キンゴ・オオタニ   作:ヤン・デ・レェ

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キンゴさん

大谷キンゴさん…父さんが僕に付けてくれた警護官の人。

 

紫色の瞳、プラチナブロンドの髪。そして僕と同じ肌色をしていた。肌の色だけが普通過ぎて、なんだか心が騒いだ。

 

僕よりも体が大きくて、僕よりも綺麗な顔をしていて、僕よりもずっとずっと立派な人で、でも初対面で僕に敬語を使ったり、さん付けして呼んできたり…僕よりもずっと、変な人だった。

 

 

 

「見ろよあれ!!!すげぇ車が停まってるぞ!」

 

誰かが叫んだのを皮切りに、駐車場の方にみんなの視線が集まった。帰り際に騒ぎ出したクラスメイトを置いて先を急ぐ。今日は外食に行くからとミサトさんが楽しそうに僕に話してくれた。だからという訳じゃないけど、おじさんの家で体験したことが無かった外食に、ほんの少し行く前から心が軽かった。

 

「あら~!シンちゃんお疲れ様。さ、早くいくわよー!」

 

「待ちなさいミサト…キンちゃん、自己紹介ここでしたら?向こうでも良いけど、多分彼も気になってるわよ?」

 

階段を下り、校舎から出たところでミサトさんに声を掛けられた。待っててくれたのかな。

 

あれ?三人もいる。ミサトさんにリツコさんそれから…初めて見る人だ。

 

「初めまして、私は今日から貴方の警護官として働かさせていただきます。大谷キンゴと申します。以後お見知りおきを。」

 

大谷キンゴと名乗ったその人は、会って開口一番に僕にこう言ったんだ。

 

そして、僕が最後に車に乗る直前にキンゴさんは僕に声をかけてこうも言ってくれた。

 

「戦わせてすまない。そして戦ってくれてありがとう。あの日俺は、ミサトのこともリツコのことも守れなかった。彼女たちを守ってくれたのは君だ、本当にありがとう。俺は彼女たちを自分で守ることが出来なかった。だから、俺ははっきり君に媚びを売る。君が守りたい誰かに成れるように、そして君が気持ちよく彼女たちを守れるように。君のことは俺が命がけで守る。同じ人間から、君のことを守ろう。」

 

すごく、変な人だと思った。だって、そうだよ、父さんもリツコさんもミサトさんも…結局誰も僕に乗って下さいだなんて…そんな大人が子供に頼み込む素振りなんて見せなかった。

 

「エヴァに乗れ、シンジ。」

 

「エヴァに乗りなさい、シンジ君。」

 

それは当たり前だと思ってた。僕にしかできないからエヴァに乗る。僕は子供だから言われた通りにエヴァに乗る。僕は父さんの子だからエヴァに乗る。怪我をしてる女の子を乗せられないから代わりに僕がエヴァに乗る。

 

誰も、僕がエヴァに乗ってくれるように頭を下げたことなんてなかった。大人に頭を下げられるなんて、変だよ。

 

でも、キンゴさんは…気のせいかもしれない、でも本気で僕に頭を下げて、心から僕に懇願したんだと思う。

 

僕はキンゴさんのことを、僕が知ってる他の大人の人とは全然違う人なんだって、そう思った。

 

もっと、色々なことを話してみたくなったんだ。少し勇気を出して、さん付けだけはやめて貰えてよかった。

 

僕がエヴァに乗りたくなる人、エヴァに乗って守りたくなる人に成るから…そんなこと言われたの、キンゴさんが初めてだったよ。

 

キンゴさんが変なんだ。それは分かってるよ。

 

でも、<来い>…それだけ書かれた手紙を送ってきた父さんに会いに行ったら、訳も分からないままロボットに載せられて。

 

死ぬかと思うほど痛い思いもして、それでも一度だって褒めてくれなかったんだ。

 

頑張ったんだ。僕、頑張ったんだよ?なのに、どうして僕のことを見てくれないのさ。あのまま、あのまま僕が乗らなくて、それからあの女の子が乗って戦っても勝てなくて…そしたら…そしたら父さんはどうしたんだろう?

 

そんなことだって、僕は考えてしまう。酷いヤツだ。でも…でも父さんだって酷いじゃないか。

 

…嬉しかったんだ。それが僕の正直な気持ちだった。

 

認められた。言葉にしてくれるほど頼りにされた。感謝された。

 

自分よりもずっと優れてる人。キンゴさんに、僕のことを何も知らないはずの彼に感謝されて、頭を下げられて、それがきっとすごく気持ちよかったんだ。

 

ぽわぽわして変な気持ちのまま、キンゴさんの背中を追った。

 

黒くて大きな車が駐車場にあった。さっきのクラスメイトが騒いでいたのはこの車のことだったのかな。

 

物凄く分厚いドアを軽々開けたキンゴさんが、僕にも乗るように促した。背中から投げ掛けられた言葉に満足を覚えていた自分を恥じるように、でも嬉しかったから、顔を見せない様に食事をするお店に着くまでずっと下を向かなきゃならなかった。

 

キンゴさんは多分、変な人だ。

 

でも僕はキンゴさんのことがちょっぴり好きで、それから羨ましかった。

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