リツコの熱視線に耐えかねて明日の朝食まで決めかねていた所、エレベーターが到着したベルが鳴った。
目を向けると、半開きのドアに手を掛けてミサトが出て来た。そんなに急がなくてもいいぞ。
「ごめーーん!ちょ~っち長引いちゃったのよ!あら?リツコ、今日は早いじゃない。あっ…さては、昨日の夜から張り切ってたのかしらん?」
「いいえ、冬月副司令からの贈り物よ。
リツコが言うとミサトは目に見えて落胆していた。
「えぇ~…そういうコトならジェスチャーでも何でもいいから教えてくれればよかったのにぃ~…はぁ、まあ終わったものは仕方ないか!よっし、行くわよ!て、何これ?」
「三日ぶりだな、ミサト。」
「あ、三日ぶりね、キンちゃん…随分暴れているんですって?私の所に資材部の子が泣きついてきたわよ?」
「その件は頼む、としか言えないな。勘弁してくれ、そのかわり今日は全部奢る。」
ミサトが案の定黒い布が掛かった巨大な物体に驚いていた。三日ぶりだが面接で少し話す時間があったからかお互いフランクに話せた。
だが…いや今はいい。
ともかく気づかぬうちにミサトの仕事を一つ増やしていたことに詫びを入れつつ、俺は車の傍によって布の端を持って見せた。
「え!ホント!男に二言は無しよ?」
「ああ、リツコは…心配いらないな。シンジ少年に絡み酒でトラウマを植え付けない限りは全て受け止める。ドンと来い。帰りは任せろ、火災時に使う消化換気装置も車に載せてある。」
「さっすがキンちゃん!男っぷりの格が違うわね!」
「ミサト…貴女、少し落ち着いたら?はしゃぐ気持ちはわかるけど、まだアルコールは入ってないでしょうね?」
「まぁまぁ、今日くらいというやつだ。俺が想像している以上にNERVでの中間管理職はストレスの宝庫らしい。」
ミサトのテンションが高すぎて普通に窘められていた。
ミサトはきゃぴきゃぴ笑顔だ。
少し、カワイイな。そういうの。
もうすこし見たかったのでリツコの肩に軽く手を置いた。そろそろ<じゃーん>するか。
「それはそうと。なあミサト、一緒に<じゃーん>したいから手伝ってくれ。」
「<じゃーん>??」
「ミサト、車。車のことよ。キンちゃん楽しみにしてたみたいよ?」
「キンちゃんって、やっぱりちょ〜っち子供っぽいとこあるわよねぇ…。」
ミサトが苦笑いを浮かべた。
俺は少し眉が下がってしまった気がする。顔に出てたと思う。
でも…そうか、子供っぽいかぁ。そうなのかな?いや、でも他に言う相手いないし、言われたことないしな。
子供っぽいから嫌われてたとか…好きくないな。
俺は無性に泣きたくなった。
「え、だめ、かな?」
「ぜーんぜん!だからそんな泣きそうな顔しないでよ!ほら、持ったわよ!」
「こっちも大丈夫よ。さ、貴方のタイミングで、何時でもいいわよ。」
「やた!ありがとう。じゃあいくよ。せーのッ。」
やったやった!と内心で小躍りする。待ちきれないぜ。
俺は掛け声をかけて布を引っ張った。
バサッと黒い布が取り払われ、中から出て来たのは眩く輝く漆黒のベンツGクラスだった。
全長5m強、高さ2m10cm、ボディと外装にも特殊鋼を惜しみなく使用した。ここのトップが乗ってる車の倍はする車を折角だから買ってやった。
ボンネットやボディの防弾板は、特殊鋼板削り出しと戦車に使われる複合装甲で敷き詰めてある。窓ガラスは極力面積を小さくして分厚くした。景色は悪くなったが命は守れる。フロントとドアガラスはガラス以外にもギミックを追加させた。
ガラスの外側を鋼板シャッター、内側を外部極小カメラを使った高解像度全部可動式ディスプレイに切り替え可能だ。これにより非常時や防弾ガラスが蜘蛛の巣状に割れて正面が見えなくてもいつも通りの視界を確保できる。ガラス厚150mmの4ドアの窓ガラスの上から更に特殊鋼のシャッターが落ちるようになり、シャッターが降りた状態なら成形炸薬や対戦車地雷が至近距離で爆発しても車内は無事だ。
重過ぎるせいでエンジンも二倍になった。燃料も二倍。値段も二倍。維持費も二倍。装甲も二倍。だが生存率も二倍には到底届かないが、それでも以前よりも確実に上がった。
特注通りに作ってくれたらしい。普通よりも二回りは大きく感じる。流石に俺より分厚くで背が高いな。
「おぉ…カタログで視るよりずっと大きく感じるな。」
「うわ…ブルジョワねぇ~。」
「それにしても大きいわね、5トンくらいはあるのかしら?」
ミサトは半目になって一筋汗を垂らしてた。引かれたのか??
しかしだな、碌に防弾性能も無いヴィンテージの支給車なんて高いだけで小銃で銃撃されたら守れるものも守れない。仕事は過不足なくやり遂げるのがモットーだ。だから妥協できなかった。
リツコはやはり意識が分析に向くようだ。あとでカタログを見せたら興味を示してくれるかな?
「ありがとう、これがしたくてミサトを待ってた。今エンジンを掛けるよ、さぁ、乗ってくれ。丈夫さだけを追求したからすこし狭いけど勘弁してくれ。あと重量は8トンを超えると思う。全て倍にしたからな。」
「リツコ…あたし、この中で暮らしたいわ。」
「ふふ、24時間一流の運転手とボディガードが付いて、その上世界最高のセキュリティーが付くとなると…確かに、ここでなら暮らせそうね。」
「トイレは非常用しかないから暮らすのはちょっとなぁ…まぁ、いざとなったら荒野でキャンプするための道具も載せてあるから、寝るだけなら何とかなるだろう。」
暮らすのには困るが、要塞代わりになら使える。こればかりは数十億するトレーラーでも買わないと難しいお願いだ。
だが、少なくとも地雷にもRPGにも耐えられる車であることは実験までさせて確かめたから断言できる。別に俺は高級車が好きな訳じゃないのだ。しかし、丈夫な車を追求すると高級車に行きついた。この車でシンジ少年が安心できるといいのだが…。
二人が完全にリラックスしている様子を、ミラー越しに目に納めた俺は右ハンドルを握り目的地に向けて出発した。