綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話 作:ファウストの劫罰
前書きこれしか書いていないきがする
「南雲副会長ですよね?」
「当たり前のことを聞くな。俺のことをお前が知らないはずがないだろ」
「どうしてそう思うんですか?」
南雲は隣にいる少し顔が強張った一之瀬をチラリと一瞥する。
「聞きたいか?」
「はい。是非。」
俺は迷いなく即答する。ここで引き下がることにメリットなどない。
「明日をもってお前は晴れて生徒会に所属だ。そんな奴が俺を知らないとは言わせないぞ?」
「そうですね。話は色々伺ってました。ですが、顔を知ったのは今が初めてですよ」
南雲について、今この場にいる一之瀬や堀北兄からある程度は情報を得ている。
その一之瀬は南雲の口から放たれた俺の生徒会入りを聞いても強張った表情を微動だにしない。
昨日の水泳部の一幕はBクラスの渡部や児島も見ていた。一之瀬には既に伝わっているとみるのが妥当だな。
その反対車線を行くように伊吹は驚いた表情をしている。
そんな周りの状況に見向きもせずに南雲は顔を顰めつつ、断言するように言い放つ。
「噓だな」
「噓?」
「まだ白を切るつもりか?」
南雲は余裕綽々とこの状況を楽しむように笑い俺を詰めてくるが、俺には本当に心当たりがない。
南雲は心底面倒臭そうに根拠を説明し始めた。
「部活動説明会で俺はゲストとして、サッカー部の方の紹介で登壇していたんだ。お前があの場にいたことは知っている。忘れたと言わせないぞ」
部活動説明会?あの時は確か…。そうだ。櫛田と腹の探り合いをしてて、終わったころに堀北兄が偉そうに喋り出したんだっけか。
思い出してみれば、確かに堀北兄が話し出す前は異様に盛り上がっていた気がする。
もしかしたら、その盛り上げ役にこいつが一役買ってたのかもしれないな。
「ああ。あの時は、ついに始まった高校生活に心を躍らせていて、隣にいた可愛い女子とおしゃべりしてたらいつの間にか部活紹介終わってたんですよね。。」
南雲が俺の素直な回答に唇を僅かに震わせる。
一之瀬は『可愛い女の子』の部分で表情が一瞬変わったが、憤る南雲の様子を見てすぐに強張ったものに戻る。
「楽しい時間って過ぎるのは一瞬ですよね。ってことで、覚えてないです。なんかすいません」
南雲が無言で拳を握りしめたのを見て、あれ、なんか余計なこと言ったかなーと思い直すが、こちらの方はばっちり心当たりがあった。
南雲は言葉に詰まり、自然と無言の圧力が放たれはじめる。一之瀬はこの険悪なムードに対応しかねているようだ。
俺は流れを変えるために、そんな南雲を目の当たりにしても、平然としている伊吹に話を振ることにした。
「伊吹は知ってたか?」
「知るわけないでしょ。興味ないし」
伊吹はあくまでドライでそれが当たり前であるかのように言い放った。
南雲のこめかみに血管が浮き始めたのを見ると、火に油を注いだであろうことは間違いなかった。
「情弱すぎて話にならんな。今年の一年は不作だと思っていたが、生徒会に入るお前までそんな有様では不作どころの話じゃないぜ?」
南雲は自分の知名度に絶対的な自信を持っている。そして、その知名度にも偽りはないのだろう。
俺が南雲に返す前に正面に座る伊吹が強引に話に割り込んできた。
「あんた、生徒会入るの?」
南雲の煽るような罵詈雑言が俺たちに向けられたものであることを、伊吹は理解しているのかを疑いたくなるくらいに、流れを無視した割り込みだった。
「ああ。成り行きでな」
「ぷっ。似合わな。柄じゃなさすぎでしょ」
伊吹が小馬鹿にするように吹き出して笑う。
確かに、俺が橘先輩のように生徒会の腕章をつけてる姿は想像できないな。
てか、純粋に嫌だな。あれつけるの。
「ほっといてくれ。。」
「…おい。お前ら、ほんとに俺をなめているようだな」
南雲がインパクトのある声色で脅すように言ってくる。
俺と伊吹がやり取りしている間にも、南雲のドライブゲージは溜まっていたらしい。
確かにバーンアウトしたと思ったんだがな。
「綾小路。生徒会は本来、Dクラスのお前がいていい場所じゃない。お前が入るだけで生徒会の格が下がるんだ。分かっているんだろうな?」
「あれ、南雲副会長は確か、個人の実力にこだわっていると聞きましたが?」
「馬鹿が。それが無いからお前はDクラスという底辺なんだろうが。」
「入学時の実力が全てですか?」
南雲は入学当時Bクラスだったというのは有名な話だ。
それ故にこの質問には肯定できない。
南雲は頭に血が上っていて、自らの矛盾に気付いていない。
「少なくとも特別試験で多少活躍した程度で大口を叩くレベルでは底が知れている」
「生徒会長の目には、その底がそこはかとなく深く見えたそうですよ」
南雲は生徒会長のことは唯一認めているらしいと聞いていたが表情を見るに本当らしいな。
「もういい。屁理屈をグダグダ聞いていても時間の無駄だ。」
「なら、俺にわざわざ話しかけた理由は何ですか?」
南雲は力を抜いたように笑う。
「生徒会入りを果たした同じ仲間に軽く挨拶をしてやろうと思って話しかけたんだがな。ふっ。まさか、喧嘩を売られる事になるとは思わなかった」
「いえ、そんなつもりは一切…」
南雲の脱力した顔が一瞬で殺意を持った顔に変わる。
まるで、力を抜く動作はこのためのタメモーションだったかのようだ。
「綾小路。伊吹。おめでとう。お前らは俺の遊び相手に選ばれた」
「俺は他を黙らせる実力を持つ本物は好きだが、威勢がいいだけの馬鹿は大嫌いなんだ。精々俺を楽しませろよ」
南雲は吐き捨てるように宣言して店内へと入っていった。
俺と伊吹が話していた時の客に南雲はいなかったから、今から食事だろう。
「ちょっ、あんたのせいでっ!!!!」
騒ぐ伊吹をよそに、南雲の憤りを感じる背中を見て、二の足を踏んでいた一之瀬に話しかけた。
「一之瀬。この店ならステーキZがお勧めだ。味は俺と伊吹が保証する。」
俺の突拍子もない提案に一之瀬は目を丸くして、ずっと強張っていた表情が柔らかくなる。
「……。にゃはは、やっぱり綾小路君は凄いね。」
具体性の欠片もない俺への賞賛を残して、一之瀬はピンと張った背中で南雲の後に続いていった。
力無く笑う一之瀬は、無理矢理笑っているように見えるモナリザみたいだ。
一之瀬にこんな顔をさせる南雲に、彼女の側にいる資格はない。
「あたしの話を聞けっ!!!!…え?てか、あんたもZの方がいいって思ってたの?」
騒いだり、ハッとしたり忙しいやつだな。
「まあな。」
「どっちも美味しいとか言ってたけど」
「美味しいにもランクはあるだろ」
「…あのイキリ副会長じゃないけど、あんたって屁理屈ばっかじゃない?」
「現実ってのは嘘とか屁理屈とか理不尽の上にあるものだ。」
「それを屁理屈って言ってるんだけど」
…水掛論だな。
俺が何を言っても、その屁理屈という便利な単語に上書きされるだけだ。
「てか、最悪。あんたのせいで、なんか変なのに目をつけられたんだけど?」
茶番を経て少しクールダウンした伊吹が相談するような口調で言う。
「伊吹は知ってたのか?南雲のこと」
「まあ、龍園が言ってたからね。迂闊に関わるなって」
「くくっ。板挟みだな。伊吹」
「…それ全然面白くない。てか、あんたのせいだし。何とかしてよ」
俺の龍園の真似は不評を超えて酷評のようだ。もう2度としないでおこう。
「出来る限り善処する」
「それ、何もやらないってことでしょ」
呆れたというより、疲労感に負けて肩が自然と落ちたような仕草で言う。
「正直、何とかするっていっても相手の出方次第だ。打てる先手は無い」
「それはそうだけど…。」
理解はしたが納得していない様子だな。
「…つかれた。かえる。」
「そうか。」
「あんたは?」
「俺はまだ残業が残ってる」
なんか、頭痛が痛いみたいになってしまったな。
「ふーん。」
「また学校でな」
「ちょっと、変な勘違いしないでよ。もし、廊下ですれ違っても無視するから」
伊吹は俺に釘をさすかのように睨んでくる。
「…つれないやつだな」
伊吹は簡単には釣れないようだ。
「無暗につるんだって得はないでしょ。…お互いに」
確かに損もあるが、それをかき消すだけの価値は伊吹にはある。
だが、それを伝えるのは今じゃない。
「まあ、少し寂しいが伊吹がそう言うならそうしよう」
「…可愛くないから。うさぎを気取るのやめてよね」
「俺は兎じゃなく、乙女座なんだ。」
「どっちにしろ可愛くない」
論点はいつの間にか「かわいい」になっていた。ひろゆきもびっくりの論理展開だ。
そして、俺はてんびん座だ。
伊吹は一つ大きなため息をついて、落としどころをつけるように提案した。
「はあ。…別に、連絡してくればいいでしょ」
「そうしよう。伊吹の方も、南雲に動きがあれば連絡してくれ」
「…そうね。あんたが煽ったせいでこうなったんだから、ちゃんと責任とってもらわないと困るし」
煽ったのは俺でもトドメを刺したのは伊吹なんだがな。
今後も伊吹とやり取りするには特別な理由がいる。
南雲を上手く俺と伊吹の共通の敵として格付けすることが出来た。
「ああ。分かってる。引き留めて悪かったな。今日はありがとう。伊吹。」
「別にお礼なんていらない。」
俺はお礼の意味を込めて手を差し出すが伊吹は無視して踵を返した。
お礼を受け取ってしまえば、今日に一区切りついてしまう。
その拒絶には今日の楽しい時間が永遠に続いて欲しいという囁かで儚い願いが込められていた。
彼女はまだその意味を知らない乙女だった。
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「おい。まじでやばいぞ、これっ!?どうすんだよ」
「てか、お前が言い出したことだろっ!!俺は知らねえからなっ!?」
憤りと焦りが露になった声が聞こえてくる。
周りの生徒から白い目を向けられてにも気に留めず、二人は更衣室の一角で騒いでいるようだ。
「どうしたんだ?」
この二人と別れて二時間は経過していた。まだ、ここに残っているとはな。
二人は授業中に居眠りしている最中に教師から肩をトントンされた時のように肩をビクンと跳ねさせる。
「あ、綾小路っ!?ど、どうしたんだよ!?」
俺の質問は鏡のように帰ってきた。
「俺は携帯を置きにきただけだ。持っていても邪魔になるだけだしな。」
この施設では基本的に飲み物は無料提供しているし、お昼を食べ終わった今、もう携帯はお役御免だ。
「てっきり帰ったと思っていた。焦っているように見えたが何か忘れ物でもしたのか?」
勘のいい餓鬼なら、俺の言い回しから何か知っているのかと疑ってもおかしくない。
だが、彼らは俺を疑う素振りしない。むしろ、助けの舟が来たと言わんばかりに俺の意見に乗っかった。
「そうなんだよ。春樹がちょっと忘れ物しちゃってさあ!!なっ!?」
「あ、ああ!!そうそう。いやー俺ってちょっと天然っていうかさー。もうっ!可愛いとこあるな~。俺。」
「もう見つかったのか?」
「いや、今、探してる途中ってとこかな。まあ、綾小路は気にしなくてもいいから遊んで来いよっ!!」
まあ、見つかるはずもないだろうが。
「個人ロッカーに忘れていたのであれば、次の利用者が既に見つけて受付に渡してるかもしれない。それに、生徒会は今日、総出でこの施設を見回っているらしいからな。更衣室の個人ロッカーは鍵があるから問題ないだろうが、その辺に適当に放置してるとすぐに回収されると思った方がいい。」
俺は『余計なことかもしれないが参考にしてくれ』と付け加えて話を締めくくる。
俺が話している間にも池と山内はどんどんと生気のない青ざめた表情に変化していった。
「まじかよ。。」
絶望。落胆。俺が伝えた噓に面白いくらいに池と山内は操作され、幽体離脱した後の生身の体のように項垂れて、弱々しい言葉を漏らしてしまう。
「てか、なんで、綾小路がそんなこと知ってるんだよ。」
一足先に我を思い出した山内が生徒会の諸事情に詳しいという不審な点を追及してくる。
「ああ。俺、明日から生徒会に入ることになったんだ」
「は?お前が?」
間抜けな声と疑惑の声が山内から放たれる。
「ああ。だからもし生徒会に回収されている場合は俺にも協力出来ることがあると思ったんだが…」
「「たのむっ!!!」」
俺が話を終える前に一足遅く魂を取り戻した池は勢いよく土下座して叫んだ。
山内も先程の『え?綾小路が生徒会?なんで?』といった失礼な疑問は飲み込み綺麗な角度でお辞儀している。
…ミスターサタン顔負けのお調子者共だな。
「…分かった。それで、何をなくしたんだ?」
池と山内はお互いに見合い、覚悟を決めたように静かに話し始めた。
「…ラジコンに小型カメラか。。まさかとは思うが犯罪に手を染めてないよな?」
ぎくっという音が聞こえるようだった。
俺が呆れたように溜息をつく。
「ご、ごめん。ほんとに今は反省してる。なんでこんな馬鹿なことやろうとしたんだろうって……。」
言い訳をするかと思ったが、池は認めて懺悔する。
山内は空気を壊さないように無言で池を見ていた。
「なら、生徒会にはお前らの悪事はばれていると考えたほうがいいな。だが、生徒会長とは少し関わりがあるから、表沙汰にさせない"のは"できる。」
山内はほっと一息ついて表情が緩む。池は俺の一言一句を逃さないように耳を傾けていたので、俺の含みに気付いて真剣な表情で続きを待っていた。
「だけど、その状況ならお前らに回収されたものを返すのは無理だろうな。それに、池や山内は今後、事情を知る生徒会から厳しい警戒網が敷かれるだろう。今後、少しでも不審な動きをすれば退学では済まないと思うべきだ。」
不審な動きと判断するのはあくまで他人だということに彼らは気付いているだろうか。
「…ありがとう。綾小路。もう、この学校にいられなくなると思ってた…」
お調子者の池には似合わない涙をこらえているような鼻声だった。
一方の山内はどこ吹く風。涼しい表情で安堵している。自分は巻き込まれただけと言わんばかりだな。
「今回限りだからな。助けるのは。」
「ああ。もうこんな気持ちは懲り懲りだ。」
徒労感の伝わる声で池はこの先大人しくするという意思が伝わってくる。
きっと、俺が命の恩人にも見えているのだろう。
山内は一難去ったことだけに満足して笑っている、
似たような二人でも利用価値の差は歴然だった。
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俺は二人には二学期から大人しくしておくように釘を指しておいて別れる。
問題児の山内を黙らせるのに、少し脅し文句を使ってしまったが、それも問題ない。
もし、それでも俺の邪魔をするようなら、強硬手段に出るだけだ。
時計の時刻はもう昼の2時過ぎを示している。
夕方ごろに解散することを考えても、はやく櫛田達を探して合流すべきだろう。
携帯で連絡を取るまでもないと判断して、俺は施設を回ることにした。それほど広いわけでもないので、すぐに見つかると考えたからだ。
流れるプールを横目に通り過ぎたところで、安いライトノベルにありがちな王道な展開が視界に飛び込んできた。
迷子の子供との遭遇だ。
「お母さんとはぐれたのか?」
「え。清隆君っ!?」
キョロキョロと挙動不審に立ち往生していたのは、迷える幼女役のみーちゃんだ。
そんな彼女に俺は蛙化現象どころか、庇護欲を搔き立てられた。
この夏、俺との関係性が一番進展したのは間違いなく彼女だろう。
「今日のお母さん役は松下だったよな?」
「うん。そうそう。千秋ちゃんとはぐれちゃって…。って、お母さんって何!?」
一人ぼっちで不安そうにしていたみーちゃんは知り合い(俺)を見つけたことで安堵した表情になり、俺のボケにツッコミを入れる余裕も生まれた。
まわりをよく見て気付いたが、この辺りは2,3年生が多いようだ。
「綾小路君はここで何してるの」
「みーちゃんの可愛い水着姿を見たくて来たんだ」
みーちゃんの水着はフリルのついたもので布面積も広めだ。控えめな胸で目に優しい仕様となっている。
「え。そ、そんなの言ってくれたら部屋でも着るのに…、…どう?」
もじもじしながらも大胆な発言をするみーちゃん。あの夜からみーちゃんは俺に完全に心を開いている。
「可愛い。よく似合ってる。来てよかった」
「えへへ。ありがと。清隆君は今日も世界一かっこいいよ」
お返しと言わんばかりに褒め言葉をもらうがそれはみーちゃんの過大評価だろう。
櫛田曰く、一年生の男子顔面ランキングは5位だと言っていたしな。
「それで、みーちゃんが探している松下ってあれじゃないか?」
「え、どこ?」
みーちゃんは身長が低くて見えないだろうが、2,3年生の生徒の山の先に松下らしき人物が見えた。
みーちゃんは先輩方に遠慮してしまい、この人ごみに強く割り込める性格じゃない。
場所を示したとしても、辿り着くのは難しいだろう。
「こっちだ」
俺はみーちゃんの手を引いて、人の隙間を縫うように人でできたバリケードを突破した。
俺がみーちゃんを守るように手を引く姿を勝手に勘違いして、2.3年生が道を開けてくれたので難なく通過できた。
「何とか抜けれたな。」
「う、うん。」
控えめな声量の返事が聞こえた方を見ると顔を赤くしたみーちゃんが俯いていた。
「もしかして今更、手を繋いだことに照れているのか?」
「っ!心の準備が出来てる時と不意打ちは全然違うもんっ!!」
顔をばっ!!とあげたみーちゃんは抗議するように持論を展開する。
俺にはその違いが分からない。過程が違っても俺が出す結果は変わらない。
俺が手を離すと、名残惜しそうに『あっ』という声が聞こえた。
「どうした?」
「…ううん。なんでも。」
「そうか。」
「うん。…あ、千秋ちゃんは?」
みーちゃんとの微妙なすれ違いを確かにしながら、俺たちは松下を探す。
俺たちの目に映ったのは、これまた、ラブコメの少女漫画にありがちな展開だった。
松下は面倒事に巻き込まれているらしい。
「あはは。千秋ちゃんって可愛いから。」
「まあ。そうだな。」
俺がみーちゃんの意見を肯定すると、みーちゃんはむっとした表情を浮かべたが見なかったふりをする。
「助けに行った方がよさそうだな」
「…助ける理由って千秋ちゃんが可愛いから?」
「友達だからだ。」
「…だったらいいけど。」
あまり納得していない表情だが、みーちゃんとしても松下を助けることに不満はなく、止めることはしない。
「松下。」
「綾小路君じゃん。…もしかして、ナンパ成功?」
俺の横にぴったりくっついているみーちゃんを見てニヤリと笑い軽口を交わす。
もしかしたら、本人はそれほど困っていなかったのかもしれないな。
「その感じだとそっちは失敗か?」
「私から声かけるわけないの分かってるよね?」
俺の茶化すような言葉に鬱陶しそうに返事される。やはり、本当は困っていたのかもしれない。
松下に声をかけていた男子はこの状況でもニヤニヤとした笑みが崩れない。
相当なメンタルの持ち主らしい。
「思ってたより仲が良いんだな。Dクラスってのは」
俺たちの様子を見て、何を考えているのかその男は皮肉染みた声で感想を話す。
「悪いが、他にあたってもらっていいか?夏休みも最後だしな、あまり時間を無駄にしたくない」
俺が松下と男の間に割って入った。
「ひゅー。言うねえ。綾小路。」
「どうして俺の名前を?」
「俺は1年Aクラスの橋本だ。よろしくな」
俺の質問を無視して、一方的に自己紹介をしてくる。
見た目からもチャラそうな雰囲気を醸し出しているが、一挙手一投足もそのイメージに沿っているようだ。
俺にはそのキャラクター性の造り込みが綺麗に見えて、裏に何かある気がしてならなかった。
松下も橋本が話す度に不快な表情を浮かべている。
「ま、綾小路の言う通り、今回は失敗かな。」
橋本は松下から冷たい目を向けられても、口笛を吹いてあさってを向く。
「じゃあな。綾小路。」
橋本は俺だけを名指しして、一方的に挨拶して去っていった。
「千秋ちゃん。大丈夫?」
上目遣いで松下を心配するみーちゃんを見て松下は音楽が転調するかのように機嫌を直した。
「全然大丈夫。あ〜。やっぱみーちゃんは可愛いなぁ。」
「ち、千秋ちゃんっ!。」
松下がみーちゃんに頬擦りするかのように肌を寄せてきた事にみーちゃんは戸惑う。
「それで、橋本は松下に何の用だったんだ?」
「ほんとつまんない話だったよ」
「つまらない?」
「うん、『一之瀬さんが二年の南雲先輩と付き合ってる』とかそんな噂話。」
それだけなら女子が食いつきそうな色恋沙汰の与太話のはずだ。
松下も例外ではないないはずだ。
俺の疑問を感じ取った松下は先を続けた。
「橋本君。その噂話に尾鰭をつけるような話しぶりだった。それも悪意のあるね…。『一之瀬があの南雲先輩と釣り合うわけがない』とか言ってたし。」
言いにくそうに松下は具体的な悪意のある言葉を紡ぐ。これはあくまで聞かされた一部で全容ではないだろう。
「私も色々助けてもらったこともあるしさ。一之瀬さんの悪口は聞きたくないよね」
松下の言葉を聞いてみーちゃんは複雑そうな表情を浮かべた。
まあ、一之瀬と俺の関係値を考えれば仕方ないことだろう。
「ごめん。余計な話しちゃったね。忘れよ忘れよ。あっ。そんなことより、綾小路君さ。かや乃ちゃんのことで何か知らない?今日誘ったんだけど、『部活続きで疲れた』なんてらしくない理由で断られたんだよね」
松下は交差点で無理矢理Uターンして反対車線に行くかのように話題転換して、かや乃の話題を出してくる。
それが、一之瀬の話題と同じくらいデリケートなものであることを知らずに。
「分からないな。だが、明日になれば会えるんだ。本人に聞くのが一番だろう」
俺は本人に聞くと言う部分を強調して話す。
噂話と通じるものがあるため印象に残りやすいからだ。
「…そうだね。憶測で話してても仕方ないか。」
「ああ。」
松下は先程の一之瀬の話題に自分を重ねて口を閉ざした。
「そーだっ!これからどうしよっか?」
みーちゃんは暗くなりかけた雰囲気を察して、声高々に提案する。
健気で献身的なみーちゃんの姿は凛々しく見えた。
松下もすっかり毒気が抜かれて笑顔になる。
みーちゃんの可愛さはいつか、世界を救うかもしれない。
「そうだね〜。あれ、そういえば綾小路君ってここに1人できたの?」
三人で行動するという選択肢があることによって生まれた疑問。
俺から言い出す手間が省けて助かったな。
「悪い。実は人を待たせてるからもう行かなきゃならない」
「ふ〜ん。誰?」
松下のその探るような疑問には躊躇がないな。不安そうなみーちゃんを代弁してるつもりだろうか。
「櫛田と池達だ。それとCクラスの人達4.5人もいるが。」
「…変なメンバーだね。どういう経緯?」
「櫛田に誘われてな。元々は櫛田と池達だけだったらしいんだが、それは少し肩身が狭いと言うことで俺が誘われた。櫛田には借りがあったし、それにクラスの女子は誘いにくいと言って困ってたしな」
「なるほどね。クラスの女子は池君と山内君がいる場所なんかに来ないよね…。」
「察しが良くて助かる」
「Cクラスの人達は何で一緒なの?」
「ここでたまたま出会わせたんだ。諸藤リカって子と櫛田が仲良いらしくてな、一緒に行動することになったんだ」
「櫛田さん。流石って感じだね。」
一通り俺から経緯を聞いた松下は満足したようにみーちゃんに方に振り返り手を握る。
「良かったねみーちゃん。浮気してたわけじゃなかったよ」
「う、うん。」
松下の強引な行動に少し引き気味に彼女ではないみーちゃんは押されるように頷いた。
「そういうことなら、綾小路君とはここでお別れだね。ありがとね。さっきは助かったよ」
「いや、気にしなくていい。こっちも″助かった″」
俺はその言葉に対する疑問を寄せ付けず、そのまま別れを告げてその場を後にした。
原作の新刊の方は
坂柳さんっっ!!?
って感じでしたね。
原作出るまでに更新したかったんですけどね〜。
やりたいこと多すぎて困る。
こっちの方も2学期からは彼女は登場する予定です。
(夏休み最後の回にするつもりでしたが延長戦はいります。)
次は早めに更新したい。(願望)