骨河三途は  である。   作:全智一皆

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第二話「オイラはニンゲンが大好きさ。憎たらしく思う程にな。」

 

■  ■

 白い半袖の上に、白いフードが付いた青色のフードを着こなし、白いラインが入ったズボンとピンクのサンダルという格好の男こそ、骨河三途。

 授業が全て終わったといっても、此処は校内。教師や部活生徒が残る学校である。

 そんな中を、三途は私服で歩いてきたという訳である。

 しかし、そうだとするからば、ここで一つの疑問が生まれる。生まれてしまう。

 犬吠埼風が憶えている限り、追い掛けている時の三途はしっかりと制服を着ていた筈だ。

 追い掛けていた時間は約十分。それなりに長く追い掛けていた筈だ。

 途中から逃げ切られ、見失い、諦めて部室へと戻ろうとした犬吠埼は、その時に三階に居た。

 三途が彼女から逃げ切ったとしよう。それから私服に着替えるには、一度帰宅しなけらばならない。

 だが、怠け者の彼が果たしてそんな面倒な事をするのだろうか? 授業中を常に寝て過ごす彼が、そんな無駄な事をするのだろうか?

 否、否。そんな事をする訳がない。そんな事が出来る訳がない。

 ならば、カバンの中に私服を入れて、持って来ていた? 何の為に?

 いや、そこの疑問はどうでもいい。そんな疑問は、本当に心底どうでもいい。

 疑問に思うべきなのは、問題視すべき点とは―――『彼がどのようにして、三階という場所から勇者部の部室までの距離を詰めたのか?』

 三階から勇者部の部室まではかなりの距離がある。それを、彼はどのようにして詰めた?

 走ってきた? だとすると、何故、彼は息を切らしていなかった?

 怠け者である彼の身体能力は、決して高くはない。体育の授業も寝過ごしている彼に、それ程の体力は無い。

 ならば歩いてきた? そうすると、彼が友奈達の背後に立つまでの時間と合わない。

 犬吠埼風が部室に戻って休憩を取った直後に、友奈と東郷は入室した。

 ならば、やはりどうやっても時間が合わないのだ。

 どうやって移動した? どうやって距離を詰めた?

 息を切らさずに、そして時間に合うように、長い距離を移動したのか?

「別に何も変な事はしてないぜ? ただ『近道』して来ただけだ。」

 どう聞いても、彼はそうとしか答えない。へらへらと笑いながら、そうやって流すだけである。

 故に―――『閑話休題』。

「オイラは三途。イヌボウザキのお気に入りの三途だ。よろしくな、ユウキ、トウゴウ。」

 へらへらと笑いながら、遠慮無しに部室の椅子に座り込んで自己紹介をする。

 巻き込まれた犬吠埼風は勝手な事を言うな! と怒り、よろしくされた結城友奈と東郷美森はあはは…と苦笑いを浮かべるばかりだった。

 無理もない。あのような悪戯をした男から、宜しくしようなんて言われても、それはかなり難しいだろう。というか複雑だろう。

「hehe…イヌボウザキはこんな“風”に変わり種でな。」

「私の名前でボケるな! 私が変わり種ならアンタは無情よ!」

「どうとでも言いな、面の皮厚い。」

「酷いジョークはこりごりなのよ…」

「ケチャップ要るか?」

「要らないわよ! てか何で持ってきてるのよ!?」

 二人で繰り広げられるのは、傍から見れば喧嘩にすら見えない戯れ合い。

 漫才と呼んだ方が正しいかもしれない。故に、

「お二人共、仲良しなんですね!」

 結城友奈は、笑顔でそう言った。

「はぁ!? 私と馬鹿三途が!?」

「hehe…ユウキ、よく分かってるじゃないか。そう、オイラとイヌボウザキは仲良しなんだ。」

「違う違う違う! 断じて違う! 私と此奴はただの腐れ縁よ! それだけ!」

「知ってるか、イヌボウザキ? そういう奴はな、ツンデレって言うんだぜ?」

「気持ち悪いわ、この馬鹿! アンタもなんで本気にしてんのよ!?」

「おいおい、お前こそ本気にしてんなよ。トマトみたいに顔が赤くなってるぜ? ケチャップ不足か?」

「よーし引っ叩く! アンタを今、此処で絶対に引っ叩く!」

「hehe…そりゃあ怖い。」

 闘志を灯し、椅子から立ち上がる犬吠埼。対して、三途は座ったまま余裕の笑みを浮かべるだけで、何もしない。

 犬吠埼は右手を大きく振り上げ、三途の脳天へと狙いを定め―――

「一発食らえー!」

 勢いよく、振り下ろした。

 パァンッ!!!!

 良い音が鳴った。しかし、それと同時に、ヒリヒリとした痛みが、犬吠埼の掌から腕全体へと響き渡った。

「hehe…何処狙ってんだ? 耄碌するにはまだ早いだろ、イヌボウザキ。」

 骨河三途は、椅子に座っていなかった。

 彼が座っていた筈の場所には彼が居らず、犬吠埼風は狙いがズレたかのように机に手を振るっていた。

 唖然とする全員。

 全員は確かに見ていた。骨河三途が椅子に座っていたという現実を。骨河三途が、回避も抵抗もしていなかったという確かな事実を。

 にも関わらず、瞬きをしたその次の瞬間には、骨河三途は彼女達の目の前から消え去っていた。

 骨河三途は部室の真後ろ、窓もない壁側に背を預けて立っていたのだ。

「さ、三途先輩?」

「ん? どうしたよ、ユウキ。“ボーン”として。」ツクテーン

 骨河三途は、いつもの態度を崩す事もなく冗談めかす。

 いつもの様に、片目を閉じて笑っている。

「さっき、椅子に座ってましたよね?」

「あぁ、座ってたぜ。」

「動いてませんでしたよね?」

「あぁ、仏像みたいに。」

「今……何をしたんですか?」

「オイラは肝が据わってるからな。自分が怪我しないように、“回り道”しただけさ。」

 パーカーのポケットに手を突っ込んだまま、はぐらかすように答える。

 だが―――笑ってはいなかった。

「なぁ、トウゴウ。近道って分かるか?」

「は、はい。分かりますけど…」

 突如の質問に、少し戸惑いながらも東郷は答える。

 いつもの笑みを消し去り、何もかもを諦めたような無表情を浮かべたまま、三途は話し出す。

「どんな物事にも近道があるって言うよな。なら、危険から逃げる為にも近道はある訳だ。でも、そういう物事の近道ってのは、本当にある道じゃないよな?」

 近道。近い道。抜け道とも言われる。

 意味としては、速成の手段・方法を指す。

 故に、物事の近道とは実際に道という物体があるという訳ではない。ただ、手段や方法があるというだけだ。

「“オレ”はな、その近道を通ってるだけなのさ。危険から逃れる良い道を通った。それだけの事だ。」

 でも―――

 まだ、この世界の逃げ道は見つけられない。




オイラは諦めた…けど、コイツは諦めたくないみたいだ。
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