4日目の朝
「おはよう、ソゲン、今日は濡れていないんだな」
「まぁな」
「あ、そうだこれ」
僕に渡してきたのは、昨日使い切ったアウリス特性の塗り薬がたっぷり入った瓶だった。できて間もないからだろうか?塗り薬からは薬草の良い香りが漂う。
「ありがとう、助かるよ」
僕は塗り薬が入った瓶を受け取ると、早速肩へと塗り薬を塗りたくる。
「後一日だな」
「早かったな……、5日なんて長いなぁと思ってたけど、あっという間だったな」
5日という期日、最初はこんなにたくさんの日数があるなと思っていたが、実際に過ごしてみるととても短かった。それに未だにお目当てのオリハルコンも見つかっていない……。
「これで見つからなかったら……、ゴーレムとエンデルを……」
刻一刻と迫るタイムリミットに心が余裕を無くして焦り出している、こんなことならもう少し欲張っても良かったかもしれない、だがそれはもう後悔先に立たず、今頃言っても無駄だ……。
「まだあきらめるな……まだ後明日もあるんだぞ!」
そう言ってアウリスは僕の体に気合を入れるようにぱーんと叩いた。
「そうだよな!ありがとうアウリス!」
僕は両手で頬を叩き、気合を入れた、絶対にエンデルやメイルの名誉のために
オリハルコンを見つけるんだ……
「アウレリアさん、いってきます!!」
「お気をつけて」
アウレリアに挨拶をし、家を出ると今日も今日とてエンデルとゴーレムがいる採石場へと二人で向かう。
「アウリス、二人の様子はどうだ?」
「まだ起きる様子はないな……」
僕は一言「そうか」と返事をする、本当に二人ともまだ気を失っているんだろうか?
洞窟の中でいつも通り並んで壁を掘る僕とエンデル、掘れど掘れども出てくるのは鉄鉱石ばかりだ。さっきアウリスに気合をもらったばかりじゃないか……まだ時間はある!!焦るな、焦るな……。
「冷た!!」
急に僕の首筋にひんやりとしたものが密着する。
「ゲン、大丈夫?休憩する?」
振り向くとエンデルが水の入ったボトルを持ってこちらに差し出していた。
「ありがとう、エンデル」
僕はボトルを受け取ると、その場に座り込み水で喉を潤す、エンデルももう一本のボトルを手に持って僕の隣に座る。
「ゲン、焦ってる」
「え?わかるのか?」
「パパが言ってた、焦ってると落ち着きがないって……」
僕は思わず「エンデルのパパすごいなぁ」という言いながら頭をかくと、エンデルは頬を膨らませて「エンデルがすごいって言ってほしかった」と不貞腐れながら言う。
「でもパパ、エンデルにいろいろと教えてくれた、だからエンデルえらい」
エンデルは「えっへん」と自分で擬音を発して誇らしげな顔をした、鼻からふんすふんすと自信満々な顔をしていてとても可愛い。
「ゲンのお父さんの話聞きたい」
「え……」
突然体が雷に打たれたような感覚に陥いる、そういえば父親の事を聞かれるの何年ぶり何だろう?忘れようとしていたのに……エンデルの質問で封印されていた記憶が解かれた。
「お前のような人間は須藤家にはいらない……早く出ていけ」
「そうよ、早く私たちの前から消えて!!」
嫌だ…嫌だ…なんで…なんで…そんな事言うんだ?親の言う事じゃないよ……。
僕に罵声を浴びせ続ける父と母、もうこんな家庭環境が何年、何十年も続いていた。
「あんたなんて生まなきゃ良かった」「お前は須藤家、須藤一族の恥さらしだ」なんていう胸がえぐられるようなことも言われた。僕は…いらない子なのかな……。
「……」
その隣では無表情で見つめる、制服を着た女の子がいた。何見てるんだ、見世物じゃねーんだぞと睨みつける。
「早く消えろ!!この役立たずが!!!」
うるさい!!黙れ!!!僕にその言葉を言うなあああああ!!!!
「ゲン?ゲン?大丈夫?」
エンデルは僕の肩を持ち体を揺らしていた、どうやら今の僕は魂が抜けて空っぽになった人形のように見えたらしい。
「エンデル……」
ようやくこちら側に戻ってきた僕は汗だらけになった顔を拭く、前の世界の封印したはずの記憶が解かれてしまった。もう思い出したくもない記憶だったのに。
「大丈夫?ごめんね?」
「いやエンデルは悪くないよ」
僕はエンデルの頭を優しく撫でる、エンデルにはすごく悪いことをしてしまった、先ほどの記憶はもう二度と説かれないよう封印しよう。
さてこのまま何も話さないのはまずい……どうするか、僕は頭をフル回転させる。
「僕のお父さんはすごかったんだ、言うなればエリートだった、何をやらせても完璧にこなすような、すげーお父さんだったよ」
フル回転させて出てきた説明はとても適当で粗悪なものだった、エンデルもぽかーんとした顔をしていて何も反応がない。これなら話さない方が良かったかな?僕は忘れてくれと言うとすると。
「ゲンのお父さんすごい……、じゃあゲンもすごい人?」
「別に僕はすごくないよ、ただ平凡な男だよ」
「そうなの?」
「エリートから生まれた奴がエリートだなんて思わない方がいいよ……」
エンデルの頭を何の気もなしに優しく撫でる、そうだ戦国武将だってエリートから生まれた息子がエリートじゃないやつが多かった。
そりゃいたかもしれないがそれもほんの一握りだろう、だから僕がエリートじゃなくて何も不思議ではない。そうだ、そうなんだ……。
「ゲン?」
「ごめん、またぼーっとしてた、作業再開するか!」
隣に置いてあったツルハシをもって立ち上がると、エンデルも「うん」と一言だけ言って僕の隣に立ち僕とともに作業に戻った。
一方こちらは地上のトロッコの発着地点がある建物内、洞窟から運ばれてきたトロッコは通路を通ってこの建物内に運ばれてくる。
外から見える洞窟へ続く丸いものはこのトロッコを運ぶための通路だったのである。前まではこのような通路はなかったらしいのだが。
雨風に晒されて、せっかく運んできた鉄鉱石が濡れてしまうのを防ぐためらしい。建物内にはトロッコの発着点意外に運ばれてきた鉄鉱石やミスリルを分けることができる魔道具があり、ゴーレム達はそれを使って綺麗に鉄鉱石とミスリルを分別する。
途方もない作業だがこれをしないと鍛冶師が後で苦労してしまうからである。それが終わるとミスリルが入った箱と鉄鉱石が入った箱を閉めて、アウリスが作業日が書かれた伝票を貼り付け出荷準備完了、その後僕らが寝ている間にタイタンが出荷といった感じである。
アウリスは作業するゴーレム達に目を向ける、ようやく自分の言葉もゴードン意外のゴーレム達に伝わってきていた。だんだんと仲良くなってきているのひしひしと感じる。これならゴードンやゴーレム達とも友達になれそうだ、だがそれもオリハルコンが見つかれば、の話ではあるが。
「はぁ……今日で見つかるといいが」
ため息をついて鉄鉱石が入った箱にいつものように伝票を貼り付ける、ようやく鉄鉱石が入った箱に伝票がミスリルが入った箱へ移動しようとした時だった、突如として
体がフラっと倒れそうになり、その場に座り込んでしまう。ダメだ今倒れてしまっては、ソゲンを守る精霊がいなくなってしまう……、セレステやネレイスがいない今、彼を守れるのは自分だけ……だからここで倒れるわけには……!!
「大丈夫か?」
アウリスの前に大きな鉄でできた手が差し伸べられる、見上げると差し伸べていたのはゴードンだった。
アウリスは「すまない」と言いながら差し伸べられた手を握りながら、フラフラとしながら立ち上がる。
「休憩した方がいいんじゃないか?」
「いや大丈夫……」
覚束ない脚で歩くアウリス、ゴードンは呆れた表情でため息を付くと洞窟内へ足を運ぶ。
「どこへいくんだ?」
「ソゲンに君に休むように言ってくれと頼みに行ってくる」
「そ、それだけはダメだ!!わかった休めばいいんだろ!?」
アウリスは近くにあった椅子に座って水が入ったボトルに口を付けた、その姿を見たゴードンは「はっはっは」と大きな声で笑う。それに対してアウリスは「何がおかしい?」と言った。
「お前、ソゲンの事が好きなんだな」
「な、何を馬鹿なことを!!!」
アウリスは顔を真っ赤にして、勢いよく椅子から立ち上がった。
「大切な人の前で自分の弱いところを見せたくない……わかるよその気持ち」
「だから違うと……」
「冗談だ」
それに対して、「からかったのか!?」と言い少し怒った様子を見せるアウリスにゴードンはまぁまぁと言って宥めた。
「からかったことは謝る、だが今ので俺は確信したよ、ソゲンにならエンデルを任せてもいいとな」
「どういうことだ?」
「そのままの意味だ、彼はここの奴らは違ってエンデルを大切にしてくれそうだしな」
「お前……、何を考えてるんだ?」
「あんたにだったら話してもいいかもな……」
そういうとゴードンは静かに語り始めた、それはアウリスも驚くような内容だった。
「本当にいいのか!?エンデルやソゲンが知ったら……」
「俺は構わない!!全部奴のためだ……」
決意を込めてゴーレムは言い立てる、彼の言葉に嘘偽りはない事にアウリスは気づいていた。そしてゴードンは「ソゲンには言うなよ」と一言だけ言ってその場を去る、その時になったらソゲンはどんな反応をするんだろうか?彼女の心には暗い暗雲が立ち込めていた。
4日目の夜。
結局今日も見つからなかった、もう明日しか日にちがなくなってしまった……アウレリアと僕とアウリスがいる部屋はお葬式ムードとなっていた。
「本当に大丈夫ですよね……?エンデルは大丈夫なんですよね!?」
頭を下げた僕はアウレリアさんの言う事に返事をすることができない……。
「言ったじゃないですか!!信じてくださいって……私は貴方の事を…しんじ……て」
アウレリアはその場で泣き崩れてしまった、アウリスは隣に座って「大丈夫ですから、大丈夫ですから」と何度も何度も呟いた。女性を泣かせるなんて本当に僕は最低だ……かける言葉も見つからない……。
部屋に戻った僕はベッドに寝転んでずっと天井を見上げていた、あの時なんて言葉をかければ良かったんだろう……「信じてください」というべきだったのだろうか?いやそれはかえってアウレリアの感情を高ぶらせてしまうだけか、じゃあ「ごめんなさい」いやいやそれはご法度だろ、じゃあどうすれば良かったんだよ!!!!!頭の中がまるで何色もの絵具をぐちゃぐちゃにかき混ぜたかのような感覚に陥る……そんな時だった。
「ソゲン?まだ起きているか?」
黒いルームワンピに着替えたアウリスがしんみりとした表情で僕のいる部屋に入ってきた。
「アウレリアさんは?」
「なんとか落ち着いた、かなり気持ちが高ぶっていたようで……お香を焚いた部屋で今休んでもらってる」
「良かった……てかアウリスお香も作れるんだな……」
「まぁね、香木と道具さえあればすぐにできるよ」
改めてアウリスの精通の良さには感心させられる、薬を作ったりお香を作ったり本当に器用な精霊だ。
「ソゲン、大丈夫か?」
「あぁ、まだなんとかな……」
「君は本当に嘘をつくのが下手だな」
「わかるのか?」
そう聞くとアウリスは「ふっ君のことは何でもわかるよ」と嘲笑うように言う。
「お見通しってわけか……」
「無理して女性の前で強がらなくていいんだぞ?」
僕はアウリスの言葉に「男って言うのは弱いところを女の子の前で見せたくないんだよ」と言うと彼女は包み込むように僕を強く抱きしめた。
「君は僕を抱きしめるのが好きなのか?」
「私に抱きしめられるの嫌か?」
アウリスからセレステと同じような黒いオーラが立ち上ってるよう気配を感じた、怖すぎる……僕は慌てて「いやじゃないです!」と言うと彼女は「冗談だ」と言って笑う、本当に冗談だったのかな?
「セレステから、ソゲンはこうされるのが好きだって聞いてな」
「え?」
アイツ余計な事言いふらしやがって、まさかネレイスの前でも言ってないだろうな?
「まぁセレステみたいに胸も大きくないから、彼女の代わりにはなれないかもしれないがな……」
いやいや貴方もセレステに負けず劣らずとも良いものをお持ちじゃないですか……、そんな落ち込んだ声を出さないでください。
「てかそろそろ離してくれませんか?」
「え?私はこのままソゲンと寝ようと思っていたのだが……」
「それは困ります!!!」
「冗談だ」
そういっていたずらがバレた子供のように微笑むアウリスを見て、「僕をからかったな!!」と言うと彼女は「少し元気でたか?」と聞いてくる。
「ま、まぁ……」
「そうか抱きしめてあげた甲斐があったな……」
アウリスは立ち上がって自分の部屋へ戻ろうとドアの前に立った。
「じゃあソゲンおやすみ、また明日絶対見つけよう」
「あぁ」
僕はアウリスに張りのある元気な声で答えた。
「辛くなったら、いつでも私の部屋に来てもいいぞ」
「いやさすがにはそれは遠慮しときます!」
僕は即答すると、アウリスは「いつでも鍵を開けて待ってるからな」と言いドアを閉めた。アウリスは自分の部屋の方角を向き歩き出そうとするがなかなか歩き出せなかった、終いにはその場で座り込み目から少し涙が出てきていた。
「本当に辛いのは誰なんだろうな……」
ソゲンとアウリスが話してるさなか採石場の洞窟の中でも会話している二人がいた。
「ねぇ、ゴードン」
「なんだ、エンデル」
まるで親子のように並ぶ二人、エンデルは寂しそうな表情でゴードンに問う。
「ゴードンは私を置いてどっか行っちゃわないよね?」
「どうだろうな」
「いやだ、もう一人になるのいや」
「お前はもう一人じゃない……」
ゴードンはそう言って大きな手でエンデルの体を優しくさすった。「どこにもいかないで」と手に縋りつくエンデルの表情を見つめながら、ゴードンの中では一つの決意が固まっていた。
「やっほー、エンデルちゃん」
突如として幼くも妖艶な声が洞窟内に響き渡る、ゴードンは「誰だ」と言い辺りを見渡した。
「いやぁ……エンデルちゃんおっきくてかわいいねー飴ちゃん舐める?」
黒い靄が現れたかと思うと、靄は人の形を形成し闇の精霊フォンセがペロペロキャンディを持って現れる。
「お前は何者だ?」
突如現れた知らない少女に敵意を剝き出しにするゴードンは立ち上がってフォンセを睨みつけた。
「魔物には興味ないよ」
「何!?」
激昂したゴードンは大きな拳を振り上げフォンセに殴りかかった。すると拳が当たろうした瞬間フォンセは体を黒い靄にゴードンの拳をかわした。
「しょうがないなぁ、相手してあげるよ」
フォンセは自分より大きな大剣を握りゴードンに向けた。エンデルには今何が起きてるのか分からず混乱をしていた、同じ精霊だから助けるべきなのか?いやゴードンをここは助けるべきだ!エンデルは拳を握りしめフォンセに向けようとした気だった。
「うっ……うわああああああ!!」
フォンセは頭を苦しそうに抱えて、もっていた剣を地面に落とした。二人は呆然と苦しむフォンセを見つめる。
「私に入ってくるなあああああああああ!!!」
そう叫ぶと、フォンセは黒い靄となって消え去っていったのだった。
「今のって……」
「さぁ?」