そうこうしている内に、少女は下半身を喰らい尽くしたようだ。
ゆっくりとこちらを向いたので、やっと初めましてが言える。
「おはよう、食事が出来るくらい元気になって良かったよ。部屋を汚してしまったのはいただけないが…それだけ空腹だったんだね。ところで、私の予想だと君はもう満腹なんじゃないかな?」
「………………‥は?????」
「やはりね…私のカラダはカロリーが莫大らしくてね、君はよく食べた方だよ。いや、内臓を食べないとそれくらいが普通なのかな?でも、小さいのによく食べ切れたね。ところで、食後のコーヒーを出してあげたいんだが…生憎、まだ動けなくてね、そっちの戸棚を探って欲しい。多分インスタントがストックしてある筈だ。マグカップは既に洗ってある、私が使ってないのを見つけて使いなさい。」
「いや…なんで生きてるの?……え?え?なんで?アンタ、にッ…人間じゃない、のか??」
私はむっくりと腕の力だけで上半身を起こして、少女と目を合わせてから声を掛けた。
少女は腰を抜かしてしまい、何とか立ち上がりすぐさま飛び退くと、壁に背中を当てて怯えた目で私を見ていた。
驚きすぎでは…?とも思ったが、いくら血や臓物に慣れていても流石に喋る死体には免疫が無かったらしい。
でも私のお陰で今後は驚かずに済むな!イイ予防接種になった。小児科医の面目躍如である。
なるべく穏やかな第一印象を心掛けたのだが…逆効果みたいだ。少女は赫子を出して威嚇している。
「怖くないよ、ほら、手を触ってごらん?」
「うぅ…ぅえッ!?温かい…な、なんで…?」
「あっはっはっは!皆ね、最初はそんな顔するんだ」
「…アンタ、何?…なんで死なないの?それに…どうして笑ってるの?怒ってないの?」
「ナゼナゼ期の子供みたい…うーん、私にもわからないんだな、コレが。」
「どうして死なないのか、どうして腹が立たないのか…でも、怒ると疲れるってウチに診て貰いに来るママさん達も言ってるから、憎しみが湧かないのはきっと良いことだよ。良いことだから、私は別にナゼなの知らなくてもイイかな?」
「つまり、私も私が何者なのか知らないんだ…疑問に答えられなくてすまないね。」
「…へぇー、変なの。」
私は断面がベチャっとなりながらも、上半身を縦にして少女に答えた。
納得はしていなかったが、赫子をしまってくれたので、少しは緊張をほぐせたみたいだ。
これから仲良くなるためにどうしようかと思ったが、ここにきて私は大事なことを忘れていたことに気づいた。あ、自己紹介してないや。
「君、名前は何て言うのかな?私はトキ、蒲生トキって言うんだ。ここでお医者さんをしてるんだ。」
「…ぇと…。」
「えと?十二支かな?私は未年のカニ座だけど…?」
「違う、名前。私のな・ま・え!」
「あ、あぁ、ごめん。ごめんね。そうか、君の名前が<えと>…<エト>って言うんだね?」
「うん…そういうこと。」
エトちゃんか…いや、君もあり得るな。まだ性差が明確じゃないから外見上は判断しかねる。最近だと精神の違いもあるし。
「うん。それじゃあ、名前も聞けたことだし。私はひと眠りするよ。」
「え?」
「おやすみなさい。」
「寝る?…永眠ってこと?さっき死なないって。」
「うん。死なないよ。眠ると元に戻ってるんだ。」
「…見てても、いい?」
「?あぁ、いいよ。カメラで撮っても良いけど…内緒だよ?モルモットにはもう二度となりたくないから。特別何か面白くも無いけど、それでいいなら。」
「う、うん。見てる…。」
ひと眠りすると、起きた時には元通り。下半身全裸って所が難点だ。さりげなく近くにあった毛布を局部が生えてくるであろう辺りに掛けておいた。エトちゃんは私の肉体がどんな風に再生されるのか、そのことに興味津々らしい。
自分で言うのもなんだが…こんな得体のしれない男を、会ったその日に観察しようとするエトちゃんは相当に肝が太いな。将来は大物になりそう。
でも、まだなんか忘れているような…?あ!
思い出した!勝手に家に入れちゃったけど、そろそろ親御さんが心配してるんじゃないの?
「じゃあ、おやすみ…。あ!君…エトちゃんは何時ごろ家に帰るのかな?」
「あ…帰れって言うなら、帰るけど…。」
「…泊ってくかい?」
「え!いいの!?」
「いいよ。部屋とかお着替えは、ごめん後で。今は少し寝かせてね。じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ、なさい…トキ…先生。」
外泊許可を貰っているのか、それとも帰り辛いのか…何れにせよ、子供を保護するのに必要な理由は後から考えよう。
私は後悔しない。一期一会だし、何より…エトちゃんは将来美人になるに違いないからな!私は十年後の顔を予想するという特技があってだな、倒れてるエトちゃんを一目見て解った、大人になってからの顔が私のタイプだったんだ。
だからといって、それだけで助けた訳じゃないけれども。でも、これがきっかけで仲良くなれれば、私の人生にも張り合いが出るってもんよ!
色々とスプラッターな出会いだったが、めぐり逢いに感謝しよう。
もう、そろそろ眠気を我慢できない…。
今度こそ瞼を閉じると、いつもみたいに急激に全身麻酔が回るような感覚と共に意識が沈んでいった。
次に目を開けた時、まだエトがそこに居てくれたら、まずは風呂を沸かそう。着替えは誰かの置いてったのを借りることにして。
夕飯を用意して、それから食後のコーヒーでも淹れようか。
ふふふ、私も折角だから<丁寧な暮らし>ってやつを満喫させて貰おうじゃないか。