「あの、流石に全てというのは……」
「何よ。渡せないっていうの?」
「流通している分では、足りないのでしょうか?」
「私は全部欲しいって言ったんだけど?」
っ…! イライラするが、あくまでも落ち着いて、冷静に話すよう心がける。今、この方と敵対するのはどう考えても悪手だ。
「では、イシュタル様と我が村で、貿易をするというのはいかがですか?」
「生意気ね。貴方、私と対等にでも成った気? 私が寄越せと言ったのだから素直に寄越しなさい!」
――『プツンッ』と、私の何かがきれた。
「ああもう!! そこまで言うんだったら力ずくで帰ってもらうわよ!!」
「ハッ! 本性現したわねこの偽女神! やれるもんならやってみなさい!」
そして、女神クレナ対女神イシュタルの戦いが始まった。
◆◇◆◇◆
イシュタルはマアンナで空を自在に飛び回りながら大量のレーザーを放った。
圧倒的物量と破壊力のゴリ押し。イシュタルの得意とする戦法だ。
それに対し、クレナは身動きすらせずに、
「【アレスト】」
自らの魔術でレーザー全てを停止させる。そして、
「【剥奪】」
魔眼で大量のレーザーの魔力を剥奪する。魔力を奪われたレーザーは当然、全て消失した。
そして、その莫大な魔力を以て魔術を行使する。
「【燃えろ】」
「え!?」
驚くイシュタルに、炎が襲いかかる。魔術を大量に知るクレナが開発したオリジナル。もちろんその魔術は並の攻撃よりも速く、威力も高い。
仮にも神性を帯びた存在が魔力を大量に使い、全力で行使した魔術だ。それは、純正な神にも届き得る神秘だった。
「ッ! やるじゃない!」
避けきれずに手傷を負ったイシュタルはクレナを称賛しつつ、警戒度を上げる。
イシュタルは放つレーザーに更に魔力を込め、レーザーの量も倍以上に増やす。この圧倒的なレーザーの飽和攻撃を捌ける者など、ほんの一握りの逸脱者だけだろう。
――しかし、
「【アレスト】」
その全て止められる。
「【剥奪】」
そして、その全て吸収される。
何度やっても結果は同じ。止められ、吸収され、自分への攻撃として帰って来る。いくら女神イシュタルといえど、自分の魔力から放たれる攻撃に対し無傷というわけにもいかず、どんどん手傷が増えていく。
「――ちょっと!! それ反則じゃないのよー!!」
「嫌なら帰って!! てか今すぐ帰れ!!」
「キィー!! 言ったわね!! もう容赦しないんだから!!」
遠距離戦は意味がないと判断し、まっすぐクレナに突っ込んでいくイシュタル。
――そして、近接戦になる。クレナの思い描いた通りに。
クレナ目掛けて殴りかかるイシュタルに対し、太極拳で軽く受け流し、そのままカウンターをきめるクレナ。
「ガッ! ……この!!」
イシュタルが放つ、まさしく神速の拳、鋭い蹴り、マアンナによる突進。その全てが、クレナには届かない。
イシュタルが弱い訳ではない。仮にも神である以上、イシュタルは身体能力そのものが別格である。接近戦で彼女に勝てる者等、そうそういない。
まして、一方的に打ちのめせる者なんてメソポタミア中を探しても、いるかどうか。
――つまり、クレナの技が異常だった。
「まだ、やりますか?」
「……当たり前よ! 舐めないで!」
ただ、イシュタルもこのメソポタミアの地に君臨してきた女神の一柱。そんな事では止まらない。
「ハッ!!」
イシュタルの放つ魔力が増大する。――そして、
『バコッ』
魔力放出によってさらに加速したイシュタルの拳が、ついにクレナの反応速度を超え、今まで鉄壁の守りを見せていたクレナを捉えた。
ものすごいスピードでクレナが吹き飛ぶ。
「ガハッ!!」
まるで王道バトル漫画ワンシーンのように、クレナは途轍もないスピードで吹き飛び、遥か遠くの岩盤に衝突した。
骨が砕け、身体が軋み、内臓にまで致命的なダメージが入る。
そこに最高速度で追いついたイシュタルはそのまま追撃で畳み掛けるべく、マアンナごとクレナへ突っ込む。
(くっ、たった一発でこのダメージ……ここで決めなきゃ私は……)
「それは、駄目だ…! 私があの村の神様なんだ!! 負けてたまるかぁ!! やあああ――!!」
何とか体制を立て直し、その突進を真正面から拳一つで受け止めるクレナ。衝撃が突き抜け、腕がバキバキと悲鳴を上げる。――が、その拳は、確かに女神イシュタルの、マアンナの突進を完全に押し留めていた。そして触れたまま、
「【アレスト】!!」
魔術発動。それをレジストし損ねたイシュタルの動きが一瞬停止する。そこに、
「ハッ!!」
全力の一撃を叩き込む。
「ぐっ!!」
血を流し吹き飛ぶイシュタル。しかし、イシュタルが吹き飛ばされる前にクレナがイシュタルの手を掴み、
「【アレスト】!!」
停止させて、その場に固定する。そして――
「――ハアァーーー!!」
全力でラッシュを叩き込んだ。
全魔力を使い身体能力を最大限強化し、クレナの今の全力の全てを込めた連打。
その衝撃は凄まじく、地は割れ、近くの小山が吹き飛び、竜巻のような風が生まれ、空の雲は消え去った。
そして……
「ハァ、ハァ、……やった。」
完全に意識を失ったイシュタルと、疲労困憊ながらも力強く立ち、天の光を一身に浴びるクレナ。
こうして後の歴史にも残ることとなる女神二柱の戦いは幕を下ろした。