綾小路がAクラス卒業ではなく童貞卒業を目指す話   作:ファウストの劫罰

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#7 独活の大木に未来は無い

 

俺は教室を見渡す。

1ヶ月前と同じ生徒とは思えないくらい、このクラスは変わった。

だが、これはゴールではなくスタートライン。

 

不良が少し真面目に努力して褒められるのは漫画の世界だけ。

須藤は一見、真面目に授業を受けているように見えるが、以前が一日中寝ていたたたから、ギャップでそう見えるだけだ。

集中力の散漫が目に取れるように、時計に目をやり、ノートも取っているようには見えない。

 

これで誰が須藤を認めようというのか。

 

午前中の授業は終わり、昼休みが始まる。

 

須藤は教室をすぐに出て行った。バスケ部の昼練習をするつもりだろう。

隣の席の堀北も、もう居ない。いつも教室で弁当を食べている彼女が昼休みに教室を出る理由は1つだろう。

 

俺も俺がやるべき事やる。

間違ってもAクラスに上がるためでは無い。他でもない俺の計画のために。

 

「平田。ちょっといいか?」

 

昼休みがはじまってすぐ、クラスの女子生徒達の中心にいる平田に近付いて声をかける。そのほとんどは、平田が勉強会の時に教えている生徒達だ。その中にはみーちゃんもいる。

 

彼は先程まで居心地の悪そうな苦笑いを浮かべていたが、俺を見て、何処か安堵したような表情になる。

彼は囲まれていた女子生徒の包囲網を断りを入れつつ突破して出てくるとはにかんだ。

 

「綾小路くんが僕に話しかけてくるなんて初めてだね」

 

そう言われるとそうかもしれない。

だが、それは些事だろう。そんなに嬉しそうな顔をしないでもらいたい。

 

「ああ。悪いが昼休み。付き合ってくれないか?」

 

それを聞いていた平田を囲んでいた女子生徒達が黄色い声援をあげる。

いくら多様性の時代と言えど俺の恋愛対象は女性だけだ。

 

「うん。喜んで。2人の方がいいかな?」

「ああ。そう頼もうとしてたところだ」

 

平田は俺が要求しようとしてきたことを先取りして確認を取ってくる。

この辺の察する能力はこの男には敵わないな。

 

彼は先程の女子生徒達と昼の約束をしていたのだろう。

囲む女子生徒達に断りを入れる。女子生徒達は快く俺達を送り出してくれた。

少し、無粋な勘繰りを感じるが気の所為だろう。うん。気の所為のはずだ。

 

「じゃあ、行こうか。」

「ああ。ちょっとみーちゃんに話があるから廊下まで先に行っててくれ。」

「分かった。」

平田は何も詳しく聞こうとはしない。

こういう気遣いも出来るのがこの男なのだ。

 

色男を廊下に待たせて、みーちゃんを手招きで呼ぶ。

 

「あ、綾小路くん。どうしたの?」

こころなしかいつもより顔が赤いみーちゃんに俺は顔を近付けて、周りに聞こえないように要件を伝える。

 

「多分、大丈夫だろうが、彼女らに俺達ふたりについてこないように言っといてもらえるか?俺の名前を出してもいい。兎に角、ついてこられると少し困るんだ」

「……」

「みーちゃん。聞いてるか?」

「あ、うん!ごめん。分かったよ。ついてこないように言えばいいんだねっ?」

「ああ。悪いけど頼む」

 

みーちゃんの顔は先程のこころなしか赤い顔が更にこころなしか赤くなっていた。なんかトートロジーっぽくなってしまった。

 

みーちゃんに頼んで、ついてこられないように保険をかけておく。

大所帯で行くと、今からすることに支障が出るからだ。

 

「もう一つだけ頼まれ事をしてくれるか?みーちゃんだから頼めることだ。」

 

わざと誇張して表現する。無論、みーちゃん以外にも頼むことは可能だ。

だが、みーちゃん以上の適任はいない。みーちゃんは自分を頼られることに喜びを覚えるタイプだからだ。

 

みーちゃんはその件も悩んだ末に了承してくれた。

 

「待たせたな平田。」

「ううん。全然待ってないから気にしないで。」

「じゃあ、食堂に行こう」

食堂に向かう途中、俺は平田に軽い雑談を振ることにする。

 

「平田も結構ポイントは使ったのか?」

「うん。そうだね。人付き合いもあるし、何より困ってる人にポイントを貸したりしてるから、余裕は無いかな。」

「具体的に何ポイントくらいあるのか聞いてもいいか?」

「少し言うのは恥ずかしいけど1万とちょっとしかないかな。」

 

平田の事だ。クラスメイトに貸してる部分が大半で、自分のために使った部分なんてほとんどないだろう。

平田大先生の苦労が知れた瞬間だった。

 

程なくして食堂についた。

俺は迷わず券売機で山菜定食を選ぶ。

 

「え、綾小路くん、山菜定食でいいの?」

「何を言ってるんだ。お前も山菜定食を食べるんだ。ポイントもかからないしお得だぞ。」

 

平田は訝しげな表情をしているが説明は後だ。

俺は平田の分も合わせて2つ山菜定食をカウンターで受け取る。それを片方、平田に渡す。

そして、席を探すフリをして、周りを見渡す。

 

「綾小路くん。あそこの席空いてそうだよ。」

平田のその気遣いを無視して、食堂全体を隈無く見ていく。

程なくして目的の人物を見つけた。

 

「よし。あそこだ。行くぞ平田。」

「え、うん。」

俺達は目的の生徒の前につき、腰を下ろした。

 

「すいません。先輩ですよね?」

「そうだけど。誰?」

その人物は警戒するように俺達を見る。

 

「俺は1年Dクラスの綾小路と言います。失礼ですが先輩もDクラスですよね?」

先輩は不快感を露わにして、怪訝そうに目を細める。

 

「それが何?冷やかしなら帰ってくんない?」

「少し相談があるんです。聞いて頂けたらお礼するつもりです。」

先輩方俺達の手元を見たと同時に、少し壁が薄くなったのを感じる。

 

俺達は先輩と同じ山菜定食のトレイを持っている。

同じ釜の飯を食らうもの同士、多少なりとも親近感はあるだろう。

 

「先輩が1年生の時の1学期の中間テストの問題とその前に実施された小テストの解答を持っていませんか?先輩じゃなくても、クラスメイトが過去問を持っているなら、それを譲ってもらいたいんです。」

「あんた、何言ってるか分かってるの?」

「別に不思議な事じゃないはずです。過去の問題を有益に利用することはルールに反していませんから」

「何で私に相談してきたの?」

「簡単です。ポイント不足に困ってそうな先輩であれば相談に乗ってくれると思ったからです。」

 

会話が成立する。感触として、いけると思った。

やはり、学年の壁を超えた交渉は珍しくない。

 

「…いくら払えるの?」

「1万ポイントなら払えます。」

「いくら何でも安すぎるわ。私だってリスクを払う必要がある。それくらい相談してきてるのだから分かるでしょ」

「ではいくらならいいんですか?」

「3万ポイント。最低でもそれくらいは無いと渡せない。」

「わかりました。自分たちの手持ちでは払えない額です。不躾な相談してすいませんでした」

そう言って俺は立ち上がる素振りを見せる。

 

「待って、手持ちのポイントは幾らなの?」

「俺達2人合わせて2万ポイントです。」

俺は携帯のプライベートポイントが表示された画面を見せる。平田にも目配せして見せるように指示する。

俺のポイントは9000ptで平田のポイントは1万2000ポイントだった。

 

「相当困ってるみたいね。」

「ええ。先輩は知ってるのか知りませんが、僕達のクラスポイントは今0Ptなんです。1万ポイントが出せる限界です。」

「0pt?嘘でしょ?」

 

何を隠そう本当だから悲しい。俺達はクラスポイントが表示された画面も見せる。

俺は平田にも頼むようにアイコンタクトを飛ばす。

 

「先輩。僕達は本当に困っているんです。クラスメイトを退学させたくないんです。どうか助けて貰えませんか?」

平田が頼むとその先輩は折れるようにため息をついた。

クラスメイトを退学させたくない。平田の思いが詰まったような言葉を聞いた時、先輩は少し動揺した。恐らく、先輩のクラスではもう何人か退学したのだろう。

 

「分かったわ。ただし、1万ポイント、今すぐに支払うこと。それで手を打ってあげる。」

俺は平田に頼んで、先輩にポイントを支払って貰う。

 

「うん?平田?アンタ、もしかしてサッカー部?」

「はい。サッカー部に入部してますがそれがどうかしましたか?」

「いえ、何でもないわ。少し話を聞いた覚えがあっただけ」

その先輩は焦りを隠すように携帯を操作する。

平田の携帯にメッセージが届き、目的のブツが手に入った。

 

「これでいいでしょ?もう行って?」

 

先輩は俺たちに早く退散して欲しいようだった。

俺達はすぐにその先輩から離れて、2人で座れる窓際の席まで移動する。

 

「悪いな。ポイントはすぐに返すから。」

「無理しなくてもいいよ。綾小路君も9000ptしかないんでしょ?」

俺は携帯でみーちゃんにメッセージを打つ。

みーちゃんから送られてきたのは送金リクエストだ。

そして、俺の元にみーちゃんに預けていた8万ポイントが返ってくる。

 

平田は俺の携帯の画面を見て全てが繋がったようだ。

 

「なるほど。綾小路くんが山菜定食を選んだ理由もそのポイント操作の理由も全部今分かったよ。」

「ああ。悪かったな。説明する暇がないまま合わせてもらって。」

 

俺は事前にみーちゃんにポイント預け、手持ちのポイントを減らしていた。

平田がポイントをクラスメイトに貸している話は知っていたから、手持ちのポイントが少ないのも予想ができた。

 

相手に手持ちのポイントをあけすけに表示する事で、相手の交渉額を無理矢理下げて、こっちの要求を押し付ける形にした。

そして、前代未聞のクラスポイント0ptの事実と俺達の持っていた山菜定食で困っていることにリアリティが増す。

 

それに、過去の産物を渡すだけでポイントを得られる機会を山菜定食を食べている先輩が逃すはずがないと高を括っていた。

女の先輩だったのは偶然だったが、平田がいたことでスムーズに話が進んだ。

 

俺は平田に借りた1万ポイントをすぐに返した。

クラスメイトの為だし、平田は返さなくていいというが、それは俺が困る。

1万ポイントをきっちり平田に返しておく。

 

「ほんとにいいの?綾小路くん。」

「ああ。」

「それよりそっちの話がしたい」

 

俺は平田の携帯に表示されたそれを指す。

平田に一通り見るように促す。

 

「この小テスト……僕たちが受けたものと同じだ」

「ああ。あの小テスト。最後の方の問題。難易度が高く設定されていた。あれは到底、高校一年が解ける範囲を超えた問題だった。なら、あの問題に限って学力以外の部分を測っていたに他ならない。もし、あの小テストを受ける前にこの解答を持っていたら全員が100点を取っていてもおかしくない。」

「なるほどね。よくその発想に辿り着いたね。」

 

「茶柱先生が言っていただろう。疑問を疑問のままにするなと。恐らくだがもう1つの中間テストも全く同じとまでは行かないかもしれないが、同じ内容であることは推察できる」

「……それはどうして?」

平田は考える素振りを見せたが、思い当たる節は無いようだ。

 

「茶柱先生は中間テストに対してこう言った。お前たちが赤点を取らずに乗り切る方法が確実にあると確信しているとな。変じゃないか?」

「確かにそうだね。あの時は色々衝撃の連続だったから気付かなかったけど、その言い方だとまるで…」

「そうだ。それが今回のケースでは過去問の解答用紙ということだ。だが、これはあくまで保険だ。解答だけ覚えて、全く違う問題が出て、退学なんて洒落にならないだろ?だから、これは試験前日に渡す」

 

「恐れ入ったよ。綾小路くんほど、現状を冷静に分析して、行動してる人は他にはいないよ。」

「それは買い被りだぞ。今回はたまたま悪知恵が働いただけだ。」

「謙虚なんだね。綾小路くんは」

もう平田の中では俺の高評価は固定されてしまったらしい。

 

「もう1つだけ頼んでいいか。その過去問は平田が皆に知らせてくれ。試験前日に広めてくれるならやり方とタイミングは任せる。」

平田は渋っていたが、俺は押し切る形でお願いした。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

放課後も堀北は奔走してるようだった。

教室を颯爽と出ていく須藤を追いかけるようにして出ていく。

 

俺はというと、放課後は勉強会の講師役を務めて、夜は皆の復習に付き合う。

それが終わった時には夜も更けて、時刻は23時を示していた。

 

結構喋ったこともあって喉の乾きを感じて、ロビーの自販機まで行く。無料のミネラルウォーターを購入して、喉に流し込む。

 

「ん?」

 

ロビーにあるエレベーターが映るモニターには制服姿の堀北が映っていた。

俺は自動販売機の陰に隠れて、堀北と鉢合わせるのを避ける。この時間に外出か?

警戒するように当たりを見渡した堀北は、ロビーの外に出ていった。

 

息を潜めて、堀北について行く。

寮の裏手で堀北の足が止まる。

 

「鈴音。こんなとこまで追ってくるとはな。」

その声には聞き覚えがあった。生徒会長だ。

 

「もう兄さんの知っている私とは違います。追いつくために来ました。」

「追いつく、か。お前は今もまだ、自分の欠点に気づいていない。この学校を選んだのは失敗だったな」

「すぐに、Aクラスに上がってみせます。そしたら――」

 

生徒会長は堀北に有無を言わせぬように食い気味に言う。

 

「無理だ。」

 

堀北は力ない声でそれに答える。

 

「絶対に辿り着きます…。」

「無理だと言っただろう。聞き分けのない妹だ。」

生徒会長は堀北の手を掴み、堀北を壁に押し付ける。

 

「Dクラスの不出来な妹。恥をかくのはこの私だ。今すぐこの学園を去れ」

「兄さん。私は……」

「お前には上を目指す資格も力もない。それを知れ」

堀北の体が前に引かれ、宙を浮く。直感的に危険だと判断する。

 

俺は影から飛び出し、堀北の手を掴む生徒会長の腕を掴み取り、動きを制限する。

 

「あんた、今本気で投げ飛ばそうとしてたろ。ここはコンクリだぞ。分かってるのか?」

「あ、綾小路くん!?」

「盗み聞きとは関心しないな」

「いいから彼女を離せ」

俺と生徒会長は睨み合い、暫しの沈黙が広がる。

 

「やめて、綾小路くん……」

堀北は力無く弱い声でそう俺に告げる。

俺はいつもの強気の堀北とは違う声を聞いて、生徒会長の腕を離す。

その瞬間、とてつもない速さの裏拳が俺の顔面を目掛けて飛んでくる。半身を仰け反らして避けると、続けて急所を狙った蹴りが飛んでくる。

 

「っぶね」

 

一切手加減のない攻撃で当たれば意識を失う威力が見て取れる。

 

「いい動きだな。なにか習っていたのか?」

「ピアノと書道なら」

「ふっ。中々ユニークな男だな。そういえば、今年の新入生の試験で全科目50点の生徒がいたな。その生徒は先日の小テストでは90点。もう、50点に揃える遊びは辞めたのか?」

 

「なんの事か分からないすね」

 

どうやら生徒会長となれば色々情報が入ってくるらしいな。個人の入試の成績なんてものまで知れるとはプライバシーもへったくれも無い。

 

「お前に友達がいたとはな。正直驚いた」

「彼は友達ではありません。ただのクラスメイトです。」

「相変わらず、孤高と孤独の意味を履き違えているようだな。鈴音。上のクラスに上がりたければ死に物狂いで足掻け。」

生徒会長は闇の中に消えていった。

 

地面に尻をついていた堀北に手を伸ばす。

堀北は俺の手は取らずに立ち上がって俺を睨むように見る。

 

「どこから聞いていたの?それと偶然?」

「ロビーの自販機で飲み物買っていたら、外に行くお前が見えた。ちょっと気になって追いかけてきた」

「はあ。変なところを見られちゃったわね」

「むしろ、堀北も普通の女の子なんだって分かって良かっ――ナンデモアリマセン」

 

短気なやつだ。すぐに睨む。

 

「綾小路くん、あなた、何を習っていたの?」

「言っただろ。ピアノと茶道だって」

「さっきは書道と言ってたけれど」

「書道もやってたんだ。」

「それに、入試テストの話もそう。貴方のこと。よく分からない」

分かられたら困るからな。

 

「須藤の件。どうだったんだ?」

「どうもこうもないわ。須藤君は私が手を差し伸べても掴まない。私の助言も全て彼の耳には届かないわ。」

「それで?」

「勉強なんて必要ない。プロのバスケットボール選手になるんだとか馬鹿みたいな幼稚な夢を見てる子供よ。目の前の嫌なことから逃げる人がプロになんてなれるはずがないわ。」

恐らくこれは、昼休みも放課後に須藤に付き纏って、垂れてきた講釈の再現とも言えるものだろう。

 

「それで、諦めたのか」

「貴方ねぇ。そもそも、貴方にも手が回らないから、私を焚き付けるようにして押し付けたんでしょう?」

堀北はもう見限っている。自分の不出来な結果を須藤に押し付けている。

 

「須藤くんに時間を割くだけ無駄だと判断したわ。なんのメリットもない」

「須藤は退学するぞ」

「むしろ、それがいいんじゃないかしら。今回のテストで退学するような生徒は早めに切り捨てる。今後、そんな彼らに手を煩わせることも無くなる。Aクラスを目指すのも必然的に容易くなるわ」

「その考え方は間違ってるんじゃないか?」

「え?」

「お前の欠点は他人を足手まといだと決めつけ、最初から突き放してる事だ。相手を見下すその考え方こそ、お前がDクラスに落とされた理由じゃないのか?」

 

堀北は唇を噛むように口を塞ぐ。

俺の言葉が鬱陶しくて仕方がないだろう。

 

「堀北。俺が今お前を諭すように言ってるのに腹が立ってるかもしれないが、これはいつものお前が他者に対する接し方なんだと気付いた方がいい。」

俺はミネラルウォーターを飲み干し、ペットボトルを潰す。

 

「退学者が出ればクラスにもペナルティが課せられるかもしれない。須藤はどうしようもない生徒だが、切り捨てる決断をするのはお前の兄さんの言う通り死に物狂いで足掻いてからするべきだな。」

俺はその言葉と堀北を残して、その場を後にした。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

試験前日。

 

3日前から須藤の授業態度は変わった。授業中もバスケで培った集中力を発揮して取り組み、授業の間の休憩時間でさえも堀北と共に復習に励んでいた。堀北は堀北なりに結果を出してみせたようだ。

 

――放課後――

 

「みんな。少しいいかな。中間テストに向けての勉強お疲れ様。それで明日の中間テストのことで力になれることがあるんだ。」

そう言って、平田はコピーされた去年の中間テストの過去問をみんなに配る。

 

「テストの問題?平田くんが作ったの?」

「いや、これは去年の中間テストの過去問なんだ。明日の中間テストもこれと同じか似たような問題が出てくる根拠もある。」

そう言って平田は小テストの話も付け加えて、過去問の信憑性を増していく。

 

「流石!平田くん!!」

 

クラスの面々から平田への賞賛が飛ぶ。

だが、この平田という男は、言われのない感謝を受け取ることを良しとしない。

 

「実はこれは僕じゃなくて、綾小路くんが見つけてきてくれたんだ」

平田から名指しされて、全員の視線がこちらに向く。

 

「ごめん。綾小路くん。言っちゃっても良かったよね?」

平田は俺の謙虚さまでアピールしてくれる。そこまでは望んでなかったが、概ね予想通りの展開だ。

 

「綾小路くん!ありがとう」

俺に対する感謝の弾幕が飛んでくる。

自分で仕向けたものとはいえ、反応に困るな…。

 

「ああ。どういたしまして」

 

俺は淡白に返すと、それが功を奏してか。

男子からはカッコつけんなよーと冷やかしが飛び、教室はテスト前とは思えない空気に包まれる。

 

「一躍、時の人ね。」

「俺は望んでないんだけどな」

堀北の皮肉にも返しておく。

 

「今日の勉強会は、この過去問の暗記に使おうと思うんだ。家で勉強する人も過去問の暗記に時間を使って欲しい。須藤くんもそれでいいかな?」

「ああ。ありがとう。平田。綾小路。あと、悪かった」

須藤が今までの非礼を謝った。須藤には考えられない行為だ。恐らく堀北が与えた変化だろう。士気の高まったクラスメイト一同は須藤の謝罪を受け入れた。

 

「じゃ、明日の中間テストがんばろー!」

櫛田の一声で、教室は一層、一致団結した。

 

――――――――――――――――――――――――

 

テスト当日。

欠席者もなく、中間テストは実施された。

流された中間テストは、過去問と同じ問題が並んでいた。見分けはほとんどつかない。

丸暗記してれば、満点に近い点数を出せることは容易いだろう。俺は全て満点で終えること決めた。

 

午前中は流れるように試験が終わっていき、残すは4限目の英語のみ。生徒達は皆、会心の出来に笑みが溢れていた。須藤を除いて。

10分の休み時間に必死に過去問と齧り付くような須藤に気づいた面々が声をかける。

 

「須藤、お前もしかして、過去問勉強しなかったのか?」

「英語だけ途中で寝落ちしちまったんだよ」

「「ええっ!?」」

堀北も席を立ち須藤の元に駆け寄る。

 

「須藤くん。点数配分の高いものだけ覚えましょう」

英語は他の教科と違い、暗記するのは難しい科目だ。

 

――――――――――――――――――――――――

 

須藤は最後まで抵抗していたが、どこまで頭に入ったかは未知数だ。英語の試験は始まった。

俺は当初の予定通り、英語の試験の問題を解き進めていく。

時折、須藤が机に頭をぶつける音が聞こえるが、もう誰も手を貸すことが出来ない。

 

――――――――――――――――――――――――

 

須藤曰く、非常に微妙な出来なことは確かなようだ。

だが、堀北は意外な言葉を須藤にかけた。

 

「過去問せずに寝落ちしたのはあなたの落ち度よ。でも、テスト4日前からあなたはあなたなりに出来る事をやってきた。手を抜いた結果じゃないのなら、胸を張っていいと思うわ」

「なんだよ似合わねぇな。慰めか?」

「慰め?これは私が思った事実よ。結果を待ちましょう」

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

「ではこれより、先日の中間テストの採点結果を発表する。」

 

須藤は祈るようにしていたが、他の生徒達は自信満々の顔付きだ。

次々に張り出されていくテストの結果。

あの時の小テストを思えば、見違えすぎた結果だ。

並ぶ100点の数は圧巻だった。

 

「正直、感心している。お前たちがこんな高得点を取れるとは思わなかった。」

「だが――」

茶柱先生は英語の39点の須藤の上にラインを引く。

 

「お前は赤点だ。須藤。」

 

安心したような須藤の顔は一気に曇っていく。

 

「は?ふざけんなよ!赤点は31点以下だろ?」

「誰が31点と言った。」

「いやいや、言ってたって!なぁみんな!」

須藤と仲良くなっていた池も庇うように言う。

 

茶柱先生は黒板に簡単な数式を書いていく。

 

84÷2=42

 

「平均点÷2が赤点のラインの求め方だ。前回の小テストも同じ方法で計算されている。」

 

須藤の点数は赤点ラインより3点も乖離している。

 

今回、全員が高得点を取りすぎたが故に起こった事故。

誰もがそれを痛感する。

 

須藤は喚いているが、茶柱先生はそれに取り合わない。

 

「先生、須藤くんの退学に対しての救済措置はないんですか!?」

「赤点を取ってしまった生徒は退学する。それが不変の決まりだ。お前も部活の先輩からそういう話は聞いたことくらいあるだろう?」

 

平田は慌てて、須藤の答案用紙の採点ミスを確認するがそれは見られない。完全に手詰まりだ。

 

「須藤。放課後、職員室で待っている。」

 

それだけ言い渡して、茶柱先生は去っていった。

 

櫛田も平田も、そして堀北も須藤が退学することに対して必死の抵抗を見せた。

だけど、テスト1週間前まで、クラスに反発していたこともあって、静観する生徒も多い。

そして、俺も紛れも無く、その一人だ。

 

その日をもって、須藤健はこの学校から名前と姿を消した。

 

 

 

 

 




ハーレムの世界線において、要らない存在ってなんだと思いますか?
ヤンデレ化する女?
上から目線でアドバイスしてくる同級生?

答えはハーレム対象を好きになる可能性なる男です。
まあ、作中の綾小路が須藤を助けなかった理由は完全に別にありますが。
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