アイアンベインに行く前に確かめなければならないことがある、フォンセは男がいなくなった後の部屋に入る。
誰もいないこと、カメラなどがないことを確かめる。何もない事を確かめると男がよく向かっていた机の前に立った。なんだろう?この注射器は?机の上にスタンドに何本も無造作刺さった注射器に目が止まる、フォンセは一本の注射器を手に持った。
「私の娘はこれで助かるんですよね?」
「はい!ですが副作用として記憶はなくなってしまいますが、それでもよろしいですね?」
「構いません!それで助かる命なら!!」
「わかりました、では始めさせていただきます」
なに?今のは……手に持った瞬間に頭の中で再生された記憶?いや幻想?若い黒い髪の恐らく人間の女性と、白衣を着た老人の男……なんだったんだろう?今のは?頭が痛い……、だけど今はこれじゃない!ずきずきと痛む頭を押さえながら引き出しを開けた。
やはりあった、ディーパと同じ黒いドライバー、黒いドライバーを引き出しから取り出し細部まで確認する、やはりだ、やはりこれは……
「何をしてるんだい?」
振り向くとそこにはさっきまでいなかったはずの男が立っていた。
「え、えっと……その……」
フォンセは持っていた黒いドライバーをそっと中に戻して引き出しを閉める。
「まだ行ってなかったのかい?」
「う、うん」
良かった見つかっていなかったようだ……、心臓がバクバクと早く鼓動する。
「まぁ、ゆっくりするのもいいけど早い目にね」
「はーい!!」
笑顔で返事をすると男はまた別の部屋へと戻る、バレていたらどうなっていたことか……
だけど少し成果はあった、黒いドライバーはあの男が作ったものではない。
「大丈夫か?ソゲン?」
「あ、あぁ……なんとか……」
初めての温泉で調子に乗って何十分も入っていた結果のぼせてしまった僕はロビー近くの座敷に寝込んでいた。
「ソゲン、従業員の人に言って氷をもらってきた」
「あぁ、ありがとうって、え?」
黒いワンピースのようなパジャマ姿になったアウリスの持ってきた氷を受け取ろうとすると、僕の寝ている隣に座り彼女は僕の頭を持って自らの足の太もも部分に載せて
持っている氷を僕の頭に載せた。
「少しは楽になったか?」
「ま、まぁ……」
あれ?これって状況的に膝枕って言うやつだよね?まずいこんなところセレステやネレイスに見られたら!!僕は起き上がろうとすると、「こら」と言って僕の頭を抑えつけた。
「動いちゃダメ」
まるで子供を叱るように起こる姿は本当にお母さんのようだ、僕を子ども扱いしないでください。後、膝枕をやめてほしいです、すごく恥ずかしい。
「何やってるの?」
振り向くと不機嫌な表情をした水色の少し透けたパジャマ姿のネレイスが立っていた。そしてさらにその後ろには殺気だった白いワンピースのようなパジャマを着たセレステの姿も。
えぇ……なんでセレステも!?
「いやぁ、ソゲン殿精霊たちに好かれてお熱いですなぁ」
レイナさんもあんまりからかわないでほしい……、僕と精霊の娘達はそんなんじゃないんですよ
「皆ご飯用意されてるみたいだから食堂行こうよ」
そう言って食堂の方角を指差すセレステ、その声に皆は口々に「さんせーい」と言い続々と食堂へ向かう。
「ソゲン、大丈夫か?」
「まぁなんとか……」
アウリスが「もうちょい一緒に居ようか?」と言うと、セレステがこちらにずんずんと近づいてきて……
「アウリスさん、ソゲン君は私が見てるから先に行ってください」
「そうか?セレステさんがそういうなら……」
アウリス静かに立ち上がると、セレステに氷を渡しネレイスとレイナと一緒に食堂へと向かった。それを見送ってこちらを向いた表情はニコやかに笑ってはいたが、目だけは笑っていなかった、その顔を見た僕は血の気が引いた。まずいこれから何をされるかわからない!!
「ソゲン君、大丈夫?」
「あぁ!もう大丈夫だ!」
僕は元気である証拠を見せるために、ジャンプしたり、体を伸ばす運動をセレステに見せた。
「元気そうだね」
あからさまに不機嫌になるセレステ、だけどすぐ持ち直して横に回ると。
「じゃあ、一緒に食堂いこっか!!」
そういって彼女は僕の腕に自分の腕を絡めた、あぁまた胸が当たってる……まぁでも……うーん……もういいや……僕は考えることをあきらめた。
食堂に着いた僕らを待っていたのは、人数分小分けされた皿には色鮮やかな山菜のスープや天ぷらやサラダそして、新鮮な魚のお刺身と森の動物の肉で作られたピザのような料理もある。本当に元いた世界の旅館の料理そっくりだ。まさか異世界に来てまでお刺身を食べることができるとは……
「もう大丈夫なのか?」
料理が並べられた机に向かって座ろうとすると、隣にいたアウリスが心配そうに僕に声をかける、それに対し僕は「あぁ、心配ない」と返し木で作られた椅子に座った。
彼女は「良かった」と笑顔で返した。そしてなぜか向かい側のネレイスの席が空いているのにセレステは僕の隣に腰を掛ける。前空いてるのになー
「まぁ、アウリスママに看病されたんだから直るのも早いですわよねー」
「アウリスママはやめろ!」
冗談を言い合う二人に愛想笑いをしていると、僕の向かい側にしゅわしゅわと泡が立った金色の飲み物を持ったレイナが現れる。その色と麦が発酵した麦の匂いから察するに、それが異世界のビールなのだろうと思った。「うまそうだなぁ」と僕は口の中で生唾を飲み込む。
「ごめんね、これがないとダメなのよね、皆は飲まないの?」
「いや私達は、まだ飲める年齢ではないですわ」
「私たちはぶどうのジュースがあるので……」
セレステも二人と同じように首を振った。
「あ、そうなんだ残念……」
しょんぼりするレイナ、なるほど宴会でよくあるあれをやりたかったんですね。
「ま、まぁ僕も後でちょっとだけ飲みますので、そんなに落ち込まないでください」
「ほんとう!?」
あ、めっちゃ元気になった、曇っていた顔が一気に明るくなるのを感じた。
「それでは、皆お疲れさまでしたーかんぱーい!」
「「「「かんぱーい!」」」」
レイナの号令で僕と3人の精霊はぶどうのジュースが入った入れ物をぶつけあう。
「ぷはー!!やっぱり久しぶりの泡の飲み物はおいしい!」
ビールを一息で飲み干し、優越感に浸るレイナの姿は仕事終わりの居酒屋で飲む疲れたOLに見えた。一方、周りの精霊たちはおとなしくぶどうジュースを飲んでいた。同じ異世界の女性でもこんなに違うのかと思いながら、テーブルに並んだ食べ物に箸を伸ばす。
うん、やはりこういう温泉街の料理はすごいおいしい。
「ところで、レイナさんのその剣は、レグナーさんと同じ聖剣なんですよね?」
そういって、セレステはレイナの腰に携えている剣を指差しながら聞くと、びっくりした表情で「レグナーを知ってるの?」と聞き返した。
「まぁ、一応アーカニアの近くでオークにミレイユって女の人をさらわれたから助けてくれと言って一緒に助けた仲です」
それを聞いたレイナは、「流石弱虫レグナー」と言いながら腹を抱えて大爆笑している。
「知ってるんですか?」
「一応私と同じブライトガーディアンズ元団員だったんだけど、冒険者の方がやっぱいいーって言って抜けちゃったんだよね」
そういって、腰に携えていた聖剣を机に置き僕らに見せた。
「これが聖剣……噂には聞いてましたが本物を見るのは初めてですわ」
「知ってるのか?」
「そりゃあ王都に伝わる8本しかない伝説の剣だからな……知らない人はいないぞ?」
そう言ってネレイスもアウリスもマジマジと聖剣を見ている
「2本は所在は明らかになってるとして、後6本は誰が持ってるんですの?」
「全部、ブライトガーディアンズの騎士の皆が持ってたよ」
なるほど流石は王都公認の騎士団だ、やはりかなりの実力があるらしい。
「なるほど、聖剣を持つ者達の集まりだったんですわね、ってあれ?持ってたってどういうことですの?」
「本当はね8人全員がブライトガーディアンズに揃ってたんだけど……いろいろと思い違いで抜けたりしちゃって今はもう聖剣使いが半分になっちゃてるんだよね」
そう話すレイナはとても寂しそうな顔をしている、そしてボソッと「また戻って来てほしいな」と呟いた。
「まぁ思い違いはよくある話ですから、あまり気にしない方がいいですわ」
そういってレイナを慰めるように話すと、レイナは少し笑顔になり「そうだよねー」と言ってまた泡の飲み物をぐいぐいと飲んだ。
その話は僕たちにとっても関係のない話ではない、今は大丈夫かもしれないがこの先もしかすると僕の考え方ひとつで精霊の誰か一人が僕の元から離れて行ってしまうかもしれない……、そうならないために気を付けなくては……
晩御飯を終えた僕達は宿泊する部屋へと戻っていた、あれ?そういえば部屋は何人部屋なんだろう?そんなことを考えながら歩いていると着物を着た先ほどの初老の女性が何やら小さな木箱を持って「ソゲンさんですか?」といい近づく。
「ええそうですけど、なにか?」
「実はあなた宛てに荷物が届いていたんです」
そう言いながら僕に木箱を手渡した、え?なんでこんなところに……?なぜ僕がここにいることを知っているんだ?手に持つと結構軽い、何かぎっしりと入っているというよりも一つの大切なものを厳重に守っているように感じた。何が入ってるんだろう?そう思いながら開けようとすると、初老の女性は申し訳なさそうに「それと別件なんですが」と声をかける。
「あの、失礼ですがエアリアの町の危機を救ったソゲンさんですよね?」
「まぁ、そうですけど」
「では、申し訳ないんですが、一つお願いを聞いてもらってもよろしいですか?」
「お願い……?」
僕は4人をロビーにある和風の木のテーブルのある場所に集合させると、従業員から聞いた話を全員話す。
「で、ソゲンは温泉代がただになると言われて、アイロンベイン側の山道に住み着き始めたソードタイガーを倒すっていう約束をしちゃったんですわね」
「おう……」
「馬鹿ーーー!!!!」
僕は前に座っていたネレイスの怒号による声圧で少し吹き飛ばされる。
「だって……、あれ倒さないとアイロンベインの住人がここに来れない言うから」
「ソードタイガーってあの魔物中で一番早いっていうあれですか?」
セレステがそう聞くとアウリスが神妙な面持ちで説明する。
「そうだ、時速150㎞以上で移動するスピードが持ち味の魔物だ、いくら精霊の騎士とは言えあのスピードに勝てるかどうか」
「私でも倒すのに苦労する魔物なのよねーあれ……まさかこんなところにいるなんて……」
レイナのあの閃光のごとく素早く移動する能力でも、追いつくことが難しいとは……相当早い魔物らしい。
「でももう倒すって言っちゃたから、やるしかない」
そういうと、ネレイスは深いため息をついて「まぁソゲンがそういうなら」と少しやる気がなさそうに言った。完全にこいつ温泉で怠けてやがるな
「まぁ結局アイロンベインに行くために通らなきゃいけない場所だからな、倒さないと後々面倒になるし今倒しといた方が得策だろう」
「なんか倒す方法とかないのか?」
僕がそう聞くとレイナは紙とペンを用意して絵で説明を始める。
「まずソードタイガーには前しか見えないっていう弱点があるの、それを利用するんだけど……」
レイナの作戦はこうだ、まずは囮となる人物がサーベルタイガーを引き付けて追いかけられる、そして獲物を捕らえるときに少し減速して大ジャンプするらしいので、その時に囮以外の全員で横から一斉に攻撃するというものだ。なるほど、これなら簡単に倒せそうだ。
「で、誰が囮になるかだが……」
僕がそういうと、4人は全員で僕をじーとにらみつけるように見つめた。
「え?僕ですか?」
「当たり前でしょ!?」
「僕かよ!」と悲痛な叫びをあげると、それを見かねた僕の隣に座っていたセレステも立ち上がり「私も」と言い立候補する。
「セレステもですの?」
「さすがにソゲン君一人じゃかわいそうだから……」
そう言って静かに机の下で僕の手を握るセレステ、何て優しい娘なんだ……「ありがとう、ありがとう」と何度もセレステに向かって呪文ようにつぶやいた。
「じゃあ決まりだな、作戦は明日の朝にしよう」
アウリスがそういうと、僕とレイナと二人の精霊は「ラジャー」と言い気合を入れる。
「ところで、部屋割りはどうなってるんだ?」
「女の子4人とソゲン一人ですわ」
そういってネレイスは部屋のある場所を指差し、二つの鍵を机の上に広げる。え?てか僕一人で寝るの?マジで?
「すまない、ソゲン、従業員の人に聞いたら4人部屋らしいんだ……」
アウリスは申し訳なさそうな顔をして謝っているが、ネレイスはニヤニヤと「ご愁傷様でーす」と人を馬鹿にするような表情をしている。本当のこの女は……後で絶対お湯にしてやる、そんなことを考えていると隣にいたセレステが立ち上がった。
「ソゲン君私が行って、一緒に寝てあげるよ?」
セレステがそういうと、3人の女性は一斉にセレステの方を向く、3人とも顔を赤らめて慌てた表情をしている。
「だ、だ、だ、ダメですわ!!一つの暗い部屋に男女二人なんて!!」
いや混浴させたお前がいうなよ。
「そ、そ、そ、そうだ……不健全だ」
すいませんまったくもってその通りです。
「ソゲン君、ダメだよ?こういう場所では」
いや何の話してるんですか?
3人の話を聞いて、セレステは顔を赤らめ、恥ずかしそうな表情で僕に呟いた。
「優しくしてね……?」
3人は顔を爆発させたように赤くすると、お互いの顔を見合わせ意見が一致したのか
セレステの体をガッチリと掴み「セレステ、絶対に貴方をソゲンの部屋に行かせないから」と言いそのまま部屋まで引きずって行ってしまう。
「あははは……」
これ助かったのかな?引きずられてとても不機嫌な表情をするセレステを横目に自分の部屋へと入った。