キンゴ・オオタニ   作:ヤン・デ・レェ

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シンジさん

冷静に考えた時、中学二年生の男の子が世界の命運を背負わされる、という字面には瞠目を禁じ得ない。

 

正常な価値観が正常に作動してい無い所為で、大人は子供のまま大人になり、子供は子供のまま大人になれと言われる始末である。まったく、ナンセンスだ。

 

年がら年中夏の所為で、人間はみんな参ってしまっているの違いない。頭を冷やすための、余裕がなくちゃあいけない。だが、その余裕を作り出すための手段が、何の因果か子供の双肩にかかっていた。頭、湧いてんのかな?

 

俺はお世辞にも立派な親を持たなかったが、俺に言葉を教えてくれた人も、俺を育ててくれた人も、俺を見守っていてくれる人も、みんな大層立派な人ばかりだった。

 

偶々履いた靴がサイズにぴったり合ったから、そんな理由でそれらしい理由で軍人を始めたが、案外おれにも志があって、たまたまそれが俺の納得のいく<結末>とか<運命>ってやつに収束するんだって理解できたから、今もこうして物騒なものを腰に携えてる。

 

変わったことはこれまでは如何に効率的に敵を倒すか、だった問いが、これからは如何に安全に護衛対象を守り抜くかにシフトチェンジしただけだ。本質はどっちも同じ、最後は守りたい人を守ることに直結する。

 

 

「ねぇ、キンちゃん、ナビが必要かしら?」

 

「いいや、下見には行ったんだ。だから覚えてる。」

 

考え事をしながら運転していたからか、心配そうにミサトから声を掛けられた。

 

「道に迷った訳じゃない。ただ、すこし考え事をしてたんだ。」

 

「あら、何か悩みでもあるのかしら?」

 

今度はリツコだ。俺が彼女たちに隠し事など何一つしていないことを信じて貰えてないらしい。

 

いや、単にからかわれてるのか?

 

「なんでもない…それより、そろそろ着くぞ。俺一人で行ってもいい。だが、忘れちゃいけないものがある。俺たちは頼み込む側だってことをな。つまり…なんだ、三人一緒に行くぞ。」

 

「なーに、またカッコつけちゃってぇ~…でも、キンちゃんの言うとおりかもね。よっし、堂々校門から入っていくわよぉ~!」

 

言うが早いかミサトが駐車完了直前の車から飛び出しそうだったので引き留めた。やはり今日のミサトはかなり被ってる感じだな。猫か虎かは知らんが。

 

「いや、それは逆にシンジ少年に煩わしく思われそうだからな、あくまでも三人で出迎えようという話だ。」

 

言うと、目に見えて落胆する。言ったコッチが悪いみたいになる。

 

「ぬあっ!?なによぉ~折角保護者としてビシッ!と決めようと思ってたのに…。」

 

「ミサト一尉、貴方の本業は保護者じゃないのよ?」

 

頬を膨らませたミサトにリツコの的確な言葉が飛んだ。痛い言葉だ。

 

「何れにせよ、駐車して俺がドアロックを外すまでは車から飛び出さないで欲しいな。落ち着いた行動を頼むよ。」

 

「あははー…ごめんなさい。」

 

「もう過ぎたことだ。さ、今度こそ安全だ。俺が開けるから待ってろよ。」

 

重厚なドアを開けてミサト、リツコの順で車から降ろした。ドアロックを掛けて、ミサトから三人分の入校許可証を貰い首から下げた。

 

それにしても…中学校に入るのは初めてだな…緊張してきた。

 

 

 

 

「初めまして、私は今日からあなたの警護官として務めさせていただくことになりました。大谷キンゴと申します。以後お見知りおきを。」

 

「先日お父さんの方から貴方の警護任務に関する特別全権委任状をいただきましたので、国連より認可を受けた本日00:00より私の職位は単なる国際要人保安警護官から、特別全権委任済みの国際要人保安警護官へと昇格しました。私の職権は改正国際法特別法案第13条第13項により保護されることになりました。これにより今後貴方を守るためならば文字通りあらゆる手段を講じて、必要とあらば局所的越権行為も辞さない姿勢で参ります。貴方の心と体の両方が私の警護対象ですから、何なりとお申し付けください。」

 

「えと…碇シンジです…えと、今日からよろしくお願いします…その、態々すみません。こんなところまでお迎えに来て頂いて…。」

 

「いえいえ、こちらこそいきなり押しかけてしまい申し訳ありません。今後は毎日顔を合わせることになりますから、大変お手数ではございますが、何卒安全上の都合に関しましては私の指示をよく聞いていただければ幸いです。」

 

「あ、いえ、全然そんな、お手数なんかじゃ…あの、よろしくお願いします…。」

 

丁度帰宅準備を終えて校舎から出て来たシンジ少年と出くわした俺と彼との、駐車場での互いのファーストインプレッションはこんな感じだった。

 

堅いといえば堅いな。だが、当然ではないかとも思う。

 

俺は彼の為に頭を下げるためにこの仕事を選んだと思うくらい、それくらい真面目に彼には感謝しているし、もどかしくも感じている。もっといい方法があれば、それを選ぶんだが、今の俺には出来ることが限られている。だからそのなかでも一番いい方向に歯車を動かしやすい場所を選んだのだ。

 

俺達がペコペコしていると、ミサトとリツコは俺たちを半目で見つめて来た。これは、あれである、自分で気づけという気配だな。だが、俺は第一印象くらい真面目に感謝したいのだ。

 

「はぁ~…そうだったわ、キンちゃんてそういう人だったわね。それにしても…堅い!堅過ぎるわ!もっとフランクに出来ないのかしら?」

 

ミサトの呆れたような声にも俺は耳を貸す気はなかった。シンジ少年次第である。嫌そうだと思ったらそのばでやめるが。

 

「えぇ…こればかりはミサトに同感ね…それにしても、キンちゃん、貴方って本当にまんまなのね。素直というか、なんというか…ともかく、年上なのだからもう少し親しみやすい雰囲気も大事なのではなくって?」

 

親しみやすい…課題だな。今後、長い付き合いになりそうだし。

 

「…それは、シンジさんともう少し真剣に向き合ってからでないとなぁ…。」

 

「あ、あのぅ、そのさん付けしなくても、だいじょうぶです。その、なんかくすぐったいっていうか、変な感じがして…すみません。」

 

見かねたシンジ少年からのフォローに救われた。ありがとう、シンジ君。俺はさん付けでも一向に構わないんだがな。

 

「…そうか、わかった。じゃあ、シンジ君改めてこれからよろしく。」

 

「あ、はい、キンゴさんよろしくお願いします…。」

 

俺達は互いに握手をしてから車に乗り込んだ。シンジ君は助手席に座らせたのだが…少しビビり過ぎではないか?

 

 

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