無いから」
「まだ何も聞いてないだろ」
「じゃあ、何?」
「部活動の説明会に一緒に行かないか?」
「綾小路くん。あなた、痴呆なの?それともただのバカ?私は興味無いと答えたはずだけど」
「部活動に興味はなくても説明会に行く意味は無くはないだろ」
「一応聞いてあげる。その意味は?」
「新しい出会いが待っている」
「聞いた私が馬鹿だったようね」
そう言って堀北は颯爽と荷物を纏めて帰って行った。
まあ、部活の説明会くらいは1人でいいかと思い、教室を出る。そこには、待っていたかのように櫛田がいた。
「あ、綾小路くん。やっとでてきた」
実際、ほんとに待っていた。
「悪い、何か用だったか?」
「友達ってのは、用がなくても、一緒にいれる関係のことを言うんだよっ」
なるほど。一理ある。用がある時しか話しかけてこない人っているもんな。大体そう言う時は面倒事を押し付けてくるんだ。。
「部活動説明会行くんだよね?一緒に行かない?」
櫛田はそんなふうに誘ってくる。
俺は断る理由もなかったため、了承する。
そうして、俺は櫛田と共に部活動説明会に向かうこととなった。
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