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赤い空の水平線へと、降ろされる幕の様にゆっくりと落ちていく暖かい夕日に照らされた、愛しき校舎。
その小綺麗な廊下を、誰もが身に纏う整った制服とは正反対の服装―――即ち私服で、骨河三途は歩いていた。
こつ、こつ、と、スリッパの固い底で滑らかな廊下を叩きながら、三途は涼しい顔で渡り歩く。
夕方の校舎には、彼以外の生徒は居ない。教師ならば居るが、全員が職員室で日々の作業に務めている為、実質的には彼以外に人は居ないと言えるだろう。
静かな廊下。静寂な空間。無人の教室。
それらは全て、不気味だと思う程に、気持ち悪いと感じる程に、とても静かで、あまりにも静寂で。
無人である事が、静かである事が、それだけで異質なものだった。
そんな場所を、そんな空間を、しかし彼は不気味と思わず、気持ち悪いとも思わず、寧ろ、その真逆で―――とても心地良く、また懐かしく感じていた。
鐘の音が聞こえる場所。
誰も居ない静かな場所。
小鳥の囀りが聞こえる。
花々が咲き誇っている。
そんな場所が、とても心地良い。そして、とても懐かしい。
「……そろそろか。」
歩みを止め、廊下の真ん中に立ち止まる。
直後、この世界の色が無くなった。
夕焼けの空は黒く、その他の建造物は白く。
色を失い、そして、ついさっきまで意思を持って動いていた物の全てが、悉く停止していた。
石の様に止まっていた。山の様に止まっていた。
気配も何もかもが失われ、何も其処に無いかの様に。
とても静かに、そして寂しく、動かなくなっていた。
だが―――彼だけは違った。骨河三途だけは、その他のものとは明らかに違っていた。
色はモノクロになっている。艶も無き純白の髪に、白い肌。青色のパーカーは黒く、フードは白く。
そして―――瞳には、群青を灯していた。
「普通なら、簡単には会えないとか何とか抜かしてたが…オレには、そんなの関係無いな。」
一步、前へと踏み出した瞬間。
その時、もう既に―――骨河三途は、その空間には居なかった。
景色の彩りが戻り、色を取り戻して、完全に停止していた世界が再び動き出す。
だが、誰もそれに気付いていない。誰も違和感など覚えていない。
それもその筈。
何故ならば、別に――――――時間が止まった訳ではないのだから。
「よぉ…今日も来てやったぜ、コウハイ。」
場所は大きく変わった。
其処は教室でもなければ廊下でもなく、言ってしまえばそもそも学校ですらなかった。
其処は、完全なる病室。
全身を包帯に巻かれた、“二人”の少女が大勢の白装束の人間に囲まれた異質な空間だった。
「いつも、態々ありがとうございます…三途さん。」
「気にすんな。って、言いたい所だが…」
疲れた様な表情で、三途は何時の間にか設置された椅子へと、腰を降ろす。
それが、その態度が、ある意味での証明だった。三途が言葉の歯切れが悪い事の答えだと、彼女達は思った。
「あー…やっぱり、面倒ですか?」
ベッドに体を預けている少女の一人が、申し訳なさそうに笑いながら答える。
彼女達が骨河三途に抱いているのは、共通して一つ―――『罪悪感』だ。
彼女達は、誰にとっても許されざる罪を犯した。
誰にとっても悲しく、誰もが憤っても仕方ない事を、彼女達はした。
そうであるにも関わらず。殺されても文句は言えないにも関わらず。
彼は、彼女達に協力してくれていた。
「そんなのは、今更ってもんだぜ…“ミノワ”。オレはいつだって、色んな事が面倒さ。だが、オマエ等の事は…あいつに、託されてるからな。」
天を仰ぎながら、大きなため息を吐く。
心底、面倒だ。何故、家族が死んだ原因となる奴らの手助けなんてしなければならないのか…そう考えずにはいられない。
だが…だが、しかし。
「大切な“弟”から、もし何かあったら助けてあげて…なんて言われたら、やらない訳にはいかないだろ。」
三途は、面倒である事を否定しなかった。
面倒であると肯定したが…しかし。
弟から、大切な家族からの最後の願いが、『友達が困っていたら助けてあげて』という願いがある。
その願いの為に、協力しない訳にはいかないのだ。
どれだけ面倒でも、弟の頼みだけは――――――誰に何と言われようと、叶えてやらなければならない。
たった一人の、大切な弟が託してくれたのだから。
「……」
「おっと。謝ろうとするんじゃねぇぞ、ノギ。それはオレにも、そしてオマエ達を救ったオレの弟にも――“パピルス”にも失礼だぜ。」
乃木園子と三ノ輪銀は――――――
骨河三途の実の弟である、「骨河信」を死なせている。