綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話   作:ファウストの劫罰

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#5 最悪の不良品

 

俺は再度携帯を確認する。

今日の昼前に届いたメッセージは何度確認しても変わらない。

 

「担任の茶柱です。今日の放課後、職員室に来るように。」

俺に呼び出される心当たりは全くなかった。

 

俺は初めて訪れる職員室を前に緊張しながら、ノックしてドアを開ける。

「すみません。茶柱先生いらっしゃいますか?」

 

近くに居た女性教諭が俺に気付く。

セミロングでウェーヴが掛かった容姿が特徴的で、今どきの大人の女性が第一印象だ。

 

「え、サエちゃん?あれ、さっきまで居たからすぐに戻ってくると思うけど」

「そうですか。じゃあ、廊下で待つことにします。」

そう言って職員室を出た。すぐに戻ってくるのであれば、ここで待ってればそのうち鉢合わせるだろう。

 

だが、何を思ったのかさっきの先生もついてくるように出てきた。

俺が用件を問いかける前に話し始める。

 

「私はBクラス担任の星ノ宮知恵って言うの。佐枝とは高校の時からの親友で、佐枝ちゃんって呼び合う仲なの〜」

聞いてもないのにベラベラと使い道のなさそうな情報喋っていく。

 

「で、佐枝ちゃんには何で呼び出されたの?」

「さあ、俺にもさっぱり。。」

「分かってないんだ。ふーん。君の名前は?」

「綾小路ですけど。」

「綾小路くんかぁ〜。なんて言うか、かなりかっこいいじゃない?ここだけの話。モテるでしょ?」

 

やけに軽いノリの先生だな。。

茶柱先生と同い年らしいが、全く違うタイプだ。

「もう彼女はできた?」

「いえ、まだです。」

「ふーん。意外ねぇ〜。私が同じクラスにいたら絶対放って置かないのに〜」

 

そう言って、俺の頬に手を伸ばしてくる。

俺はそれを反射的に掴んでしまう。

「え?」

星ノ宮先生は驚いたような声をあげる。

「あ、すみません。目の前に手が来たので、掴んでしまいました」

「いや、それはいいんだけど〜。よく掴めたね〜。油断してるように見えたのに〜」

 

って言うか何をしようとしてたんですかと視線で問いかける。

「もう、軽く揶揄おうとしただけだって。もう何もしないから離して〜」

星ノ宮先生は大きく手を振る。あざとい仕草だな。。

掴んでいて振り回されるのも面倒なので、俺は素直に解放する。

 

「綾小路くんって、大胆だね。私に手を出したら泥沼行きだよ?」

 

「何をやってるんだ。星ノ宮」

茶柱先生は手に持っていたクリップボードで、星ノ宮先生の頭を叩き、軽快な音が鳴る。

 

「いった〜い。何するの!」

「うちの生徒に悪絡みしてるからだろ」

「サエちゃんに会いに来たって言うから不在の間相手にしてただけじゃない!」

 

茶柱先生はため息をついて

「綾小路。こいつは放っておいていい。少し話がある。ここじゃ、なんだから少し移動するぞ。」

こいつて。ほんとに親友なんだろうか。。

茶柱先生に言われるがままついていく。2人で。

 

「お前は着いてくるな。」

「硬いこと言わないでよ〜。サエちゃんが生徒を呼び出すなんて初めてだから、気になるじゃない〜」

「お前には関係ない。着いてくるな」

 

茶柱先生が強く拒否しても、星ノ宮先生は引く様子が無かった。

そこに、薄ピンク色の女子生徒がこちらに近付いてきて、星ノ宮先生に話し掛ける。

 

「星ノ宮先生。少し、お時間よろしいでしょうか。生徒会の件で話があります。」

「えーーーー。そりゃないよ。これから、綾小路くんとデートだったのに〜」

その言葉を聞いたその女子生徒と一瞬目が合ったが、すぐに逸らされ、星ノ宮先生の方に向き直る。

 

俺と茶柱先生の話は聞きたがる癖に、自分のクラスの生徒にはこの対応。

この人が担任じゃなくて良かったな…。

 

「お前にも客だ。早く仕事しろ」

それだけ吐き捨てて、足早に茶柱先生は歩いていく。

俺はその後をついていくようにしてこの場を去った。

 

茶柱先生が連れてきたのは特別棟の屋上だった。

あまり、人気の少ない特別棟の屋上は物寂しさを思わせるほどしーんとしていた。無論、人影も俺と茶柱先生以外にない。

 

「それで、俺に何の用ですか?」

「単刀直入に聞く。お前、今日何故、水泳の授業を見学した?」

 それを言われて、俺は水泳をサボった事を思い出した。

呼び出された理由はそれか?

「今日は単純に体調が優れなかった。それだけです」

「私の聞いた話によると、綾小路は体が丈夫に出来ていると聞いていたんだがな。」

 

どこから出た話だそれは。。

確かに俺は体調不良を人生で感じたことは1度もないが。

「人伝で聞いた話に信憑性はありませんよ。それに俺だって人間です。体調くらいたまには崩します。」

「体調不良にしては、星ノ宮に対して、反射的に体を動かすくらいの元気はあるそうだな?」

 

どうやら、見られていたらしい。いや、むしろ、呼び出しといて、職員室にいなかったのは俺が星ノ宮先生の絡みを見て、体調不良かどうかを確かめるためか?さすがに考えすぎか。

 

「水泳の時は体調が万全とは言えませんでしたが、今はだいぶ落ち着いてきましたからね。」

いくらでも言い訳しようがある話題だ。これ以上続けても得られるものは無いだろう。

 

俺以外にも見学者はいたし、その中には勿論サボりもいた。かく言う俺もその1人だが、俺だけが呼び出される理由には出来ない。

 

「まあその件はいいだろう。」

「では、他に何が?」

「昨日の放課後。堀北が私の元にやってきた。どういう要件だったか分かるか?」

「さあ、皆目見当もつきません」

俺は表情を変えずにそう言う。俺の表情から汲み取れる情報を無いことが分かったのか茶柱先生は続ける。

 

「堀北は10万ポイントに対して懐疑的だったようでいくつか質問を尋ねてきた。」

「そうですか。茶柱先生はそれをはぐらかして答えたんでしょう?」

間髪入れずにそう返す。

 

「お前は面白いな。綾小路。どうしてそう思う。」

「茶柱先生は最初の説明の際に、ポイントを貯めても得は無い。良い学生ライフを送ってくれ。など、生徒の購買意欲を助長するかのような発言をしましたよね。」

「私の言葉をどう受け取るのかは受け取り手次第だがな」

茶柱先生は俺の言葉を一部肯定するようにそう返す。

 

「他クラスの生徒に少し聞いたところ、他クラスの担任との説明とは少し差異があることを確認しました。」

「椎名か。まあ、所詮は教師も人間だ。余分な一言が出てしまう事も時にはある。全てがマニュアル化されているわけではないからな。そこに差が生まれるのは当然のことだ」

 

俺は茶柱先生から2つ学ぶことが出来た。

 

1つは生徒間の情報を先生がある程度把握してるだろう事。

椎名と俺が会っていたことを知っている生徒は少ないはずだからな。

 

2つ目は茶柱先生が他の担任とは違うこと。しかもそれを自覚してやっているということだ。

さっき、他の生徒から聞いたと言ったが、俺は椎名とそんな話はしたことは無い。

俺は説明する茶柱先生が何か隠していると感じていたから鎌をかけただけに過ぎない。

 

「茶柱先生は何か目的があってそういう言い回しをしている。俺はそう感じられずにはいられないんです。ポイントで買えないものは無いと言いつつ、ポイントを貯めても得が無いと言うのはあまりに矛盾しますしね。」

 

茶柱先生は僅かにだが、驚いたような表情をみせる。

「なるほどな。私は確信したよ。堀北を焚き付けたのはやはり、お前だとな」

「なんの事かさっぱりです。」

「いや、いい。これで私の話は終わりだ。帰っていいぞ」

 

茶柱先生が話を切り上げたので、俺は素直に屋上を後にする。

茶柱先生が、堀北を焚き付けたのが俺だと感じ取ったように、俺もまた茶柱先生の目的をうっすらと感じ取れた。

間違いなく俺たちのクラスはこの先、デカい問題にぶち当たるだろう。

 

それだけは確かだが、それが何かは未だに不明瞭なままだ。

 

―――――――――――――――――――――――

 

楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、気付けば入学して1ヶ月も目前である。

 

「もう月末だしな。小テストを今日は受けてもらう」

月末であることと小テストがあることが俺には全く結び付かなかった。

 

「このテストは成績表には反映されない。あくまで今後の参考用だ」

 

茶柱先生から説明を受けていく。

成績表″には″か。つまり、成績表以外の何かには反映されてしまう恐れがあるわけだ。いや、考えすぎか。。

 

生徒達のブーイングは悲しいかな、小テストは茶柱先生の合図で否応無しに始まる。

 

配られた小テストに目を通す。主要五科目の問題が各4問の合計20問。

ほとんどの問題は拍子抜けするほど簡単だ。

 

だけど、ラスト3問だけは桁違いに難易度があがった。

複雑な数式を必要とする問題もあり、高校一年生の範囲を超えた問題に見える。

この成績に反映しないテストの意図とは何なのだろうか。

 

須藤は早々に諦めたのか、既に眠りこけていた。

 

――――――――――――――――――――――――

 

5月最初の授業の開始を告げるチャイムが鳴る

茶柱先生はチャイムと同時に教室に入ってきた。その顔はいつもより険しい。

 

「これより、朝のホームルームを始める。が、その前に気になることはあるか?気になることがあるなら聞いた方がいいぞ」

 

生徒達からの質問があることを確信しているような口振りだった。

本堂と呼ばれる生徒が発言する。

 

「今朝、ポイントが振り込まれていません。どうなってるんでしょうか」

「本堂。前にも言っただろう?ポイントは毎月1日に振り込まれる。今日も問題なく振り込まれたことは確認している」

「え、でも。。振り込まれていなかったよな?」

本堂は池や山内達と顔を見合わせる。

 

「お前達は本当に愚かな生徒たちだな。」

普段とは違う不気味な気配をまとった茶柱先生は鋭い眼光でそう言い放つ。

 

「お、愚か?っすか?」

明らかに茶柱先生の空気が変わったことに動揺する本堂。その他の生徒も大半は同じようだ。

 

「座れ。本堂。2度は言わん。」

聞いたことがない厳しい口調の茶柱先生に本堂は腰が引け、自然と椅子に収まった。

 

「ポイントは振り込まれた。これは間違いない。このクラスだけ忘れられたという可能性も勿論ない。」

 

その言葉を聞いて俺は1つの可能性にたどり着く。

振り込まれているのにポイントは0。それはもう答えを言っているようなものだ。

生徒達は再び突きつけられた茶柱先生の事実に困惑している。

 

「ははは。なるほどねぇ。そういうことだね。ティーチャー。理解出来たよ。この謎解きがね」

高円寺は声高らかに笑う。そして、足を机に乗せ、偉そうな態度で本堂を指指す。

 

「簡単な事さ。私たち、Dクラスには1ポイントも支給されなかった。ということだよ」

「はぁ?なんでだよ。毎月10万ポイントが振り込まれるはずだろ?」

「私はそんな話を聞いた覚えはないねぇ〜。そうだろ?」

ニヤニヤとした笑みで流れるように茶柱先生をも指指す。

 

「態度には難ありだが、高円寺の言う通りだ。全く、これだけヒント与えてやって気付いたのが数人とは、嘆かわしい事だな」

 

「先生。質問いいですか?」

平田は挙手する。自分のポイントのためではなく、不安に包まれるクラスメイト達の心配しての挙手だ。

 

「振り込まれなかった理由を教えてください。出ないと僕達は納得できません。」

「遅刻欠席98回。授業中の私語や携帯を触った回数391回。一月で随分とやらかしたようだ。この学校ではクラスの成績がポイントに反映される。お前達は振り込まれるはずだった10万ポイントを全て吐き出した。それだけだ」

 

俺は教室の上についていた監視カメラを見る。

これだけ詳細な数字を出そうとすればそれだけ監視員の数も相当必要だろう。

噓でないのなら、この学校の監視体制は、形だけでは無さそうだ。

人件費ヤバそ~。

 

「入学式の時に説明したはずだ。この学校は実力で生徒を測るとな。お前たちが今回受けた評価は0。それだけだ」

「茶柱先生。僕らはそんな話、説明を受けた覚えはありません。」

 

平田が力のない抵抗を見せる。

クラスのリーダーも大変だな。平田が対抗した末に折れれば、平田を信用しているクラスメイトも諦めるしかなくなるだろう。

 

「なんだ平田。お前らは説明されなきゃ理解できないのか?」

「振り込まれるポイントが減る話を説明されていたら、私語や遅刻は減ったはずです。」

「不思議なことを言うもんだな。確かに私は振り込まれるポイントがどのようなルールで決められているかは話していない。しかし、遅刻や授業中の私語をしないなんて言うまでもないことだろう?」

「そ、それは、、」

「遅刻や私語をしない。そんなのは当たり前のことで、それを当たり前にやっていれば少なくともポイントは0にはならなかった。全てお前らの自己責任だ。」

 

茶柱先生の正論を前に平田の抵抗は虚しく散る。

 

「高校一年に上がったばかりのお前らがなんの制限もなく毎月10万ポイント使わせてもらえると本気で思っていたのか?日本政府が作った優秀な人材教育を目的としたこの学校で?ありえないだろう。」

「で、ではせめてポイント増減の詳細を教えてください」

「それは無理な相談だな。人事考課。つまり、詳細な査定の内容は教えられないことになっている。だが、それでは可哀想だな。1つだけいい事を教えてやろう。」

 

茶柱先生は今日初めての笑みを見せる。

だが、これはフラグだ。この流れで都合のいい話なんて早々出はしない。

平田は目の前に糸を垂らされたと勘違いしたのか、茶柱先生の顔を真剣に見る。

彼はこの状況を打破する糸口を誰より欲しているのだ。

 

「遅刻や私語を含め、仮に今月マイナス0にしてもポイントは減らないが増えることは無い。つまり、裏を返せばどれだけ遅刻をしようが、欠席しようが関係ないということだ。どうだ?覚えておいて損は無いぞ?」

「っ……」

 

平田の表情は一層暗くなる。

にしても茶柱先生も意地が悪いな。

そんなことを言えば、改善する意欲がなくなってしまうだけだ。平田の嫌がることをよく心得ている。

 

話の途中だが、ホームルームの終了を告げるチャイムがなる。

 

「無駄話が過ぎたな。そろそろ本題に移ろう。」

茶柱先生は手に持っていた紙を広げ、黒板に張り付ける。

 

Aクラス 940ポイント

Bクラス 650ポイント

Cクラス 490ポイント

D クラス 0ポイント

 

半信半疑になりながらも堀北はそれを正しく解釈する。

「これは、各クラスの成績ということ?」

 

堀北の独り言を無視していると今度は問いかけてくる。

「ねぇ、おかしいと思わない?」

「ああ、綺麗すぎるな。」

 

「なんでだよ!なんで他のクラスはポイントが残ってんだよ!」

池はなりふり構わず大きな声で叫ぶ。

 

「言っておくが不正は一切していない。全てのクラスでは同じルールで採点された。それでこれだけ差がついた。それだけが事実だ。」

「何故、これまでクラスのポイントに差があるんですか?」

「お前らもそろそろ理解してきたか?何故お前たちがDクラスに選ばれたのか」

「え、クラスって適当に割り振られるもんだよな?」「うん。そうなんじゃないの?」

口々にそんな言葉が飛び交う。

 

「この学校では優秀生徒はAクラスへ。ダメな生徒はDクラスへと配属される仕組みになっている。つまりここは、落ちこぼれが集まる最後の砦。つまりお前らは最悪の不良品ということだ。不良品らしい結果だな。」

堀北の表情が強張っていく。クラス分けの理由がショックだったためだろう。

 

「この学校は0ポイントでも生活出来るようになっている。安心しろ。死にはしない。時間もないから、次の話に行く。」

 

茶柱先生は紙をもう1枚、黒板に貼り付ける。

そこにはクラス全員の名前と横に数字がズラリと並んでいた。

 

「馬鹿でも分かるだろう?この数字の意味くらいは?」

 

そこには先日やった小テストの結果が並んでいた。

須藤の14点から始まり、酷い有様だった。堀北は上位に名を連ねている。

 

「良かったな。あの小テストが本番であったら、もう7人は退学していたことになる」

「た、退学?」

「なんだ。説明していなかったか。この学校では定期テストで赤点を取ったものは例外なく退学になる決まりになっている。今回のテストで言えば32点以下全員退学ということだ」

 

「「え?はぁぁぁぁ??」」

驚愕の声を上げたのは該当する7人達。台頭して池が叫ぶ。

 

「待ってくださいよ!退学とか冗談じゃないですよ」

「学校のルールだ。私に言うな。」

「ティーチャーの言う通り、このクラスは愚か者が多いようだ」

「は?高円寺。どうせ、お前だって赤点組だろ!?」

「君の目は節穴かい?よく見たまえ。」

「あれ、ねぇぞ。高円寺の名前が」

 

池の視線は張り出された紙を下位から順に上に向かっていく。同率首位の位置に高円寺の名前はあった。

 

「嘘だろ。。絶対須藤と同じバカキャラだと思っていたのに。。」

高円寺は満足したのか、池のリアクションには反応しない。

 

「それから、もう1つ付け加えおく。国の管理下にあるこの学校は高い進学率と就職率を誇っている。それは周知の事実だ。そして、好きな所に行けると思っていることだろう。」

「たが、そんな上手い話はない。その話が適用されるのはAクラスのみ。それ以下のクラスで、将来の望みを叶えたかったものは苦汁を飲むだろう。」

またしても、学校の仕組みについて新しい情報が明かされる。

 

「そんな!無茶苦茶だ!そんな話!」

抗議に回ったのは幸村という、テストでは同率首位の生徒だ。

 

「みっともないねぇ。男が慌てふためく姿ほど、惨めなものは無い」

「……お前はDクラスだったことに不服は無いのかよ!」

「不服?質問の意図が分からないねぇ」

「学校側からレベルの低い落ちこぼれだと認定されて、その上、進学や就職の保証もないと言われたんだぞ!」

「ふ、実にナンセンス。愚の骨頂だねぇ〜」

高円寺は幸村の顔も見ず、爪を研ぎはじめる。

 

「学校側の評価なんて1つも興味が無い。私は誰より私を評価し、尊敬し、尊重し、偉大なる人間だと自負している。それに、私の学校側に進学、就職を世話してもらおうなんて微塵も思っていないのでね。既に高円寺コンツェルンの跡を継ぐことは決まっている。DでもAでも些細なことなのだよ」

幸村は言葉失い、腰を下ろすしか無かった。

 

「浮かれていた気分は払拭されただろう?お前らの置かれた過酷な状況も理解できたはずだ。中間テストまで後3週間。じっくりと熟考し、退学を回避してくれ。お前達が赤点を取らずに乗り切る方法があると確信している。」

それだけ、言い残して茶柱先生は教室を後にした。

 

――――――――――――――――――――――――

 

茶柱先生が去った後の休み時間。

自分が落ちこぼれのDクラスに配属されたことに憤懣を漏らす生徒。

ポイントが底を尽きたと嘆く生徒。教室は酷く荒れていた。

 

平田大先生はそれを看過しない。

 

「混乱する気持ちは分かるけどみんな落ち着こう。」

「落ち着くってなんだよ。お前は悔しくないのか?落ちこぼれだって言われて!」

「気持ちは分かるよ。でも、今愚痴を言ったってどうしようもないだろう?皆で力を合わせて見返すしかないよ」

 

平田の言葉でも幸村の怒りは収まらない。

 

「幸村くん。落ち着いて。先生はきっと私たちを奮い立たせるために敢えて厳しく言ったんじゃないかな」

櫛田がそこに介入する。

幸村が握りしめていた拳に手を添え宥めるような素振りまで見せる。

男心を擽るのが上手いな、ほんと。

 

「まだ、入学して1ヶ月だよ。平田くんの言う通り、みんなでこれから頑張ればいいじゃない?私、言ってること間違ってる?」

 

怒り心頭の幸村の仲裁に入る櫛田。

彼女の献身的な態度はすぐに味方を作った。

それは身勝手な発言をした幸村の敵でもある。

 

「悪い。冷静じゃなかった」

 

幸村はそう謝り、ひとまずは落ち着きを取り戻す。

櫛田と平田の存在で、教室は混乱で崩壊するのをぎりぎり繋ぎ止めている。

 

段々と冷静を取り始めたところで、平田は今後の方針を提案する。

 

「今月、僕達は0ポイントだった。卒業までそうやって過ごすわけにもいかないよね?」

「これからも0ポイントなんて絶対嫌!」

軽井沢はそれに便乗するように言う。

 

「もちろんだよ。だからまず、遅刻欠席、授業を受ける態度を改めるんだ。僕達はスタートラインにも立てていない。まずはそこからだよ。」

「あ?なんでお前にそんなこと指示されなきゃいけないんだ。どうせ増えないなら一緒だろ」

教室の生徒大半は既に、平田と櫛田の皆で力を合わせようの方針に賛成している。そこで、理論の通ってない反論をするのが須藤という男だ。

 

「うん。でも、ポイントが増える機会が来た時に、それは必ず足枷になる。須藤くんも協力してくれないかな?」

「ポイントの増やし方見つけてから言えよ。やるだけ無駄だ」

「須藤君が憎くて言ったわけじゃないんだ。不快にさせたなら謝りたい」

平田は乱暴な物言いの須藤にも丁寧に頭を下げた。

 

平田大先生に理不尽に頭を下げさせた罪は重い。

女子一同からは冷ややかな視線が須藤に飛ぶ。 

 

「お前が何かやるのは勝手だが、俺を巻き込むな。分かったな」

 

いたたまれなくなったのか、須藤は教室を出ていく。

当然、皆の須藤への不平不満は爆発する。

行く宛ての無かった怒りの矛先が須藤に向いている。

それもまた平田と櫛田が宥めるように動く。

 

再三思う。大変だな。クラスのリーダーは。

 

そんな一幕を見届けて、俺は堀北に声をかけた。

 

「お前は進学組か?」

「どうして?」

「Dクラスである理由を知った時にショックそうだったからな」

「そんなの大なり小なり、皆感じていることでしょう?入学当初ならまだしもこの段階に言われるのは納得できない」

「確かにな。俺はAやらDだの言う前にポイントを確保したいところだ。」

「ポイントなんてただの副産物に過ぎないわ。」

副産物か。そうとも決め付けられない状況なんだけどな。

 

俺と堀北が話してるのを見てか、平田が此方に寄ってくる。

 

「綾小路くん。それに堀北さん。ちょっといいかな。放課後、ポイントを増やすためにはどうすればいいか話し合いたいんだ。二人にも参加して欲しい。」

「いいぞ。後でメッセージで時間の詳細を教えてくれ」

 

俺は二つ返事で了承する。

平田を見てる女子生徒の視線が多い分、ここで断るのは心証に大きく影響する。

堀北は平田の提案に対して答える気は無いようで無言を貫いている。

 

「堀北も参加するようだ。平田ありがとうな。クラスのまとめ役をかって出てくれて。助かってる」

「ちょっと、あなた…」

「堀北。無視することは無し。これは決めたルールだろ?無言は肯定と一緒だ。今日は付き合ってもらう」

 

俺は堀北の反論を遮るように言葉を重ねた。

このルールは俺と堀北間だけのものじゃない。

堀北が無視する相手は攻撃していいという概念を持ってる以上自分にもそれは適用されるべきだ。

堀北は俺が言わんとしていることを察したのか押し黙る。

 

「ありがとう綾小路くん。最初は全員に声をかけても多分みんな話半分で話し合いにならないと思う。だから、冷静な話し合いが出来そうな人を集めてやるつもりだから、そんなに大人数にはならないよ。」

 

堀北に対しての配慮か、平田はそんな風に伝える。

堀北は不満を露わにしていたが、断りはしなかった。

 

「ああ、分かった。じゃあ、放課後よろしく頼む」

 

平田にそう答えると平田はこの場を去っていった。

正直、この状況だけを見ると具体的な案は出ることは望めなそうだ。

 

こうして、放課後は堀北と共に平田主催の話し合いの場に参加することになった。

 

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