綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話   作:ファウストの劫罰

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#43 君を紫陽花に添えて

 

この顔合わせを目的とした二限目は基本的に行動制限はない。

それは遊びまわっていいという公認の許可なわけではなく、当然サボりの理由にはならない。

ほとんどの大半の生徒は体育館に残り、体育祭に向けて準備を進めているだろう。

 

龍園と別れた後、俺は体育館に戻る選択はしなかった。

見覚えのある人物が校舎に入っていくのが見えたからだ。

 

…サボりか?それとも、命令で動いているのか…。

情報収集した方が良さそうだな。

 

俺は校舎に入っていった彼女を音を殺して追いかける。

キョロキョロと挙動不審になることもなく、迷いのない足取りだ。

人の気配の少ない特別棟に進み、階段を昇っていく。

彼女は立ち入り禁止の表示を乗り越えて屋上へとあがっていった。

 

目的地は屋上か…

これはもう、誰かの命令で動いている線は切っていいだろう。

俺は彼女を追うように、屋上の立ち入り禁止の表示を乗り越えた。

 

「やあ、不良少年。そこから先は立ち入り禁止だぞ」

…尾行中に追尾行に気を配るのは初歩中の初歩。

後ろから声をかけてきたこの見知らぬ人物に尾行されていたとは思えない。

導き出される結論は…。

 

「先輩はどうしてそんな場所にいたんですか?」

「退屈を持て余して、彷徨っていたら疲れてしまったからな。隣の空き教室で少し仮眠を取っていたんだ」

眠そうに欠伸をしながら、脱力していた体を伸ばしている。

仮眠を本当に取っていたことを思わせるような仕草だ。

それだけで高身長でモデルのようなスタイルが露わになる。

 

「…それで、俺に何か用ですか」

「いや、暇つぶしに声を掛けただけさ。君は屋上に何か用があるのか?」

「男子高校生の夢なんですよ。学校の屋上は」

「そうか。なら私も同行しよう。」

「え。」

「何か問題があるのか?」

 

即座に返答するが否や、俺を狙いすましたように見つめる。

俺のレスポンスが一蹴遅れた隙に、俺の隣にもう移動していた。

彼女の行動力に歯止めをかけるのは不可能そうだ。

 

「屋上フレンドになる前に挨拶させてもらっていいですか。俺は1年の綾小路清隆君です。」

「…それもそうだな。私は処女だからな、健全な関係を望みたい。私は2年の鬼龍院楓花だ。」

顎の下に手を当てて思案したと思えば、自己紹介で処女宣言か。

仮眠していたことといい、相当な変わり種なのは間違いないだろうな。

 

「鬼龍院先輩ですね。よろしくお願いします。」

「ああ。それで、屋上で日向ぼっこでもするつもりか?」

「いえ、違います。俺は―」

「みなまで言うな。私には分かってる。"これ"だろ?」

鬼龍院先輩は口元に立てた2本の指を近付けて喫煙のジェスチャーをする。

 

「屋上にも監視カメラはある。場所の変更をおすすめするぞ。そうだな、学校内なら、この特別棟の一階のトイレなら生徒や教師の使用頻度も低いうえに、窓からの通気に優れていて匂いも残りにくいだろう。」

階段を一段一段ゆっくりと進みながら、一人で話を完結させてくる。

「だから、違いますよ。そもそも、この学校内で煙草は販売されていないので手に入れるのは難しいと思います。」

「君が今言った通り。煙草の入手は困難だろう。だが難しいは不可能じゃない」

「しつこいですね。それに何のメリットがあるんですか。」

俺の言葉はどこ吹く風。全く聞き入れる様子がない。どうやら厄介な人物に絡まれたようだ。

 

「これだから最近の若い奴は…。」

「使い方あってますかそれ。」

「合ってるさ。目先のことをメリットデメリットでしか判断できない君たちは民主主義が生んだ自分を持たない悲しきモンスターだよ」

 

「理由なんて、自分の知的好奇心の肥やしにできるだけで十分じゃないか?」

 

「…もしかして、先輩。吸ってるんですか?」

「聞いてなかったのか?さっき言ったはずだ。私はまだ処女だって。」

…そこに繋がるのかよ。

 

「それにしても喫煙じゃないなら、君が屋上に夢を抱いていたというのは噓ってことかい?」

「どういうことですか?」

もうこの人の発言は読むだけで無駄だろう。

 

「用があるのは屋上じゃなくて、朝比奈だろう?」

 

なるほど。最初からカマをかけられていただけってことか。

だが俺にも収穫はあった。俺が追ってきた南雲の近くにいたあの生徒は朝比奈という名前らしい。

 

「俺は男子高校生は屋上に夢を抱くと言っただけです。」

「なら君は男子高校生ではないわけか」

「属性は男子高校生かもしれませんね。本質は違います。屋上に夢を見るようなプログラムは俺の中にないですから」

「なるほど。見た目はそうでも、中身は違うと。表面上は整数なのにプロパティを見ると文字列型になっているようなものか」

独特な解釈をしてるが、満足気にフムフム頷いているので、どうやら納得してくれたらしい。

 

「目で見えるものだけが真実ではありませんからね」

「ありきたりなセリフだが、私は逆に目で見たもの以外は信用しないタイプだ。目で見えないものなんて全て妄想で妄言さ」

この世の物理や科学を全否定するような発言だな。

 

「鬼龍院先輩。お願いがあります。判断してくれませんか。」

「君は案外退屈しない男だな。言葉足らずなのも私が理解できるかどうか試しているんだろう?」

鬼龍院先輩の声が密かに弾んでいるのが伝わる。

 

「見つからないように隠れていてくださいよ」

「それは君次第だ。」

 

俺は鬼龍院先輩をおいて屋上のドアを開ける。

ドアのすぐそばで携帯片手に震えている朝比奈先輩が目に入った。

 

「…え?」

「朝比奈先輩ですよね。自分は生徒会の綾小路と言います。屋上は現在立ち入り禁止のはずですよ」

この学校の屋上は普段、開放されている。

だが、今は全ての屋上が諸事情で使用不可になっていると教師陣からアナウンスされていた。

 

なるほど。理由はこれか。

 

どうやら、屋上に設置されている監視カメラが機能していないようだ。

物理的に破壊されたのか、それとも、電気的に接続が切られているのか。

その手段までは分からないが、悪意のある作為的な行動が原因に違いない。

 

「生徒会か…。…君は元気そうだね。」

明らかに覇気が無い、朝比奈先輩。

さっき、南雲周辺で人一倍笑顔だった気がしたんだが。

 

「えーと、それで、何だっけ。」

「朝比奈先輩は何しに屋上へ?」

某番組みたいになってしまったな。

 

「…それ、君に関係あるかな」

「表向きな理由を言うなら、生徒会所属として立ち入り禁止の屋上にあがった生徒に事情聴取ですかね。」

「表向き?」

「はい。俺はそこまで仕事に熱心じゃないですからね。単純に気になって追いかけてきただけです。ここでの事を他言するつもりはないですよ」

※ただし、盗み聞きしてる奴は俺の責任ではないとする。

 

俺は表向きという言葉を使い、晒け出すような演出で話す。

「ここで会ったのも何かの縁です。悩んでいるなら微力ですが力になりますよ」

「…綾小路君だったよね。君はどうして生徒会に入ったの?」

「堀北会長の勧誘です。断りきることが出来なくて、つい先日入れられました」

まずは俺の情報も与えないと、探ることも難しい。

 

「えっ?堀北先輩に勧誘されたの?」

「そうですね。隣にいたお団子頭の先輩は俺の生徒会入りに猛反対してましたけど」

「そ、そうなんだ。でもすごいね。聞いたことないよ、堀北先輩が勧誘したなんて話。君が初めてじゃない?」

すごく欲しくない初めてだな。

 

「この話は一部の人しか知らないですから」

「それって雅も知らない?」

雅は確か南雲のことだよな。名簿で名前を見た記憶がある。

「いえ。むしろ堀北会長に一目置かれている者と認識されて、困ったことに敵対視されてます。」

「…全然困っているように見えないんだけど。。てか、今気付いたけど、雅が言ってた生意気な一年って君のことだったんだね。」

 

朝比奈先輩のリアクションは全て自然に見えた。

今、俺が南雲の敵であることを認識したにしては、焦った様子もない。

南雲が負けないことを確信しているのだろうか、あるいは…。

 

「生意気なことをした覚えはないんですけどね。」

「そういうところが生意気って思われてるんじゃない?雅にとって、自分の前で余裕を保てる奴は全員生意気な奴カテゴリーだから。」

雑なカテゴライズだな。とは吐き捨てれないんだろうな。

2年に敵がいないなら、南雲の自信が肥大化するのも理解できる。

 

「…君は雅の悪い噂、聞いたことある?」

「悪い噂ですか?」

「まだ一年にはあまり知られてないか。…2年では有名だよ。雅に歯向かう奴は退学にされるって話。」

「それは、噂なんですか?」

「火のない場所に煙は立たない。言葉の通りだよ。」

「なるほど。」

 

つまりは事実ということ。

だが、それはこの学校では珍しいことでも、理不尽なことでもない。

 

この学校は "実力至上主義"

 

弱肉強食の生存競争なのは最初から謳われている。

 

「綾小路君は雅のこと怖くない?」

「怖い?」

何故、俺が南雲に怯える必要があるのか。

 

「…生意気な一年生だね。」

困ったように笑った朝比奈先輩の笑顔に既視感があった。

 

「私の話。聞いてくれる?」

 

どうやら、俺は相談するに値する人物か試されていたようだ。

俺は朝比奈先輩の頼みを二つ返事で快諾した。

 

俺が帰る時、鬼龍院先輩はもういなくなっていた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

その日の放課後。

クラスは妙な活気に溢れていた。

「…鈴音、これはなにがあったんだ?」

「坂柳さんの魔法の効果は絶大ね。それより、あなたは今日の二限目どこに行ってたのかしら?」

話題転換の速さとから、俺が答えるまで、私も話さないみたいな意思が伝わってくる。

 

「ぽんぽんぺいんだったんだ」

「…噓つき。」

『ふんっ』という効果音が聞こえてくるような勢いでそっぽを向く鈴音。

こいつ、強情の皮が外れてから、少し幼児化してないか。。

 

俺と鈴音の話が一段落ついたのを見計らったのか、タイミングよく洋介がクラスの輪を抜けて俺の席にやってくる。

 

「清隆君。お腹は大丈夫?今日の話し合いの内容はメッセージで送信しておいたから確認しておいて。」

「ありがとう。洋介。悪いな任せっきりにして。お腹の方はお陰様で大丈夫だ。」

「全然任せっきりじゃないよ。坂柳さんに聞いたよ。清隆君が坂柳と方針を相談してくれたって。」

そういう感じになっているのか。

 

「これから、クラスのみんなで体力テストするんだ。出る種目の参考にしようと思ってるんだけど来れそう?」

「悪い。今日はまだ体が本調子じゃなくてな。」

隣にいる鈴音がキリッとした目付きで睨んでくる。

 

「洋介。記録や測定。サポートでよければ手伝わせてくれないか?」

「勿論だよ。それに、記録の管理も清隆君なら信頼できるしね。」

白い歯を見せてにこやかに微笑む洋介。

クラスが活気溢れている現状が嬉しいのだろう。

 

「そっか。僕はもう少ししたら皆で移動するけど、堀北さんと清隆君はどうする?」

「俺は少し寄る場所があるから、一人で行く。」

鈴音は単独行動する俺を一瞥して、何かを断ち切るように洋介に話しかけた。

「平田君。私も皆と行くわ」

「大歓迎だよ。一緒に行こう」

 

鈴音も少しずつだが、協調性が生まれ始めている。

もし、鈴音と洋介が協力してクラスを牽引出来れば、他のクラスに劣る部分もなくなるだろうな。

 

「清隆君。場所は寮から少し歩いた場所にある公園だけど分かる?」

「大丈夫だ。問題ない。」

「そっか。ならまた後でね。」

「ああ。」

洋介は鈴音を連れて、クラスメイトの波に飲まれていった。

 

 

俺は教室を颯爽と出て中庭に向かう。

生徒がちらほらといる中で自然に溶け込んでいる目的の人物を発見する。

 

「花壇の水やりも教員の業務に含まれているんですか?」

ホースを持って花壇に水やりをしている茶柱先生に声をかける。

いつものスーツではなく上はカッターシャツ一枚。

袖も腕の半分くらいまで捲り上げていて、いつもに増して色気がある。

 

「校内の景観の維持も立派な業務の一つだ。そんなことより、遅かったな。」

自動で水を供給するスプリンクラーを設置するか、業者に頼めば事足りそうだが。。

政府の学校でも、人件費削減に取り組んで、労働者の利益があまりない現実を見せられた気分だ。世知辛い。

 

「すいません。少し堀北や平田と話していました。それで、話というのは?」

「体育祭の話だ。準備は順調に進んでいるんだろうな?」

「不良品にしては、上々の首尾です。」

「『不良品にしては』、じゃ困るんだよ。今、うちのクラスだけが置いてかれている現状を、本当に分かっているんだろうな」

 

「今回の体育祭。増やせても最大50クラスポイント。もし、最善の結果を出せたとしても、大した功績にはならないということだ。」

確かに、今回の体育祭の功績は大したプラスにならない。

クラスポイントを稼げる機会が恵まれたとしても、そこで勝ち続けないと、俺達はAクラスになれない。

今のDクラスがAクラスに向かって走るにはまだまだ絶望的な状況だ。

どうやら、茶柱先生は今の現状に相当不満が溜まっているらしい。

 

「まあ、今すぐにAクラスというのは不可能です。今はまだ、クラスが一致団結出来ていない。」

「そんな悠長なこと言ってられる余裕は―」

俺は地面を這うホースを踏みつける。

茶柱先生が水の勢いがなくなっていくホースを不審に感じて、ホースの先端に手を持っていった瞬間に足を離す。

 

堰き止められていたホースの水が勢い良く噴射され、脱力して持っていたホースを茶柱先生は離してしまう。

「あっ」

空中で投げ出されたホースは水の勢いに任せて暴れまわり、周囲に水をまき散らした。

…ホースの先端に持って行った手に水が跳ね返って顔に当たり『冷たいっ』と可愛い声を出させる想定だったんだが。

 

「…頭が冷えましたか?」

想定外の量の水を浴びた茶柱先生は無言でホースを拾い上げる。

「おい。綾小路。覚悟はできてるんだろうな。」

俺は心の中で全力で走る覚悟を決める。出来れば、体育祭まで隠し札として持っておきたかったんだがな。

 

「茶柱先生は紫陽花が似合いますね。」

 

茶柱先生のカッターシャツは水に濡れて透け、薄紫の下着がうっすらと浮かんでいた。

茶柱先生のバックにある、花壇の生えている紫陽花との親和性は語るまでもない。

 

その直後、俺にめがけて一心不乱に水をかけようとしてくる茶柱先生が他の生徒に目撃され、後日南雲と一之瀬の噂をかき消すほどにインパクトのある話題となったのは棚から牡丹餅である。

 

――――――――――――――――――――――――

 

結局、茶柱先生は俺に意欲を焚き付けたかっただけだろう。

体育祭に勝てれば、Dクラスは恐らく軌道に乗る。

それは射程圏内に入ったというだけで絶望的な現実は揺るがないが、その波は茶柱先生からすれば喉から手が出るほど欲しいものだろう。

焦る理由には十分な要素だ。

 

茶柱先生の本気度を伺うかぎり、もうすぐ俺と茶柱先生の立場は逆転する。

脅しの道具を使うのは茶柱先生の専売特許じゃないということを身をもって理解してもらおう。

 

「はぁっ…はぁっ…。あ、綾小路君、ど、どうだった、かな?」

息も荒く、文字通り肩で呼吸しているような佐倉がゴールする。

「…佐倉はシンプルな短距離種目の方が向いているな」

 

100m20秒弱。200m40秒弱。200m程度なら、全速力を維持できる体力はありそうだ。

その全速力がお世辞にも速いとは言えないからこの結果なのだが、この前にやっていたハードル走ではハードルの前でいちいち停止してゆっくり跨いだあげくに倒してたからな。

それを思えば上々の出来だろう。

これなら、組み合わせ次第では最下位を避けられそうだ。

 

「はぁっ…はぁっ…。ほ、ほんとっ?」

「ああ。感心した。案外、体力あるんだな。何か普段、運動やってるのか?」

「え、運動?ど、どうして?」

膝に手をついていた佐倉が勢い良く顔をあげる。

大きな胸が視界の端で踊るが俺は極めて冷静に無視した。

 

「ああ。佐倉は帰宅部だったよな。それにしては体力がある方だなと思ってな。」

「…ダ、ダイエットって運動に入る?」

間をおいて返ってきた答えに俺は驚かなかった。

 

佐倉のスタイルの良さは胸の大きさだけではない。

出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる非の打ち所のないスタイル。

アイドルとして被写体にもなる身だ。その完璧な体型を維持するために努力を惜しまなかったのだろう。

 

「十分な運動だ。佐倉が体力がある理由が分かったよ。普段から頑張ってたんだな」

極度の運動音痴が体力をつけた状態。それが今の佐倉だ。

運動能力向上のためのリソースは既に持っているわけだから、もしかすると、磨けば光る原石かもしれないな。

だが、俺が佐倉の成長に手を貸すことはない。それは俺の役目じゃないからだ。

 

「えへへ。ちょっと恥ずかしいけど、嬉しい。ありがとう。綾小路君」

汗で額に前髪が張り付いている佐倉は、それを微塵も気にした素振りなく、はにかむように笑う。

運動音痴なりに頑張ったと思うと情が少なからずか湧いてくるな。やっぱ俺が教えようかな。

 

血迷いそうになった俺の考えを止めるかのように、背中に勢いのある衝撃が走る。

俺の腰回りにしっかりと細い腕が巻き付かせているみーちゃんが後ろにいた。

 

「ラブコメの波動を感じました」

俺が『どうした?』と聞く前にみーちゃんは先手必勝とばかりに声高らかに言う。

俺に抱きつくみーちゃんからは、清涼剤特有の甘い香りがした。

 

「おつかれ。調子はどうだ?」

正直、みーちゃんのスコアも下の上。胸を張れるスコアじゃない。

まあ、みーちゃんがどれだけ胸を張っても佐倉には勝てないが。

スコアで勝ったが、胸で負けたって感じだ。

 

「全然だめです。なので、私の練習に付き合ってください」

「今からか?」

「そうです。何か問題がありますか?」

敬語が圧となって俺に襲い掛かってくる。

 

「あ、綾小路君。私はいいから、みーちゃんの方、行ってあげて。」

「佐倉がいいならそうする。じゃあ、みーちゃん行くか。」

「うん。ありがとうねっ。佐倉さん。」

「う、うん。あっ。け、けど。ラ、ラブコメの波動はみーちゃんの勘違いだからねっ!!」

強く否定するほど、本気っぽく聞こえるのはなぁぜなぁぜ?

 

それに気付かない無邪気な佐倉に手を振られ、俺とみーちゃんはその場を離れて、公園の端まで移動する。

 

 

 

「清隆君。私、何からすればいいかな」

みーちゃんは運動音痴というより、ドジな印象。

それが伸び悩んでいるスコアにも表れている。

 

「とりあえず、俺から離れるとこからだな。」

いまだに俺の腰にしがみつくようなみーちゃん。

「離れなきゃダメ?」

上目遣いにおねだりしてくるように可愛い声で問いかけられても、俺には効果がないようだ。

 

「離れずにどうやって練習するつもりだ?」

俺が正論を押し付けると渋々離れるみーちゃん。

「…なんか、今日は優しくない。」

口を膨らませて、あざとくアピールしてくる。

 

「行事事に私情は持ち込まないタイプなんだ。可愛いのは百も承知だから。」

「…清隆君のツンデレ。」

どうやら、損ないかけた機嫌は不名誉な称号を代償に何とか持ち直せたようだ。

練習するのに、モチベーションを下げられても困るからな。

 

「それで、私はどうしたらよくなるかな」

みーちゃんは自分がドジっ子なのを自覚している。

それが無意識のうちにブレーキになって、自分の枷を外し切れていない。

 

「鬼ごっこをやろう。」

「え?鬼ごっこ?」

「ああ。みーちゃんが鬼で俺が逃げる。」

「…え?清隆君、走って大丈夫なの?」

そういや、体調が悪いってことにしてたんだっけ。

 

「皆が頑張ってるの見てたらちょっと感化されたんだ。少し走りたかった」

「…大丈夫?無理してない?」

「心配してくれてありがとう。ほんとに大丈夫だ。それに、みーちゃん相手なら正直余裕があるしな。」

「…ふふーん。なるほどなるほど。私なんて相手にならないってこと?」

「ああ。だから、もしみーちゃんが俺を捕まえれたら、何でも言うことを聞こう」

これくらいの褒美があった方が枷が外れるきっかけになるだろう。

 

「ほんとに何でもいいの?」

「捕まえれたらの話だ。さあ、いつでも始めてくれ。」

手を伸ばせば悠々と俺に触れられる距離。

この位置からでもみーちゃんが俺に触れることはありえない。

 

「よーいドンっ!!」

俺の目が本気であることを察したみーちゃんは可愛い掛け声と同時に手を伸ばしてくる。

それは、当然のように空を切った。

俺は伸びてくる細い手をかわしながら後ろ向きに走り、みーちゃんといい塩梅の距離を保って逃げる。

そして、徐々にスピードをあげて、みーちゃんの限界値を引きあげていく。

 

俺が方向転換しても、スピードを落とさずに必死についてくる。

小柄な分、小回りが効く。障害物競走ならもしかすると上位に食い込めるかもな。

 

俺との距離が開き始める。体力の低下でパフォーマンスが落ち始めた証拠だ。

もう少し基礎体力の強化は必要だな。

俺との距離が絶望的になったタイミングでみーちゃんは崩れ落ちるように地面に手をついた。

 

「おつかれさん。大丈夫か?立てるか?」

俺は立つのが苦しそうなみーちゃんに手を伸ばす。

 

「たっちっ!!」

みーちゃんはガバッと勢い良く顔をあげて、素早く手を伸ばしてくる。

だが、それはまたしても空を切る。

 

「~~~~~~ッッッ!!!」

「みーちゃんのことはお見通しなんだ。今日のチャレンジはここまでだな」

「は、恥ずかしい」

「気にするな。可愛かった。」

企みが失敗して顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするみーちゃんを強引に引き起こす。

 

酔っ払いの千鳥足のように安定しないみーちゃん。

「足フラフラか。仕方ない。おぶるよ」

「ま、まって私、汗が…」

「今更、汗くらいで恥ずかしがる関係でもないんじゃないか?」

「そ、それとこれは別だからっ!!…ノンデリ。。」

ボソッとつぶやきながらも俺の背中に体を預けてくる。

 

「ちょっと汗臭いな」

「……。清隆君?」

みーちゃんのものとは思えないくらい低い声。

「さて、流れ解散ってことだったし、こっそり帰るかー。」

「…清隆君?」

先ほどよりもドスのある重低音に近い低い声が耳元で響く。

 

「俺は好きだぞ。みーちゃんの臭いならなんでも」

「~~ッッ!!!も、もういやっ!!おろして~ッッ!!」

最後の力を振り絞るように暴れるみーちゃん。

 

「おい。落ちる。悪かった。からかいすぎたのは謝るから許してくれ」

「…ノンデリノンデリノンデリノンデリノンデリノンデリ」

暴れるのをやめたと思えば、みーちゃんのお経のような罵倒が寮に辿り着くまで続いた。

 

扱いやすいみーちゃんで色々試した結果、俺は一つ学習する。

 

デリカシーって大切だなぁ。




やべ。最後の方、勢いで書いたせいで綾小路君がセクハラおじさんになっちゃった。


そして、タイトルの適当さもえぐい。


それではまた次回。

#PRXWIN !!!!
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