冥界から脱出し、洞窟の外に出る。
「ふぅ~、やっぱりシャバの空気は最高ね。」
大きく深呼吸をして、肺いっぱいに澄んだ空気を流し込む。なんだかかなり長いこと冥界にいた気分だ。多分2、3日ぐらいしか経ってないはずなんだけどね。
「さてと! かなりリフレッシュできたし、そろそろ帰ってもいいかな」
そして村へ向けて歩き出そうとしたその時、
『本体! 本体! 応答して!』
村に残してきた分身体からの連絡があった。
(どうしたの?)
『やっと繋がった! さっそくで悪いけど急いで帰ってきて!! ギルがイシュタルをフッて大変な事になってる!!』
(え!?)
分身体からの報告は、とんでもないものだった。面倒事が嫌で旅に出たのに、ギルのしつこい告白を遥かに上回る面倒事。もう面倒事の範囲すら超えて普通のピンチである。
(そういえば前世でそんな話を聞いたような気が……駄目だ、もう殆ど記憶がない。歴史に関しては未来の書にも載ってないし。)
「あぁ~もう! 考えても仕方ない! 今すぐ帰らないと!!」
私はすぐさま都市クレナへと転移した。
◆◇◆◇◆
「状況は!?」
転移してすぐさま分身体の元へ直行し、状況を確認する。
「……最悪一歩手前ね。ギルにフラレたイシュタルがブチギレて
「分かった!」
本当に頭が痛い。なんでこう、私は厄介事を呼び寄せてしまうのか。それも今回は規模が今までの比じゃない。
恐らくは正史でもギルとエルキドゥに討伐されているだろうとは思うけど、万が一正史ではグガランナなんて出てきてないとかだったらギルとエルキドゥがやられちゃうかもしれないし、私が引き起こした事態という事になる。流石に力を貸さないわけにはいかない。
「あぁもう! 帰って早々にまた旅したくなってきた!」
ブツブツ文句を垂れ流しながら、私はギルとエルキドゥの所へ急行した。
◆◇◆◇◆
「ギル! エルキドゥ!」
「クレナ! 久しぶりだね。できればもっと落ち着いた再開をしたかったところだけど。」
「フン!! ようやく帰って来たか。まったく、我等を置いて楽しく一人旅など、ずるいぞ!!」
「ごめんごめん、次はみんなで行こう。―――それで? 状況は?」
「……見よ。」
ギルの視線の先を見る。すると、山のように巨大な黄金のナニカが、遠方から近づいてきていた。
「アレが――」
「そう。アレが天の牡牛【グガランナ】。我らを滅ぼさんと神々が遣わした、厄災だ。」
まさしく異様にして偉容。こんなにも距離が離れているのに途轍もない威圧感を感じる。一歩踏み出す度に衝撃が辺りを揺らし、その身から溢れる魔力は近づくだけで大抵の生物は命の危機に陥る程に濃密だ。
「……勝てる?」
「誰に物を言っている? 我らが神の玩具如きに負ける筈が無かろう。」
「そうさクレナ。ボク達はあんな駄女神が連れてきた駄牛になんて負けない。」
あの威圧感を受けてなお、二人の目には一片の絶望もなく、勝利するのが当然とでも言うかのように自信に満ちていた。
「――そうだね。イシュタルにも言いたいことがあるし、いっちょ神獣退治といきますか!」
そして、私達三人は迎撃するため、その巨体へ向けて飛び出した。
◆◇◆◇◆
「まずは一発!!【
私は最高傑作である弓を蔵から取り出し、失敗作の武器を矢として放った。
『ドォン!!』
爆発。Aランク宝具と同等以上の威力が籠もった一撃が神獣の巨体に命中した。――しかし
「……やっぱり無傷。ダメージなしだね。」
その巨体は爆発等お構いなしに私達へ向かって進んでくる。近づけば近づくほどその重い威圧感を感じ、緊張が高まる。
「こちらも射程圏内に入った! 【
ギルによる宝具の一斉掃射が残らず命中―――しかし、やはりダメージはない。
「チッ。流石に神々が遣わしただけはある。この程度では足止めにすらならんか。」
大きすぎて、エルキドゥの天の鎖による拘束も困難だろう。まずはどうにかして相手にダメージを与えないと――っ!!
『ブォオオオ!!!』
グガランナが咆哮をあげる。
その咆哮に呼応し、雷鳴が轟き、私達を閃光が襲う。その威力は一撃でも受けたら、抵抗もできずに消滅してしまうレベル。そんな威力の雷が、ポンポンポンポン撃たれている。
「ちょっと!! ズルでしょそれ!!」
懸命に躱しながら思わず叫ぶ。まだ聞こえない距離だろうが、大声で一回耳元に叫んでやりたい。ていうかいつかやる。やるったらやる。グガランナにもイシュタルにも鼓膜破れる勢いでやる。
「このままじゃジリ貧か……。ギル!! エルキドゥ!! どうする!?」
「こちらの最高火力でもって一気に仕留める!! どうにかして隙を作るのだ!!」
「ギルが合図を送るから、ボク達を信じて!! ボク達に合わせて!!」
「――了解!!」
返事をして飛び出す。
「おい家畜野郎!! ウルクや
どうやって足止めすればいいのか、どうやってこれ程の神獣に隙を作ればいいのか、そんな事は分からない。
だけど、ギルが、エルキドゥが、都市クレナで待っている皆が、私を信じてくれている。―――できないなんて、言えるわけない!!
『ブォオオオオ!!!』
こちらに視線を向けるグガランナ。その足が竦みそうな程の眼力を受け止め、まっすぐ睨み返す。
ソレが癪に障ったのか、イシュタルの指示か、はたまた他の理由か。グガランナはおもむろに首をもたげ、私にその大きな口を向けた。
「一体何を……」
『ォ゙オオオオ!!!』
瞬間、グガランナの口に極大の魔力が収束していった。
「不味―――」
私がブレスが来ると気づいたときには既に遅く、グガランナはその暴威を開放した。
(あ、コレ、死んだ―――)
放たれた超巨大竜巻のようなブレスは、凄まじい速度で私を捉えた。魔術による転移も、その有り余る魔力の波動で空間を歪めるというパワープレーで封じてきた。
私には、コレを躱す術は無く、もちろん耐える術も無い。
(あぁ、私ダサいなぁ。あんな啖呵切っておいて直後にコレとか。流石に恥ずかしいわ。)
死の直前だからか引き延ばされた体感時間の中でそんな無駄な事を考える。そうしている間も死の暴風はすぐそこまで迫ってきて―――
『おいおい。こんなところで終わらないでくれよ。君の物語は、まだまだ僕を楽しませてくれる筈だろ?』
頭にそんな声が響いたと思ったら、いつの間にか視界が白で埋め尽くされた。