綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話   作:ファウストの劫罰

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今年もう半分終わるってマジ?


#62 暴走と構想

ペーパーシャッフルのペアが開示された。

流石に試験前ともなれば、いくら不良品のDクラスといえど、浮ついた空気も薄れていく。

教師陣はしきりに退学という二文字を上手く使い、尻に火をつけてくるが、その意味を一番知っているのは俺達だ。

棚から牡丹餅。須藤の犠牲は思わぬ効果を生んだ。須藤の二の舞いになりそうな山内ですら、見た目だけは真剣に取り組んでいるのだから。

 

だが、面接直前の就活生のように硬いDクラスが、今の状態で闇雲に努力しても、結果が出ないのは分かり切っている。

本格的にクラスとしてどう特別試験に取り組むかを決める時期だ。

 

Dクラスのことを誰よりも考えている男、平田洋介はすぐに鈴音、櫛田、恵、俺を招集した。

クラスのことなど微塵も考えていない俺が感じていることを洋介が感じていないわけがない。

むしろ、彼にしては遅すぎるくらいだろう。

 

授業が終わってすぐ、俺の席に5人が集まる。タイプは違えど、クラスの顔の5人と言っていい。衆目を浴びるのは当然か…。

その中にはみーちゃんや松下もいた。空気を読んだのかいつものように近づいてくる素振りはない。

代わりにと言うべきか、みーちゃんと目が合うと大げさに手を振ってきてくれた。

可愛いよりも恥ずかしさが勝つな…。

中学の体育祭なんかで母親に大声で応援された息子はこんな気持ちなんじゃないだろうか。知らないが。

 

兎に角、こんなところで屯するのは得策ではない。すぐにでも場所を移すべきだろう。

 

「場所は?」

「パレットでいいじゃん。私、新作のパンプキンフラペチーノ飲みたい」

鈴音が洋介に端的に聞いた問いには恵が携帯片手に操作しながら答えた。

恵は聞いてないように見えて聞いてるタイプなんだよな。周囲の情報に敏感な彼女らしい一面だ。

パレットのホームページでも閲覧しているのか、恵は「うわ、映え~。」なんて呟いている。

鈴音は氷よりも冷たい目で睨むが、彼女は気付かない。

まだ会議は、始まってないどころか、二言三言しか交わしていないのに既に不穏な空気。…帰りたい。

 

現実逃避したい思考が加速したせいか、はたまた好奇心の暴走か。

俺の興味は目の前の二人からパンプキンフラペチーノにうつった。

映えとかチルとかエモとかそんな感情は一切理解できないが、未知の味には興味がある。

 

日本で流通しているほとんどは糖質の高い西洋かぼちゃと日本かぼちゃだ。

ケーキやお菓子で使用されるのは、例外なくこの二つと言っていい。

しかし、パンプキンと呼ばれているのは、観賞用として有名なペポカボチャ。これは前者の二つとは全くもって別物だ。

観賞用ということだけあって、主に食されるのは実ではなく種。実の方はお世辞にも食べられた味じゃない。

もし、仮に栄養価の高い種をすりつぶしたフラペチーノであるなら野菜ジュースみたいな健康的な味に仕上がっていると予想できる。

 

「いいんじゃないか。パレットで。」

 

俺は軽快な口ぶりで恵の提案を肯定する。

どうせ可決しない案だ。否定された時、恵のダメージが分散できるように肩を持っておいた方が色々得策だろう。

それにもし万が一、何かの間違いで可決されても損はない。

 

案の定、荷物を手早く纏めていた俺の手がぬるっと伸びてきた手に遮られた。

その一つの汚れもない白い綺麗な手には殺意が。非難するような目にはメッセージがこもっていた。

さしずめ、「ちょっと何言ってるか分からない」ってところだろう。悪いが俺にも分からない。

 

「この後すぐに、貴方の部屋に集合、それでいいわよね?」

そう吐いて捨てるように言った鈴音は、俺を含めた他の4人の合意も取らずに教室から出ていった。

 

「何、あの態度っ。協調性なさすぎっ!!」

「軽井沢さん、落ちついて。あれは堀北さんなりの気遣いもあると思うよ。確かに決め方は無理矢理だったけど、クラスの命運がかかった作戦会議を人目の多いカフェではできないから。」

「うっ…。そ、それならそうはっきり言えばいいじゃんっ。ひ、一人で帰るのも感じ悪いしっ!!」

「そこも気遣いじゃないかな。僕達5人が集まって行動しているのは嫌でも目立つ。だからこそ、堀北さんはいつもと同じようにすぐに帰宅しているように見える行動を取ったんだと思う。僕たちが作戦会議をしていることを他のクラスに悟られないようにね」

「……。」

洋介の過剰すぎるほどのカバーに恵は何も言えなくなる。

だが、これは誘導だ。誰かの部屋に、5人バラバラに帰宅して再集合するという段取りは洋介が事前に用意していたものだろう。

鈴音の行動を利用して、場を丸くおさめた上に自分の意見を自然に通した手腕は大したものだな。

 

「絶対、そんなこと考えてないでしょ。」

「わざわざ、それを伝えるためだけに俺の隣に来るのやめてもらっていいか?」

櫛田が心の内を俺にだけ聞こえるようにさらけ出す。

一方的に伝えるだけで満足だったようで、もう既に俺の方を見ていない。

 

恵の怒りを鎮めようとしている洋介を見ている櫛田の横顔は薄く笑っていた。

俺にはニコニコ動画のアイコンのような何とも言えない表情に見えた。

ニコニコ動画って名前なのに、アイコンはニコニコしてないんだよな、あれ。…まあ、そういうことなんだろう。

 

俺はそっと一言声をかけて、一足先に教室を後にした。…会議、サボりてぇ~。

 

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「全員はやいな。」

 

華美な私服を着飾った恵と櫛田。制服姿のままの洋介と鈴音。

性格は行動や習慣に出るというが、非常に分かりやすい構図になったな。

当然、この4人の待ち人は目の前の部屋の鍵を持っている俺だ。だが、遅れた俺に悪びれる様子はない。

 

「…言い訳するつもりもなさそうね。」

俺が手にぶら下げているパレットでテイクアウトした商品袋を見て鈴音は目を細めた。

吊り上がった眉を見るに、既に5分近くは待たせていたようだ。ご立腹なのも仕方ない。

だが、こうなることを予想できない俺じゃない。

 

「心配しなくても、人数分ある。」

「新作も!?」

「ああ。勿論だ。」

「最高~っ。やっぱ、これ映える~」

商品袋を覗き込んで、現物を確認した恵は白い歯を出して笑う。

すこぶる機嫌のよくなった恵を見て扱いやすいなと思う。

チョロインなんて揶揄されるヒロインが現実に飛び出してきたみたいだ。

まあ、こういうタイプは往々にして機嫌を損ねるのもはやいわけだが。

 

「待たせているとこ悪いが追加で2分待ってくれ。部屋が散らかっている」

「貴方、正気?本末転倒って言葉を知っているかしら?」

「俺の部屋をいきなり会議場所に設定したお前が悪い。」

俺は4人を放置して部屋に入りドアを強引に閉める。

間違いなく鈴音は取り付く島もない俺に悪態をつくだろう。

だが既に俺の作戦は完了している。飲み物で懐柔した恵がいい具合に俺をかばってくれるだろう。

 

「一体何を考えているの。」

「いいじゃん。2分くらい待とうよ」

「堀北さん。綾小路君も男の子なんだよ?ほら…その、ね」

「え、待って。櫛田さん。そ、そういうことっ!?」 

「何を言ってるの?私は例え部屋に遺体が転がっていようと気にしないわ。」

ドア越しに聞こえてくる会話を聞いて思う。この会話に巻き込まれる洋介が可哀想で仕方がないと。

それに、男子のそういう事情にも理解ありますよ的なオーラ出している櫛田だが、俺が一番危惧しているのはお前との痴情の痕跡なんだが?

あと鈴音。お前は流石に遺体があったら気にしてくれ。てか、通報してくれ。

 

俺は2分間たっぷりと入念に掃除をして、4人を招き入れた。洋介の顔は心なしか若干やつれていた。洋介すまん。

 

「早速だけど…」

 

洋介は待っている間に会議の進行の仕方を決めていたのか、円滑に会議を進めていった。

どうなるかことやらと考えていたのは杞憂だと思えるほどの名司会だ。

 

洋介が場を進行して、櫛田や恵が横槍を入れ、鈴音が軌道修正する。

鈴音の軌道修正に恵が反発しないように洋介がしっかりと補足する。

洋介…成長したんですね。。いや、適応したというほうが正しいかもしれない。

 

一方、借りてきた猫のように黙っている俺は新作のパンプキンフラペチーノを飲んでいた。

パンプキンと呼ばれる品種の味を再現するつもりもないようで、ただ糖分でぶん殴ってくるだけの味。全くの期待外れだった。

しつこいくらいの甘ったるさが舌に残る。どれくらいしつこいかといえば、山内くらいしつこい。それは相当だと理解頂けるだろう。

 

ちなみに恵は、俺が数合わせに買ってきたパレット一番人気のダークモカチップフラペチーノを飲んでいる。

『やっぱこれだわー』みたいな顔してるけど、直前で気が変わるのってギャルの習性か何かなの?

余ったもう一つの新作を飲んでいる洋介が可哀想だと思わないの?…俺は思わないです。

 

「綾小路君は?」

 

今度、食品掲示法違反でパレット訴えってやろうかなんて考えていると、恵にアバウトな質問を振られてしまう。

ムーディさんの如く話を右から左に聞き流していた俺は、とりあえずもう一口糖質の塊を胃に流し込み時間を稼ぐ。

…主語と述語抜くのってギャルの習性か何かなの?

 

「そうだな。まず、この特別試験において、俺達の一番の課題は理解しているか?」

 

俺はとりあえず質問に質問を返すことこの場を切り抜けようと試みる。

話を聞いていなかったことが悟られると居心地悪いしな。

質問の内容もわざと抽象的にしてあり、話の流れに違和感を持たせないようにしておいたのもミソだ。

 

「…え、何の話?これ、飲む?って聞いただけなんだけど」

 

困惑する恵の手の中には苺のフラペチーノがあった。あれは確か、櫛田が飲んでいたものだ。どうやら回し飲みしていたらしい。

会議はいつの間にお茶会に変わってしまったのだろうか。困惑したいのはこっちである。

 

というか、この回し飲みの文化は何なんだ?普通に衛生面が心配だ。

もしかして、彼女たちは前世が蛍なんだろうか。こっちのフラペチーノは甘いぞ。あっちのフラペチーノは苦いぞってな。

 

「今ならなんと、残り全部差し上げます!!」

「訪問販売の押し売りみたいに言うなよ…。てか、それゴミ押し付けたいだけだろ。残り一個しかないアルフォート押し付けてくるようなもんだ」

「いるかいらないかの2択で答えてください」

妙にテンションが高い櫛田。

だが彼女の笑顔は断る方に罪悪感を植え付けてくる。

自分の武器の使い方をとことん理解している。営業マンになればインセンティブで結構稼げるんじゃないだろうか。

 

俺としては、これ以上甘いものを摂取したくない。櫛田の笑顔を鑑みても是が非でも断りたいところだ。

だが、恵の質問に的外れにもほどがある回答をしてしまった手前、空気読んでおく他ない。

俺はそそのかされるままに苺のフラペチーノを受け取った。

 

だが、この流れなら代わりにこの新作を押し付ける口実に出来そうだ。

俺は言わずと知れたタダでは死なないタイプなのだ。

 

「じゃあ、代わりにこれを…」

「ううん。いらない。」

一切の迷いのない即答。貰ってばかりは悪いという、俺の心遣いを汲み取る気が一切ない。

なんでそんなに堂々と人の好意(?)を断れんだよ…。

目の行き場を失った俺の目は一通り泳いだ挙句、恵に留まる。

もしかすると、最初新作を飲みたがっていた恵ならこの子をもらってくれるかもしれない。

 

「あ、あたし、今、ダークモカチップフラペチーノの口だから」

 

パレットの行列に並び、やっとの思いで購入できた時はこの新作のフラペチーノが我が子のように思えていた。

今では親の仇のように見える。まあ、俺は親が仇みたいなもんだが…。

なぜ俺がセンスないみたいな目を二人に向けられなきゃならないのか。おのれ…、パレット絶対に許さん。

 

「学力の格差。言うまでもないわね」

 

俺達のやり取りを静観していた鈴音は一転して、会話の隙間を狙いすましたかのように発言した。

…発展性のない時間に嫌気が差して、我慢できなかったのだろう。

内容は突拍子にないものに聞こえるが、これは俺がさきほど投げかけた質問の答えだ。

だが、それを理解できかった恵は「何、急に。」みたいな顔している。もし、相手が鈴音じゃなく、外村や幸村なら、語尾にキモ。までついてそうな表情だ。

仲良くしてくれよ…。あ、鈴音はこれいる?…なんて聞けばキレて帰りそうだな。やめとこう。

 

結局、俺の手元には糖尿病の元が二つになってしまった。ババ抜きでババを持たされた気分だ。二枚揃ったし墓地に捨てていいかしら?

俺は一つ咳払いをして、余計な思考をかき消して鈴音に向き合う。えーと、なんだっけ、ああ。学力の格差の話ね。

 

「…その通りだ。成績上位10名だけを見れば俺達Dクラスの学力はAクラスと遜色ないどころが勝っていると言ってもいい。」

「嘆かわしい事実ね」

鈴音の言葉は恵を刺すような言葉。恵が顔を顰めていることに、下を向いて考えている鈴音は気づかない。

だが、事実は事実として受け止めなければ次には進めないのも事実。つまり事実は事実ってことだ!!

 

…脳みそに糖分が足りてないのを自覚する。何言ってんだ俺。

俺は気を取り直すように、櫛田から貰った苺のフラペチーノを飲んだ。…くそ、最初からこっちにしておけば良かった。

 

「課題といったが、悲観的なことじゃない。今のBクラスは頭打ちに近い学力だが、俺達Dクラスは違う。要は伸び幅が雲泥の差ということだ。」

「空っぽの方がいっぱい詰め込めるもんねっ」

お前らは勉強をしていないという事実をできるだけオブラートに包んだが、言い回しにも限界がある。

櫛田のサイヤ人みたいなフォローがなければ場の空気は重くなっていただろう。

 

「なるほど。清隆君は取り組む方向性について言ってるんだね。」

「そういうことだ。どうしてもアドバンテージは向こうにあるルールだしな。足並みをそろえないとまず勝てない」

「…嘆かわしいわね」

一見、巻き戻しに聞こえる鈴音の発言も一拍の溜めがあった。責任の一端は自分にもあると思っているのだろう。

洋介にしては耳の痛い話になる。だが事実は事実…この話はもういいか。

 

要は、この特別試験で競うのはクラスの合計点数だということだ。

 

「…どういうこと?」

「簡単に言えば軽井沢さん達の頑張り次第ってことだよ。大丈夫。僕たちもフォローするから。」

「ちょ、まって、平田君。それプレッシャー、マジヤバめ。期待されない方がまだいいかも」

「ビリギャルだって1年で慶応大学受かるんだしいけるよっ」

「いや、あれ映画でしょ!?」

「ノンフィクションだから大丈夫大丈夫!」

櫛田の斜め上からの説得に抑え込まれる恵。

学年ビリから某有名大学に受かる。創作物のような成り上がりのストーリーは信じ難いがノンフィクションだ。

だが、映画の尺には到底収まりきらない程の努力が存在していることを忘れてはならない。

 

「別に期待はしていないけれど退学したくなければ死に物狂いで頑張ることね。」

少し緩んだ空気に再び冷や水をかける鈴音。

だが、先ほどと違い優しさが垣間見えていることは明白。その事に気付かない恵ではない。

 

「…もしかして、堀北さんってツンデレ?」

「今更気付いたのか。あいつは血統書付きのツンデレだぞ。」

小声で俺に聞いてきた恵に俺は先程の発言を翻訳する。

『別にあんたのことなんか期待してないんだからねっ。勘違いしないでよねっ。退学して欲しくないんだからねっ!!……すき』

 

「googleの翻訳機くらい信用にならないんだけど?最後の方はもはやツンデレじゃないしっ!?」

俺のガバガバ翻訳に思わずツッコむ恵に顔は引きつった顔で固まっている。

ネットの知識を鵜呑みにしそうな彼女だが、google翻訳が当てにならないことは理解しているらしい。

一昔前はポカリスエットで翻訳かけたら汗ジュースって出てきたらしいしな、あれ。

 

「それに今のところ僕らは最善を進んできている。特にBクラスを相手に出来たことは大きい。搦め手で崩してくる龍園君や未知数の坂柳さんと戦うことを考えてみれば分かりやすいんじゃないかな。」

「ムリムリ!!龍園君なんて絶対ムリ!!」

分かりやすい対比を出して、締めと言わんばかりに洋介は鼓舞した。

ただ、恵は罰ゲームで陰キャと付き合わされそうになってるギャルみたいな反応してるが…。

俺としては、ああいう不良っぽい龍園とギャルっぽい軽井沢のカップリングは定番だと思うが…、うん。心に留めておこう。

 

「現状の分析はもう充分ね。では話を戻しましょうか。綾小路君の命運について。」

「…その話の結論は出たはずだよね?」

「綾小路君には引き続き講師役をやってもらう、だったわよね。だけど、それって貴方達二人の結論よね?」

論破王みたいになってます。鈴音さん。写像とか言い始めたらもう、本格的にそれだろう。

てか、俺が聞き流してた話って、俺の話なのかよ。聞いてないんだけど…。いや、正しくは聞いてなかったんだけど…。

 

「8科目の試験問題の作成。問題作成能力は勿論、相手を分析して思考の隙をつくことも必要。以上をふまえて、綾小路君が適任だと私は思う。」

 

鈴音は講師役は代わりがいるが、試験問題の作成はそうはいかないとも補足した。

極端な話、講師役は増やせるだけ増やしたほうがいい。だが、問題作成は逆で人数を減らせるだけ減らしたほうが情報流出のリスクが少ない。

まるでPRのような丁寧な説明だなと思う。…これ、俺が話聞いてなかったことバレてるな。

そう勘づいた矢先、鈴音は俺に質問を投げかけてきた。

 

「綾小路君。感情的じゃない忌憚のない意見を聞かせてもらえるかしら。私はそれを尊重するわ」

 

俺の非協力的な態度に気付かないフリをしてやるから、いい答えを聞かせろ。そういうことだろう。

だが、櫛田の手前、二つ返事で鈴音の提案をのむわけにはいかない。

提案としては魅力的で仕方ないんだけどな…。講師役より一人で完結する問題作成の方が楽だし。

さて、どうしたものか。

 

「そうだな。…恵グループの講師役。今回、俺はそれに専念させてもらう。」

「…あ、当ったり前じゃない。今回の試験、綾小路君のペアはあたしなんだからっ」

「まあ、そういうことだ。」

自分の意見が肯定されたことがよほど嬉しかったのか、恵は立ち上がって宣言する。

正直、惜しい。講師役なんて俺は本当はやりたくない。

ただ、色々鑑みて、都合よく切り抜けられる方法はこれしかない。

 

「満足行ってないみたいだな」

「クラスが注力すべきは成績下位者のフォローアップってのは重々承知してる。だからこそ、私とあなたで問題作成をして、他の手の空いた人間でやるほうが最善よ。ペアがなんだという理由ならお断りね。」

「勝手なこと言わないでよね。綾小路君が教えてくれないなら、私の成績はもっと酷かったんだからっ」

胸張って情けないことを言う恵だが、その理屈じゃ鈴音は丸めこめない。

その証拠に鈴音は彼女に目すら向けていない。

 

「550点。最低ラインとして、恵グループ一人あたりこれだけ保証しよう。」

「…」

これなら、俺が講師役をやる動機としては十分すぎる担保。

俺が問題作成をしたとして、相手の点数を下げれる保証はない。話は決まった。

 

俺の宣言に恵は焦ったように携帯の電卓で550÷8を計算している。

あれ、あなたが飲んでたのフラペチーノじゃなくて青汁だっけって思うほど青ざめている。

俺の宣言の難しさを演出してくれてありがとう、恵。

 

「大言壮語。」

「そうじゃないことは知っているだろう。」

「出来なければ、貴方を山内君と呼ぶから。」

…それは、嫌すぎるな。

この後、やり方は俺に一任する旨まで取り付けることに成功した。サボる口実もできたし、中々の収穫だ。

 

「…堀北さん。問題作成は良かったら僕が」

「必要ないわ。櫛田さん。問題作成をお願いできるかしら。」

「…えっ!?わ、私!?」

不意打ちを食らった櫛田が裏返った声で驚く。

まさか俺も、洋介の提案を一蹴して、澱みなく櫛田を指名するとは思わなかった。驚くのも無理はない。

 

「貴方、勉強を教えている時、教師の出題パターンや癖まで教えているわよね?私はそこまで見込んだ上で話をしているわ」

鈴音は思ったよりも、櫛田のことを評価している。それによく見ているようだ。

櫛田からの鈴音の印象は飽きるほど聞かされているが、その逆は新鮮だな。

 

「ありがとう。でも無理だと思うな。問題なんか作ったことないし、私は教えるほうが向いてるよ。」

 

鈴音の賛辞を聞いても、眉一つ動かさず櫛田は断固として断る姿勢だ。

2人が内心何を考えているかは分からない。だが、表面的な言葉以外でも二人は戦っている。それだけは確か。

…俺の悪い癖だ。源泉のような好奇心が俺の理性を破壊する。

 

「櫛田って、思ったより自己評価低いよな。ここにいる櫛田以外のみんなはできると思ってるんじゃないか?二人はどう思う?」

「…櫛田さんがやりたくなかったらごめん。でも僕も櫛田さんが適任だと思う。櫛田さんの周りを見る力はきっと武器になる。良かったら力を貸してくれないかな」

「そ、そうそうっ。てか、こんな大事な役割櫛田さんにしか任せられないしっ。」

洋介と軽井沢を巻き込んでしまえば、逃げ場はなくなる。

表の櫛田は頼られてしまうと断れないように出来ている。

 

「…。ありがとう。皆。私、頑張ってみるよ」

 

照れるように後頭部をかきながら、櫛田は問題作成役を引き受けた。

後頭部をかきむしりたい衝動を必死に殺していることだろう。将来、禿げそうだなあ、櫛田は。

 

今日は入念に戸締りして寝よう。そう心に決めた。





長らく更新できてなくてすいません。


駄文ですがお納めください。


次回は多分、すぐ出します。



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