目を覚ます。
目の前にはあのグガランナのブレスが迫っていた。
――だが、先程までと違って脅威は感じない。
「『止まれ』」
眼前に迫っていた極大ブレスはその一言で威力を失い止まった。
『ブォオオ――!』
驚いたのか、それとも止められたのが気に食わなかったのか。
こっちを睨んで雄叫びをあげる巨躯の雄牛。
「『創造【
権能を用いて巨大な槍を創り出す。濃密な神気を纏っているソレは、神殺しの力を宿している。
「畜生風情が。煩く喚くな」
雷を打ち鳴らしながら喚く
『ブォ゙…ォオオオオ…!!』
槍は胴体に深々と突き刺さり、苦しげな鳴き声をあげさせる。
「しばらくそこで……っ!」
先程まで呻き膝をついていた神獣の踵が、いつの間にか頭上に迫っていた。
「私を足蹴にしようとは……行儀のなっていない家畜だ。」
転移ですぐさま踵から逃れ、獣の頭上に立つ。
「少し強めに躾けてやる【
頭上に多重の魔法陣が起動する。
私の魔力に呼応し、眩い光が辺りを覆う。
「【
目の前の獣にとって取るに足りない筈の小さな魔術。しかしそれに秘められた魔力は明確に脅威足り得るものだった。
『ォ゙オオオオオ!!!』
神獣が一声吠えると、神の稲妻が次々と降り注ぐ。
そして雷がまるで盾のように砲撃を相殺――し切れずにその身体に魔力砲が命中し、巨体が大きく揺らぐ。
『ブォ゙…! オオオオオ……』
巨獣が呻く。
かなりのダメージになると思ったが、痛がってはいても大して堪えていないようにみえる。怯んで数秒ですぐに立ち直って前進してくる。
「その図体に見合うだけの耐久性はあるか。なら、これはどうだ? 【剥奪】」
魔眼を解放し、神獣の神気を吸い取っていく。
「その巨体を支えるだけの力、神気を抜かれて保っていられるかな?」
『ォ゙オオオオオオ――!!!』
やはり力の源を吸われるのは堪えるらしい。
神獣は怒ったように吠え、大きな口をこちらに向ける。
「芸のない。『創造【
ブレスを放とうとしていたその口に、創造した剣を投擲。
剣が爆発すると同時にブレスのエネルギーも暴発。その大口から黒煙が立ち昇る。
『ブォォ゙…!』
流石にこれは効いたようで、グガランナはたたらを踏み弱ったような雄叫びをあげる。
「そんなに気に入ったならもう一つ食らえ。【
先程突き刺した巨槍を爆破させる。
『ブォ゙オオオオオオオオオ―――!!?』
大きさや込められた神秘に比例し、威力も増しているその爆撃を受け、さしもの天の牡牛と言えども耐えきれずに悲鳴のような鳴き声をあげる。今までで蓄積したダメージも合わせて考えれば、相当に弱っていると言えるだろう。後はトドメを刺すだけだ。
「……さて、そろそろか」
こちらに飛来する2つの魔力に己の役割の完遂を悟る。
「――待たせたなクレナ。準備が整った!」
「待たせてごめんね。魔力を溜めるのに随分かかってしまった」
魔力を漲らせやって来た二人。神獣を殺すために時間をかけただけあって、その姿にはかつてないほどの力強さを感じる。
「良い。漲っているその覇気、待った甲斐があったというものだ。――さて、トドメといこう」
「……今は聞くまい。やるぞ、クレナ、エルキドゥ」
「あぁ」
並び立つ三柱。
「呼び起こすは星の息吹」
「世界を裂くは我が乖離剣!」
「『創造【
放つ光は星の如く。力は星を砕かんばかり。
3つの光は神すらも凌駕する一撃となって、今放たれる。
「【
「【
「【
万全であっても回避しなければ致命の攻撃。弱った神獣には無ずすべもなく、断末魔すら許されずその体躯は滅び去った。
これを以て神話は成された。この戦いによって、神々の時代の終焉が始まったのだ。
◆◇◆◇◆
「……勝ったな」
神獣の残骸が横たわり、戦闘による破壊跡が残った大地。それを眺めながら、静かにギルが呟く。いつもの彼にしては、控えめな勝鬨だった。
ふと、私は上空に浮かぶ人影を見つけた。
「ん? ……あそこに浮かんでいるのは――イシュタル?」
何故か涙目になっているイシュタルが上空にいた。
「あの駄女神…! 私がもう一度――」
「待ってくれ。ボクに任せてほしい」
私が殴りかかるのを制止して、エルキドゥがイシュタルへナニカを投げ飛ばした。
上空からイシュタルの悲鳴が聞こえた。
「……何をした?」
「玩具を返してあげたのさ。一部分だけだけどね」
どうやらグガランナの残骸の一部をイシュタルに投げ飛ばしたらしい。イシュタルは何やら捨て台詞を吐きながら上空へ去っていった。
「――これで、本当に終わりか。私も、ここに別れを告げないとね」
「……やはり、そうか」
私が言った一言に対して、ギルの反応は静かなものだった。
「これからの世界は、神ではなく人の為の世界だ。以前ならともかく、純粋な神と同じになった私が残ってもしょうがない。なら、他の神より少し早く、星の裏側に退去するべきだろう」
「あぁ。これからの世に、神は要らぬ」
「それが君の意思なら、ボクは何も言わないよ」
予想通り、ギルとエルキドゥは私を止めなかった。薄情なのではなく、二人とも正解を選ぶことができる人物であるからだ。
ならば私も悲しみではなく、笑顔と少しばかりの餞別でもって別れを飾るとしよう。
「ギル、エルキドゥ。グガランナを殺したことで、これから神の呪いが降りかかるだろう。残念ながら、神になった私でもそれは防げない。だから、ほんの少しばかりの癒しと祝福で、君たちの別れが満足のいくものになることを願う。『祝福【
私の権能による祝福を授けた。これで呪いによる死を迎えるとしても、痛みや苦しみはなく死する日まで十分に語り合えるだろう。
「じゃあ、私は行くよ。これからの人の世を陰ながら見守っていく。君たちも、後世に恥じぬ生き方を」
そして私は魔術によって二人の前から消え、冥界に行った。
◆◇◆◇◆
「あら、星の裏側に行くんじゃなかったの?」
冥界に着くなり、エレシュキガルが出迎えてくれた。
「まだ、やるべきことがある」
私が現世から離れると、この歴史は抑止力によって捕捉され消されてしまう。この世界は私がアイツから貰った抑止力に気づかれないという能力によって成り立っているのだ。そして、私の能力は私の魂に付属している。ならば――
「私の魂を3つに分割する。一つは神として、一つは英霊として、一つは人として。そして、私はこの世界をオワリまで見届ける」
「――そこまでして人の世を見続けるなんて、貴方本当に人間が好きなのね」
「褒め言葉と受け取っておこう」
まず、英霊の魂。神の力まで渡ってしまわぬように注意しながら魂を切り取る。そして、英霊として無理やり座に登録させる。やり方としては簡単だ。架空の英霊なんてものすら存在する座のガバガバシステムに、私を誤認させるだけでいい。
次に人間の魂。スペックとしてはホムンクルスだった私の身体をベースに肉体を作り、死なないように少しだけ私との繋がりを持たせておく。楔として、死んでもらっては困る。もしもの時は、神の力を使ってでも生き残って貰う。
「……完了。邪魔したな。この作業は、魂の形が見やすい冥界で行いたかったのだ」
「別に、いいんじゃない? アポ無しは少し困ったけどね」
今度こそ、星の裏側への道を開く。
「では、少し先に行く」
「ええ。私も、時が来たら行くわ。また会いましょう」
今回は内容薄めで次話からはzeroの話を書こうと思ってる。思ってるが書くかは……