綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話   作:ファウストの劫罰

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卵が先か。鶏が先か。


#47 答えはオムレツだ

 

 

短距離種目。棒倒し。玉入れ。棒倒し。

一年生の中でも屈指の実力を誇る柴田がリタイアしたが、そんなことなど関係なく競技は予定通りに進行していく。

そのリタイアに不可抗力な背景があったとしても、学校の判断は当事者の自己責任だった。

ビデオ判定で故意であると証明できなかった以上、その判断は覆らない。

Bクラスが負った傷は、あまりにも深い。だが、飲み込むしかなかった。

その一方で、もう一人の当事者である龍園は今も、ピンピンとした様子で屈強な男達の上に鎮座していた。

 

騎馬戦は基本小柄な人間が騎手になるのがセオリーだ。

龍園のように体格が良い生徒が騎手となり派手に暴れれば、土台が崩れるのが必然だからだ。

 

だが、龍園がどれだけ不規則に動こうが土台は崩れない。

やはり、単純なフィジカルだけならアルベルトの右に出る者はいないな。

体幹の安定力と寡黙な性格が相俟って、『動かざること山の如し』を完璧に体現している。

 

「チ、チートだろ…。あれ…。」

「…正直、勝てるビジョンが浮かばないね。無理に挑むと怪我をするかもしれない。」

思わず出た池の呟きに、洋介も同調する。

視線の先では、大人が片手間に子供の相手をしているような構図が映し出されている。

先陣を切った葛城を軸としたAクラス最強の騎馬がいいように弄ばれた後、盛大に崩された光景は敗北の二文字を強く想起させた。

援護に行っても被害が拡大するだけ。遠目に見て弱音を吐くことしかできることはなかった。

 

「…清隆君はどう思う?」

俺としても、正直な感想としては「レ、レギュレーション違反だろ…。あれ…。」って感じだ。

 

まず、騎馬の高さが違いすぎる。

あれでは、龍園の頭に巻かれた帯に手が届くことすらままならない。

土台を崩そうにも、アルベルトを守るように武闘派の石崎を筆頭にガタイのいい連中が囲っている。

 

俺達があの騎馬に挑むのは、ミドル級のアマチュアボクサーがヘビー級のチャンピオンに挑むようなもの。

無謀な挑戦であることは素人でも一目で分かるだろう。

 

「判断するのはまだはやい。もう少し様子を見るべきだ」

「え、でも、流石にあれは無理だぜ。。」

「分かった。なら、タイミングの判断は全部清隆君に任せていいかい?」

 

俺は洋介の言葉に頷く。

俺達は遊撃隊として少人数で編成されている。

フットワークが軽く、機動力の高さを活かして立ち回る部隊だ。

判断を誤り、下手な介入をすれば無駄死にするだけ。タイミングが命だ。

 

龍園が死体撃ちするかのように、葛城にマウントを取っている。

石崎が小刻みに屈伸を繰り返して余裕であることをアピールしていた。

 

「あれ、現実でやるやついるのかよ…」

「石崎のあれは何してるんでだ?」

「さあ。僕にも分からない。」

石崎は奇妙な動きを繰り返している。

俺には意味の持たない不思議な踊りにしか見えなかった。何だか分からないがMPを吸われそうだ。

 

「なんだお前ら知らないのか。あれはFPSゲームでいう死体撃ちみたいなやつだよ。俺の好きなゲーム実況者はそれで炎上して消えてったんだ…。」

悲痛をこらえるかのように添えられたエピソード。

池には悪いが俺と洋介は理解できずに、目を合わせる。

 

「よ、ようはあれだ。死ぬほど馬鹿にしてるってことだよ」

自分語りついでに出たエピソードに俺と洋介がノーリアクションだったことが恥ずかしかったのか、急いで補足説明される。

なるほど。あれは煽っているということなのか。

 

…。

 

知らない人が見たら、石崎の動きはテレビCMでお馴染みのあれにしか見えないだろう。

ぐる♪ ぐる♪ ぐる♪ ぐる♪ グルコサミン♪ ってやつだ。

改めて、あの動きの中毒性と煽り性能の高さが身に染みた。

…てか、こっちの方が確実に知らない人が多いな。

 

そんなスポーツマンシップの欠片もないグルコサミン御一行とは別の場所でも火花が散り始めた。

 

「お、丁度いいくらいの騎馬がいるじゃねぇか」

 

Bクラスの渡辺と呼ばれる生徒が不吉な台詞を吐きながら、格好の獲物を見つけたのように笑みを浮かべる。

狙いを定めるはスタート位置から一歩も動いていなかったDクラスの騎馬。

騎手に高円寺を構えたアンバランスな騎馬だ。

 

「こんなフラフラの騎馬なら俺でも狩れるぜ」

 

いくらDクラスの運動部組で土台を固めてはいるものの、高円寺を支えるには不十分で支えるので精一杯だ。

土台の人間は苦虫を嚙み潰したように顔を顰めて踏ん張っている。

 

「裏を取った!渡辺っ!いつでもいけるぞっ!」

渡辺の援護にきたもう一つの騎馬に後ろを取られ、高円寺はあっという間に囲まれた。

連携力を利用したBクラスらしい戦略だ。

 

「あれ、まずくないか…?」

池の心配は杞憂に終わるだろう。

ファミレスで一番高いサイコロステーキを賭けてもいい。

 

「固いし、ぐらつくし、暑苦しい。実に座り心地の悪い椅子だねぇ。返品交換は平田ボーイが受け付けてくれるのかな?」

堂々と腕を組んでいる高円寺は呆れるように文句を言う。

 

「高円寺っ。無駄に動くなっ。今どういう状況か分かってるのか」

「こっちが今すぐ返品したいくらいだっ。」

「…っっ!!」

間違いなく今日一番不憫な3人組だろう。

一人に関しては支えるのに手一杯で顔を真っ赤にして声も出ていない。

 

「今だっ。いくぜっ。」

言い合っている高円寺達を見て、好機と判断したのか渡辺が先に飛び出してきた。

 

「ちょ、行くなら合図しろよっ!!」

どうやら、コミュニケーションエラーが起きたようだ。

決めていた合図を無視して渡辺の騎馬が独断で先走ったのだろう。

 

渡辺の騎馬が勢いよくぶつかりにいく。土台から崩す作戦だ。

この勝負は一瞬で決着がつく。

 

真っ正面から向かってきた渡辺の頭に巻かれた帯が高円寺の驚異の早業で取られた。

 

「…え?」

「と、とまれっ!!」

渡辺の帯が捕られたことに気付いた馬の1人が急ブレーキをかける。

帯がとられた時点で、相手の騎馬に触るとペナルティを受けるからだ。

高円寺の騎馬のすぐ隣に、渡辺の騎馬が倒れ伏せた。

 

続いて援護にきた後ろから迫る騎馬に対して、高円寺はノールックで腕を伸ばす。

 

「…ッッ!!」

いきなり伸びてきた手に思わずのけぞった騎手の帯を高円寺は正確に掴んだ。

人間の反射行動すら計算に入れていたのか。それとも天性の反応速度が発揮されたのか。

恐らく両方だろう。

 

高円寺の周りに8人の死体が転がる。まさに一騎当千の活躍だ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」

 

遅れて歓声が沸いた。本人はそよ風程度にしか感じていない。

だが土台役にとって広大なサバンナで見つけた泉だ。

ふらついていた騎馬は、元気を取り戻したかのように安定感が増した。

 

「ま、まじかよ…。振り向かずに取るってどんな偶然だよ…」

池が目を丸くして言うが、あれは偶然ではない。

 

最初に腕を組んでいたのは相手に射程距離を見誤るように誘導するため。

不自然な動きで、土台が揺れるようにしていたのは油断を誘うため。

ノールックで帯をつかむ空間把握能力と恐るべき早業が派手なだけに、細かな技術は目立たない。

だが、ヤることはヤってるというやつだ。

…使い方違う気がするな。これ。

 

Bクラスのカバーの速さも、戦略も悪くなかった。ただ狙った相手が悪かった。

コミュニケーションエラーで遅れたカバーも、相手が高円寺じゃなきゃ誤差の範疇だった。

 

戦況は大きく動いた。これで、残りは赤組が7騎に対して白組は6騎。

無理に攻める必要がなくなった。制限時間が切れれば勝利だ。

俺達は協力関係を活かして、武将・高円寺のまわりで陣形を組む。

 

「全員。動くな」

それを見た龍園は、Cクラス全ての騎馬の動きを止める。

俺には、それが作戦や戦略の類いではなく、戦いを放棄したように見えた。

Bクラスは残り2騎。戦う意思はあれど、俺達の陣形に有効な手立てがない。

 

戦場は高円寺のパフォーマンスを最後に静かに膠着した。

 

「……」

 

…まるで将棋だな。

騎馬戦の最中だとは思えない。

駒を動かすプロ棋士が長考しているかのようだ。

だが、その読みあいにワクワクするのは将棋だからだ。

端的に言ってしまえば死ぬほどつまらない試合展開だ。

 

「なあ、もしかして俺達このまま勝つんじゃないか?」

「…分からない。龍園君は何がしたいだろう。」

「これは、洋介には分からないだろうな」

「え?」

「なんだよ。綾小路は知ってんのかよ」

「ああ。まだ一悶着あるさ」

 

俺達が勝つことは変わらないだろう。

だが、Bクラスがこのまま試合を終わらすわけにはいかない。

このまま試合が終わって困るのは白組ではなく"Bクラス"だけだからだ。

Bクラスを牽引するリーダーである神崎は、痺れを切らして龍園の騎馬に近づいていく。

 

「龍園」

「くく。なんだ。怖い顔して。豚のレバーでも生で食ったか?」

「…っ!!こんな時まで、ふざけやがって」

「ああ?ふざけてるのはそっちなんじゃないのか?」

神崎は冷静じゃない。

龍園が柴田をリタイアさせたことは大きな確執になっている。

今この状況で、龍園に火をつけても火傷するだけだ。

 

「俺が作ってやった有利な状況をそっちの雑魚が綺麗にひっくり返したんだぜ?挙句の果てには、俺に泣きついてくるしかできない始末。笑えるくらいにふざけてるだろ」

「それは、結果論だ。お前らが勝負を投げ出していい理由にはならない」

騎馬戦は団体競技。一人の勝ち負けがチームの勝敗に直結しない。

神崎は正論で龍園に立ち向かった。

だがそれは、お互いに目指すべきゴールが勝利ならの話だ。

 

「くくっ。これだから真面目ちゃんは困るぜ。頭が固すぎる。」

「何が言いたい。」

「いくら理屈が正しくても、お前らが足を引っ張った事実は変わんねぇだよバーカ。」

「やはり、確認するだけ無駄だったようだな」

神崎は眼鏡の位置を人差し指の関節で修正する。

あれが本場のめがねクイッってやつか。

 

「俺らがお前に泣きつく?馬鹿を言うな龍園。俺達はお前に敬服するほど落ちぶれていない」

「おいおい。Bクラスにまだここまで味がする雑魚が残ってるとは思わなかったぜ」

「勝手に言ってるんだな。つまらない理由で目先の勝利を捨てるようなやつはAクラスへは上がれない」

「流石。Bクラス様の言葉は身に染みるぜ。」

一見、言葉の応酬に見えるが、あまりに一方的だ。

言葉の重みが違いすぎる。

 

神崎はもう取り合うことをやめたと言わんばかりに場を離れていく。

もう、これでBクラスに勝ち筋はなくなった。

 

「くく」

 

遠目でも龍園の口角が吊り上がったのが見えた。

龍園は颯爽と騎馬を降りて、土台の石崎を思い切り蹴り飛ばす。

無防備に背中を見せた神崎の騎馬に目がけて発射するように。

 

「危ないっ!!」

 

Bクラスの勝利を祈るように応援していた一之瀬の声がグラウンドに響く。

その声は虚しく、石崎ロケットは狙い通り着弾して爆発するように被害を生んだ。

 

「り、龍園ッ!!」

地面に伏した神崎が吠える。

それを当たり前のように無視して、龍園は他の騎馬に指示を出す。

 

「いけ」

「うおおおおおおおっ」

たった二文字の指示で、止まっていた龍園の兵隊は一斉に赤組に特攻する。

味方に対してあれだけの暴挙。傍観していた赤組も瞬時には切り替えられない。

この死にもの狂いの特攻は、生半可では受け止められない。

 

「何のつもりだ龍園。こんなことをしてただで済むと思うなよ」

「ここは戦場だぜ?たらたら歩いてる方が悪いんだよ」

「ほんとにそんな理屈が通ると思っているのか?」

「ああ。お前らが味方でほんとよかったぜ」

 

競技終了の笛がグラウンドに響いた。

一瞬ヒヤリとしたが、数の有利は覆ることなく赤組の勝利で幕を閉じた。

 

「人生で一番長い騎馬戦だったぜ…」

池が言うようにどっと疲れが溜まる一戦だったことは間違いないな。

 

「清隆君はこうなるって分かってたの?」

「まあ、大枠はな。」

洋介の顔が疑問一色だったので俺は問われる前に答える。

 

「この体育祭。龍園のゴールはBクラスを最下位にすることだ」

これは表向きのゴールだが。

「…柴田くんの件はやっぱり偶然じゃないんだね。」

同じ部活の仲間だからだろう。龍園の行動が信じられないようだ。

 

「柴田君の件は故意だと証明出来なかった。でも、今のはそうはいかないんじゃない?」

「騎馬戦は団体戦だ。求められる項目にチームプレイってのも入るだろうな」

「…それって--」

洋介は1から10説明せずとも理解できる。

 

「注意されるのが関の山。もしくはそれすらされないだろうな。」

「…龍園君のやり方好きじゃないな」

「元から想像できたことだ。そのやり方にしてやられてる方にも否がある」

「それはそうかもしれないけど…」

「俺達にいつ牙が向くかは分からない。人の心配ばかりしてると痛い目を見るぞ」

俺は洋介に忠告だけしておく。

 

今回の体育祭。

 

敵チームへの違反行為は細かく定められていて、それを監視するカメラと判定員が設置されている。

競技性を損なわないように万策が敷かれている。

 

だが、味方チームに対しての違反行為は定められていない。

モラル的なラインを超えない限り、ルールの外側で戦える。

 

龍園が好みそうなフィールドで、一之瀬が最も嫌うフィールドだ。

まるで、まな板の上の鯉だ。

それを証明するように表情を歪ませた一之瀬がグラウンドを見つめていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

グラウンドに併設されているトイレだけじゃ、500人近い生徒を賄えない。

空き時間になるとトイレに行く生徒も多く、行列ができていた。

需要と供給のバランスが悪い。

新発売されたゲーム機のようだ。これには転売ヤーも黙っちゃいない。

 

「すいません。緊急を要する事態なので、校舎の方のトイレを使わせてもらっていいですか」

「仕方ない。はやく戻ってくるように」

俺が教員に告げると、人目につかないようにこっそりと校舎の方に連れ出してくれた。

いつもの無表情が便意を必死に我慢しているように映ったのかもしれない。

ともあれ、あの行列に並ぶ手間は省けた。優越感に浸ってゆっくりトイレタイムだ。

 

「おい。随分真面目に取り組んでるんだな。」

「…そっちは随分、勤務態度が悪いみたいだな」

俺以外にも姑息に裏ルートを使ってここまできた奴がいたらしい。

 

「それで、何か用か?」

「たまたま居合わせただけだ」

「なら、その振りくらいしろよ。」

龍園は手洗い場で突っ立てるだけ。トイレじゃなく、俺に用事をあることは隠しもしない。

 

「それより、そろそろ一之瀬からナースコールが届いたんじゃないか?」

「そんな名前の患者はいないな」

「なら、そろそろ急患がやってくるから準備しとくんだな。文字通り病院送りにしてやるよ」

「そうか。対処療法と原因療法どっちがお好みだ?」

「それは俺やお前じゃなくて、患者に選択権があるはずだぜ。だが、敢えて答えてやるが後者を選んだ場合は容赦なしだ」

「治療にリスクがつきまとうのは当たり前のことだな」

「リスクとリターンをよく考えるんだな。」

「そこは心配ない。俺の治療は保険適用外の全額自己負担だ。治療を受ける選択をした時点で俺へのリターンは確定している」

「くくっ。やぶ医者が。」

 

いつの間にかナースから医者に転職していた。

ナースと聞けばどうしても女性のイメージが強い。

俺には似ても似つかない職だろうし願ったり叶ったりか…。

 

「やれやれ、ツッコミ不在の漫才を見てる気分だぜ。」

「鼠が怯えて隠れてるのは分かってたんだ。言葉は選ぶ」

廊下から呆れるように顔を出した橋本。片手を壁につき、気取った登場だがに俺達は驚きすらしない。

途中から誰かが話を盗み聞きしてたのを感じ取っていたからだ。

 

「それで?わざわざ食われにきたのか?」

「さっきは、一本取るのに協力したんだ。それでチャラにしてくれよ。」

橋本は騎馬戦では葛城の騎馬の一人だったな。

 

「鼠のささやかなお供え物如きで獣の腹が満たせると思ってんじゃねえよ」

「えらく文学的だな。今日は。その供え物に毒でも入ってたんじゃないか?」

龍園が前振りもなく、橋本を見向きもせずに腕を振った。

それは吸い込まれるように、橋本の鳩尾に向かっていく。

寸前のところで、片手でガード出来たが威力は殺せていない。

まるで、高円寺に出来ることは俺にも出来ると言わんばかりの再現だ。

 

「暴力的がお望みならこうしてやるよ」

「…か、監視カメラがある中でよくやるもんだぜ」

苦しそうに腹を押さえながら言う。

 

「今、この場所の監視カメラなんて機能してないも同然だ」

「履歴は遡れるもんだろ」

「橋本が煽ったことは俺が証言しよう」

「くく、だそうだ。もう一発オマケしてやろうか?」

「…坂柳が一目置いてるから、タダモノじゃないと思ってたが…。なるほど。納得のイかれ具合だ」

「物の見方から三流だな。他人の評価で判断する時点で、自分の物差しを持ってない証拠だ。殴る価値もねぇ。さっさと失せろ」

 

龍園の言う通り、橋本は自分で動くタイプじゃない。

誰かに執着せずに、勝てる方に媚びるスタイル。龍園からすれば鬱陶しい存在だろう。

橋本は龍園に睨まれ大人しく去っていった。

 

「おい。お前はいつまで大人しくしてるつもりだ」

「俺が出てる競技は今のところ全てが一位だ。目から鱗な結果だと思うが?」

「猿の真似事で威張ってんじゃねえよ」

高円寺も俺と同じ成績を収めている。

 

「お前に目的があるように、俺にも目的がある」

俺は龍園を通り過ぎて、出口に向かう。

俺の行く先に腕が伸びてきた。

 

「なら、それを吐くまで帰すわけにはいかないな」

「いいのか?先の楽しみを潰す行為だぞ。」

「楽しみはお前だけじゃない。自惚れんな」

「答えてもいいが、それは今じゃない」

「ああ?」

「二兎追うものは一兎も得ずって話だ」

龍園の答えは当然のように拳で帰ってきた。

行く先を阻む腕とは反対の手で遠心力を利用し、首筋を狙った容赦ない一撃だ。

 

「…これが兎に出来る芸当かよ」

「俺を食うならウェルダンがオススメだ。レアで食おうものなら腹を壊すぞ」

「決めたぜ。鈴音を前菜にお前はじっくり料理して食ってやるよ」

俺は掴んだ拳を離して、トイレを後にする。

 

全く。こんなことなら行列に並んだ方がストレスが少なかったな…。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

午前の部が終わった。

結果だけ見れば圧倒的。もう白組が赤組に勝つのは事実上不可能に近い点差になっている。

赤組と白組で競うほとんどの種目が赤組の勝利で終わったのが大きな要因だ。

 

そして、1年の順位は坂柳が理想とする順位が実現している。

Dクラス→Aクラス→Cクラス→Bクラスの順の並びは大きな事故が起きない限り不動だろう。

そう考えるのは学年内に敵がいないからだ。

CクラスはBクラスを執拗に攻め続け、Bクラスでは龍園にヘイトを向ける者と龍園のペースに乗らずに協力して頑張ろうとする者で内部分裂し始めている。

一之瀬のリーダーシップはもう機能していない。

 

「清隆くーん」

 

後ろから柔らかい生き物が抱きついてくる。

今は体育祭。異性なら汗の匂いとかも気にするだろう。

一才の躊躇もない抱擁はもう既にその段階にない証だ。

 

「おつかれ。みーちゃん」

抱きつかれながら振り向くと、お腹が空いてるのか指を咥えてるかや乃とドン引きしてる松下がいた。

 

「…いたのか」

「いて悪かったわね」

「そこまでは言ってないだろ」

松下が一歩前に出て、恨めしく見上げてくる。

話を変えようと周りを見ると、かや乃と松下それぞれが弁当箱を2つずつ持っていた。

 

「かや乃。腹が減ってるのは分かるが2つはやめといた方がいいぞ」

「…ち、ちが―。…本気で言ってないよね。それ」

「ああ。冗談だ」

必死で取り繕うとしたかや乃だが、途中で冗談だと気付いて恨めし気に見てくる。

 

背中に抱きつくみーちゃん。

目の前で恨めし気に睨む松下とかや乃で魔法陣完成だ。

 

「そんなことより、清隆君。お昼まだだよね。一緒に食べよ〜」

「私達、いい場所知ってるんだ」

みーちゃんとかや乃の押し売りのように勢いがある誘いに断る気にはならなかった。

やはり、相当お腹が空いているらしい()

 

「そういうことなら、ありがたくご一緒させてもらう」 

俺たちが移動してきたのは、見学者ブースと教員ブースの真裏だった。

確かに人はいないが…色々気になるな。

ニヤニヤした星之宮先生が俺に向かって元気良く手を振ってることとか特に。俺は友達かよ…。

 

坂柳がいるかもと思ったが、当の本人は見学者ブースにいなかった。

代わりに、佐倉とひよりが和気藹々とご飯を食べてる姿があった。見ていて和やかな気持ちになる空間だ。

…多分、ひよりが元気ないのを察して佐倉が声をかけたのだろう。

そういう気遣いが自然にできるのが佐倉の強みだ。

 

「そういや、綾小路君。最優秀賞狙えるんじゃない?」

「そういうかや乃こそ狙ってるんだろ?」

「まあね!私が貢献できる数少ない場所だからっ。それに、点数も欲しいしね」

最優秀賞が与えられた者にはプライベートポイントと次の中間テストでの点数が与えられる。

どちらもあって困らないものだ。

 

「でも、それにしてはライバルが少し多いんだよね。」

「そういや、松下も今のところ全部1位だったな。」

「私の場合、組み合わせに恵まれたってだけだけどね。堀北さんやかや乃ちゃんとは訳が違うよ。まあ、出来るだけのことはするつもりだけど。」

「ほんと、頼もしい限りだな」

 

「…ぅぅ。この中で私だけ仲間はずれ…」

「そ、そんなこと気にしなくていいんだからっ!」

「そうだよ。みーちゃんっ!」

かや乃と松下があわわわと慌ててフォローする。

俺はフォローする方が惨めになることもあるだろうと思って無言でその光景を眺めていた。

 

「…清隆君も。なぐさめて」

ところがどっこい、みーちゃんは俺からの慰めが所望のようだ。

関係ないがところがどっこいって間抜けな響きだよな。

どれくらい間抜けかっていうとおっちょこちょいくらい間抜け。

 

「なら、昼からも頑張れるようにこの卵焼きを贈呈しよう」

俺は箸で器用に卵焼きを掴み、手を皿のように添えて、みーちゃんを餌付けする。

これは良質なタンパク質。完全栄養食品の力を思い知るがいい。

 

「そういうんじゃないんだけどなぁ。」

みーちゃんは文句を言いながらもしっかりパクリと食い付いた。

弁当特有の甘い卵焼きがみーちゃんのイライラを緩和させるに違いない。

ストレスを軽減させるチョコくらいの効果はあるはずだ。

 

「美味しいか?」

「美味しいけど…」

「ならよかった。」

「…よくない」

おかしい。みーちゃんの機嫌がそこまで良くなってない。

ストレスを軽減させるチョコくらいの効果があるはずなのに。(2回目)

 

かや乃から『ナイストライ』みたいな視線と松下から『マジかお前』みたいな表情を受ける。

いや、松下。お前ももうちょいフォローしろよ。「そうだよ。みーちゃんっ!」で終わらせてんじゃねぇよ。

 

とは思うものの、頑張ったけど結果が振るわなかったみーちゃんを蚊帳の外に、最優秀賞の話で盛り上がっていたことは配慮が足りてなかったかもしれない。

深夜に食べるカップラーメンくらいの罪悪感が俺にも湧いてきたので、別の手段を取ることにした。

 

「気が利かなくて悪かった。ブロッコリーも欲しかったよな」

俺は断腸の思いで、ブロッコリーをみーちゃんに捧げた。

さらば。俺のタンパク質。そして食物繊維。

 

「清隆君のいじわる」

俺のいたずらごころはもう見透かされているようだ。

先制で変化技をうっても効果がない。

俺の過度ないじりがみーちゃんの内なる悪タイプを呼び覚ましたのかもしれない。

 

そうは言いつつもみーちゃんは先程と同様にパクリとブロッコリーをパクっていった。

くくっ。口では抗っても、体はタンパク質に抗えないのだ。

心中とはいえ、龍園みたいな笑い方が出てしまった、猛省しよう。

 

「…可愛いな」

 

下心がゼロの素直な感想を伝える。

小動物の暴力的な可愛さに人間は抗えないのだ。

俺に人間の血が流れていることを自覚できた瞬間だった。

 

「…。ゆ、ゆるす」

俺の不意打ちにしっかりと顔を赤くしたみーちゃんからぼそりとお許しがいただけた。

先ほどまでのぷんすかと怒っていた雰囲気は一瞬で霧散した。

 

「「…チョロイ。」」

「ちょ、ちょろくないもんっ。清隆君がデレるなんて中々ないんだからっ!!」

 

3人が姦しく言い合い始める。

 

俺の話なんて聞いてないだろうけど、これだけは言わせてくれ。

 

俺はデレてない。




みーちゃんかわいい。

タイトルと前書きは適当に見えて一応元ネタありまう。

ビジュアルだけなら柴田がサイコロステーキ先輩と瓜二つだから、それをネタに使いたかったんだけど、柴田が優秀すぎたので、止む無く渡辺君にご登場して頂きました。

原作よりもだいぶ早い登場に渡辺君も喜んでいるはずです。
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