綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話 作:ファウストの劫罰
「…そんなことになってるなんて、夢にも思わなかった。ごめんなさい。勢いに任せてブロックしちゃって…」
「橘先輩は間違ってないです。あんな内容のメッセージが来たんです。正しい対応ですよ。」
あの出まかせのメッセージは見返せば見返すほど、有名人の公式Twitterが第三者による不正アクセスにより誤爆されたネガキャンのようだしな。
まあ、実際にも物理的に俺のスマホは櫛田に乗っ取られていたんだが。
「今後しばらく、橘先輩と連絡を取るのは難しいと思います。橘先輩に俺がブロックされてることも把握されてますから。」
「…ひどいよ。そんなの。」
俺が受けている徹底的な監視と制限の全貌に深く同情している。その状況の異常さを分かりやすく要約してくれるような表情が見受けられた。
俺は現在監視だけでなく、返信すらも制限されている。
抜け目がない櫛田は櫛田以外の連絡先と通話ができないように設定に変えているおまけ付きだ。
俺の生活から段々とスマホが切り離されているのに反比例して、櫛田にどんどん取り込まれていくようだ。
説明だけを見ると領域展開みたいだ。…実体はメンヘラ彼女による束縛だが。
自発的ではなく受動的…、いや強制的ではあるが現状はデジタルデトックスと言えるだろう。
勉強の出来ない小学生が親にスマホやゲーム機を取り上げられるのと同じだ。
俺が櫛田の目的に対して進捗を示さなければ、現状は改善されない。
「…絶対、その人に弱み握られてるよね。綾小路君。…大丈夫?」
赤の他人が聞けばドン引きするレベルの束縛に、橘先輩は間違ったベクトルの答えを導き出す。
心配するだけに留まらず、解決に向けて協力するとか言い出しそうな雰囲気だ。
そうなる前に誤解を解いておく必要がある。
その誤解とは俺が今の現状に満足していることだ。
櫛田は実利的な女で、俺が求めるまでもなくそれを与えてくれる。
例えそれが、消費的で退廃的なものだとしても俺はそれだけを求めて生きている。それを彼女は本能で感じ取っているのだ。
櫛田が俺との関係を同族だと言ったことを思い出す。
結局あれは的を得ていたのだろう。
俺達は欲求の種類が違うだけ。
そして、それを満たす心地よさは彼女が一番知っている。
「弱点という意味ではそうかもしれませんね。」
「やっぱり…。」
意味が分かると怖い話も、分からなければ怖くない。
櫛田がこの場にいれば、俺のことをセクハラ野郎と詰っただろう。
「ですが心配は無用です。これは必要な犠牲ですから。それに不便ですが不満はありません。」
俺が現状を受け入れている様子に驚愕する橘先輩だが、ホワイトルーム生まれホワイトルーム育ちの俺からすればこの程度の監視はないも同じだ。
「…犠牲って何?」
「それは禁則事項なんでお答えできないですね。」
主人公なのに本名不明のあの男のように『それ、18禁ですか?』なんて聞かれれば、流石に動揺を隠し切れる自信はない。
俺のポーカーフェイスが崩れてしまうのではないかと危惧するほど、櫛田は俺の中の先入観や固定観念を取り払ったのだ。
俺が求めるものは、恋愛の先である必要がないと櫛田は証明した。
まあ崩れたポーカーフェイスでも、橘先輩くらいなら騙せるだろうが……俺は横目で隣にいる彼女を確かめる。
完全に臍を曲げて、普段の優雅で高貴な姿からは考えられないようなだらしない姿で木目調の床を指でなぞってる坂柳。
だけど、しっかりと俺達の話に耳を傾けているように見えた。
「俺の話はこれ以上話せることもなさそうです。それより、橘先輩はどうするつもりですか?」
「え……、それってどういう意味?」
少し抽象的に聞こえるかもしれない質問をしてしまったと橘先輩の反応を見て気付く。今の彼女は、あの男が脳裏にチラつくような質問は禁則事項だな。
俺が聞きたいのは恋愛の行方なんかじゃない。
俺が急に舵を切ったことに、心のざわつきを覚えたのか橘先輩はズズッと音を立ててハーブティーを喉に流し込む。
「まだ堀北先輩と同じ大学に進学するつもりですか?という意味です。」
「ゴホッゴホッッ」
心に落ち着きを与えるハーブの効能を否定するかのように橘先輩は咳き込んだ。
あの男にフられた傷はまだ癒えていない。
勉強机の上、教科書の下に隠すように置いてある大学のパンフレット。
あの男の進路など知らないが、彼女が大学のパンフレットをわざわざ隠す理由はそのくらいだろう。
動揺が隠せない橘先輩を横目に、俺は立ち上がり教科書を机の端に避けてそれを手に取った。
大々的に豊かな人間性を持った地球市民の育成か…。
大層な教育理念だが、好きな人にフラれてなお、その人を追いかけようとしている人間臭い橘先輩はぴったりかもしれない。
だが、そんな邪な理由で倍率6倍以上の大学の一枠を取られるのは、他の受験生からしたら溜まったもんじゃないだろう。
「迷うくらいなら辞めるべきです」
俺は力強く断言する。
橘先輩が顔に浮かべていた悩み一色など、俺の一言が吹き飛ばした。
「どうして…、どうして、綾小路君にそんなこと決められなきゃならないの?私の勝手でしょ」
進路選択直前に差し迫り、悩んでいるような人間の大半は心に付け入る隙が生まれる。
そして、その隙を不意に突かれれば、その相手が肉親であろうと親友であろうと強い拒絶反応を起こす。
今のはまさにそれと酷似している。必死に傷口を塞ごうとした体の防衛反応だ。
「今日はいい天気ですね。」
いつかは口を挟んでくるかと思っていたがこのタイミングか。口にした内容は突拍子もないものだが、坂柳の場を一閃するかのような声は、橘先輩を振り向かせた。
「反響チェックする裏方スタッフみたいな格好で何言ってんだお前。」
坂柳は人魚のように足を崩し、両手を床に突いて、首を項垂れている。
姿勢と発言が釣り合ってなさすぎて、橘先輩もどうして良いかわからずにいる。
「こんな日には、UVカットの日焼け止めと愛用の日傘を持って日向ぼっこでもしたい気分ですね。たまには、屋上でランチなんてのも一興かもしれません。」
日焼け止めと日傘を持って日向ぼっこ?そんなことをして何の意味があるのか。全く理解できない。
猫アレルギーだけど猫が好きみたいな話か?……いや違うか。本当に意味分からん。
「満を辞して屋上についた私は言いました。『ふーん。綺麗にしてるじゃん。』」
一人暮らしを始めた息子の家に初めて行った母親かとツッコもうと思ったがやめておく。
最初に俺がツッコミを入れた時も無反応なことを見るに、話が終わる最後まで誰の言葉も耳に入らなそうだ。
橘先輩も俺と同じ気持ちなのか、それとも困惑しているだけなのか、どちらにせよ坂柳の話を訝しむように聞いている。
「『こないでっ‼︎』綺麗な屋上に削ぐわない金切り声が聞こえました。声を辿ると、フェンスの向こう側に一人の女の子が立っているではありませんか。側にはご丁寧に揃えた靴があり、すぐに状況を理解しました。このままでは、私が第一発見者になってしまい、面倒事に巻き込まれてしまう。私は事が起こる前にすぐに引き返して、屋上の扉を乱暴に閉めてその場を後にしました。」
坂柳は顔を上げて以上です。と締め括った。
感想を求めるような視線は橘先輩にのみ向いていた。
「…坂柳さんが冷酷だって話?」
「冷酷ですか。私は彼女の言葉に従っただけなのに、解せないですね。では、先輩がこの状況に遭遇してしまったらどうしますか?」
ここまでの無駄話も丸っきり無駄じゃないらしい。(限りなく無駄な部分が多かったが)
これは誘導尋問に近い。この数秒後に見えるであろう橘先輩が困り顔が既に助けていた。
「そんなの、助けるしかないでしょ。」
「なるほど。では…。『どうして、貴方にそんな事言われなきゃならないの?私の勝手でしょ。』そう言われてしまえばどうしますか?」
「…」
ほんの1分前くらいに吐いた自分の言葉は自分に返ってくる。その言葉に黙ってしまうようでは坂柳のペースだ。
「あら、偶然ですね。計らずか、先程耳にした言葉と一致してます。不思議なこともあるものですね。」
「…冷酷なだけじゃなく陰湿なんだね。坂柳さんって。はっきり言えばいいじゃん」
普段から隠し事を嫌う平成ギャルの十八番の反撃。
橘先輩の口から、そんな言葉が出てきてしまったのは心に余裕が無いからだ。本心が漏れ出てしまっている。
失恋直後のメンタルに俺達のドタバタ訪問。
加えて俺が悩みを一刀両断し、坂柳はそれに追撃するような形で煽った。
それでも、まだ俺達を廊下に放り出さずに会話しようとしているのはそれだけ橘先輩の悩みが深刻であることを示している。
そして、それは全て坂柳に逆手を取られる要因となる。
「ふふ。ご冗談を。ハッキリしていないのはどちらの方か。言うまでもないでしょう?私が冷酷と言うなら、決断できない優柔不断でどうしようも無い貴方の代わりに答えをくれた綾小路君はどうなるんでしょうか。」
橘先輩が俺を横目で見る。坂柳の言葉に耳を傾けている証だ。
坂柳の説教じみた言葉が正しいか間違いかは置いといて的を得ていたことは確かだ。
橘先輩は悩みに悩んで答えを出せずにいる自分に苛立ちが募る毎日を過ごしていた。自分のことは自分が一番分かっているのだ。
認めたくない感情を認めさせられた橘先輩は最後っ屁とばかりに毒を吐く。
「…さっきまで、みっともなく喘いでたくせに」
「綾小路君。500万ppt払います。その女を今すぐ拘束してください。」
女1人拘束するだけで、現実換算500万円の大金が手に入る。闇バイトが裸足で逃げ出す高額報酬だ。
だが、坂柳の目は本気だった、
「橘先輩。悪く思わないでください。」
「キャッ。い、いや!!離して!!」
拘束術の心得のある俺は、橘先輩の背後にすぐに回り羽交い締めする。
何だかイケないことをしているというより、犯罪に加担しているような気分になってきたが気にしない。
だって500万が手に入るから!!
抜け出そうとする橘先輩を押さえ込んでいるうちにも、坂柳の魔の手は伸びてきた。
目には目を。歯には歯を。足つぼには足つぼを。
その法則を無視するように、坂柳の手は足ではなく、橘先輩の上半身に伸びていき……ガシッと両手いっぱいに胸を鷲掴みする。
「キ、キャーーーッッ。」
「…やはり私よりも大きい。これが2年の差ですか。」
坂柳はジェットコースターのクライマックスかのように叫ぶ橘先輩を無視して、揉みしだいて分析し始める。
こいつ、なんで人の胸揉みながらそんな真剣な顔できるんだ。
…そこまで思って俺は俺を嗜める。
人の胸を揉んでいる人間の表情なんて碌なものじゃないに決まっている。俺がどんな顔してるのか今度、櫛田に聞いてみよう。
「困りましたね。服の上からでは分かりづらいです。」
坂柳はそんな怪しげな独り言を呟いて、それを聞いた橘先輩が青ざめる前に服の中に手を滑り込ませた。
「ち、ちょっと、坂柳さん、ほんとにそれはダメ。あ、綾小路君も離して。こんなのレ○プ!!!!レイ○だよ!?していい事じゃないの分かるよね!?バレたら一発で退学だよ」
坂柳の行動は流石にライン超えだ。
いくら先に橘先輩が手を出したとは言えやりすぎだ。
見に迫る危機と、それを受け入れるしかない現状が、橘先輩から出るとは思えないレ○プなんて言葉が出てしまったのだろう。俺は最初からそれにしか思えてなかったが…。
だけど、500万だしなぁ。ここでやめるのは…。
そんな葛藤を頭の中で巡らせている間にも、坂柳の手は止まらない。
ブチッという。何かが外れた音が聞こえた。それは少し前の俺では何が起こったか理解できなかっただろう。
「橘先輩。喘ぐということがどういうことなのか知らないようでしたので教えて差し上げますよ。」
「徹底的に♡」
服の中で縦横無尽に動く坂柳の手。
羽交い締めしている橘先輩の腕が脱力していく感覚。
部屋に響くような裏返った嬌声とふふふふという悪魔の声のデュエット。
このあと滅茶苦茶怒られた。
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「刺激的な体験でしたね。」
「やりすぎだ。仮にも2個上の先輩だぞ。」
「先輩だぞでいい所をわざわざ2個上なんて余計な情報を足してきたことに含みを感じますが、気分がいいので見逃しましょう」
2年分の差だとか言っていたから、皮肉のように言ったがすぐに看破される。
だが、含みを看破したことに満足して、スキップでもするかのようなハイテンションで歩く。
「さっきから自分は関係ないみたいな顔してますが、綾小路君も立派な共犯ですよ?」
「まさか、あそこまでするとは思わなかった」
「女の子同士の可愛いスキンシップじゃないですか」
「女子校末期かよ。それに、俺は男だ」
「ふふふ。役得ですねぇ。」
どこまでも能天気なやつだ。結局こいつは何が目的で俺についてきたんだ。
まさか、あの恍惚的な体験をするためじゃないだろう。
「彼女、どうすると思いますか?」
「さぁな。最後は結局、橘先輩次第だ。なるようになる」
橘先輩の進路問題。
俺はあの後、選択肢を潰すと同時に代わりの選択肢を与えた。
だが、俺はあの男と同じ進路に行くルートを潰すことだけが目的だ。
あの男は橘先輩の進路を察していた。
だから、あの時こう言った。
「卒業まで支えて欲しい。」
…なら卒業後は?その答えはその時にならないと分からない。
だが、橘先輩がそこに一抹の希望を抱かれてしまっては俺の目的が叶わない。
「あれ、一之瀬さんじゃないですか?」
隣を歩く坂柳が示した方向を追いかけるように見る。
…あの方角は2年生の学生寮だ。
「彼女が1人で歩く姿もすっかり見慣れましたね。どうしますか?声をかけますか?私としては、2人きりの時間を―」
「一之瀬。」
俺は坂柳を無視して、とぼとぼと疲れたように歩く一之瀬に声をかける。
だが、聞こえていないようで振り向こうとしない。
再び呼びかけても返事がないので仕方なく俺は、後ろから彼女の肩を叩いた。
「キャッ!!」
彼女にとっては余りにも突然の接触だったのか、ガバッと振り向いて、すかさず距離を取った。
「え、綾小路君と…坂柳さん?」
「ああ。偶然見かけて声をかけたんだが、返事がなくて肩を叩いた。驚かせて悪かったな」
「う、ううん。わ、私が悪いの。ごめんね!距離取っちゃって。」
首をブンブンと振って、自分が悪いと言ってくる一之瀬。
どう考えても、一之瀬は悪くないだろうに。下手に出ることが多くなったことが原因か、悪癖がついているな。
「ごきげんよう。一之瀬さん。リボンが曲がっていましてよ」
「あ、ありがとう。坂柳さん。…2人で何してたの?珍しい組み合わせな気がするけど」
坂柳は優しい手つきで一之瀬のリボンを整えた。
そして先制とばかり、一之瀬は事情を聞いてくる。
「珍しいですか。そうかもしれません。ですが、実は綾小路と私は深い仲なんですよ。それはもうマリアナ海溝のように」
「幼馴染みというだけだ。」
まあ、世間一般的に言えば幼馴染みでもないんだろうが、坂柳がそういう認知を広めている以上それで定着させる方が早いだろう。訂正するのも面倒だしな。
「幼馴染みなんだ…。でも、坂柳さんと綾小路君ならなんか納得かも。」
彼氏彼女に釣り合う釣り合わないの価値観に似たような含みを感じた。
別に幼馴染みであることにスペックは必要ない。俺が山内や前園のような生徒と幼馴染みであってもなんらおかしくないのだ。
「3年生の落し物を見つけてな。それを届けに行ってたんだ。一之瀬は?」
坂柳が余計なことを漏らす前に俺は事情を説明する。
ご機嫌な坂柳は口数が多い。いや、普段から多いが、それにも増して多い。もうこれ以上の寄り道はしたくない
「…私は南雲先輩の手伝いが終わってその帰りだよ」
「大変だな。小テストまでそう時間もない。それが終われば特別試験に向けての準備が始まる。南雲先輩に付きっきりで大丈夫なのか?」
「心配ありがと。でも、どっちも…大丈夫だよ。」
妙な違和感を覚える顔で一之瀬は作り笑いを浮かべる。
一之瀬の取り巻く現状はお世辞にも優しくない。
周りの目と南雲による拘束。それを耐えられているのは、その先に俺を見据えているからだろう。
「それならいい。一緒に帰るか?」
「それは遠慮しておくよ。2人まで変に巻き込みたくないから。」
「あらあら。それは残念ですね。では、帰りましょうか。綾小路君。」
旦那に寄り添うご婦人のように俺の手を恭しく取って歩き出す坂柳に引っ張られる。
勢いのまま一之瀬の横を通り抜ける時に小さな声が聞こえた。
「待っててね。もう少しだから」
俺は一之瀬が既に次のフェーズにいることを感じた。
坂柳には出来ないスタイルで、龍園にすら思いつかない方法で、一之瀬は着実と進んでいる。
俺が振り向くまでもなく、彼女の影がすぐ側まで伸びてきていることが分かった。
「それでですね。その時、鬼頭君がなんて言ったと思いますか?」
「検討もつかないな」
「流石の綾小路君でも難しい問題でしょう。ふふ、答えは『銀歯が空港の金属探知機に引っかかった』です。あの顔で金属探知機に引っかかってたらメリケンサックでも持ってたのかと疑われますよね〜。」
…こいつの話、クソつまらねぇ。。
しかも、鬼頭への風評被害がすごい。
話半分に聞いてたこともあり全く経緯が掴めないが、まともに聞くような話でもないだろう。
俺はその後も雑談に花を咲かせる坂柳に適当に相槌を打ちつつ家に帰った。
案の定、櫛田は来ていないようだった。
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小テスト当日。
簡単な問題が出るという宣言に間違いはなかったようで、ペンがスラスラと進む音が教室には響いていた。
隣からペンを置いた音が聞こえた。
この小テストに対して、彼女は特段取り上げるような動きを見せていない。
悪く言えば無策で挑んでいるとも言えるが、このテストの本質を理解しているが故だろう。
『小テストの法則性があるのは分かってるわ。だけど、その法則性が見抜けなかったとしても、期末試験に深刻な被害が出ないようになっている。』
茶柱先生が言葉に内包した裏を正確に読み取り、そんな風に分析した結果だろう。
彼女は何も間違っていない。だけど、彼女の敵はこの学校だけではない。
俺は何も迷わず満点になるように回答して小テストを終えた。
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「そうだな。まず、良い知らせと悪い知らせ。どちらから聞きたい?」
映画や作品でしか聞いたことのない台詞だが、不思議と茶柱先生が言えば様になる。
教師と生徒という立場がそうさせているのかもしれない。
胸の下で腕を組んでいるが、きっちりボタンが締められた胸元が少し窮屈そうだ。
開けっ広げの胸元に注目が行くのは男子では仕方のないことだろう。だからこそ、この変化に気付いたものも多い。
だが、その意味まで知っているのは星之宮先生と煽り合う場面にいた俺だけだ。
「いや、こういうのはだいたい良い知らせからいうものだったな。」
生徒の戸惑う反応を見て、茶柱先生は慣れた手つきで黒板に板書していく。
Aクラスvs Cクラス
Bクラスvs Dクラス
「喜ぶと良い。お前たちの希望通りの結果と言っていいだろう。」
俺と櫛田の根回しによって対戦相手をBクラスに指定することは既にクラスの総意だ。
後の組み合わせはなるようになった結果だ。
論っていえば、今のBクラスは俺達以外を選べる選択肢はないだろうしな。
「体育祭。よくやった。だが、学生の本文は勉強だ。ここで結果を残せないようでは後も同じことだと思って取り組んでくれ。」
茶柱先生にしては直球すぎる褒め言葉。
その言葉に、心から沸々をやる気が漲ってくる馬鹿な連中がDクラスの生徒だ。
ソシャゲのガチャでレアを引いたかのように一部の連中が騒ぎ始めた。
騒いでない連中は総じて、学力の高い生徒だから、格差が目に見えて分かりやすい。
「茶柱先生。悪いしらせとは何ですか」
洋介の言葉にはしゃいでいた連中の動きがピタリと止まる。手放しに喜んでいる場合ではないことにようやく気付いたらしい。
「ああ。そうだったな。お前達には直接関係することではないかもしれないが…」
言い出した張本人の癖に、忘れていたかのような素振りに不穏な空気を感じつつも茶柱先生は言葉を続ける。
「諸事情により、生徒会長の南雲雅に一時自宅謹慎という処分が下された。復帰の目処はまだ経っていない。」
まさかの報告に、クラスの空気が一気に騒つく。
今の情報だけでは俺達にとって悪い知らせとは言えないだろう。
だが、野次馬根性だけは無駄に高いDクラスの連中は南雲雅が謹慎処分を受けた諸事情が何かということばかり気になっているようだ。
「理由が明かせないから諸事情なんだ。周知のために言ったが、今後一切この話題を出すこと禁ずる。この話に尾鰭がつくような噂が流れれば、この根源を徹底的に調査して学校側はその生徒に厳しい処分を下すだろう。」
…南雲雅、すっかりヴォルデモートみたいな扱いになってるな。
脅迫に近い茶柱先生の言葉を受けて、教室は静まり返る。
「少しは利口になったようだな。学校側が不平等にお前らを評価する。だが、平等なことが一つある。それは、その不平等は全ての生徒に降り注ぐということだ。生徒会長というポストについていようがAクラスのリーダーであろうが退学する時は退学する。それを肝に銘じておけ」
以上だ。と締め括って茶柱先生は教室から出て行った。
首を突っ込めばその首はギロチンのように切る。そう宣言しているもの同義だ。
だが、南雲の諸事情とやらが見えてきた。
それは、その諸事情に対する処分がまだ確定していないことだ。
生徒の口を抑制したのは現状確認の邪魔になるから。
最後の話は南雲の処分が退学になる可能性まで含みに入っていた。
全てが明るみに出た時、南雲の処分がどうなるかは分からないが俺達は知ることになる。
だけど、その諸事情だけは知らされることはないだろう。
gwにもう一話は更新したい所存