「おはよう、エンデル」
採石場の洞窟に着いた僕は先に作業を開始しているエンデルに挨拶をする、まぁ昨日みたいに素っ気ない挨拶で返してくるだろうけど。
「ゲン、おはよう」
今まで見せたことがない笑顔で挨拶するエンデル、あれ?なんか昨日と違うような……。
てか僕の名前間違ってるし……。
「僕の名前はソゲンだよ、ゲンじゃない」
「ソゲン、呼びにくいだからゲン、ダメ?」
そういって上目遣いで僕に懇願する、エンデル、本当に昨日と同じエンデルなんだろうか?素っ気なかったエンデルとはまるで別人のようだ、まぁでも呼ばれ方にこだわりなんてないし別にいいか。
「まぁ呼びやすい呼び方で呼んでくれ」
ゲンなんて今まで呼ばれたことはなかったな、まぁ高校の時にソゲっちなんて呼ばれたことがあったくらいだ。すごく新鮮な気分である。
「ところで朝ギルドハウスにいたか?」
一応念のためにアウリスがみたのはエンデルだったのか確かめよう……、まぁ昼寝が趣味のエンデルがあそこまで来るとは思えないが。
「朝?うん散歩でいったかも」
「散歩?」
「散歩、たまにお日様の光浴びたいからやってる」
「そうだったか」
まぁ、ゴードンにオリハルコンを探したいと懇願しに行くくらいフットワークが軽そうだし散歩くらいするか。あれ?てことはあの台詞聞かれてるんじゃ……?
「ソゲン、かっこよかった……大勢のでっかいおじさん達に一人で挑んでて」
やっぱり聞かれてたー!!すごく恥ずかしい……、羞恥心で顔が真っ赤になっていくのを肌で感じていた。
それと同時にエンデルやメイルの事を一切考えずにあんなことを言ってしまったことへの罪悪感も沸いてきてきてた。
「ごめん、エンデル、君やお父さんの事一切考えずにあんなこと言ってしまって」
「謝ることない、エンデルはすごく嬉しかった、ああいう事言ってくれる人他にいなかったから」
そういってエンデルは目から涙を流していた、よっぽど嬉しかったんだろうか?まぁでもこういう事を言ってくれるのはお父さんしかいなかったのだろう。
「何も泣くこともないだろうに」
「すごくうれしくて……」
いやどうしよう、泣かせちゃった……僕は慌ててポケットからハンカチを取り出すと
エンデルは鼻にハンカチをあてふーんとかんだ。いやいやそこまでかいな……と呆れた表情で見ていると後ろから「あー泣かしてるー」とアウリスの声が聞こえた。
「い、いや別にこれは……」
「ゴードンさんに言いつけちゃおうー」
アウリスは冗談っぽく言うと、洞窟の入口の方角へと走っていき、僕はそれを「やめてくれー」と叫びアウリスを追った。
二日目の夜。
「はぁ、今日も見つからなかったなぁ……」
僕はアウリスにもらった塗り薬を塗りながら、ぽつりと呟いた。
「あと、3日あるんだ、慌てずいこう」
僕はそうだなと一言言った、出来れば早く見つけてエンデルやゴーレムを撤退させて町に返してあげたいというのが本音である、まぁそんな簡単にいくとは思ってはいないが。
「静かだな」
アウリスは窓から空を見上げて言った。
「たしかに……」
「ソゲン、今まで3つの町にあってこの町にないもの覚えているか?」
僕は少し考えるが全く思い浮かばず「さぁ?」と答えると、アウリスは「やっぱり忘れていたか」とため息をこぼした。
「あの呪縛の光もう忘れたのか?」
あぁそういえば、確かにこの町に来てから呪縛にかかった魔物や、そしてその光事態を全く見ていない。
「そういえば、フォンセも見てないな……」
そうあの呪縛の光をあやつっていると思われる闇の精霊フォンセももう3日も見ていないのだ、いつもならひょっこりと現れて、子供のように接してくるはずだが……。
「嵐の前の静けさじゃなければいいが……」
三日目の朝。
「冷たい!!!!!!」
起きた瞬間に衣装から伝わる感触が急に肌に伝わった。それを聞いてアウリスが「どうした!?」と言って慌てて入ってきた。
「またか……」
パジャマからは水滴が床にしたたり落ち、ぐっしょりと濡れて肌に密着している。
アウリスはそれを見て呆れた顔だった。
「そ、ソゲン……どうしたんだ?この3日間、変だぞ」
「いや、僕に聞かれても……」
改めてベッドを見ると、ぐっしょりと濡れてしまっていた……、後で謝らないといけないな……僕はベッドからシーツと掛布団を持ち上げると窓にひっかけて干した。
「あの、居られるとと脱げないんだけど」
そういうと、アウリスは「あぁ、すまない」と言って部屋を出た。
「なぁ、休んだ方がいいんじゃないのか?」
閉じられたドアの向こうからアウリスの心配する声が聞こえた、だがそれに僕は「大丈夫だ」と一言と一言答えた。それにしても下着まで濡れてんな……なんでこうなってんだ?まぁ疲れてるんだろうなぁと自分に言い聞かせた。
「おはようございますニャー、ソゲン君はいるかニャー?」
突如として窓の外からリリアンの声が響いた、こんな朝から何の用だろうか?何か不手際があったとかなら早く対応しないといけない。
「何か用ですか?」
僕は窓からリリアンに向かって声をかけた、するとこちらに気づいたのか「ソゲン~」と手を振るが急に顔を赤くして目を隠した。
「あの、早く服を着てほしいニャ……」
あ、やばい服を着ずに上半身裸で手を振ってしまったようだ……、早く返事をしようと早まってしまった。僕は急いで服を着てリリアンの元へと向かった。
「朝から何の用だ?」
「王都からソゲン宛に手紙が来てたのニャ」
そういってリリアンは一通の手紙を渡してきた、開け口にはレイナの服に刻まれていた王都の紋章と同じ封止めが押されていた。
「王都が僕に何のようなんだ……」
僕は中に入っていた一通の手紙を広げる。そこに書かれていたことを要約すると、アイアンベインには王都からの使者を出せないから、そこにいる精霊の騎士ソゲンに任せるということ、そして僕にはアイアンベインでの要件が済んだらすぐに王都に来てほしいと。
「何が書いてあったのニャ?」
「ここの事は全部僕に任せると書いてあった」
「やっぱり、王都の人は来ないかニャ……、まぁでも王都の人がソゲンを頼れって言うなら頼るしかないニャ」
リリアンはため息交じりに言う、よっぽど僕より王都の人の方が良かったようだ。
「王都のやつじゃなくて、僕で悪かったな」
そういうとリリアンは「いやいやそんなことないニャ!」と言うが、それとは裏腹に慌てた顔をしているのが目にみえた。
「本当かよ……」
「本当ニャ、ソゲンのおかげで少しずつ経済も回復してきてるのニャ、少なくとも私は
ソゲンの事を信用してるし、感謝してるのニャ」
そういってリリアンは僕に微笑みを向けた、信用はあまりされてはなさそうだがリリアンの笑顔を見る限り感謝はされていることは見て取れた。リリアンにもっと信頼されるような人になれればいいけど。
「そういえば、何で王都がソゲンがここにいるって知ってるのニャ?」
「ここに来るまでにブライトガーディアンズの人一緒に居たから……」
そういうとリリアンは「マジかニャ」と羨ましそうな表情をした。
「いいニャー、ブライトガーディアンズの人と一緒に行動できて羨ましいニャ……」
「それってそんなにすごい事なのか?」
「ブライトガーディアンズの騎士は冒険者の憧れニャ!だから一緒に行動できるなんて
普通ならできないことニャよ?」
「へー」
なら僕は彼女から厚く信頼を寄せられていたということになるのか、まったくもってそんなことは気にしていなかったがリリアンに言われて初めて気づいた。それとアイアンベインの事が終われば王都に来てほしいという一文、王都で何かあったんだろうか?
まぁ急な用事ではなさそうではあるから、今は気にしない方がよさそうだ。
採石場についた僕は入口に見慣れた大きな人影が見えた。
「おはよう、ゲン」
どうやらエンデルが僕が来るのを入口で待っていたようだ、挨拶をするや否や僕の腕を
引っ張って「早くいこう」と洞窟の中へ引っ張った。すごい力だ腕がもげそうである。
「痛い、痛い!わかったから引っ張るのやめてくれ!腕がもげる!!」
「エンデルに引っ張られるのいや?」
彼女はうるうると今にも泣きそうな表情で僕を見つめる、そんな表情で見つめられると
いやと言えるわけもなく。
「別に嫌じゃないけど……」
「じゃあエンデルといこ」
そのままずるずると僕は引きずられていった、さすがにパワー系女子に嫌だとは言えないよなぁ何されるかもわからないし。仲良くなるまではエンデルの言う事には従うしかなさそうだ。
3日目の夜。
「いててて……」
「大丈夫か?」
案の定エンデルに引っ張られて、肩が脱臼寸前までいっていたのか、家へ帰って来てから急な激痛に見舞われていた。
「アウリス、もう塗り薬ないんだけど、追加あるか?」
「え?もうないのか?わかった今晩また作っておくよ」
そういって、空き瓶を受け取ると、アウリスは少し顔を赤らめて背中の羽をパタパタと動かして何か言いたげに僕を凝視する。さすがに使い過ぎだと思われたかな?
「ソゲン、この塗り薬君の役にたってるか?」
「めっちゃたってるけど」
僕がそう言うと、よほど嬉しかったのかアウリスの顔が綻んだ。そして一言「ありがとう」と呟いた。いやいやお礼を言いたいの僕の方だよアウリス。
「じゃあ私は追加の塗り薬を作ってくる、おやすみソゲン」
アウリスは部屋から出てドアを閉める、僕の役に立っていると言われて上機嫌になったのか
ドアの向こうから綺麗な鼻歌が聞こえてきた。意外と可愛い一面を見れたと自分まで顔が綻んでしまっていた。
3日目の深夜、僕はふと目が覚めた。服やシーツを見るとまだ濡れていなかった、毎晩僕を水浸しにする犯人を暴く絶好のチャンスである。これ以上びしょ濡れにされると風邪を引いてしまう、それだけは何として避けなければいけない。
僕は犯人が来るまで寝ているふりをすることにした。刻一刻と誰も人が来ないまま時間が過ぎていく今日はもう来ないか……、そう思って眠りに着こうとした時だった、ガチャっと突如としてドアが開いた。ついにきた心臓の鼓動が高鳴る。
静かな足音を立ててこちらに近づいてくる、まだだまだ目を開けるな……、そうして足音は僕のベッドの前で止まる。
「誰だ!」
目をぱっと開けその反動で起き上がると、そこにいたのは黒いローブを身にまとった人がいた。
男か女かはわからない、僕が起き上がった瞬間に凄まじいスピードで窓に近づくと、そのまま窓を開けて外で出ようとする。
「待て!!」
僕は黒いローブをまとった人を捕まえようと飛び掛かるが、凄まじいジャンプで窓から飛び降りてそのまま夜の町へ消えていった。
「今のジャンプまさか……」
僕は部屋を出て、ある場所へと向かった。僕の推測が正しければあれが消えているはずだ。
その場所へと到着するとドアを開け確かめる、やっぱりだ、僕をびしょ濡れにした犯人がようやくわかった。本当にやつはいたずら好きなやつだ。