シリアス入ります。
「―――ここは」
目が覚めると、真っ白な空間が広がっていた。
『やあやあ、ここで話すのは久々だねぇ』
頭の中で声が響き、ようやく状況を理解する。
「前回と違ってちゃんと身体がある状態だけど、私、死んだの?」
あのブレスは間違いなく私にぶち当たっていた筈だが。
『大丈夫、死んでないよ。僕が一時的にここに呼んだだけさ』
「あっそ。だったら早く帰してくれない? アンタなら分かってると思うけど、今大変なところなんだけど」
こうしている間に、あの化け物がどんな被害をもたらすか、分かったもんじゃない。早く戻ってギルとエルキドゥのサポートをしないと。
『行ってどうするんだい? 今のままで本当に勝てると思ってる?』
「……でも、行かないと」
確かに勝算なんてない。でも、私はあの二人の友達で、あの都市の神様だ。彼らが滅ぶのを黙って見過ごすことなんて―――
『まあまあ落ち着きなって。僕は
「……何か策があるっていうの?」
『That's right。君にあげたその肉体。君がよく育ててくれたお陰で器は整った。後は魂の格を上げるだけだ』
何いってんのコイツ。まったく意味が分からない。
『君には今の中途半端な状態から、本当の神になってもらう』
「本当の、神?」
『そうさ。生命としての規格を真神と同格にまで引き上げるんだ。そうすれば君は、今よりもずっとずっと強くなれる』
……それが本当なら、受けない手はない。でも、
「簡単に強くなれるなんて、そんな都合のいい方法あるわけない」
『あるさ。都合がいいなんて今更だろ? 僕の力で、転生して、現地人の言葉も分かる上に女神すら倒せるチートがあって、歴史を変えても抑止力に目をつけられない。十分都合がいいことが何の対価もなしに成立している』
「それは……」
確かにそれはその通りだ。今まで意識したことがないわけではないが、改めて自分を振り返ってみれば、随分都合が良い道のりを歩んでいる。
『――まぁ、今回はノーリスクとはいかないけどね。その点で言えば、君の懸念は的を得ている。』
「リスク?」
『ああ。―――君に、過去と向き合ってもらう』
「過去と? 一体どういう……うっ!?」
突然激しい頭痛と目眩に襲われる。
『僕が今まで封印してきた君の
『さぁ、思い出すんだ――君が歩んできた
◆◇◆◇◆
私が生まれたのは、少々普通とは異なる家庭だった。
父は大企業の経営者を父に持ち自身も投資家として成功していた。そのため、我が家は父のお金で暮らしていた。
母は専業主婦であったが、なんでも人並み以上にこなし、自分磨きを欠かさない人物であった。
そんな両親は、私が物心ついた頃から熱心に私を育てた。厳密には母が、であるが。
数多くの習い事をこなし、他の子供がやっと絵本を理解する頃には小説を、他の子供がやっと足し算を理解し始めた頃には割り算を習っていた。身体も筋トレとスポーツによってゴツくなりすぎないレベルで鍛えられ、両親が美形だったこともあり整っていた顔の手入れは欠かさず行い、食事だって栄養バランスを完璧に調整されていた。
母の口癖は、『あの人と私の子として相応しくなりなさい』だった。
そんな生活を送っていた私であったが、小学校に入り一般的な子供やその家庭というものを知ると、自分の現状の異常性に気づいた。
皆がやっていないことをやっている。皆ができないことをできる。皆が知らないことも知っている。でも、皆が知っていることを知らない。
そんなだから、異物と思われ孤立して、必死に声をかけたお陰で話せる人はできたが、幼稚なイジメもあった。……だが、その歳にしてはかなり賢かった私は、その現状に不満を言うことはなかった。ソレを言えば、壊れてしまうかもしれないと分かっていたから。―――両親が夫婦の関係ではないことも、最近父の帰宅の頻度が著しく下がっていることも、最近母が私に構わなくなって、化粧品や香水を買い漁っていることも。見て見ぬふりをしたのだ。
中学生になった。父の帰りはいよいよ殆どなくなり、母は憔悴しきっていた。私は母を介抱しながら、同じ小学校の人達からのイジメの続いている学校に通い、帰ると無駄に広い家で家事をすべてこなし、何とか生活を保たせていた。いつかは、それが報われると信じて。
―――だが、限界は唐突にやって来る。
学校から帰った私が最初に見たものは、玄関にある高そうな革靴。ああ、久々に父が帰ってきたのかと、ようやく母が元気になると、安堵しながらリビングへ向かった。
―――そこにあったのは、裸のまま、血を垂れ流して死んでいる2人だった。母は口が張り裂けんばかりに笑みを浮かべており、父は驚愕と恐怖に顔を歪ませていた。そう時間が経っていなかったらしく、近くに落ちていたナイフで切られたらしい首元からは、ドクドクと血が流れ出ていた。
私は悲鳴をあげ、意識を失いそうになったが、残っていた理性で何とか救急車を呼んだ。
その後分かったのは、母が父と無理心中をしたこと。父は元々女癖が悪く、同時に5人の女性と関係を持っていたそうだ。
マスコミは金で黙らせ、相手の女性には『君が一番だ』と甘い言葉を吐き、『もっと魅力的になれば結婚する』と金を与えて自分を磨かせる。顔が良く演技も上手い父に5人の女性はすっかり騙され、懸命に努力していたとのことだ。
母は昔は一番気に入られていたが、最近は年齢もあり、相手にされなくなっていった。その結果が、今回の一件だったようだ。
私は父の兄弟で、今は実家の大企業を継いでいる男に引き取られた。私に興味はなかったが生真面目な性格だったその男は、私に部屋と十分な資金を与え、独り立ちできるまで使用人を雇い、精神を立ち直らせるために心理カウンセラーまで雇った。
その甲斐もあってか私もしばらくして何とか立ち直る事が出来た。
しかし、話はそれで終わらなかった。ある時、私は誘拐されかけたのだ。犯人は雇われたチンピラ。そして雇い主は、父の遊び相手の女の一人だった。その女が警察に連れていかれる時に、私を睨みつけて、
『お前ら親子のせいだ! お前らがいなけりゃ、私はあの人と幸せになれたんだ! 死ね! 死ね!! 死んでしまえ!!!』
なんて言ってきた時は、本当にショックだった。
その後、私は誘拐対策のため、八極拳を始めた。元々体格が良く、様々なスポーツを経験し、身体を鍛えていたのもあってか、私はみるみる上達し、中学卒業時には、全国レベルの使い手となっていた。
そして、その頃からゲームをしたり、アニメやマンガ、小説を見たりするようになったのだ。明るい展開やハッピーエンドに心を躍らせ、暗い展開やバッドエンドに不幸なのは自分だけではないんだと思い、存分に楽しんだ。fateシリーズを知ったのもこの時期だった。
それから、相変わらず一部の人達が私をイジメてきたものの、特に支障もなく高校、大学を卒業し、大人になった。知り合いや友人も増え、だんだんと一人じゃなくなっていった。恋人も出来た。まさに、人生の絶頂期。
―――そんな時、またもや大きな不幸が私を襲った。
親しかった友人が全員死んだ。恋人も。
知り合った場所、住んでいる場所、関係性もバラバラだったのに。完全に私を狙った犯行だった。
犯人は複数人。そのうち2人は父の愛人達、他は私が高校の時や大学の時にいじめてきた連中だった。全員ネット掲示板で繋がり、私への恨みから犯行に及んだそうだ。恨みを買った覚えはなかったが、高校や大学で私がフッた男達の中に、彼女らの想い人がいたらしい。
フィクションみたいな話だと思った。夢であって欲しいと何度も思った。だけど、現実だった。
数日かけてギリギリ立ち直った私は、また日常に戻った。知り合い皆から避けられることになってしまったが、それも仕方ないと割り切った。
自殺も頭をよぎったが、人生諦めるには早いだろうと、ゲームのキャラのセリフを思い出して思い留まった。
引きこもってしまう手もあったが、私はそれでも人と関わることを選んだ。
人間が全員彼女らのような者であるわけではないと、信じたからだ。
そして前を向いて歩き出そうとしていた矢先、恐らく死んで転生したのだ。
◆◇◆◇◆
『―――思い出したかい?』
「……ええ。やっと思い出したわ」
私の前世は、お世辞にもいいものとは言えないものだった。
辛いことの方が楽しいことの何倍も多かったし、終わりもハッピーエンドではなかった。
『君の人生は、試練の連続だった。君が悪いわけでもないのに、不幸ばかりが君に与えられた。―――で? 君はどう思ったのかな? アレを思い出した今、人間を、助けたいと思うかい? 君が神になればあの世界と今生きている世界を繋げることも可能だ。君が人間の敵に回れば君に不幸をもたらしたあの者達の存在を消すことができる。君は僕の権能で抑止力に排除されないから、君の復讐は達成されるだろう。なんなら向こうの世界に渡って直接そいつらを殺すことだってできる。それを踏まえて、君はこれからどうしたい?』
……確かに、いじめてきた連中や父、その愛人に母、嫌いな人達はたくさんいる。復讐に走ってもおかしくないぐらい酷いことをされた。―――でも、それでも、
「私は、今世で出会った皆を大事にしたいよ。皆を守りたい」
『―――君ならそう言うと思ったよ。だからこそ、僕は君を選んだんだ。どれだけ傷ついても、世界に失望して自殺したり、世間から逃げて引きこもったり、人間そのものを恨んだりすることなく自分の人生を精一杯生きてきた君を』
……随分と持ち上げるな。コイツらしくない。
『――君の権能が決まったよ。君の魔術を進化させた【停止の権能】、君の鍛冶の力を反映した【創造の権能】、そして君の心を具象化した【祝福の権能】』
無限とも思える力が湧いてくる。身体が塗り替えられていく。
『創造と祝福の女神クレナ。君の行く先に、ハッピーエンドが待っていることを願っているよ』
薄れゆく意識の中、真っ白な空間の奥で誰かが笑っているのが見えた気がした。
僕、あんまシリアス書くの向いてないかもな