WOLVERINE STRANGER OF LYCORIS   作:織姫ミグル

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第3章

 

 

結局、廃墟となったビルで行われた抗争が終息したのはその日の夜だった。

 

戦い自体は朝早くに終わったが、証拠隠滅のための後処理に時間がかかった。遺体の処理だけでなく、使われた銃火器の隠滅、世間への印象操作するためのデタラメの情報を流すための良い言い訳を現場から見て考えなければならない。

 

やることは山積みだ。

 

その日の昼。

 

ちょうど現場に来ていた赤髪でどこかいつも眠たそうな目をしている女性、“楠木司令”とその秘書は状況を知るためにわざわざここに足を運んでいた。

 

消防隊や警察もいるが、建物の周囲で警戒線を張るだけで中に入ってくるようなものはいなかった。

 

表舞台には『廃墟となったビルで残っていたアダプターの電線が切れて火花を散らしてそれが漏れ出たガスに引火したのが原因で爆発を起きた』とかなんとか言っとけばいいと司令は情報部に命令した。

 

ムチャクチャ大雑把な言い訳すぎるが、案外これで通せるものだ。

 

よって、周囲で非常線を張っている警察達も納得し、火災や倒壊に巻き込まれる危険を考慮して協力してくれている。

 

元々、ここは建設途中のビルだったが、その施工主の会社が倒産して建設は打ち切りとなり、買い取り手が現れるまで一般人は立ち入り禁止にしていた。中の部屋はほぼがら空きで、何の生活用具も置かれていない。良くて建設用の器具が片付けもされずに放置されていたぐらいだ。

 

 

「ここか」

 

 

元々は窓ガラスも綺麗な状態だったのだろうが、侵入者達によって徹底的に壊されていた。その侵入者には、『自分達』も含まれるのだが。

 

おかげで、部屋中硝子片まみれだ。

 

靴底が分厚いものでないと部屋に入るのも危険だった。

 

 

「丁寧に証拠を消すにも金がかかるというのに、あいつらときたら」

 

 

ならず者と自分の部下。どちらにも受け取れるような悪態をつき、現場の確認にあたる。

 

遺体は既に処理。残るは現場の後片付けだけだ。複数の処理班が現場を綺麗にしている。

 

しかし、楠木が気にしているのは別のところであった。事件現場は特に目もくれず適当に見た後、事件が起きた現場からちょうど一階上、七階へとやってきた二人は周囲を見渡した。

 

 

「ここか、その“髭を生やした中年の男”が住んでいた場所というのは」

 

「はい。一般人は立ち入り禁止にはしているものの、事件当日までここを警備しているものはおらず、誰でも簡単に侵入できたようです」

 

 

経費削減のために一々高度な監視態勢を設置したくなかったんだろう。だから、ここは事件の現場となってしまった。

 

秘書は手に持っている書類を見ながら、

 

 

「今回任務にあたったリコリス達からの報告によれば、武器取引の場として利用されたこの場所で我々『DA』が秘密裏に処理しようとしたところ、一人のリコリスが人質となり、全員が身動きが取れずにいたところで何の前触れもなく急に現れた······とのことです」

 

「何の前触れもなく······か」

 

 

楠木は部屋中に散らばっている酒瓶を見る。

 

まだ残っているものもあり、床に溢れているものまである。

 

部屋中に充満したアルコールが鼻につく。もし下の階から誤って上の階に銃弾が流れていたら、高温となって放たれた銃弾に引火して最悪火事になっていたかもしれない。

 

床のコンクリートは分厚いみたいだからその心配はないだろうが、最悪の事態は常に避けなければならない。

 

『DA』は政府と協力関係にありながら、指揮下に置かれず強い特権を有している組織だ。警察や公安とは異なり、独立治安維持組織としてかつどうしている。

 

犯罪者や犯罪を行おうとする人物に対して、エージェントである少女達、『リコリス』を差し向けて秘密裏に処理することによって、この国の治安を維持している。

 

その存在は世間一般には知られておらず、戦闘や任務で生じた被害は表向きは事故として処理されており、決して世間には知られないように、徹底的に証拠を隠滅して情報統制を敷いている。

 

その存在は元からなかったかのように。

 

人知れず戦い表舞台を守る組織、それが彼女達だ。

 

 

「それが今、その謎の男に知られてしまったというわけだ」

 

「しかし、証言によればその男性は酒に酔っていたという様子だったようです。我々の存在には気付いていないのでは」

 

「見られたというのが問題なのだ。たとえ酒で酔っていたとしても、見られたのは変わらない。何より、その男は『撃たれても死ななかった』と言うじゃないか。『指の付け根からも鋭利な刃物』を出したとの情報もある。遺体の死因は奴のその圧倒的な身体能力が原因だ。そんな存在を野放しにはしておけん。だからリコリス達にそいつの身柄を押さえろという命令を下した」

 

 

と、楠木はつまらなそうな口調で言うと。

 

 

「······というのが表向きだ」

 

「?」

 

「身柄を押さえろとリコリス達には命じたが、実際は保護といった感じだろうな。今回の件で我々だけでなく、事件を引き起こした奴らの仲間達にもその男の情報は行き渡っている可能性がある。裏ルートを使えば、たとえどれだけ証拠を消しても手に入れることができる。よって、奴は多方面から狙われる存在となった。そのままほったらかして街を彷徨かせるというわけにもいかん。さっさと保護して安全な所で監視するというのが目的だ」

 

「なるほど······」

 

「どの道、今回の事件の重要参考人であるのに変わりはない。そいつから今回の事件の詳細も聞かなければならんしな」

 

 

腰を屈めて空となった酒瓶を拾い上げた楠木が、小さく笑ってそう説明した。

 

何の前触れもなく現れたなんて、ふざけた話だ。偶然の偶然が引き起こした展開に思わず楠木は笑ってしまった。

 

この部屋の状況を見るに、奴は少なくとも三ヶ月はここに滞在していたのだろう。いつものように酒を飲んで、小型のラジオで世間の流れを聞いて暮らしてきた。だがある日、ここで武器取引が行われて、たまたま上にいた男も巻き込まれてしまった。そして、その男に武器商人全員殺されてしまうなんて馬鹿げた話だ。

 

実際に起こった出来事とはいえ、未だに信じられなかった。

 

たった一人で武器も持たず武装した集団と渡り合い、そして不死の体を持つ男。

 

そんなの都市伝説でしか聞いたことなかった。

 

 

「ところで、楠木司令」

 

 

秘書が尋ねた時、安酒の銘柄を確認している楠木が『ん?』と声を上げた。

 

 

「今回の事件と言えば、よかったのですか?」

 

「何がだ?」

 

「井ノ上たきなのことです。別の部署に配属してしまって······」

 

「報告書では、あいつは待機命令を無視して敵が所有していた機関銃を用いて奴らを無力化しようとした。不発に終わったが、その行動に問題がある。指令を無視して勝手な行動を取ろうとした責任は重い」

 

「しかし······」

 

「一歩間違えれば、我々の存在が世間に広く知られてしまう可能性もあった。けじめは取らせなければならん」

 

 

その言葉に、秘書は少し納得していなさそうな顔をする。

 

だが、事実彼女は命令無視をしようとした。その勝手な行動一つによって生じる危険性は大きい。未遂で終わったのは結果論でしかない。命令無視という記録が残っている以上、何らかの罰を与えなければ組織の治安も守れない。

 

すると、楠木が鼻で笑った。

 

 

「ま、当面はたきなのスタンドプレーということにしておく。何より、彼女は優秀だ。よって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「······『和喫茶リコリコ』ですか。そこもDAの支部なんですか?」

 

「あぁ、表向きは下町にあるカフェということになっているが······そこには史上最高と言っても良いリコリスが一人いる」

 

「史上最高······?」

 

「そいつは生意気な奴だが、腕は確かだ。毒には毒······ではないが、お互い良い刺激になるだろう」

 

 

それに、と楠木は一拍置いて、

 

 

「優秀なリコリスが二人もいれば、その男の確保なんてすぐだろう。他のリコリスが先を越す前に、『あの二人』が誰よりも早くそいつを見つけ出す」

 

 

 

✕✕✕✕✕

 

 

 

「······壊滅?」

 

 

緑のアフロヘアの男がそう言った。

 

彼の乗せた大型の改造ワゴン車はただ目的地もなく走っている。位置を特定されないようにわざと回り道をしているのだ。

 

時間は昼時。

 

改造したワゴン車に備え付けられているテーブルでファストフードを食べている彼は、車内に取り付けたスピーカーの話を聞いていた。

 

 

『はい······今日三時間前に取引した武器商人達は全員死亡。全員斬殺されたとのことです』

 

「あ? 斬殺? 射殺じゃなくてか?」

 

『はい。全員鋭利な物で綺麗に四肢を斬られて死亡した模様です』

 

「なんだ? DA共はついに剣道まで極める気になったってのか?」

 

『いえ、殺したのはリコリスではありません。()()()()()

 

「······は?」

 

 

思わず食事の手を止めた。

 

ただの民間人がわざわざ事件の現場に来て、武装した集団相手に殺し合ったというのか。その報告に男は食べていたハンバーガーをテーブルに置くと、目の色を変えて話を聞く。

 

 

「具体的な詳細を聞かせろ」

 

『入手した情報に寄れば、その男は四十か五十ほどの中年男性。独自の情報網で聞き付けたリコリス達が現場で商人達と暴れまわっていたところ、唐突に現れたようです』

 

「リコリス共が現れたのは俺達が去って三時間後だったよな? つまりそいつは元からそのビルにいたってことか?」

 

『おそらくそうだと思います。しかもそいつは、撃っても死ななかったらしいです』

 

「ッ!?」

 

『商人の奴らはアサルトライフルやショットガン、普通の拳銃をそいつに向けて何発も銃弾を撃ち込んだらしんですが、撃っても撃っても全然死なず、それどころか返り討ちにされたと』

 

「······デタラメ言ってんじゃねぇだろうな?」

 

『確かです。“あのハッカー”から聞いた情報なんですから』

 

 

連続的に聞かされるその報告に男は眉間にシワを寄せる。

 

あまりにも馬鹿馬鹿しい。鉛弾を何発も撃ち込まれて死なないなんてありえない。服の中に防弾チョッキを着てたとしても、連続的に放たれたら耐えられないだろう。

 

しかし、彼はそれを聞いて意味ありげに笑みを作る。

 

まるで、面白いと言っているかのようだ。

 

 

『更に得た情報では、そいつの手から刃物が生えたそうです。服の中に隠し持っていたとかではなく、本当に手の中から刃物が飛び出して、それによって商人達は殺されてしまった模様です』

 

「ハハッ!! なんだそれ、意味わかんねぇッ!!」

 

 

男はその報告を受けてついに大笑いした。

 

不適に笑って、

 

 

「報告どうも。それについては俺も調べとく。お前らは『計画』に支障が出ないようにしてろ」

 

『了解』

 

 

派手な服を着た二十代後半くらいの男は拳銃をそれぞれ仕舞うと、椅子の腰掛けに手を置いてポケットから携帯電話を取り出す。

 

“あいつ”のことだから、身元がバレないように電話番号はダミーの物を使っているはずだ。それに、計画に加担している以上こっちの動向を常に監視しているに違いない。

 

よって彼は、本来話したい奴の電話番号ではなく、どういうわけか警察への通報ナンバーである三桁の番号を携帯に入力する。

 

電話に耳を当て、警察の通信センターのオペレータの声が聞こえるのを待っていると。

 

 

『オイオイオイオイッ!! 何警察に連絡してんだ!? 馬鹿じゃないのかッッッ!!!??』

 

 

明らかにオペレータではない別の人間の声が飛んできた。古くから接しているかのような口調で話している辺り、おそらくは男の知り合いだ。

 

警察に連絡しようとしたところ、そうはさせまいと割り込んできたのだ。

 

 

「だってお前、自分の居所を知られないためにいつも俺達に嘘の連絡先を教えるじゃねぇか。そのせいでお前にいつも連絡できない俺達の気持ちも考えろよ」

 

『違うッ!! 計画が上手く行くように常に足のつかない番号に変えてるだけだッ!!』

 

「だから警察に電話すりゃ、自分にも危険が及ぶから割り込まざるを得ないだろうなって思ってさ。それが嫌なら固定の電話番号を教えるんだな」

 

『ぐッ!!』

 

 

男は適当に言う。

男と電話先の相手はわずかな間黙っていた。少し真剣か空気を作ってからはなそうと思ったんだろう。

 

やがて男は本題に入る。

 

 

「今日取引した武器商人が誰に殺されたのかの特定を急げ。大至急」

 

『はぁ!? なんで!?』

 

「いいからやれ。二日以内にそいつの情報が送られてこなかった場合、お前を直接潰しに行く」

 

『な!? 馬鹿なことを言うな! そんなの出来るわけ────ッ!!』

 

 

男はそれ以上何も言わず、黙って通話を切った。

 

 

「······こっちはお前の居場所なんてとっくに特定してるんだぜ~」

 

 

ばんばん、とテーブルを軽く叩いて笑う。

 

彼はスマホの電源を切り、拳銃を手入れしながら運転手に言った。

 

 

「アジトに戻るぞ。ちょっとした余興を楽しむために武器を念入りに手入れしとかなくっちゃなぁ」

 

 

 

✕✕✕✕✕

 

 

 

翌日。

 

東京都内にある小さなハローワークにて。

 

 

「無理です」

 

「何でだ!?」

 

 

ローガンは小さなカウンターにバンと両手を叩きつけ、

 

 

「俺は一応教育免許持ってるし、どっか小さな塾とか空いてるだろ!? 専攻は歴史に英語だ! 一つくらいあるだろ!?」

 

「現在学校関係の募集は来ておりませんし、取り扱っておりません。それにローガンさん、あなたお酒臭いですよ。常日頃から飲んでいるみたいですね。そういった方は斡旋しかねますんで、まずお酒をやめて後日改めて来てください」

 

「ッ!! くそッ!!」

 

 

苛立った彼はもう二度と来るか! と捨て台詞を吐き、そのまま建物の外に出た。

 

何故ローガンは仕事を探すためにハローワークにいたのか、そんなの金がやばくなったからという理由しかないだろう。酒に注ぎ込んだ暮らしをずっとしていればそりゃ金は尽きる。

 

いつものように不良から巻き上げるのも手だが、そんなことを繰り返していたら残された不良共の状態から足がついて警察のお世話になることになる。

 

ちゃんとした職について安定した金を得ようと試みたわけだが、今の荒んだ状態ではどこも雇ってくれなさそうだった。

 

 

「ちくしょう······」

 

 

またゴミ溜めに戻らなきゃならないのかよ、と吐き捨てるのを堪え、最近見つけた空き地へ戻ろうとするローガン。

 

外はもう真っ暗。

 

お先も真っ暗。

 

どうしようもない。

 

 

「おい」

 

 

と、そこで声を掛けられた。

 

ローガンは無視して先を進もうとしたが、後ろから肩を掴まれて強引に振り替えさせられる。

 

 

「無視してんじゃねぇぞおっさんッ!!」

 

「······あぁ?」

 

「俺らを覚えてるか? テメェにぶちのめされた挙げ句に金まで盗りやがって!!」

 

「······誰だ?」

 

「ッ!! ふざけてんじゃねぇッ!!」

 

 

何人もの男がローガンにちょっかいをかけてきたが、彼は取り合わない。今自分が置かれている状況を酔った頭で分析していく。

 

前に。

 

ゴッ!! という後頭部へのダメージを受けて、彼の体が地面へと転がる。元から酔っていて視界が定まっていなかったが、その衝撃を受けて余計に頭が真っ白に染まる。

 

笑い声が聞こえたのでそちらに目をやると、四人ほどの不良らが立っていた。一人はバットを握っており、残りはナイフやら金槌やらバールのようなものを持っていた。その中の一人がローガンを殴ったのだろう。

 

頭の中がグワングワンする。

 

 

「なんだよコイツ。前と違ってすっげぇ弱ぇじゃん」

 

「つまり俺達が油断してたってことだろ。こんなふらふらな酔っぱらいに本来負けるはずがねぇんだから」

 

「そうだよな! こんなクズに俺達が負けたなんてありえないよな!」

 

「そんなことはどうでも良いんだよ!!」

 

 

四方八方から蹴りを食らって一通りの笑い声が響いてる中、リーダーっぽい少年が怒号を上げて一時的に攻撃をやめさせた。

 

 

「おいおっさん、知ってるか。あそこに入っていた金は俺らが長い時間をかけて色んな奴らから奪った血と汗と涙の結晶なんだよ。それをテメェみたいなおっさん一人のせいで全部台無しになっちまった」

 

 

お前本当に日本語学んだ? なんだったら日本語学校勧めようか、と定まらない思考の中でそう思った。

 

言ってることがマジで無茶苦茶だ。

 

男は気にせず続ける。

 

 

「そんでさ~、それからというもの俺達のプライドまで傷ついてさ~、全然仕事も出来ない状態にまでなっちまったんだ。人をぶん殴って金を奪うことを忘れる状態にまでなるなんて、可哀想だろ?」

 

 

お前の頭が可哀想だよ。

ローガンは地べたに伏したまま男の会話を聞き流しているが、彼は構わず続ける。

 

 

「そうなった原因はさ~、テメェにあるんだよ。テメェが大人しくあの時俺らにボコられて金を素直に渡してりゃこんなことにはならなかったんだよ。ずっとムシャクシャしてて夜も眠れないくらいでよぉぉぉおおおッ!! つーわけで、大人しく死んどけやおっさん!!」

 

 

言い終わると同時にバットを振り下ろす男。

 

ローガンは何も思わない。何も感じない。これ死ぬかなとさえも思わなかった。

 

死への恐怖もないローガンは、大人しく男のその攻撃を受け入れようとした。それで気が済むならもう文句はねぇだろ。早く終わらせてとっととどっか行けとしか考えなかった。

 

そこへ。

 

 

「こらぁぁああ!! 何やってんだあんたらぁぁぁあああ!!」

 

 

叫び声が聞こえるのと同時にバットを握る少年の体が、ゴフッ!? と真横に動いた。襲いかかってきた男から漏れ出た声だと気付く前に、女の子がローガンの前に立ち塞がった。

 

 

「弱いものいじめなんて、私が許さないぞッ!!」

 

 

ヒーローみたいな台詞をテンション上げて叫ぶ少女には、殺意がない。襲いかかってくる男達に素手で挑んで無力化していく。少女は男の腹に鋭い一撃を入れて強制的に力を抜けさせ、膝からストンと落ちるように地面に崩れさせた。

 

後ろからバールを振ってきた奴にすでに気付いていた彼女は身を屈めると、そのまま真横に回転しながら足を伸ばして男の足首に直撃させる。男は体制を崩し、そのまま頭から地面に落ちていった。

 

 

「あ! ごめん!!」

 

 

一言謝ったが、仲間の男どもは許さない。

 

 

「テメェッ!!」

 

「ほっ!!」

 

 

激昂して向かってくるが、隙がありすぎてもはやただ足を伸ばすだけで終わってしまった。下から上に勢いよく上げて顎に衝撃を与えてノックダウンさせる。

 

がっ!? という声だけを残して地面へと沈んでいった。

 

 

「ふぅ······終わったぁ~」

 

 

と、息を整えていると。

 

 

「千束さん!」

 

「おぉ~たきな! 遅かったね」

 

 

適当な調子で答えると、後からやってきた黒髪の少女が呆れ返った声で、

 

 

「急に走り出したと思ったら、なんですかこれ」

 

「いや~、ヒーローとしての血が触発されちゃったかな~なんて······」

 

 

辺りに散らばっている男達に目をやり、全員沈めたことを確認すると、ショートヘアの少女がローガンに近づく。

 

膝を曲げ、様子を窺うように。

 

 

「おーい、大丈夫ですか? 生きてますか?」

 

「······うぅ」

 

「あ~良かった生きてた」

 

 

一安心、というかのように胸を撫で下ろす。

 

その少女にローガンはなんだこいつと思ったが、体が痛くて立つことが難しかった。回復能力は効いてはいるものの、治癒には時間がかかる。

 

体を起こそうと何とか立ち上がろうとすると、

 

 

「あぁ!! ダメだよ無理したら!!」

 

 

と、少女がローガンの体に手を回して支えてくれた。だが、ローガンの体が重すぎて少女の体が持っていかれそうになる。

 

 

「うわ~、体つきがいいのは見てわかってたけどここまで重いとはッ!!」

 

 

一度壁に寝かせるか、と運ぼうとした時だった。

 

 

(······ん? 今の顔どっかで見たような気が?)

 

 

ふと、立ち止まった。

 

酔っぱらいの男の顔を改めて見る。尖った髪に、濃い髭を生やした中年男性。目は瞑っているので正確な顔つきはわからないが。

 

おそらくこの人は·····

 

 

「ッ!! たきな、この人────ッ!!」

 

「え?」

 

 

と声を荒げて同僚に声をかけた。

 

そんな時。

 

 

「この······っざけやがってクソガキが!!」

 

「「!?」」

 

 

先ほど沈めたはずの男が再起し、二人の会話を強制的に遮断した。起き上がったのは都合が悪いことにナイフを持っている奴だった。

 

すぐ近くに倒れていたため、その凶器が彼女の顔面へと迫る。

 

 

「おろ?」

 

「千束さん!!」

 

 

名前を呼ぶと同時に、ジャカッ!! という金属音が響いた。

 

黒髪の少女の腕が背中に背負っている鞄へと伸び、その中からレディース用の拳銃が飛び出した音だった。

 

 

「ッ!! 待ってたきなッ!!」

 

 

彼女の視界の外で銃を取り出したとわかった千束は、敵が迫ってきているというのに後ろを振り替えって止めようとする。

 

そこへ。

 

 

ザシュ!! と。

 

 

二人の少女の前方から、何かを突き刺したような音が聞こえてきた。

 

その途端に、男の絶叫までも飛んできた。

 

 

「ァ、ぁぁぁあああああああああああああああッ!?」

 

 

のたうち回る男は、激痛と驚きに満ちた目で転がった。と同時に、赤い色彩を纏った手らしき物が地面に散った。

 

唐突に現れた鋭い爪の攻撃が、容赦なく彼の右手を切り離す。利き腕を失った男は、地面に鮮血を撒き散らしながら絶叫している。

 

 

「「!?」」

 

 

二人は見た。

 

両目を見開き、確実にその光景を脳に焼き付けた。

 

先ほどまでいじめられていた男の手から伸びた三本の爪が、襲ってきた男の攻撃を無惨に断ち切ったのだ。

 

 

「おおおおおおおおおおおおああああああああああああああッ!!」

 

 

獣のように吠える。

 

切断したことを気にせず、罪悪感も湧かず、ローガンはガシッ! と転がっている男の服を掴むと、もう一方の腕から反対側の手と同じように鋭い爪を出し、拳を振りかざすように容赦なくその顔面に凶器を叩き込む。

 

 

「ッ!! ちょっと待ったぁぁぁあああああああッ!!!!」

 

「!?」

 

 

不意に声が聞こえてきたと思ったら、横から衝撃が飛んできた。ロケットみたいに素早い動きで、ローガンにタックルする形で抱きついてきた。

 

一緒に汚い道路に転がる。

 

腰の辺りに抱きついてきた少女は、自分の体が密着している事も気にも留めず、

 

 

「殺しちゃだめぇぇぇえええッ!!」

 

「な、何をする!? 放せ!!」

 

「放したらその人殺しちゃうでしょぉぉぉおおおッ!?」

 

 

少女はローガンに乗っかりながらそう言った。

 

急な出来事に困惑したローガンは拘束を解こうと暴れまわるが、千束は取り押さえながらたきなに声をかける。

 

 

「たきなッ!!」

 

「!?」

 

「この人だよ!! 本部から保護しろって言われてた重要参考人!!」

 

「·····あ!!」

 

「って、それよりもこっち来て一緒に取り押さえるの手伝って!! すごく力強いよこの人ッ!!」

 

「ッ!! はいッ!!」

 

 

そう言うと彼女はまたしても背中に背負っている鞄へと腕を伸ばす。

 

そして、そこからあるものを取り出す。

 

高電圧スタンガン。

 

 

「ちょっ!? たきな!? それはダ───ッ!!」

 

 

バチンッ!! と。

 

その瞬間にローガンの視界は明滅した。首に当てられた高圧電流のショックに何度もさらされ、ボロボロになった意識は急速に闇へと落ちていった。

 

 

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