綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話 作:ファウストの劫罰
#6 政府の監獄に世間の常識は通用しない
その日の昼休み。
堀北は昼休みに入って早々に教室を後にした。
彼女はポイント節約のためか、弁当を持参していて、席で昼食を摂ることが多い。
俺は堀北の行動が気になって後をつけることにした。
迷いのない足取りで進んだ先は生徒指導室だった。
堀北は中にいた茶柱先生に招かれ、その部屋に吸い込まれていく。
ドアが閉まったのを確認して俺はドアの傍により聞き耳を立てた。
「それで私に話とはなんだ?堀北」
「率直に伺います。何故私が、Dクラスに選ばれたのでしょうか。」
堀北は心の中に鬱憤が溜まっているのか、いつもより声が少し大きくなっていて、生徒指導室のドア越しでも微かに聞こえてくる。
「先生は本日、優秀な生徒からAクラスへ選ばれたと言いました。そしてDクラスは最後の砦だと。」
「私が言ったことは事実だ。どうやら、お前は自分が優秀だと思っているようだな。」
「入試問題はほとんど解けていますし、面接でもミスをした覚えはありません。少なくともDクラスになるとは思えないんです。」
堀北は自分が優秀だと思っているタイプだ。
それに間違いはなく、先日の小テストも結果は同率1位に名を連ねていた。
「確かに、お前の入試結果は1年の中で同率3位に名を連ねている。面接でも特別注視される問題点も見つかっていない。十分すぎる出来だな」
「では、どうして……」
堀北はよほど不服なのか、茶柱先生の言葉に割って入るように問いかける。
「おいおい、いつから学力が高いものが優秀なクラスに入れると錯覚していた?」
「そ、それは――常識の話をしてるんです」
「常識?その常識とやらが、この常識外の施設で適用されると思っているのか?外部との関わりを完全にシャットアウトさせて、3年間幽閉しているようなものだぞ。」
「ここは優秀な人材教育を目的とした学校だ。ただ単にテストの点数が高く取れるだけの人間を排出する目的なら、その辺の進学校と何ら変わりはないとは思わないか?」
「…」
「それに、学力だけで優秀さが決まるなんてお前も本当は思っていないんだろう?須藤や池といった、学力で劣っている生徒を身近で目にしてきたはずだ。仮に学力だけで優劣を決める学校なのであれば、彼等が入学できたと思うのか?」
矢継ぎ早に繰り出される茶柱先生の話に堀北は押し黙っているよう。
「私はそれを聞いた上でも、納得できません。私がDクラスに配属されたのが事実かどうか再度確認を願います」
「同じことだ。こちらのミスは一切無い。お前はDクラスになるべくしてなった。それだけだ。」
それでも堀北は諦めないようだ。
「……そうですか。では上に改めて聞くことにします」
「上に掛け合っても同じことだ。それに悲観する必要は無い。卒業までにAクラスに上がる可能性は残されている」
「簡単な道のりには思えません。未熟なものが集まるDクラスがAクラスよりも優れたポイントを取るなんて不可能じゃないでしょうか」
「それは私の知ったことじゃない。その無謀な道のりを目指すか目指さないかは個人の自由だ。だが、お前に取れる手段は2つだけ。このままDクラスで配属されたことに不平不満を漏らしながら指を咥えて卒業まで過ごすか。死に物狂いでAクラスを目指すかのどちらかだ」
堀北は大きく間をおいた上で話し始める。
「上に確認した上で、本当にその二択しかないことが分かった時、私はAクラスを目指します」
「そうか…。では話はこれで終わりか?」
「……はい。今日のところはこれで失礼します。ですが私が納得していないことだけ覚えておいてください」
「分かった。覚えておこう。」
俺は話が切り上げる雰囲気を感じ取ってその場を後にすることを決めた。
生徒指導室の前には、監視カメラがあり俺の盗聴まがいの行為は茶柱先生には既に漏れていると考えるべきだろう。
生徒との個人の話し合いの場を設けておいて、他人に聞かれる可能性を排除しないのは考えにくいからな。
それに、鬱憤が溜まっていて声が大きくなっていた堀北だけでなく、茶柱先生の声もよく聞こえた。もしかしたら、俺に聞かせる意図もあったのかもしれない。
――――――――――――――――――――――――
放課後になり、平田主催の話し合いは始まろうとしていた。
場所は学校にあるパレットというカフェだ。堀北は嫌々ではあるもののついてくる。
メンバーは平田、俺、堀北、櫛田、松下、みーちゃん、軽井沢、篠原、幸村の9名だった。
クラスの約4分の1だ。
今朝、怒り心頭の幸村がこの場にいることは意外だった。
解決の糸口が見えない現状に何か手掛かりを探しに来たのかもしれないな。真剣な顔付きだ。
一方、篠原は話し合いに来たと言うよりは軽井沢について来たようだ。明らかに緩い空気を纏っている。
俺の右隣には堀北。そして、左隣にはその篠原が座った。
「今日は、集まってくれてありがとう。これからの事を少しの時間でもいいからこのメンバーで話し合いたいと思ってるんだ。何か意見がある人は気軽に言って欲しい。」
「はいはーい!私思ったんだけど、遅刻欠席や授業態度の指摘された数から、それぞれのマイナスの詳細って予想できるんじゃないー?」
軽井沢は軽いノリで本当に気軽に発言していく。
その発言には当然のように篠原も賛成し、発言力としては大きくなっていく。
だが、その計算には意味が無い。この状況だけでは、どう足掻いても机上の空論にしかならない上、マイナスさせないことが大前提としてあるからだ。
堀北と幸村はそんな様子を見て、少し落胆したような表情をしている。
メンバーを見た時から、軽井沢が台頭して、真剣な話し合いにはならないと俺は察していたが、2人は意義のある話し合いを所望のようだ。
このままでは、幸村、堀北の二人が参加してる意味はなくなるだろう。
「俺から補足でちょっといいか?」
軽井沢を中心に軽いノリで盛り上がりつつある状況に一石投じることにする。
堀北は俺が発言すると思っていなかったのか驚いている。
平田は快く発言を促してくれる。
「その計算をしても信憑性のある数字にはならない。正直に言って、無駄じゃないか?」
幸平や堀北が思っていても言わなかったことを俺は言う。
平田も薄々そう感じていたかもしれない。
だが、それを言うだけではただ話し合いの場に水を差しただけ。これでは一石にはなら無い。
少し空気が冷めていくのを感じる。冷め切る前に俺は熱を投下する。
「ああ、悪い。言葉足らずだった。今の状況ではって話だ。俺らのクラスは評価0で0以下にはならないという条件がある以上、正しい数字を割り出すのは不可能だ。だけど他のクラスは違うんじゃないか?」
俺の言葉を聞いて、篠原以外はなるほどと理解を示した。
俺は左隣の篠原が理解を示してないのを見て、篠原の耳に手を寄せて小さい声でさらに分かりやすく補足する。
大きな声で説明すれば、篠原だけ理解してないと思われてしまう。実際にそうなのだが、それを周知に晒されるのは嫌だろうと思っての行動だ。
「なるほど。綾小路の言う通りだ。さっきまでの議論は正直言って無駄に感じていた。だけど、綾小路の提案したやり方なら意義はあると思う」
幸村は俺に賛成のようだ。
その前の議論を貶すような発言は蛇足に極まりなかったが…。
「僕も幸村くんと同じで綾小路君の意見は良いと思った。皆はどうかな。」
平田の早めのフォローもあり、幸村の失言を咎めるタイミングもなくなった。この辺は見習わなきゃな。
「さんせ〜い。綾小路くん、頭良いね〜」
軽井沢がいち早く、乗っかることで、俺の提案はすんなり通る。篠原も俺の意見に大賛成の様ではしゃいでいる。
「確かに。綾小路は小テストの点も上位だったな。」
幸村は頭がいいの部分を拾ってかそんな風に零す。
「そうだね。綾小路くんはクラスで上から4番目だ」
平田は俺の情報を嬉しそうに話して返す。
なんで嬉しそうなんですかね。。
ちなみに平田は俺についで5位だ。
「今回の小テストは比較的簡単な問題も多かったからな。たまたま良い点が取れた」
俺はそんな風に言っておく。
自己紹介で、勉強が得意と言ってしまった以上は、そこそこの点を取っておくべきだと思い、その発言が嘘にならないように調整しておいた。
Cクラスの詳細は俺が事前に椎名に聞いておいたのでそれを皆に見せる。
その後、Aクラスは櫛田の友達から、Bクラスは平田が同じ部活の仲間から詳細を教えてもらう。
櫛田は俺と同じく部活に入っていないが、順調に交友関係を広げているようだ。
校内の生徒、全員友達計画は本気だったんだな。
「綾小路くんのおかげだよ。これで、少しでも、抑止力になればと思う。今日は来てくれてありがとう」
結果から言うと、遅刻欠席、私語など、どれも1回によるポイント減点は馬鹿にできないほど大きいものだった。
「いや、この場を設けてくれた平田のおかげだ。それに、櫛田も言っていたが、まだ入学して1ヶ月だ。ポイントの増やし方は分かっていないが、必ずその機会はやってくると思う。そして俺は、その最初の機会は3週間後の中間テストじゃないかと思っている」
「僕もその可能性は十分あると思う」
「ああ、もしかしたら、そうじゃない可能性も捨てきれない。だが、そうであることを想定して行動するに超したことは無いんじゃないか?」
先程、俺の導きにより、果が1つ得られた実績もあるため、俺の言葉はこの場において説得力を増している。
「綾小路くんって何気に切れ者だったりする?なんか全部その通りな気がしてきた〜」
軽井沢が俺の発言に軽いノリで褒める発言をする。
それを仕切りに俺に対しての賛辞が飛び交う。櫛田もそれに便乗するように褒めているが、内心は計り知れないな。
「綾小路くんの言う通りだね。茶柱先生の言ってた退学って話もある事だし、勉強が苦手な人へのフォローはするつもりだったんだ。そこにプラス要素としてポイントが得られるかもってことになれば勉強のモチベーションに繋がるかもしれない。すごく参考になる意見だった。」
平田からも賞賛を貰う。そして、勉強会は既に考えていたと言うのだから驚きだ。
簡単に言えることでもない。ましてや部活動に所属している彼なら特に。
一頻り時間が経って、この集まりはお開きとなった。
結局堀北は話を聞いていただけで何も発言しなかった。
三々五々にこの場を去っていく。
幸村と堀北は颯爽と帰り、平田も部活に行った。櫛田もこの後、先輩との約束ががあるらしく帰って行った。
残っているのは雑談していて、帰る素振りを見せない軽井沢・松下・みーちゃん・篠原だ。俺は4人に話しかけられ、帰る機会を失っていた。
「綾小路くん。さっきはありがとね。」
隣の篠原が顔を赤くして小さくそんな風にお礼をしてくる。俺がさっきフォローしたことに対してだろう。
「気にしなくていい」
俺はそれだけ短く返した。
だが、この少人数で1:1で会話している様子は短い会話でも目立っでしまう。
「なんか、そこ、さっきからイチャイチャしてない?」
軽井沢からそんな風にいじられる。
篠原は全力で手を振って否定する。
なんというか、これはこれで傷付くな。
「それより軽井沢はテスト大丈夫なのか?」
空気の流れを変えるために、軽井沢に言葉を返す。
だが、俺の返しは意図せず篠原に刺さる。
軽井沢は今回の小テストではギリギリ赤点組ではなかったが、篠原はその赤点組の生徒に他ならなかったからだ。
「ちょっと、自分が勉強できるからって失礼なんですけど〜」
篠原がショックを受けてる様子を見て軽井沢がそう軽口で非難するように言う。
「いや、私が勉強サボってたからだから。」
篠原は俺に非が無いことを軽井沢に対して伝える。
篠原は基本的に軽井沢のイエスマンなだけに、篠原を庇った軽井沢にしてはそう言われることは意外だったかもしれない。少し面食らった表情に見えた。
「大丈夫だ。勉強は明日から始めても全然遅くない。それに平田も明日から勉強会を開くそうだしな。」
「そ、そうだよね。うん。明日から頑張る」
そう言う篠原の顔には決意がみえた。まあ、入学して1ヶ月。退学するのは嫌だろう。
ただ、明日から頑張るは頑張らないやつのセリフなんだけどな。
「俺はもうそろそろ帰ろうと思う」
俺がそう言って席を立つ。軽井沢と篠原が残りそうな様子を見てか、松下とみーちゃんも残ることを決めたようだ。
4人に手を振られ、俺はその場を後にした。
俺はそのままの足で図書室に寄ることにした。
図書室には、初日の様な静けさはもう無く、人の気配があちらこちらでした。
まだ、いるといいんだが…。
俺が周りを見渡してると、後ろから目を塞がれる。
「ふふ、誰でしょうか」
俺と椎名の身長差では、椎名が後ろから俺の目を塞ぐには中々無理をしないといけないわけで、背中に柔らかい感触がじわりと広がっている。
「さあ、皆目見当もつかないな」
俺は嘘をつく。何のためについた嘘かなんてのは言うまでもない。
「当たるまで、解放してあげませんよ」
別のところは当たってる訳だが…。
「この屈強な体付き。山田アルベルトじゃないか?」
俺は時々廊下ですれ違ったことのある、Cクラスの山田アルベルトの名前を出した。
「そんな訳ないじゃないですか。怒りますよ」
どうやら、山田アルベルトに間違えられるのは流石に心外だったらしい。
「ていうか、体付きととかじゃなくて、声で判断…」
俺はその椎名が何かを感じとった様子で自分の失言に気づいた。
この目を塞いで後ろから誰でしょうかという些細なゲームは声で判断するのが普通なのでは無いかと。
椎名は飛び跳ねるように俺から離れた。
俺は何も無かったように話しかける。
「あ、椎名だったか。全然分からなかった」
「綾小路くん。流石に白々しいですよ」
流石に誤魔化し切れなかったようだ。
「綾小路くんってムッツリなんですか?」
「ムッツリってどういう事だ?」
俺は本当に聞き覚えのなかった単語を聞き返す。
「もういいです。えっち」
椎名は俺の様子を見て、そんなことを言ってくる。
はぐらかされたように受け取られたらしい。
ムッツリ。後で調べておこう。
少し臍を曲げたような椎名について行き、図書室の一角にある机に椎名と正面になるように座る。
「椎名。さっきはメッセージありがとう。助かったよ」
俺の今日の本題はこっちだ。
メッセージでもお礼はしたが、直接の方が伝わるだろう。
「いえ、Dクラスの綾小路くんが大変なことは今朝のホームルームで分かりましたので。少しでも力になれたなら良かったです。」
椎名は前もクラスの垣根を越えて仲良くするのが1番だと言っていた。
そして、本当に心配そうな顔で話題を振ってくる。
「ポイント大丈夫ですか?」
…スロカスの彼氏にお金を工面する女の子みたいだった。
「ああ、元々、物欲がそんなにないからな。クラスメイトよりは使ってないと思う。それに、椎名が本を貸してくれたり、図書室で借りたりと俺の趣味はポイントがあまりかからないんだ」
「私も綾小路君に貸したくて貸してるのですが、そう言われると妙な気持ちになりますね」
「本を借りているのも、今日のメッセージもいつも助かってる。今度、お礼させてくれ」
それを聞いた椎名は笑いながら答える。
「ふふ。なんか、私が無理やりお礼をおねだりしたみたいになってませんか?」
「そんなことは無い。お礼したい気持ちはほんとにある」
「なら、期待しちゃいますがいいんですね?」
「ハードルは低めに設定しておいてくれよ」
「大丈夫です。私は綾小路くんにとって、安く済む女ですから」
先程の俺の発言を皮肉気味に返してくる。
「その言い方は、俺にとっても椎名にとっても印象が良くないと思うけどな」
「そうですか?私は嫌ではありませんけどね」
「どういう意味だ?」
「さあ。どういう意味でしょう」
その真意は椎名の口から明かされることはなかった。
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5月に入って、2週間は流れるように過ぎた。
授業態度と遅刻欠席は完全に改善されたと言っていい。
須藤も他の人から避難の目を浴びるのは面倒なようで、真面目に過ごしている。
今月の中間テストでポイントを得られるかもしれないことと、ポイントのマイナスが大きいため、一人の責任が重いことが分かったことも授業態度の改善を背中押したのだろう。
そして、大半の生徒達は平田大先生指導の元、中間テストに向けて放課後は勉強会に勤しんだ。
部活に入ってなかった俺も教える側として平田に頼まれ参加する。幸村と堀北にも頼んだそうだが断られたと言っていた。
勉強会で俺が教えていたのは軽井沢が中心グループだ。
軽井沢から「私。今。ピンチ。助けて。篠原さんも。ピンチ。助けて。」とメッセージが来たからだ。
実際はもっとこの文をギャルギャルしくした感じできたが、要約するとこうだ。
まあ、軽井沢には助けてやる義理はあったため、平田に図ってもらい、軽井沢のグループに教える運びとなった。
軽井沢の中心としたグループは7.8人で構成されており、全体的に学力が低めではあった。
だが、そこそこ飲み込みが早い連中で、まあまあ教え甲斐があったのも事実だ。普段真面目に授業を受けてないだけで地頭はそんなに悪くないのだろう。
放課後教室で2時間の勉強。それだけでは間に合わないと判断して、俺はそこでついていけてなかった人に対して個別で帰った後の夜、通話しながら復習しないかと提案した。
軽井沢のグループのいい所は基本的に軽井沢にイエスマンな皆は、俺の提案を軽井沢が承諾すれば、それはもう可決も同然なところだ。
俺の提案した、勉強法は大成功で面白いくらいに軽井沢グループの学力は伸びた。(テスト範囲に限った学力だが)
テスト1週間前だが、この中から退学者が出ることはまず無いだろう。
残る懸念は勉強会に参加していない赤点組。須藤・佐倉の2人だ。
平田と完全に対立してしまった須藤は、放課後は直ぐにバスケ部に行く。
佐倉も最初の勉強会一日目は参加していたが、馴染めなかったようで、来なくなってしまう。平田が聞いた話によると1人で勉強しているようだが、どこまで身に付くか未知数だ。これは、他の手が必要になってくるだろう。
――――――――――――――――――――――――
その日の昼休み。
「堀北。勉強は進んでいるか?」
「藪から棒に何?」
「いや、堀北が赤点を取って退学するのは寂しいなと思っただけだ。」
「よく、そんな心にもないことを言えるわね。安心して。もし、私がテストで退学する時があるなら、その時はあなたも退学してるから。」
よほど自分の学力に自信があるようだ。
「それに、貴方が他の人に勉強を教えている間、私は自分の勉強をしている。差が開き続けていることに気付いた方がいいんじゃないかしら。」
「本当にそう思っているのか?」
「……」
堀北は答えない。
俺がこないだ、仄めかした中間テストがプラスの要素の可能性。
十中八九、堀北もその可能性を信じている。
平田や俺がやっているのはそのプラス要素を底上げする行為。
Aクラスを目指している堀北はそれを否定することは出来ない。
ただ、自分には向いてない。それだけは感じ取っている事だろう。
「貴方が、そっち側だとは思わなかったわ。」
堀北は俺の自己紹介の時いなかった。裏で親睦会に参加しているのも知らない。
堀北の見えないところで友達の輪を広げていることも知らない。
せいぜい、みーちゃんが教室で1度俺を誘ってきたところを見たくらい。
だから、堀北は俺に仲間意識のようなものを感じ取っていたかもしれない。
隣の席いる私に話しかけてくるくらいしか出来ない奴だと思っていてもおかしくない。
5月1日の放課後。
俺があの場で発言をした時から、堀北から俺に話しかけてくることは無くなった。
あの時に知ったのだろう。俺は別に人付き合いが苦手な訳じゃないと。勉強会に参加し、人に上手く教えるポテンシャルがあることを。
「堀北。Aクラスを目指しているんだろ?」
「ええ。私がDクラスなのはおかしいもの。」
「なら、分かっているんだろ?Aクラスに上がるためにどうすればいいかくらい」
「分かってるわ」
堀北だけが勉強が出来て、スポーツが出来ても、Aクラスには上がれない。
「なら適材適所だ。俺には俺がやるべき事を。お前はお前がやるべき事を。」
「不自然ね。あなたはAクラスに興味が無いんじゃなかったの?」
「言っただろ?ポイントの方が俺にとっては重要だって」
「なるほどね。それで?」
「お互い、利害は一致してるんだ。協力すべきだとは思わないか?」
「……貴方は平田くんとは違うわね。」
そりゃそうだ。俺を平田大先生と比べるなんて間違ってる。
堀北はこの2週間、俺と平田がクラスの為に奔走してるのを茶柱先生の言った通り指を咥えて見てるしか出来無かった。
プライドの高いこいつがそれに不甲斐なさを覚えるのは想像に容易い。
平田はそんな堀北を見て、勉強会の運営に誘ったが、それは堀北向きじゃない。
「ああ」
「いいわ。その話のってあげる。私には私の出来ることをする。」
「ああ。俺も俺に出来ることをする」
堀北は平田の勉強会だけでは補えていない部分に気付いている。
平田や櫛田もそれに気付いているが、他の生徒大半を抱えている分明らかにキャパオーバーで手が回せない。
こうして焚き付けてしまえば、堀北は須藤や佐倉に対して何らかのアクションを起こすに違いないだろう。
そして、それは間違いなく失敗する。俺にはその未来が易々と想像できてしまった。
堀北は勉強が出来ない人間を下に見ているからだ。
次回。大きく話が動く予定ではあります。
今回の補足
どう考えても、堀北がDクラスなのはおかしい。
その辺の説明は原作でも、堀北じゃないが納得できない笑
なので、少しそれっぽく変えてます。あまり話には影響ない部分ですのでお気になさらず。
茶柱先生のテスト範囲伝え忘れてた云々の流れは無かったことにします。