光が消えたビルの中、一つだけぽつんと明るい窓があった。
パソコンのキーボードを叩く音だけがオフィスの中に響く。
「おい須藤!!」
「は、はい!」
メガネをかけ、てっぺんが禿げた初老の男が足早に歩いてきて
書類がまとめられたファイルを僕の机に叩きつける。
「なんだこれは?!こんな書類で顧客に満足してもらえると思ってるのか⁉」
「すいません……」
上司から怒鳴られ、必死に頭を下げる僕なんで僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだろう入社してからずっとこんな調子だ。
須藤ソゲン21歳社会人3年目で営業として会社に勤めていた。エリートというわけでも役立たずというわけでもなくただ普通の凡人。それなのにただただ上司のサンドバックにされる毎日だった。
「すいません……明日までにはやり直しますのでもう少し待っていただけませんか?」
そう言うと上司が書類の入ったファイルで思いっきり僕の頭を叩いた。
「明日だと…?今日中にやれ!!」
その言葉に僕は心の中で『ああ、また残業か』と悟る。
「わかりました……」
「全く…これだから若い奴は役立たずなんだ…」とぶつぶつと愚痴を吐きながら入り口のドアにカードキーをタッチし上司はオフィスを後にした。
上司の姿が消えたのを確認し、僕は一人になった部屋で僕は思いっきりあくびをしながら「疲れたぁ」と呟きながら体を伸ばした。
ふと時計を見ると既に11時を回っている、今日も帰れそうにないしコンビニにいこう、そう思った僕は椅子から立ち上がり、フラフラとしながら入口にカードキーをタッチしオフィスからでた。今にも眠りそうになりながらも僕はエレベーターに乗り込み1階のボタンを押した。今日も帰れそうにないなぁ……、もう何日家に帰ってないんだろお風呂にも入りたいな、シャワーだけじゃ物足りない……
会社のビルを出て、僕は歩行者信号が青になるのを待っていると、僕の向かい側に一人のスーツを着た女性が立っていた。その女性は綺麗なロングヘアーでスタイルもよく、まるでモデルさんみたいな女性に僕は魅了されていた。僕は21年生きてきて女性経験は全くない。あんな女性と付き合えれば間違いなくバラ色の人生だっただろう。そんなことをして来なかったのは僕の人生最大の汚点とも言える、やめよう。そんな事を考えていると虚しくなってきた。僕は気を紛らわすためにスマホを取り出しニュースアプリの自分の好きなジャンルのページを開いた。あのゲームもう新作が出てたのか、でも買いに行く暇もないし、やる時間もないな……好きなゲームの新作の記事に夢中になって見ていると目の前にいた女性は急ぎの用事を思い出したのかまだ信号が青になっていないのに少し小走りで横断歩道を横断し始めたのだ。だがその刹那……
プーーーーーーー
けたたましいクラクションとともに大きな貨物トラックが猛スピードで横断歩道へと向かって来たのだ。嘘だろ?横断している人がいるのに、トラックはスピードを緩めようとはせず横断歩道に突っ込んでいたのだ、トラックの運転手は居眠りしているのか?だがそんな事を考えてる暇はない!僕の体は何も考えず走り出していた。
「間に合ええええええ!!」
全速力で女性のもとに走った、女性を勢いよくタックルをかますようにつきとばすと女性は元いた歩道に突き飛ばされた。だが、僕の体は横断歩道に残ったまま、女性の身代わりとなってトラック吹き飛ばされる。僕少しは役に立てたかな…歩道にいる女性を横目に見ながら道路にたたきつけられ目の前世界が真っ暗になった。
どれくらい時間がたったのだろうか? 僕は気が付いたら白い何もない空間にいた。
ここはどこだ?
「お目覚めですか?」
優しく包み込まれるような声だった。声がした方向を向くと、白い長い髪、そして透き通るような白いドレス見た目は小学生から中学生くらいだろうか?
「あのー、ここはどこでしょうか?それとあなたは……?」
「ここは天界……迷える死者を案内する場所そして私の名前は天界の女神エクスシア。」
天界の女神?ここは天国ではないのか??
僕が少し困惑していると彼女は真剣な顔をして話しかけてきた。
「須藤ソゲンあなたはトラックにはねられて亡くなりました。」
なんでこの娘は僕の名前を知っているんだ?だけど僕はそんな素朴な疑問よりも気になることがあったのでエクスシアに問いかけた。
「やっぱりか…僕が助けた女性は助かったのか?」
「ええ、無事ですよ。」
「それは良かった……」
僕はほっと胸なでおろした、だけど助けた女性の心配をしている場合ではなかった。
「なぁ僕は生き返ることはできる・・・いやできるわけないよな」
「生き返えることはできますよ?ただ…天界の規定により貴方を元の世界に返すことはできません」
天界の規定?訳が分からなかった、元の世界に戻れないとなると
僕はどこの世界で生きていくことになるんだ?僕はさらにエクスシアに問いかける。
「元の世界にかえることができないってどういうことだ?僕はどこで生きていけばいいんだよ!」
僕は少し強めの口調でエクスシアに問いかけていたがそれにエクスシアは冷静だった。「はぁ……」といった感じでため息をつくとやれやれという感情を出しながら僕に話し始めた。
「いいですか?貴方には今から二つの選択肢を与えます。」
「二つの選択肢…??」
僕はゴクリと唾を飲み込んだ、一体どんな選択肢を突きつけられるのか緊張をしながらエクスシアの選択肢を聞いていた。
「一つ目はこのまま貴方は安らかに死ぬこと。
二つ目は正義のヒーローとして別の世界で生きていくこと」
「正義のヒーロー・・・?」
僕はその言葉に心を揺さぶられていた。何も役に立てなかった僕が別の世界で正義のヒーローとして生きていける!!僕は手を握りながら高らかに言い放った。
「わかった!このまま消えるくらいなら、正義のヒーローでもなんでもやってやるよ!」
「やはりそういうと思いました。」
彼女は少し微笑みそしてどこの言葉かもわからない呪文を詠唱し始めると一つの物質を手のひらに乗せた。
「貴方にこれを」
「なんだ…?これは…」
「エレフェントドライバー、これが貴方を正義のヒーローディーパに覚醒させる…」
「正義のヒーローディーパ……」
僕は彼女の手のひらにあるエレフェントドライバーと呼ばれる四角い何も書かれていない白く四角い機械を見つめた。
「しかしこのドライバーは貴方だけの力では意味をなさない」
「僕の力だけじゃだめだって言うのか?」
「はい、このドライバーが意味を成すのは精霊と呼ばれる少女と契約した時まずはその精霊と呼ばれる少女を探してください。」
精霊?契約?僕の頭の中はよくわからない単語を言われて混乱していた。それを僕にできるのか?だけど……ブラック企業で役立たずと言われ続けた僕でもやれることがある、そんな感情が僕の心を搔き立てた。
「僕やるよ」
僕は彼女がもっているバックルつかみ取った。
「やってくれるのですね……!!」
「あぁ!!やってやるさ!どこまでやれるかわかんないけど。」
僕の決意に満ちた顔を見て安心したのかエクスシアはニコっと子供のように笑った。
「ありがとう、貴方ならきっとできると信じています。
では・・・」
エクスシアは手をかざすとまた呪文を詠唱し僕の足元に丸い紋章を作った。
「貴方にこの世界での幸があらんことを…」
急に僕は体が軽くなり宙に浮いていることに気づいた。エクスシアは微笑みながらだんだんと天高く宙を舞う僕を見送っている、そうして優しく微笑んでいた少女の姿が消えると目の前が真っ白となりいつの間にか、意識がなくなっていたのだった。