綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話   作:ファウストの劫罰

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#59 毒を以て毒を制す

 

「Today's class,I will have a free talk with the seat next to me.本日の授業は隣の席の人とのフリートークです。簡単な会話で構いまセーン。まずはslowly slowlyでok。時間は10min。let's start!!!」

 

外国人特有の少しズレたイントネーション。

拙い日本語と流暢な英語が入り混じり、そのアンバランスさが独特な味を出している。

今日に限ってALTのコミュニケーションか…。

鬱憤を晴らすいい機会だと言わんばかりに鈴音は、すぐに俺のほうに椅子ごと向けてきた。

…気が乗らないな。

 

「Elementary.Look people in the eye when conversing with them. Didn't you learn it in school?」

(初歩的なことよ。会話する時は目を合わせるって習わなかった?)

「Here’s looking at you, kid "kp"」

(君の瞳に乾杯)

「…あなたふざけてるの?KPって何よ。」

俺の遊び心に日本語で鋭い指摘をしてくる。

KAN PAIの頭文字をとってKP。この高次元な単語を鈴音は知らないようだ。

 

「NO!NO!Ms.suzune,speak only English.OK?Here, I'm watching you. Try it.」

(ノンノン!!鈴音さん。今は英語だけで会話しなさい。ほら、私が見てますから、挑戦してみて。)

まわりが懸命に拙い英語を話す中、日本語を喋った鈴音がALTに力強く咎められる。

鈴音に鋭く睨まれるが、俺はKPって言っただけだぞ。…俺のせいか。

 

「Don't be sulky.You should smile. You are many times more beautiful that way.」

(怒るなよ。お前は笑ったほうがいい。そっちの方が何倍も綺麗だ。)

「…Oh, thank you. You have a very "Buddha face", don't you? Shall I clean you up for you?」

(あら、ありがとう。仏頂面の貴方に言われると、説得力があるわね。私が造り直してあげようか?)

…なにがBuddha faceだよ。それで仏頂面は無理があるだろ。シンプルな悪口だ。

不適切な表現で永久BANされても文句言えないぞ。

 

「If you say I am Buddha, watch out for disrespect. You will be punished.」

(俺が仏なら、不敬には気を付けろ。罰があたるぞ)

「You, who are a mass of troubles, are a Buddha?joking,joking.」

(煩悩の塊の貴方が仏?流石に冗談でしょう)

やたらとオーバーな手振りを加えて鈴音が煽ってくる。

こいつ、口が達者なのは英語でも変わらないのかよ。

 

「OK…。No problem, sir.Keep up the good .」

(…英会話は問題ないようです…。その調子で)

ALTは俺達の言葉の応酬にピクピクと頬を引きつらせて、親指だけ立てて違う生徒の元に向かった。

勝ち誇ったように笑みを浮かべる鈴音だが、あれは呆れただけだと思うぞ。

 

「…Do you explain that to me?」

(それで?説明はしてくれるのよね?)

「Don't need it.feel it,all about 」

(いらないだろ。感じていることが全てだ)

「Are you... I don't want it anymore.?」

(あなた…あなたにとっては私はもういらなくなったの?)

 

「You're not owner's pet.If a stray dog sticks its tongue out, that's only dry. 」

(お前は飼われたペットじゃない。野良犬が舌をだして待っても、それは乾くだけだ)

 

俺の言葉の意味を咀嚼するように、鈴音の口が閉ざされた。

飲み込んで、消化するにはまだ時間がかかりそうだな。

 

鈴音なら水面下で進んでいることには気付けるだろう。

腑に落ちていないのは、櫛田サイドに俺がいる理由だ。

俺はその答えを断片的に与えた。

 

これは恋を知ったばかりの鈴音が、俺への気持ちばかりが先行した結果。

その情熱はまだ情熱でしかない。

情熱とは形を持ってこそ新価を発揮するものだ。

 

俺はポケットの中で鈴音から受け取ったメモを握りつぶす。

もうこれは、必要ないだろう。

 

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その日の放課後。俺は体育館裏に来ていた。

授業が終わってすぐに来たので、まだ体育館もガランとしていて静かだ。

鈴音の方は片が付いたが、まだこっちが残っている。

 

俺は、祈れば恋愛が成就する御神体だとか言われてたり言われなかったりする木に背中を強く押し付けられていた。

もしこれが本当に御神体であるなら、これに壁ドンのようなことをしている櫛田は、明日にでも、箪笥の角に足の指をぶつけるだろう。

 

「綾・小・路・君。何を話していたのかな~?」

 

鈴音の変化を察知した櫛田はその原因である俺に激おこぷんぷん丸のようだ。

…いや、一世代前の言葉であることは百も承知。それを踏まえた上で激おこぷんぷん丸が一番適切な表現なのだ。

外向きの可愛い櫛田のプンプン要素を残しつつ、しっかりブチギレているんだから。

 

俺は別に櫛田の邪魔になることを言っていない。

そう思い、ほとんど濁さず鈴音との会話をそのまま報告した。

 

「余計なこと言ってんじゃんっ!!」

「遅かれ早かれ鈴音なら気付くことだ。それに、変にはぐらかす方が危険だと判断し…って、あぶねっ」

櫛田は俺の急所にめがけて思いっきり右膝を振り上げてきた。

俺がすんでのところで太ももを掴んでいなかったら、冗談抜きで綾小路清隆ちゃんになっていた。

 

「…やっぱ、あんたをほっとくと良いこと一つもない。」

「今、俺はほっとかれてるのか?」

携帯は完全に櫛田に把握され、放課後は強制的に講師役に付き合わされている。

これ以上となるとGPSや盗聴器の類が俺の体内に仕込むくらいしかないだろう。

 

「隙を見つけては女とイチャイチャしてるやつが何か言った?」

「…昼休みのことか?あれは別に俺から求めてないぞ」

「ふーん。『抱きしめたくなってきた』とか言ってたのに?」

手遅れだったか。…いや、流石に盗聴器やGPSを仕込まれて気付かない俺じゃない。

みーちゃんや松下に仕掛けている可能性もでてきたな。

 

「作戦変更。もう、あんたにも本格的に手伝ってもらうから」

 

…本格的か。それは俺が直接、鈴音に手を下すこともあるということだろう。

櫛田により、鈴音が崖っぷちに立たされて、俺が最後の一押しをする状況を想像する。

笑う櫛田に無表情な俺。…鈴音の顔だけが霧に隠され分からなかった。

 

「…乱暴な足だな」

「返事しないからでしょ」

「わざわざ言葉にする必要はないだろ」

 

もとより拒否する選択なんてないのだから。

それよりも、俺が櫛田の片方の足を掴んでいる状態で、無理やり、もう片方の足で同じ攻撃してくるとは思わなかった。

俺が櫛田の両太ももを掴んでいるため足が宙に浮き、木に壁ドンしていた手で俺の首にしがみつく姿勢になった。

 

俺の首に全体重がかかっていることが面白いのか、ぶら下がるように嫌がらせしてくる。

…いや、嫌がらせじゃないなこれ。俺の首を本当にもぎ取ろうとしてない?

痛い痛い。まだ収穫には早い時期だから。…いや、ほんと痛い。

 

「山村美紀、見てください。あれが駅弁と呼ばれるものです」

「え、えきべんってな、なに?」

「知らないのですか?所謂48手の一つにある有名な体位です」

「48の隊員?え?ア、アイドルグループの話?」

…多分それとそれは真逆に位置するものだと思うぞ。

近づいてくる二つの声に反応して、櫛田が俺から離れ、フワッと着地した。

 

「勉強不足。ペーパーシャッフルで負けるわけにはいかないことを自覚していますか?」

ペーパーシャッフルにそんな問題が出てたまるか。

ズレているとしか形容できない会話をしながら着実に距離を詰めてくる。

一切の遠慮のない森下と挙動不審に見える山村の目的は俺のようだ。

 

「綾小路清隆ですね。青○しているところに水を差してしまって申し訳ありません。坂柳有栖が呼んでます」

「盛大な勘違いで凄いこと口走っているとだけ忠告しておく」

OAAの導入で他クラスの生徒に対して誰だと思うことはなくなった。

だが、それはやはり額面上の情報に過ぎない。

 

森下藍。こんな生徒だったのか。

OAAでは名前通り藍色の髪型の女であることしか分からないが、初対面相手にズバズバと言う物言いには感服すら覚える。

肝が座っているというよりは肝なんてない。そんな第一印象だ。

 

「藍ちゃん。そういう冗談やめてよ。組体操の練習に決まってるじゃん。」

「組体操…体育祭の種目にないですよね。それは隠語ですか?」

「体育祭だけじゃないよ。過去に特別試験のミニゲーム的なもので組体操が採用されたこともあるんだよ?知らない?」

櫛田が言うと本当か噓か分からないのが怖いところだ。

上級生が特別試験の内容を下級生に教えることは禁止されているが、それは絶対じゃない。

櫛田なら、その情報を引き出せるポテンシャルがある。

 

森下はヌルっと櫛田への距離を詰め、おもむろに顔や手にペタペタと触れ始めた。

 

「キャッ。いきなりなに!?」

「顔の表面温度の上昇が見られます。それに発汗もありました。髪や衣服にも乱れの前兆が。状況証拠は揃ってます。」

「それっぽく言葉を並べてるだけじゃん。組体操の練習してたって言ってるでしょ!?」

森下の奇怪な行動は櫛田の動揺を誘うためだろうか。

表情や声に一切の抑揚がない森下は掴みどころがなくて判断に困るな。

 

「確かにこの学校では、組体操のような事が求められても不思議ではない。ですがまだ半信半疑なのです。」

「半信半疑だからって、許可なく人に触らないで。最初から信じる気なんかないからでしょ?藍ちゃん」

「櫛田桔梗。不快にさせてしまいましたのなら謝ります。ごめんなさい。私に触れられて嫌がる人種は初めてでした」

森下藍。中々の人生を送っているようだ。見てくれの良さにだいぶ助けられてそうだな。

藍ちゃんと呼ぶくらいだ。櫛田は彼女と少なくとも面識があるんだろうが、扱い方に困っている印象だ。

 

「ですが、私は本当に半信半疑なんです。もうひと押しでどちらに転ぶか分かりません。」

「何を言えば、それが100%信じるになるわけ?」

「櫛田桔梗。下着を確認させてください。それで信じましょう」

櫛田が笑顔のままで固まる。

美人を冷凍保存したらこうなるんだろうなあと思わせるほど微動だにしない。

 

森下の中にも一応ラインは存在するようだ。

無許可で顔や手に触るのは問題ないが、スカートの中に手を突っ込んでまさぐるには許可が必要だという考えはあるようだ。

 

「…あ、あはは。相変わらず冗談きついなあ。藍ちゃん。」

「私は本気です。」

「流石に同性でもそれは無理かな。」

櫛田の声が半音ほど低くなった。

裏の櫛田ではなく、表の櫛田が怒っているという印象。まだギリギリ使い分けできているらしい。

見るからに相性悪そうだな、この二人。

 

「ごめんなさい。デリカシーが欠けていました。確かに濡れている下着を他人に触られるのは私でも不快です。」

デリカシーという単語を勉強しなおしたほうがいいな、この子は。

前口上が助走みたいになっている。

櫛田はもう爆発寸前。大事故を起こす前に助け舟を出すか。

 

「もういいか?坂柳が呼んでいるんだろ?」

「…そうでした」

俺は櫛田と森下の間に割って入るように体を滑り込ませる。

ようやく森下の中で、好奇心を満たすことより、坂柳に頼まれていた用事をこなすことの方が優先された。

 

「坂柳さんの元には私が案内します。こっちです」

「…ああ、頼む」

 

山村美紀。大したスルースキルだ。

あのカオスな状況を口も挟まず存在感を消して背景に徹するとは。

幸薄そうな雰囲気だが、影の方も相当薄いようだ。

…俺がノンデリなのは心の中だけだから。森下とは違うから。

 

俺達は案内役の山村の背中を見失わないように後に続いて移動し始めた。

 

「綾小路清隆。」

先導する山村の隣を歩く森下が振り返り俺の名前を呼ぶ。

 

「何だ?」

「呼んでみただけです。」

…なんだこいつ。面倒臭い。

合コンで年齢聞いたとき、合コンで盛り下がるランキング第一位の年齢当てゲームを始めるタイプの面倒臭さだ。

ちなみに第二位はすべらない話だ。素人のトークスキルで真似できる遊びじゃないのだあれは。

 

「…櫛田、森下はどんなやつなんだ?」

さっきの絡み。考えを元にした行動にしては違和感がある。

櫛田の意見も参考にしておきたい。

 

「電波系。トー横界隈にはあんな子いっぱいいると思う」

隣を歩く櫛田にこっそり聞くが、聞き慣れない単語が二つも出てきた。

櫛田曰く、何も考えていないらしい。

だが、坂柳が何も考えていないやつを側近に置くだろうか。

奇妙な人種であることは間違いないだろうが、彼女にはまだ何かありそうだ。

 

「てか、これ私も行っていいの?これ」

「むしろいてくれなきゃ困る」

得体の知れないこの二人とこの場に残されると冗談抜きで地獄絵図が生まれる。

鈴音に言われた通り本当に仏像と化すだろう。

 

「そっか。」

「ああ…。それで森下、何をしている?」

森下がいつの間にか俺の背後に回って、お腹周りに前触れもなく手を回してくる。

性別の壁もその場の空気感もこいつのは無縁らしい。

櫛田はもう不思議行動を見たくないようで、全力で明後日の方を向いて、見て見ぬふりしている。

 

「中々、イイモノをお持ちです。」

誤解を招く発音はよせ。お前が触っているのは俺の腕だ。

 

「お前のこの細い腕なら簡単にへし折れるくらいには鍛えている。分かったら離せ。」

「私喧嘩弱いですから。当たり前です。」

喧嘩が弱いなら、喧嘩を売るような真似しないで欲しいものだ。

俺は立ち止まって、強引に振り向く。

そして、干された猫のように森下の首根っこを持ち上げた。

 

「何が目的だ?」

「対象の調査です」

「迷惑だ。これ以上は看過しない。坂柳にお前が原因で約束を守れないと提言されたくなきゃ大人しくしていろ」

坂柳の側近なら、俺の言葉の意味くらいは理解できるだろう。

この一連の流れを見ているが一切関わうとしない山村に押しつけるように森下を突き出す。

 

「山村。お前のツレだろう。面倒見ろ」

「…無理です。私には」

俺への返事とは思えないほど、か細く小さい声で拒否してくる。

 

「無理なら連れてくるな。」

「勝手についてきたんです」

「そっちの都合は知らん。気分を害したと言って帰ってもいいんだぞ」

その言葉で山村はようやく森下を受け取った。

二人が唯一共通しているのは坂柳のために動いているという点。

それ以外は何一つ共通していない。全く、なんなんだ…この2人。

 

「森下さん。お願いします。」

「ごめんなさい。大人しくします」

「次、こいつが振り返ったら俺は帰る」

「…はい。…しゅん。」

口でしゅんって言う奴は流石に初めてだ。

あざとい系ではなくイタい系だ。

 

「めんどくさいでしょ、あの子。」

「ああ。櫛田と同じくら…いっ」

俺の脇腹に鋭い手刀が入る。

余計な一言だと知っているが、本音だから仕方ない。

 

「坂柳さん。」

 

俺達は図書室の一角に辿り着いた。

高級感のある紅茶の香りが鼻についた。

いい匂いなのは間違いないが、ここは図書室だぞ。

電車でマックを食うやつくらいのテロ行為だ。

 

「ご機嫌よう。綾小路君。…と櫛田さん」

櫛田に対する挨拶に間をあけたのわざとなんだろうなあ…。

 

「神室までいるのか…。」

「何?文句ある?」

俺の呆れるような口振りが気に入らなかったのかすぐに嚙みついてきた。

呆れたわけじゃなく、単に森下にウザ絡みされて疲れていただけだがそれを言っても納得しなさそうだ。

神室とは無人島試験以来だ。

あの時から薄々感じていたことだが、神室はクラスに溶け込めるタイプじゃないな。

 

「別に文句はない。ただ図書室が似合わないと思っただけだ。」

「は?私だってここにいたくているわけじゃないし。」

「何を言っている?俺は声がでかいって話をしてるんだ」

「…っ。ムカつく。」

自分が感じたことをそのまま言うところは森下と同じだが、感情的だ。

こっちの方がよほど扱いやすい。

 

それにしても神室、山村、森下、橋本、鬼頭。坂柳の側近は個性に富んだ面子ばかりだ。

愉快な仲間達を集めて冒険でもするつもりか?

 

「綾小路君。あまり虐めてあげないでください。かわいそうです」

「私、帰る」

坂柳はあたかもフォローするような感じで言うが、それは援護射撃だ。

端的に状況をあげつらうように坂柳に嫌気がさした神室は迷うことなく出口に向かった。

 

「私も帰ります。ねむいです。」

「えっ…」

「貴方も帰っていただいて構いませんよ。山村さん。」

「…分かりました。」

蜘蛛の子を散らすように、神室、山村、森下がそれぞれがバラバラに帰り始めた。

ササっと帰る神室と山村とは違い、森下はダラダラと歩いて帰っていく。

だが、何かを思い出したかのように、森下は急にターンする。

 

「綾小路清隆。また会いましょう」

「出来ればもう会いたくないな」

「…もしかして、私嫌われた?」

「もしかしなくてもな。」

「そうですか。では、連絡先を交換してください。」

話の脈絡を無視して唐突すぎる提案をしてくる。

俺が合意していないのに、携帯を取り出して既に操作を始めている。

マイペースではなく自分勝手。

 

地球が自分中心に動いているとでも思っている系。イタタ。

 

「悪いが断る。携帯の充電がない。」

「ナンパじゃないですよ?」

やはりこいつとの会話は疲れる。微妙なズレがもどかしい。

俺の反応を見て、坂柳が森下に命令するように話す。

 

「森下さん。邪魔です。」

「坂柳有栖の邪魔はしていないはずです。」

「今すぐ帰りなさい。ここまで言わないと分かりませんか?」

「眠いのでそうします。」

坂柳に命令されたからではなく、眠いから。

とんだじゃじゃ馬を飼っているな。坂柳は。

だるそうに足を引きずりながら、森下はようやく帰っていった。

 

「なんなんだ、あの生き物は?」

「興味深いでしょう?」

「それが本当ならな。」

坂柳があの生き物に興味を示すなら、その思考の根源の方が気になるところだ。

 

「野放しにしておく方が疲れます。それだけです」

なるほど。それなら理解できる。

確かに手間よりも放置するリスクの方が高い。

 

「ちなみに、坂柳も森下に体を触られたのか?」

「ふふ。安心してください。綾小路君。私はまだ純潔です。指一本でも触れたら、500万ppt請求すると彼女には言ってあります」

坂柳は奇怪な行動を予測して、手を打っていたということか。

てか、純潔とか聞いてないんだけどな。

 

「あんな奴でもptへの欲求はあるんだな」

森下はお洒落なヘアピンをしていたり、可愛いスマホカバーを付けていた。

個性的だが、一般的な女子が好きなものは好きなんだろう。

 

「綾小路君。流石に失礼だよ」

坂柳の前なこともあってか、森下を庇うような発言をする櫛田。

 

「向こうも失礼なんだからお互い様だ」

「それはそうだけど…。」

「その様子ですと、お二人は純潔を失われたようですね。」

話の流れ上、間違いなく森下に触れられることを指しているのだが、ドキッとさせられる内容だ。

心当たりがあり過ぎる。

 

「櫛田に関しては、スカートに手を突っ込まれる一歩手前だったぞ」

「あはは…。流石にあれはびっくりしたかな。綾小路君も腰回りに抱き着かれて『イイモノをお持ちです』なんて言われてたよね」

「ああ。あいつはいつかセクハラ行為で問題になると思うぞ。」

俺が櫛田の動揺を悟られても言い訳できるように、櫛田が動揺するような質問をすると同じ要領で櫛田も返してきた。

俺の表情から情報を取るのは不可能だから、余計なお世話だが、俺の意図を櫛田が理解しているということが分かるいい返しだ。

 

「…森下さんには教育が必要なようですね。裸に剝いて、校内を引きずり回しましょう」

「いや、それはやりすぎだと思うが。」

「いえ、そのくらいが妥当でしょう。私の事を理解しておきながら、私より早く綾小路君の綾小路君に触れるなんて許せません」

あれ、なんか話がねじ曲がってないか?

……櫛田のさっきの証言では、言葉が足りていないことに気付く。

まあ、それでも坂柳が憤慨する意味は分からないが。

 

「坂柳さん落ち付いて。森下さんはそ、その…綾小路君の綾小路君に触ってはないよ!!」

さっきから何なのその隠語。すごく嫌なんですけど。

別にチャームポイントじゃないんですけど。

 

「…なら、櫛田さん。イイモノとはどういう意味ですか?」

「え、えぇっ!?そ、それは…」

…おい、櫛田。どうしてそこで口ごもる。

 

「立派、大層。そういう意味ではないんですか?櫛田さん」

…これ、バレてるな。

この一連の流れは、決定的なものを引き出すためのものだったのだ。

実際に綾小路君の綾小路君…。自分で口にしてなんだが、マジで嫌だな…これ。

ともかく、今、櫛田の脳内にはくっきりとそれがイメージされてしまっている。

坂柳の巧みな誘導によって。坂柳…。恐るべし。

 

…てか、図書室で俺達は何の話をしてんだ。

 

「坂柳、勘違いだ。」

「なんだ。勘違いですか。まあ、綾小路君は良い筋肉をお持ちですから、そのことでしょう」

事実確認に近い茶番を終えたことをいいことにあっさりと認める坂柳。

その切り替え方は櫛田に誘導尋問してましたと自白するようなものだが、櫛田は今の話題を掘り返すことが出来ない。

どこまでも、いい性格をしてるなあ、こいつは。

 

「そういうことだ。それで、本題は?」

「ペーパーシャッフルでは私達の決着をつけるのに相応しくありません。という話です」

 

それはこちらにとっても有り難い話だ。

クラス単位で見た時、学力の差にはまだ覆せないほどの乖離がある。

 

「それはそっちに決定権があることだ。好きにしていい。」

「では、勝負は延期ということで。本題は以上です。」

「そうか。なら、俺達は帰る。」

櫛田も帰る提案には大賛成なのか、隣でコクコク頷いている。

坂柳の前で発言することを恐れているようだ。坂柳は揚げ足取りの天才だからな。仕方ないだろう。

 

「あら、私一人、仲間外れですか?それとも、"二人"の方が"色々"と都合がいいですか?」

坂柳は含みのあるようにわざとらしく強調して、煽ってくる。

 

「わ、私、先に帰るっ!!」

「ふふ。お可愛いこと。」

まるで、どこかの社長令嬢のような口調で微笑む坂柳。

 

「綾小路君が彼女を隣に置いておきたくなる気持ちも分かります。」

「別にそれが理由で隣に置いてるんじゃない。」

「それは興味深いですね。」

 

「俺にとっての櫛田は坂柳にとっての森下みたいなものだ」

 

「ふふ。なるほど。確かに彼女は爆弾のような人です」

 

大きな爆弾を二つも抱えているしな。

ほんと、イイモノをお持ちだ。





畳みかけるような櫛田partです。
なぜでしょう。







櫛田が可愛いから。
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