綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話 作:ファウストの劫罰
時系列的には、2学期の体育祭が始まる前の放課後です。
涙ぐましい企業努力が見える猫とヤギのコラボ商品。
ハピハピハッピーハーッピーと聞こえないはずの曲が聞こえてくる。
この偏差値40くらいの曲を直訳すると幸せ幸せ幸せ…。
悪徳宗教や怪しい壺を売るセールスマンでもそこまで露骨に幸せをアピールしない。
押しつけがましい幸せは人を不幸にするだけだ。
なのにどうしてなのか。
こういう流行りに耐性を持ち、普段達観している俺ですら、思わず口ずさみそうになるほどに脳に焼き付いてしまっている有様だ。
このままでは、日本国民全員が幸せを連呼するやばい集団になる日も近い。
これを流行らせた元凶は、テロリストと言っても過言ではない。
今すぐにでも国家転覆罪で処されるべきだ。
…まあ、そのくらいの中毒性があるって話だ。
俺が一つ記憶を消せるなら、この記憶を真っ先に消す。
脳のメモリの無駄使いだ♠
「…なんだか、悲しくなってきました」
「そうだな。捨てられた子犬を見つけた時のような気分だ」
SNSの流行にこれでもかと言うほどに便乗した商品の売れ行きは芳しくないようだ。
店頭には、二足歩行で踊り出しそうな猫と唾を飛ばしてきそうなヤギが群れを成している。
ドンキもびっくりの90%OFFという破格な値段設定だが、向けられるのは通りすがりの客による痛い目だけ。
捨てられた子犬だけに優しい田舎のヤンキー風の青年も見て見ぬふりをする始末だ。
その横で客寄せしているアパレル店員の目は既に死んでいた。
あの店員がハッピーじゃないことだけは確かだろう。
「あれ、何かのコラボ商品でしょうか…?売れてないのは猫が立っているからでしょうか?」
「ポケモンの御三家をいじるのはやめてあげなさい。てか、知らないのか?絶賛流行中のネットミームだぞ」
「…何故でしょう。時代で取り残されているみたいで無性に悔しいです。20秒待ってください。こんな私だってZ世代の端くれ。ネットは使いこなせますっ!!」
「調べなくていい。あれはもう賞味期限が切れたんだ。」
スマホを取り出したひよりの手を急いで止める。
流行りというのは一過性のものだ。
タピオカを飲んでいる女子高生もいなくなり、トゥースや鬼瓦で笑う小学生もいなくなった。
今、ひよりが賞味期限が切れたあれを摂取してもお腹を壊すだけだ。
というか、ちぴちぴちゃぱちゃぱとか言ってるひよりの姿は絶対に見たくない。
「それで、清隆君。どうしますか?」
「…そうだな。まず、改善するならデザインだろう。あれではターゲットとしている顧客が分からない。いい大人がデカデカと猫とヤギの顔がプリントされたあれを着て外を歩けば、悪い意味で人気者になる。」
流行りに乗っかるまではまだ理解できるが、あそこまで全面に出す意味が分からない。
小学生はもっと戦隊ものとかアニメのイラストがプリントされたやつが好きだろうし、お洒落に気を遣い始める中学生以上がこれを着ることは無いだろう。
本格的に誰に向けて販売したのか分からない。
これを作ったファッションデザイナーの資格を今すぐ剝奪すべきだ。
「そうですね…。もし、将来の彼氏がデートの待ち合わせ場所であれを着てたら無言で帰ります」
ひよりも俺と同意見どころか、俺以上に刺があった。
時代の流行に疎いひよりだが、私服には拘りが見える。
同じ服を複数用意して、私服を選ぶ時間を省略する効率厨の存在を知った時、ひよりはどんな顔をするだろうな…。
まあ、俺はそこまで極端じゃないが、なるべくお洒落に時間と金をかけたくない主義。ひよりのファッションチェックにひっかる恐れは十分ある。
…このセンターパートとか、セットが楽だからっていう理由でやってるし…。
「あのデザインは正直きついよな。せめてルームウェアとかであれば、身内ウケくらいはするだろうし今よりは売れてたとは思うが。」
「ですね。もし、大元がジェラピケなら間違いなく完売してたと思います……。って、違いますよ。なんですか、この企画会議みたいな会話。」
「ひよりが始めたんだろう。」
「私が聞きたかったのは、あの捨てられた子犬のような服を清隆君は拾うのかどうかってことです」
…なるほど。あまりにも売れ行きがお先真っ暗すぎて、つい感情移入してしまい開発側に立っていたようだ。
俺は気を取り直して、商品に目を向ける。
二足歩行という禁忌を犯した猫と煽り性能高めのヤギ。
…猫で立っていいのはドラえもんだけだ。
ニャオハですら許されなかったのに、何でこの猫は堂々と踊っているんだ。
そして、ヤギの方はもはや意味が分からない。
子供が泣くぞ。こんな服。
「俺はまだ学校でハブられたくない。」
「そこは心配いりません。この学校の皆が清隆君を除け者にしても、私だけは側にいますから。」
「あのヤギを白昼堂々と着ていてもか?」
「…はい。首から上しか見えなくなってしまうことは非常に残念ですが、余裕です。」
ひよりにここまで言わせるとは…。
あの服、ドラクエの呪いの装備か何かか?
デバフ効果がえぐいんですが…。
…いや、ドラクエの呪いの装備は確か脱げなくなるんだったな。もしこの服に…。いや、やめておこう。考えるだけでも恐ろしい。
「俺はやめておく。ひよりはどうするんだ?」
酷評っぷりから答えは分かりきっているが、通過儀礼として聞いておく。
「うーん。そうですね…。雑巾だと思えば、もしかするとコスパはいいのかもしれないなと思ってます」
…彼女はこれを服とすら認めていないようだ。
この発言には聞き耳を立てていた死にかけのアパレル店員も流石の苦笑いである。
「ですが、こっちのエプロンならギリギリ似合う可能性が微粒子レベルで存在するかもしれません。」
目の前の特級呪物から壊滅的な可能性を見出すのに、流石の文学少女のひよりでも物理学的な比喩表現を用いることを余儀なくされた。
ひよりの指差す方を見ると、90%OFFでも数が一向に減らないTシャツやパーカーの隣にエプロンが並んでいた。
無生地のエプロンより遥かに安い値段で売られている。
「使用頻度も限られてますし、まぁ無しではないかなと…。」
前向きな意見を耳聡く聞きつけたアパレル店員の目の色が変わったのが気配で分かった。
目があったら勝負を仕掛けてくるポケモントレーナーの如く、ひよりとの距離を詰めていく。
「え?あっ。そ、その…」
初心者でも物怖じしない営業サラリーマンのような達者な口ぶりに、コミュ症を発揮したひよりになす術はなかった。
「こちらの商品、雑巾としても優秀でして〜…」
あ、ここ、アパレルショップじゃなくて雑貨屋だったんですね。
「…清隆君。どうしましょう。買ってしまいました…」
店員の勢いに負けたひよりは涙目で俺のもとに帰ってきた。
大丈夫?所持金半分になってない?
「捨てられた子犬を拾った気分はどうだ?」
「…生理用品を買った時の気分です」
「…」
男には分かりづらい例えやめてくれません?反応に困るでしょうが。
ひよりが片手に引っ提げているのは黒い袋に入った例のあれだ。
…確かに生理用品と同じ扱いされてるな、これ…。
いや、バス酔いのエチケット袋に見えなくもない。…酷くなってんな。
「中身見てもいいか?」
俺はひよりに断りを入れて、袋を受け取り中身を拝見する。
そこには、一匹のヤギがいた。猫であってほしかった…。
いや、雑巾として使うなら、猫よりヤギの方が罪悪感が少ない。そう考えれば、ヤギの方が正解なのか?
…まあ、猫でもヤギでも大差ないか。
俺の目的は中身を確認することじゃなく、ひよりの荷物をさりげなく持つことだ。
ひよりにこんな汚物を持たせておくわけにもいかないからな。
「もし今後、家庭科の授業や料理の試験なんかがあれば使えるかもな。」
「…清隆君。いじわるです。それが原因で私がぼっちになったらどうしてくれるんですか。」
え?今の時点で、もうかなりぼっち寄りの人間では?
…なんてことは口が裂けても言えなかった。
何故なら、俺もそっち側の人間だからだ。
友達と呼べる人間の少なさには自信があった。
「冗談だ。だが、部屋で使う分には誰の目に止まるわけじゃない。気にする必要はない。」
「ふふふふふふ…。清隆君。言質録りましたからね?」
唐突に悪役のような笑い方で俺を見てくるひより。
あれ、言質録るの「とる」ってその漢字で合ってましたっけ?
『部屋で使う分には誰の目に止まるわけじゃない。気にする必要はない』
ひよりが胸ポケットから取り出した携帯から、俺の声が再生される。
ストーカーとか盗撮犯のやり口ですやん…。
「今週の日曜日。私の部屋で待ってますね。」
日曜日は俺がひよりに手作りプリンを振る舞う約束をしていたはずだ。
…もしかして、俺がそれを着て作れってことか?
想像するだけで自分に嫌悪感がしてくる。
「ちょっと待て。作る過程に条件はなかったはずだよな?」
「何を言ってるんですか?私の目の前で作らないと、清隆君の手作りである証明ができないじゃないですか。」
それはそうだ。
この世にはバレンタインに手作りだと言い張って、市販のチョコを渡す女子もいるという。
本当に自分の手作りだと証明するには、目の前で作るしかない。
正直、自分の芯を持つひよりが、死にかけのアパレル店員にあっさり負けたのは気になっていた。
ひよりは元々、俺に着せるつもりでこれを購入したとしか思えない。
ヤギをチョイスしたのも、計画的ということか…。
…もしかして、俺、嫌われてる?
「ふふっ。隙を見せた方が悪いんですっ。」
…どうやらその心配はしなくてよさそうだ。
ひよりの俺に対しての好意は嫌というほど感じている。
上品振った笑顔の裏には悪戯心が見え隠れしていた。
…まあ、料理の際に、エプロンを付けるマナーなんてないと反撃できるが、今回くらいはひよりに乗せられても損はない。
そう思わせるような笑みだった。
俺は諦めて受け入れ、思考を切り替える。
「…話を戻すが、さっき言ってたジェラピケってのはなんだ?マーケティング戦略の一つか?」
さっきの会話に聞き慣れない横文字が混じっていた。
会話の流れを遮らないようにスルーしたがずっと引っかかっていた部分だ。
「清隆君、知らないんですか…?…ふふっ。これですよ、これっ」
ひよりが跳ねるように俺に身を寄せて携帯を見せてくる。
目に飛び込んできたのは、モコモコの生地に身を包んだひよりだった。
「これ、ヨッシーって名前じゃなかったか?」
確かこの緑の化け物は、空下が最強技で有名なキャラクターだったはず。
ジェラピケなんてアトラクションみたいな名前じゃなかったと記憶しているが…?
「あ、違いますよ。ジェラピケっていうのはこのルームウェアのブランドのことです。このヨッシーはコラボ商品の一つですね」
俺の勘違いに気付いたひよりは丁寧に訂正してくれる。
「なるほど…。確かに女子ウケしそうだな、これは。」
可愛いキャラクターをモチーフに、可愛い配色にモコモコの生地。
女子ウケの欲張りセットみたいな見た目だ。
「それは女子代表として断言できますね。ジェラピケが嫌いな女子はいません。」
俺も携帯を取りだして軽く調べる。
ハイブランドってわけじゃないので、学生でも手が届きやすいリーズナブルな価格。
これはプレゼントに向いているだろう。
今度、伊吹辺りに着せれば面白いことになりそうだ。
「もしかして、今、女子にはこれをプレゼントしておけば間違いないって思いましたか?」
「…思ってないが?」
「ふふっ。そうですかっ。」
完全に心の中を見透かさているな…。
「参考までに聞くんだが、ひよりはプレゼントにジェラピケを贈られた時、どう思うんだ」
「そうですね。まず大前提として、プレゼントとしてのジェラピケは65点だと思ってください。」
ひよりは俺の質問に澱みなく答える。
俺が聞いてくることすら理解していたようだ。
「随分と低いな。」
「平均点くらいですね。では、この65点の根拠を話します。」
「感覚の点数じゃなく根拠まであるのか。」
「ええ。まず前提として。私は"女友達"から貰うものとしては65点のプレゼントが満点の回答だと思ってます。高価すぎるものは受け取る側にも気遣いが必要ですし、かといって安価すぎるとプレゼント感がありません。ジェラピケはこの2つの懸念点をクリアした上で、可愛いと普段使いの両方を兼ね備えた優れものなんです。」
自分の誕生日に高価すぎるものを贈られたら、相手の誕生日にもそれ相応のものを贈る必要が出てくる。
考えるだけで億劫だ。
「ですが、好きな異性から貰うのでは、話が違います。安直に表現するなら『安牌に逃げたな。こいつ』です。女の子としては、私のために何を贈ろうか悩んでくれる時間が重要なポイントだったりするんです。」
…女子って生き物。あまりにも複雑すぎる。
例えるなら、新宿駅くらい複雑な構造。その上、正解の路線がない可能性まであるんだから、田舎出身の俺はもうお手上げだ。
「あ、わざわざ言う事でもないですが、ちょっと仲良いくらいの男子が女の子にジェラピケに限らず衣類とかアクセサリー系を贈ったら、次の日、学校で噂になってるので注意ですよ?」
おいおい、地獄生きの路線まであるのかよ。
トロッコアドベンチャーじゃあるまいし…。
そういえば、似たような話をネットで見たことがある。
キャバ嬢やガールズバーの店員に客が贈り物をした時、8割はゴミ箱に行くって記事を。
女子にとって、プレゼントというのは、中身ではなく相手が肝心ということが何度も強調されていた。
「要約すると、男子が女子にジェラピケは贈ってはいけないってことか。」
「例外はありますけどね。例えば、彼氏彼女の関係で何でもない日に急に『いつもありがとう』なんて言われてジェラピケ渡されたら、大体の女の子はキュンキュンすると思いますよ」
それ、イケメンしか許されないやつや……。
少女漫画に出てくる美男子みたいな真似、俺には出来る気がしなかった。
「参考になりました?」
「ああ。おかげで余計な地雷を踏まずに済みそうだ」
「ふふ。気にしすぎない方がいいですよ?さっきも言いましたが例外はありますから。」
それが余計に難しいんだよな。
「私は、清隆君から貰えるものなら何だって心臓が飛び出るくらい嬉しいですよ」
「…そうか」
「はいっ。」
胸を張って、自分は例外ですよというひより。
返事に困って淡白な返事しかできなくても満面の笑みで頷いてくれる。
俺が何を贈ったって、本当にひよりは心の底から喜んでくれると思う。
だからこそ、比喩なしに本当に心臓が飛び出すくらいのものを贈りたくなった。
「というか、書店に行くんだろう?もうこれ以上寄り道してると店が閉まるぞ。」
俺達が書店に向かっている理由は図書室に置いてあった例の本。
あれが本当に商品じゃないことを確認するためだ。
とにかく物を捨てろと繰り返す整理術の本や前書きで読者の不安を煽るだけの自己啓発本なんかが商品化されているんだ。
あの意味の分からん本が100%商品化されていないとは言い切れない。
もし、図書委員に聞いて、俺たちの下手な推理だったと分かった時には目も当てられなくなる。
きっと羞恥心で当分の間図書室に行けなくなってしまうだろう。
それだけは絶対に避けなければならない。
…っていうか、物を捨てろっていう本こそ一番捨てるべきじゃないか?
「はい。あ、その前に…」
ひよりの遠慮がちな声と共に、俺が手に持ったままの袋にそーっと手が伸びてくる。
俺がスムーズな動きで袋を反対側の手に移動させると、ワンテンポ遅れたひよりの手が俺の手に当たった。
「なんだ?手でも繋ぎたいのか?」
わざとらしく俺がからかうとひよりは拗ねた子供のように俺を見てくる。
『分かっているくせに』と顔に書いてあった。
「清隆君のかっこつけ」
俺があえて何も言わずにひよりの荷物を持ったことをひよりは黙って許してくれる。そんな風に思っていた。
だが、ひよりをからかった俺に待っていたのはそんな容赦のない言葉。
かっこつけていることを隠している俺を刺激するような言葉のチョイスだ。
ここで、誤魔化せばダメージが大きくなる。もう認めるしかなかった。
「…悪かったな。慣れてないんだよ。こういうの。」
「ふふ。なら、私が手取り足取り教えましょうか?」
エロ親父みたいな言い回しだな、おい。
ニヤニヤしやがって…。
「まるで、自分は慣れているみたいな口ぶりだな」
「うーんそれは少し違いますね。慣れているというか、簡単なことですから。」
「簡単なこと?」
「素直に言えばいいんですよ。『荷物持つよ』だとか『俺が車道側歩くよ』だとか」
まさかの申告制?報告義務のある上司と部下じゃあるまいし…。
「それを断る女の子なんていないんですから、堂々と言えばいいんです」
「だが、それを言うのが小恥ずかしいと感じる男もいるんじゃないか?」
「ふふっ。こうやって後から指摘されるのとどちらが恥ずかしいですか?」
「…なるほどな。」
俺がスマートだと思っていた行動は、全くスマートじゃなかった。
自分がシャイであると宣言しているようなものだ。
最初から素直に言うことを小恥ずかしいこととさえ思わない。もしくは思わせない。
それくらいの意思を持っていることが本当のスマートなんだろう。
かっこつけることを隠さない高円寺とかはそれが自然に出来ている。まあ、あいつは逆に痛くなってるけど…。
「無理しなくていいんですよ?清隆君はかっこつけなくてもかっこいいんですから」
俺に妄信的なひよりの意見を100%鵜吞みにするわけじゃない。
だけど、俺はまた一つレベルがあがったような気がした。
俺が考える女子と実際の女子にはまだズレがある。それを改めて認識できた。
「普段可愛い子ぶっているひよりにだけは言われたくないな」
ひよりの話は参考になった。
だが、その話とは別に、俺だけ言われっぱなしなのは気に入らない。
天然女子に対して、タブーに近い反撃を俺は繰り出す。
「…え?それってもしかして、私が可愛いってことですか?」
「いや、元から可愛いのに無理して可愛い子ぶる必要ないだろって話だ。」
「えへへへ…、清隆君に可愛いって言ってもらえた~。」
ひよりは今にもとろけそうな顔を照れるように両手で隠す。
…こいつ、無敵すぎないか?
(しかも、その顔も仕草も可愛いし。)
この顔、写真に収めといてやろうかと携帯を取り出したところで気付く。
俺は時刻が表示された画面をひよりのとろけた顔に押し付けるように見せる。
「おいひより。もうほんとに時間がないぞ」
「…え?あーっ!!。もうっ、間に合わなかったら清隆君のせいですからねっ」
絶対に俺のせいではないが、もうその反論の時間も惜しい。
俺は黙って小走りするひよりの後ろを追いかけた。
「あと30分と少しで、この量から、あれ見つけるの無理じゃないか?」
「清隆君っ。諦めたら試合終了ですよ。ネバーギブアップですっ」
目の前に陳列されている本の山と時間を鑑みて、半分諦めた俺にひよりは名言を交えて返してくる。
なんか、テンション高いな…。本の山を前にハイになっているのか?
いや、ひよりのテンションが高くなったのは俺が可愛いと言った時からだったか。
「もしかして、何か困ってたりする?」
俺の思考を遮ってきた声に振り返ると、見知った顔があった。
明るい髪に大きめの向日葵のアクセサリーが映えている先輩といえば一人しかいない。
あの時の屋上とは違い元気そうだ。
「お久しぶりです。朝比奈先輩」
「こんばんわ、綾小路君。それで、そっちは……」
「…」
「彼女は1年Cクラスの椎名ひよりです。」
本を探すのに夢中になって朝比奈先輩の声が聞こえていないひよりに変わって俺が軽く紹介しておく。
ひよりは本棚の本を指で追い、例の本を絶対に見逃さないように丁寧に探している。
「…変わった子だね」
「変わった子なんです」
「それで、二人は何をしているの?ただのデートには見えないけど…」
ここで、俺達が探偵ごっこをやっていると説明することは容易い。
彼女からはお人好しの一之瀬帆波と同じ匂いがする。
恐らく、解決に向けて無償で手助けしてくれるだろう。
だが、別に火傷するリスクを払ってまで、焦って解決させる必要はない。
「先輩にはそう見えなかったかもしれませんが、れっきとしたデートですよ」
「…へぇ~。そうなんだ。綾小路君、やるねぇ」
「もしかして、疑ってますか?」
「それは、もう一つの方の答えを聞いてから判断しようかな」
朝比奈先輩には俺達がカップルにはどうしても見えないようだ。
まあ、ひよりは無言でずっと作業してるし、会話一つないから無理もないか。
「何をしてるかと聞かれたら、本を探してるとしか言えないですね」
「なんて言う名前の本?」
「決まってないです。いい本が見つかればいいなくらいの話です。ですから、困っているわけではないです」
「そっか。ならいいけど。…私、この店が閉まるまではここにいるつもりだから、手を貸して欲しくなったらいつでも言ってね。」
「お気遣いありがとうございます。その時はよろしくお願いします。」
朝比奈先輩は優しく頷きながら、去っていく。
ほんと、南雲の参謀とは思えない綺麗さだ。
「…妙ですね。あの先輩。」
「やっぱり聞いていたのか。」
「気付いていたんですか。」
「一人で読書の世界にいる時ならまだしも、俺が隣にいる状況でひよりが一つのことに没頭する訳がないからな」
「ふふっ。よくご存知で。でも、今の言い回し惚気みたいになってますよ」
…確かにな。だが、それは他人事として捉えたらの話だ。
「仮にそう聞こえたとしても、ひよりが言う事じゃない。」
「知ってます。けど、嬉しくて。つい」
ひよりはCクラスにいるのが不自然に移るほど優しい。
龍園へに不満やクラス内から置いてきぼりの疎外感も感じていることことだろう。
だが、それは絶対に表に出さないのがひよりだ。
そんなひよりが俺への好意だけは隠すつもりがない。
その状況に少し優越感を感じている俺がいる。
「それで、どこが妙だったんだ?」
「質問の内容ですね。本屋にいる人間に何をしていると聞くのはおかしいです。あの人は最初から、本屋にいる人間は本を探しに来ているという大前提が抜けていたんです。」
服屋にいる人間やレストランにいる人間に『何をしてるの?』と聞くのがお門違いであることと同じだ。
あの場合、『何を探しているの』と聞くのが自然。
まあそれでも、アパレル店員のお節介と変わらないが。
「他にもありそうな顔だな」
「ええ。最後の去り際の一言ですね。この店に最後までいるからという話。釘を刺されているように感じました。」
「俺もひよりと全く同じ意見だ。あの人は例の本に何らかの形で関係している可能性が高いと思う」
この書店についたとき、朝比奈先輩は入り口近くの雑誌を見ていた。
俺達が書店に来ると予想して、張っていた可能性も視野に入れて捜査を進めるべきだ。
「ひより、この本の山を闇雲に探すよりもいい方法があると思わないか?」
「奇遇ですね。私も同じことを思っていました。」
せっかく、鴨が葱を背負って来たのだ。
それを利用しない手はない。
つ づ く
俺 ハピハピハッピーハーッピー(よう実新刊楽しみ!!2/24はやくこい!!)
レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ(電子書籍 新刊3/4だよ)
電子書籍で集めている俺 爆散………。
よう実足りてないけど、ネタバレ踏みたくないし……・
俺 カタカタカタカタカタカタ(無言で二次小説を書く音)
俺 カタカタカッターン(よし、これで完了やっ!!よう実足りてない時は自分で書けばいいんやっ!!)
みたいな感じで、勢いだけで書いた作品です。
流し読みしてください………。
一応、このサイドストーリーは次で終わりの予定です。
てか、いっつも、電子書籍と本の発売一緒だったじゃんかよおおおおおおおおおおおお