骨河三途は  である。   作:全智一皆

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第一話「挨拶の基本は握手って決まってるだろ?」

 

■  ■

 犬吠埼風にとって、骨河三途はだらけ切った同級生だ。

 この讃州中学校に入学して三年間、常に同じクラスに居る所謂長い付き合いだが、しかし彼女は未だに骨河三途という人間を理解する事が出来ていない。

 基本的に笑っているか眠っているかの二択しかしていない怠け者だが、何故か知らないが勉強だけは成績優秀なのだ。

 特に理科や数学。これらの教科は必ずと言っていい程に満点を取っている。

 いつも眠っているのに。いつも真面目でないのに。しかし、成績優秀という事は、即ち骨河三途は天才なのだろう。

 だが、それを本人に言えば、本人はこう返す。

「オイラが天才? hehe…そいつは違うぜ、イヌボウザキ。オイラは天才なんかじゃない…ただ無駄に知識を持ってるだけだ。それに、“天災”なのは、オマエ等の方さ。」

 と、やはり笑いながらいつもの調子で返すのだ。

 だが、その笑みが乾いたものであった事を、犬吠埼は気付いていた。

「はぁ……つくづく、よく分かんない。」

 ため息を吐きながら、勇者部の部室にある机に、犬吠埼は顔を伏せる。

 三年と長く一緒に居るのに。三年と長く、友達で居るのに。

 されど、理解出来ない。全く、分からない。

 それが、彼を友だと思っている犬吠埼にとっては不服なのだ。実に不満なのだ。

「お姉ちゃん、ため息なんて吐いちゃって…何かあったの?」

 顔を伏せて考え込んでいると、聞き覚えしかない愛しい声が聞こえた。

 顔を右にずらしてみると、心配する表情で犬吠埼風を見る彼女の妹―――「犬吠埼樹」が居た。

 ため息を吐いて顔を伏せた姉を心配しているのだろう。何か嫌な事でもあったのではないか、と。

「んーん。嫌な事があった訳じゃないんだけど…ちょっと、考え事してて。」

「考え事…もしかして、三途さんの事?」

「えっ、凄い。なんで分かったの?」

 事実を当てられ、驚いて伏せていた顔を上げる。

 樹はくすくすと笑いながら、「お姉ちゃんが考え事してる時って、大体は三途先輩の事だからね。」と、彼女にとっても衝撃の事実を落とした。

「え―――」

「もしかして、自分でも気付いてなかったの? お姉ちゃんが考え事をする時って、大体は三途先輩の事で…」

「へぇ、そいつは嬉しいな。」

 ぴた、と。二人の動きが止まる。

 ぎぎぎ…と、壊れた機械のようにゆっくりと、犬吠埼樹は自分の後ろの方を振り返る。

 其処には、姉の同級生の――――――

「よぉ」

 骸骨が居た。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 甲高い綺麗な悲鳴と汚い絶叫が勇者部の部室に響き渡る。

 二人の姉妹が抱き合う。互いに互いの身を守るように。うむうむ、尊いね。

 驚かせた本人―――骨河三途は、へらへらと笑いながらその仮面を取り外した。

「イツキは兎も角、イヌボウザキは女らしからぬ悲鳴だったな?」

「さ、さささ、」

「何してんのよ馬鹿三途!? 樹、落ち着いて!」

「hehe…予想以上の盛り上がりだな。ガタガタ震えてやがるぜ。骨みたいにな。」ツクテーン

「こんな時にジョーク言ってる場合か!?」

「がいこつ、骸骨がぁ…」

「樹ー!」

 

 後に、犬吠埼風の尽力によって犬吠埼樹は救われた。

 ちなみに三途は犬吠埼風に追い掛け回され、何とか逃げ延びた。

 

□  □

「ほんっと! 何なのよアイツー!」

 バンッ! と、腹立たしそうに机を叩く犬吠埼。

 流石にこればっかりは仕方ないな、とそれを容認する妹。

 深く考えていたのが馬鹿らしく思えてしまう。というか思ってしまった。

 確定だ。確定事項だ。絶対不変の真実が、此処に誕生だ。

 骨河三途は人間だ。ジョークが好きで悪戯が好きな、頭が良い様で、実際は馬鹿なただの人間だ。

「失礼します!」

「失礼します。」

 がら、と。

 二人の少女が部室の扉を開けて、そして入室する。

 桜色の髪が特徴的な少女。

 その少女に車椅子を押される少女。

 桜色の髪が特徴的な少女は、結城友奈。

 車椅子に乗る少女は、東郷美森。

 犬吠埼風、犬吠埼樹と同じく勇者部に所属する少女である。

「あぁ、いらっしゃい…二人共。」

「風先輩、どうかしたんですか? なんか、疲れてるような…」

「実際に疲れてるわ…聞きなさい、私と樹が誰の所為で疲れてしまったの……か…………」

 乾いた笑みを浮かべながら二人の方を向く。途端、犬吠埼の表情が変わり、言葉も途切れる。

 樹は手で口を覆い、目を見開いている。

 二人は首を傾げる。突然どうしたのだろう? と。

 直後―――

「おい」

 ぞくっ―――と、背筋を恐怖が駆け抜けた。

 びくっと、肩が揺れる。

 健康的な肌色が、徐々に徐々に青褪めて体が寒くなっていく。

 苦しい重圧感。重力に押し潰されているのではないかと錯覚してしまう程の何かが、全身に伸し掛かっている。

「ゆっくりと 後ろを 向け」

 低い声が体の隅々に届く。恐怖が体を突き動かす。

 ガタガタと震える足と体を何とか動かして、結城友奈は後ろを振り返る。

 フードを深く被った誰か。声の低さから、恐らく男だろう。

 制服を着ていない。まさか不審者?

「左手を 出せ」

 意図は分からない。

 だが、抗う事も出来ずに友奈は左手を差し出し――

 男の右手が、結城友奈の左手を握った瞬間、

 ブゥゥゥゥゥゥゥ―――――――――

「へ?」

 そんな、間抜けた音が響き渡った。

「hehe…良いリアクションだ。流石はイヌボウザキの後輩だな?」

「え、あの」

「ボーンとしてんな? hehe…本当、やって良かったぜ。」

 握手が解かれ、男の右手がフードを取って、その顔を顕にする。

「ハジメマシテだな。ユウキ、トウゴウ。オイラは三途、骨河三途だ。」

 へらへらと笑いながら、骨河三途は再び登場した。




「同じリアクションだよな、やっぱりさ。」
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