綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話 作:ファウストの劫罰
改めてあけましておめでとうございます。
リアルで転職活動したり、引っ越ししたりでマジで書く時間取れませんでした。
2か月弱あいたせいで、前回の話も忘れて、モチベーションも途切れて、この復帰は奇跡的でした。
何とか、原作の更新速度には勝てました()
とりあえずは落ち着いてきたので、また不定期に更新していきますので長い目で見てください。
『まもなく最後の競技、1200mリレーを開始します。参加する選手は所定の位置につくようにお願いします。』
この学校の教師は基本的に高圧的な命令口調が多い。
今のアナウンスはその例にそぐわない、丁寧なものだった。
それは普段、教壇に立たない臨時の教師が対応したことを意味している。
「…。」
「清隆君。どうしたの?」
「そろそろ出番だなと思っただけだ。」
「そっか。頑張ってね。いっぱい応援してるからっ」
「ああ。ありがとう」
いっぱいって…。応援ってそんな数量的なものだったか?
そんな疑問を抱きつつも、自分ですら認識できないほどの機微を感じ取ったみーちゃんの問いかけに適当に答える。
恐らく、適当にあしらったことも彼女は気付いているが。
当たり前のように俺の右腕に抱きついているみーちゃんを優しく解いて、所定の位置に向かった。
1200mリレー。その全容はシンプルだ。
まず、全クラスが男女3名ずつの6名を選出する。
グラウンドのトラック一周は標準仕様の400m。
選手一人につき半周の200m走り、バトンを繋いで1位になったクラスが勝利する。
選手は必然的に2つのスタート位置にそれぞれ待機させられる。
並々ならぬ面子が、ぞろぞろと集まり始めた。
クラスの顔とも言える代表者達が一堂に会する機会も早々ないため、この瞬間は貴重だと言えるだろう。
「絶景かな。」
辺りを見渡せば、石川五右衛門も驚愕の景色。
金髪や茶髪は当たり前。薄桃色の髪色や太陽が反射するような銀髪。特徴的な髪色がわらわらといる。
まるで、コスプレイベントの会場のようだ。(行った事は当然ない。)
…ほんとに、皆、純日本人だよな??
多様性社会が確立しつつある現代では、校則で頭髪を厳しく取り締まる風潮はなくなりつつある。
その煽りをこの高度育成高等学校も多分に受けているんだろう…。…うん、そうに違いない。そうでないと説明できない。
実力社会を表したような自己主張のぶつかり合いはどこかの青い監獄のようだ。
もはや、逆に黒髪の人間が個性的な髪型に見える不思議な現象が起きていた。
「順調のようだな、綾小路」
「おかげさまで。」
生まれてから一度も染めていないであろう純正の黒髪に、インテリ男子が愛用しそうな何の捻りもない黒縁メガネ。
世間から見れば没個性的な見た目も、この学校では前述した通り、個性派代表を担う存在。
その堀北兄もアンカーを務めるようで、しれっと俺の隣に並んできた。
まるでみーちゃんのような自然さだ。誤解されても困るだけなので切実に勘弁願いたい。
それにしても、眼鏡を着用か。明らかに陸上競技には不適切な格好だ。
元より、本気で走る気がないのか…。
それとも、メガネがアイデンティティだという自負があり、プライドが邪魔して手放せないでいるのか。
判断に困るところだ。
「…どうだ。今日は楽しいか?」
「もしかして、あんた、コミュニケーション能力に難ありなのか?」
久しぶりに会った旧友に『最近調子どう?』と聞くくらい話題の振り方が雑だ。
妹ともほぼ絶縁状態だし、この男にも明確な弱点があるようだな。
「開口一番それか。お前は気遣いに欠けるようだ。」
「それはすまなかったな。アイスブレイクの話題にしては発展性がなさすぎたもので、ついツッコんでしまった」
無表情な俺に楽しいかどうかを聞くなんて、少し考えれば野暮な質問だと理解できるはずだ。
相手が返答に困らない質問をするのがコミュニケーションの基本だろう。
「よう。綾小路、やってくれたな」
真打ち登場とでも申しましょうか。と言わんばかりに偉そうな態度出てきたのは言うまでもなく南雲である。
ちなみに、金持ちが持っていそうな扇は持っていない。
ムレなく綺麗に染まった金髪は、『令和 メンズ 10代 髪型』で検索したら一番上に出てきそうな量産型マッシュスタイルのせいで台無しだ。
この学校の金髪といえば、オールバックの高円寺や東京卍リベンジャーズに出てきそうな橋本の方が先に名前が挙がるだろう。
個性派社会に埋もれた敗北者がこの南雲なのだ。
ニヤニヤと薄気味悪い笑みを顔に張り付けている南雲はまだそれを自覚していないようだ。
「俺は何もやってないです」
「確かにお前は実行犯じゃない。だが、計画を企てたのはお前だろ?」
「大袈裟ですね。俺は体育祭に勝つために行動しただけですよ」
「相変わらず屁理屈が上手い奴だ。だが、俺の邪魔をしたのがお前。その事実だけは覆らない」
俺は元より、南雲の邪魔をした事実を隠すつもりはない。
むしろ、南雲には知っててもらう必要がある。
景気付けに少し煽っておくか…。
「結果的にそうなってしまったことは認めます」
「…とことん舐めた態度だな。俺に手を出したことに後悔させてやるよ、綾小路。」
「もう手遅れでしょう?俺が先輩の妨害をしたことに腹を立てつつも、何も出来ることがないから、今大人しくしてるんじゃないんですか?」
この競技の結果で、俺達一年Dクラスの順位を覆すことは不可能だ。
それを理解している南雲だからこそ、余計に刺さる煽りだろう。
普通の人より10倍くらいプライドが高い南雲は、普通の人より10倍くらい沸点が低い。
必死に表に出さないようにしている怒りは、俺からすれば逆に分かりやすかった。
普段、散々煽ってくる奴ほど煽り耐性がないのは真理だ。
「…見込んだ通りの奴で安心したぜ。いや~生意気な後輩を持つって大変ですね。堀北先輩。」
南雲は作り上げた不敵な笑みで、傍観していた堀北兄を巻き込み話を展開する。
「そういう台詞は俺みたいに心底面倒そうな顔をして言うもんだ。嬉しそうな顔をして言う事じゃない」
「毎日カレーは飽きるでしょう?今の俺にはスパイスが必要なんですよ」
カレー=スパイスみたいなもんだろう。
その例えだと、味変にもなってない。
相当冷静さを欠いているようだ。
もっとマシな比喩表現があっただろうに。例えば…
「平和の為に戦ってるのに、強敵を待ち侘びてるサイヤ人みたいだ。とかの方がしっくりきませんか?」
「イエスマンの部下に接待されてきた上司が反対意見を言ってくる部下を大事にする。こんな具体的な比喩が分かりやすいだろう。」
俺と堀北兄がそれぞれの解釈を同時に口にする。
3人それぞれ全く方向性の違う例え方だ。
俺たち3人がバンドを組めば、価値観の相違で解散秒読み。
ぼっちざろっく三部編成パラレルワールドの始まりだ。
…意味わからんな。俺も冷静さを欠いているようだ。
「綾小路ってアニメとか見るタイプだったのか?」
「確かに。人は見かけによらないものだな」
二人が俺の意外性を見つけたのを仕切りに話が急旋回する。
そっち方面に話が進むのは俺にとってあまり嬉しくない展開だが、一言だけ言いたい。
ドラゴンボールはアニメじゃなくて漫画だろう。
会話がスムーズに進みすぎて、原作厨の俺じゃなかったら見逃していた。
「ドラゴンボールは義務教育です。少年の心はあの作品で大半が理解できます」
「おいおい。しかも結構、思想が強いな。世間ではそういうやつを厄介オタクっていうらしいぜ」
「興味深い。そっち方面は履修していなかった。綾小路がそこまで言うのならこれを機会に学ぶとしよう」
堀北兄はずれてもない眼鏡を修正するかのように鼻当てを中指で押す。
心理学的に解析すれば、腕を組むのと同じ心理効果がありそうだが、あれは手癖に近いものだろう。
思春期の男子が定期的に前髪が気になって触るのと同じ類だ。
「会長。アニメ見ることを履修と言わないっすよ」
空気が一瞬にして凍った。俺達3人だけでなく、周りの選手も静まり返ったかのように錯覚するほどに。
南雲の発言が場を凍らせたが、今回に限って責任は南雲にはない。
正直、俺も気になっていた部分だ。
一般的な使い方とはだいぶ異なっている。
「そろそろ、雑談も終わりのようだな。」
予定時刻が過ぎても、まだ競技が始まらないことに疑惑の念が募る選手たちの目は一ヶ所に集まった。
ドラマの台本のようなタイミングで静まり返ったグラウンドに龍園は堂々と入ってくる。
状況的に雑談を続ける雰囲気じゃない。堀北兄が唯一、会話から逃れる展開になった。
…まあ、それも、残念ながら一時凌ぎに過ぎないだろうが。
「そうみたいですね。また今度、続きを詳しく聞かせてもらいますよ。堀・北・先・輩。」
おじさん構文ばりに、ハートの絵文字が大量についてるのが文字起こしするまでもなく見える。
この粘着質の南雲に知られたからには、堀北兄は逃げられない。
堀北兄の秘密が白日の元に晒される日はそう遠くない。
…俺の予想だが、堀北兄は巷で聞く『隠れオタク』という奴だろう。
世間のオタクに対する偏見はもう無いに等しいが、堀北兄の堅苦しいイメージからかけ離れていることは事実。
幻滅する生徒も少なくはないだろう。
「てことで、俺は行ってきます。副会長の責務を全うしてきますよ」
副会長の責務ってなんだっけ。職権乱用にしか見えないんですけど…。
既に選手の代理の申請は締め切られているので、龍園は正真正銘の乱入者だ。
底に正真正銘、部外者の南雲が行けば、場はカオスになるのは必然だ。
「どうだ?綾小路も行くか?」
「行けたら行きます」
「お前らしい返事だな。途中参加も歓迎だ。じゃ、また後でな」
…いるんだよなぁ。
打ち上げとかクラスの集まりとかやんわり断ってるのに、途中参加でもいいからとか食い下がってくる奴。
すでに出来上がっている空気にどうやって混ざればいいのか分からないから、そういう誘いは本当に辞めて頂きたい。
南雲は俺を冷やかした後、一目散に龍園の元に向かっていく。
そして、その龍園の行先は、例に漏れず一之瀬帆波の元。
龍園はこの場で全てを終わらす算段のようだ。
「一之瀬も不憫な奴だな」
「人気者が集めるのは人気だけじゃないですからね」
一之瀬帆波が入学から積み上げてきたもの。
その価値が、この場で龍園の手で裁かれるだろう。
「本当に行かなくていいのか?」
「会長こそ。一之瀬は同じ生徒会の新顔です。今、助けることができれば、先輩としての顔が立つと思いますよ」
「その生徒会としての自覚があるなら、あの程度の修羅場潜り抜けてもらわないと困るな」
「手厳しいですね。もし、一之瀬の立場を橘先輩に置き換えた時、潜り抜けられるとは思えませんけど。」
一之瀬の実力で、到底切り抜けられる状況じゃない。
RPGで例えるなら負けイベント。万に一つも勝てないようにプログラミングされている。
その限りなく低い可能性の先に、抜け道があったとしても、グリッチだ。チートだ。とああだこうだ言われて炎上する。
なんて、生きにくい世界なんだ。
「違うな。あれは一之瀬だから起きた状況だ。その仮定に意味はないな」
橘先輩のポテンシャルを俺が低く見積もったことに対する憤りからか、声色がいつもよりも低い。
この男も南雲と同じく大概分かりやすいタイプだな。
やはり、血筋には抗えないらしい。
「随分、橘先輩を買ってらっしゃるんですね。」
俺には、橘先輩にそこまでの実力があるとは思えない。
マスコットキャラクター的な価値だけを見れば、学内随一だろうが…。
「身内贔屓に見えるか?」
「正直に言えば。」
「今はそれでいい。生徒会にいればいずれ分かることだ」
「期待せずに期待してます。」
この男の気持ちは兎も角、橘先輩は間違いなくこの男に好意を持って接しているからな。
フラットに評価することが出来ているかは怪しいラインだ。
俺が未だに疑心暗鬼の目を向けている事が癪に触ったようで、堀北兄は補足してきた。
「…そうだな。さっきの質問に真っ当に返すのならば、橘なら問題なく切り抜ける。」
「興味深いですね。根拠を聞いても?」
「俺がいるからだ。」
「…。なるほど。」
「理解したようだな」
橘先輩が窮地に陥った時、迷わず手を差し伸べてくれる仲間がいる。
それは堀北兄だけではないだろう。
一之瀬帆波にはそれがない。
Bクラスの皆は信頼してるからだ。『一之瀬帆波なら大丈夫だ』と。
それは信頼ではなく、過信に過ぎないというのに。
「会長の言う通り理解はできました。」
「お前のようなタイプは到底納得できない話だろうからな。それで十分だ」
俺が語る実力というは。他人を頼るように出来ていない。
堀北兄は俺の在り方を理解している。
てっきり、堀北兄も俺と同じだと思っていた。だが、そうではないようだ。
「さらに付け加えるなら、あの状況は一之瀬だから起きたことだ」
「橘先輩はAクラスで、一之瀬はBクラスだからですね。」
一之瀬は控えめにみても優秀だ。
学力、体力、社交性、容姿、リーダーシップ。
何処を取っても、非の打ち所がない。
まるでラブコメラノベのメインヒロインのような非現実的なステータス。
だからこそ、それが致命的な弱点となる。
一之瀬帆波がどうしてBクラスなのか。
Aクラスの生徒と比較してみても、一之瀬帆波が劣っている部分を探すのは難しい。
一之瀬帆波には、ブラックボックスが存在する。
「一之瀬は芽を摘まなかった。自業自得。因果応報。ただそれが巡ってきただけのことだ。」
俺は一之瀬を見る。
一之瀬は逃げも隠れもせず、喜びも悲しみもしていない。
ただただ、前を見据えている。
彼女は理解しているのだ。この先に起こる未来を。
だからこそ、自業自得や因果応報ような便利な言葉は必要ない。
当然のように未来は、自分で切り開いていく以外ない。
俺に頼るような実力や一之瀬帆波に頼る実力は無くなってしまえばいい。
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「どけ。雑魚」
龍園が肩に手をかけた。その瞬間にはもう、後方に吹っ飛んでいた。
あれは、確かバスケ部の小宮だったか。
痩せ型高身長。包み隠さずに言えばヒョロガリだ。
バスケをやった事はないが、彼からゴール下のポジションを取ることは容易だろう。
「おい。選手以外は立ち入り禁止だぞ。」
名前も知らない上級生の誰かが、龍園に注意する。
龍園が自分のクラスメイトに手を出した意味を考えることもせずに、正義を気取ったツケは必ずや帰ってくるだろう。
「言われてるぜ木偶の坊。這いつくばってないで早く退場しろ」
いきなりのことで脳の処理が追いつかずに呆然とする小宮に龍園は容赦ない言葉を浴びせる。
クラスメイトとは思えない対応だ。
「ああ?お前だよ。お前。」
「誰に口聞いてんだ?殺すぞ」
上級生が龍園を指した人差し指は即座に掴まれ、あらぬ方向に曲げられた。
超えてはならないラインは把握しているようで、骨折ギリギリ一歩手前で上手く止めている。
…あれ、骨折するより痛いんだよなぁ。
声にならない声をあげ、苦痛に顔を歪めた上級生が地面に膝をつくのに時間はかからなかった。
その風景に一切触れず、平然とした声で南雲は龍園の前に立つ。
「随分やんちゃしてるようだな。問題児。」
「おいおい。どこの成金野郎かと思えば、副会長のお出ましかよ。まさか、この間抜けを助けに来たわけじゃないだろうな?」
「まさか。口を開けた猛獣に手を差し出せばそうなる。そんなことは猿でも分かる。」
「英断だ。クラスメイトをすぐに切り捨てるその判断の良さだけは認めてやるよ。」
名前も知らないあの上級生は南雲のクラスメイトなのか。
龍園がそれを知っているということの意味は大きいな。
「ふっふっふっふっふ……!」
龍園が某騒動の41歳のように笑いながら、さらに最後の一押しと言わんばかりに力を徐々に強めていく。
相手を痛めつけることを心底楽しんでる狂気が溢れ出している。
「まってっ‼︎」
目の前に行われる非人道的行為を見逃せなかった一之瀬が割れるほどの大きな声で叫ぶ。
龍園が一之瀬の声に反応した瞬間に、上級生は全力で指を引き抜き、間一髪のところで逃れることに成功した。
「はぁっ…。はぁっ…。」
上級生は指が折れていないことを確かめながらも、尋常じゃないほどの汗をかいている。
龍園の狂気に耐えられなかったか…。
「大丈夫ですか?」
一之瀬はすかさずに上級生に駆け寄り、優しく声をかける。
だが……。
「う、うわああああああ」
上級生は事件性のある悲鳴をあげて後ずさる。
一之瀬はその予想外の悲鳴に、肩が跳ねて、状況を掴めずにいるようだ。
あの上級生は龍園によって心が恐怖心に支配されている状態だった。
優しさだとしても、それは刺激に他ならない。
躓きそうになりながら必死に去っていく上級生の背中は寂れたサラリーマンよりも情けなかった。
「くくっ。」
上級生を追い詰めた張本人である龍園はその様子を嘲るように笑う。
一之瀬が意図せずにトドメを刺した事が面白くて仕方ないのだろう。
「…龍園君。用があるのは私でしょ?他の人は関係ないはずだよ」
「降りかかった火の粉を払っただけだ。正当防衛だろ。」
誰がどう見ても、過剰防衛だったが。
「…もうこれ以上。他の人を巻き込まないで。」
「くくっ。それはお前ら次第だ」
「どうやら、俺も含まれているらしい」
「分かっているなら、さっさと消えろよ。副会長。」
2年Aクラスの第一走者は事実上リタイアした。
代理の申請も締め切られている現状では、、2年Aクラスの選手達は既に参加資格のない部外者と化した。
副会長の肩書きだけじゃ、この場にいる理由としては不十分だ。
もう、南雲に取れる選択肢は悪足掻きしかないが…。流石にその選択を取るほど落ちてはいないようだ。
去り際は美しく。南雲は2年Aクラスの選手達を身振り一つで集め、軍隊のようにグラウンドから去っていく。
南雲からすればこの体育祭の順位なんかじゃなく、一年坊主二人に好き勝手やられたことに憤りを感じているはずだ。
自分の無警戒さが招いた結果といえ、歯嚙みしても消化できない悔恨に苛まれることだろう。
「デカい図体の割に用意周到な奴だ」
「南雲先輩は俺や会長に目が向きすぎなんです。少し視野を広げれば打てる手は無数にあった」
「随分優しいんだな。鬼龍院を使ったのはそれを南雲に分からせるためか?」
「いえ、それは単に鬼龍院先輩と意気投合しただけです」
「…どうだかな」
…てか、いつまで堀北兄は俺の隣にいるんだろうか。
落ち着かないからさっさと、自分のクラスの待機列に戻って欲しいところだ。
念の為、言っておくが、この落ち着かないというのは恋愛的な意味ではない。
誰に言い訳してるんだ。と心の中で思っていると、右足の踵に強い衝撃が走る。
痛い。
「何か用か?」
「無反応すぎ。システマでもやってた?」
足音も立てずに俺の後ろを取って乱暴な挨拶をしてきたのは伊吹。
見るからに不機嫌な空気を纏っている。
俺をサンドバック代わりに八つ当たりしないで欲しい。
だが、伊吹には一つ感謝しないといけないらしい。空気を読んだのか、堀北兄がいつの間にか消えているのだ。
「伊吹。ありがとな」
「は?キモっ。あんたドMだったの?」
挨拶代わりに蹴ってくる伊吹と堀北兄からやっとの思いで解放され、浮ついている俺。
まともな会話は成立するわけがなかった。
「悪い。こっちの話だ。忘れてくれ。それで、何か用か?」
「…別に?ボーっとしてたから蹴っただけ。てか、言う気がないなら気になる言い方しないでくれる?」
「それに関しては悪かったって」
仕切り直して再度問いかけるが、話は進みそうにない。
どうやら無計画で俺に話しかけてきたようだ。この無鉄砲さが何とも伊吹らしいな。
「そういえば、伊吹。ここに来るのが随分遅かったな。お昼ご飯、食べ過ぎたか?こういう日は腹八分目に…」
俺の言葉を中断させるように、再度踵に蹴りが飛んでくる。
避けることは簡単だが、ここは敢えて...ライフで受けるっ!!
……痛い
「性格悪。あんた分かってて言ってるでしょ。」
「いや、本当に何も知らない。知る必要もないしな。」
「…それでいいわけ?」
「俺は事なかれ主義なんだ。余計な事はしない」
久しぶりに言ったな。事なかれ主義。今の俺が言っても信憑性はないか。
案の定、伊吹の目つきの鋭さはマシマシだ。
…伊吹が情報を漏らすということは龍園への裏切りに値するしな。俺から開示する他ないか。
「俺が出て行ったとして、龍園は高円寺に喧嘩を売る。その末路は南雲と同じだ。」
この競技が俺達のクラスが不参加という結果を辿っても、首位は揺るがない。
この前提がある以上、高円寺はリタイアする理由あれば喜んでグラウンドを去るだろう。
「…やっぱり分かってるじゃん」
「ついでに言えば、龍園は代理の申請が締め切られた後、無理矢理乱入したように見えるように仕組まれているが、元々第一走者は龍園で登録していたんだろう?ダミーの小宮は本気で自分が第一走者だと思っていたことがミソだな。馬鹿と鋏は使いようとはこのことだ。」
南雲も龍園の態度から、これは見抜いていたことだろう。だからこそ、打つ手がなかった。
「…。」
「さらについでに言えば、今現在、水回りのトラブルが乱発してるだろうな。その証拠にグラウンドに一つしかないトイレに誰一人並んでいないしな。トラブル対応に追われている教師の数を見るに、恐らく校舎の方のトイレも数ヶ所トラブルが起きてるんじゃないか?」
プライバシーの観点からトイレに監視カメラの類は設置できない。
水回りの故意的なトラブルを防ぐには各トイレに教師を配置して、一人終わるごとに教師が点検をするといった人海戦術でしか対策できない。
正直言って、禁止技だと俺は思う。
これは軽犯罪に当たる器物破損に問われるだろうし、足がついた瞬間退学だろうが…。
だがこれは確実に効果が出ている。
競技開始を遅らせることと教師の監視を緩和させることが実現出来てしまっている。
全てはこの場で一之瀬帆波を公開処刑するために払ったリスクだ。
「ついでが多いっ!!」
伊吹の三度目の蹴りは踵ではなく、ふくらはぎに飛んでくる。
ここで一撃を食らってしまえば、俺がリタイアする羽目になる。
そうなってしまえば、暇を持て余してずっと前髪をいじっている思春期街道を行く高円寺の思う壺だ。
俺は咄嗟に右手で伊吹の足首を掴み何とか回避した。
「ふくらはぎは洒落にならないぞ。伊吹」
「ふんっっ!!」
伊吹は大きく鼻を鳴らして自分の待機列に戻っていった。
あいつ、やりたい放題だったな…。
「散々だったようだな。綾小路。」
…
…
…
…………なんで、また戻ってきてやがるですか?
今回の構図。
一之瀬帆波と龍園サイドはシリアスな展開で
綾小路サイドでは終始コミカルな展開で
バランス(?)を取っています。
そして、原作と違い、綾小路は人付き合いを通して、世間の常識や流行のアニメの知識がある程度補完されております。
さらに、完全に個人的なイマジナリーで堀北兄にはアニオタ設定(美少女系が好き)、橘先輩は結構腐っている設定が加わってます。
次回で体育祭編は終わりです。
前書きでも言ったけど、更新遅れてごぺんなさい。
ちなみにぼっちざろっく未履修です