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虹夏という少女と出会ったあの日の帰り道。
俺は事故にあった。
頭を強く打ったせいで前後の記憶がないが、どうやら俺はあの少女を助けようとして、トラックに跳ねられたらしい。
幸い命は無事だったが、右手が使い物にならなくなった。
握ったりはできるものの指の細かな動作が引っかかる感じで上手く動かなくなってしまった。
星歌さんに憧れてたこともあり、できればギターとして自分のバンドを組んでみたかったがそれはかなわぬ夢となってしまい、それ以降、従兄弟のバンドを見に行くこともなくなった。
それでも音楽に魅入られてしまった俺は、とりあえずこの手でもできることをしようと思い、この手でもできるドラムの練習を狂ったように繰り返した。
そうして数年がたったころ、ボーカロイドという文化に出会った。
PCで曲を打ち込みそれを配信サイトに投稿し、評価が得られる。
いわば自分だけの理想のバンドが作れる。
実際は打ち込み音源のため、熱量を伝えるのにはかなり苦労したが、投稿を2年程度続けたところで徐々に評価されるようになり、いまでは動画サイト内で5本の指には入るんじゃないかというくらいには人気がある。
その後また数年が経ち、入った大学の軽音部の体験入部に行ってみたりもしたが、あの輝きを目にしていた俺は物足りなさを覚えて、大学でバンドをやるということはなかった。
ボーカロイドの作曲投稿にもマンネリ化を覚えてきていた俺は最近生演奏を取り入れることにした。他の投稿者もやっていることだがいわゆる弾いてみた投稿者とのコラボである。
インターネットの人間と会うことは初めてだったので最初は緊張したが、相手がとんでもないのが来たせいでそんな気持ちは吹き飛んだ。
色んな意味でめちゃくちゃ大変だったがなんとか妥協できるレベルのものに仕上げることが出来たと同時に人とのつながりが浅かった俺の限界値を図ることが出来た。
最低限の単位を取る為だけに大学に行く程度で、半ばひきこもりと化していた俺はコミュニケーション能力を上げるためにバイトを始めることにした。
陽キャでウェイの従兄弟に良いバイトがないかと言われて連れてこられてずるずる1年ほどバイトを続けているのだが・・・
「星歌さん、なんすかあれ・・・」
「・・・私に聞くな、私も知らん」
俺のバイト先ライブハウスSTARRY。
そこの店長となった星歌さん。あの後バンドを解散するといい始めてここを立ち上げたらしい。その際はあのゴリラが大暴れしたそうで殴り合いの喧嘩にまで発展したと聞いている。
それはそれとして今疑問を抱いているのはステージ上の異様な状況である。
今日は虹夏の初ライブということもあり、星歌さんも珍しくそわそわしていたのだがなぜかステージ上には、虹夏それとその友人である山田と連結段ボールが並んでいた。
「ちょっとにギターが逃げたとか言ってましたけど、虹夏が人前に見せられないくらいぼこぼこにして連れてきた結果があれなんですかね?」
「お前は虹夏をなんだと思ってるんだ・・・」
星歌さんがジト目で睨んでくる。
「ゴリラの弟子」
あっ、目をそらした・・・
「予定した曲数を減らしてくれとは話されていたが、段ボールを上げるなんて話は聞いてないんだよ」
そんな話をしていると曲が始まる。
やはりあの段ボールの中身はギターらしい。
が周りが見えてないのかギターが一人で走って引きはじめ、それに虹夏が釣られリズムがずれていく。
山田はドラムの異常事態などお構いなしに自分の弾きたい演奏をし始め一気にリズムが崩れる。
「……ありゃひでーな」
横目で星歌さんをみると何とも言えない表情をしている。
そりゃそうだろう、一番問題があったのは星歌さんが大好きな虹夏だ。
バンドはギターとベースがある程度乱れてもドラムがしっかりと土台としての役割をはたしていれば、まぁそれなりのものにはなる。
ギターが走った時点でそれに釣られず、ベースの山田に合わせに行くべきだったのだ。ギターもギターで走ったのに気が付いてペースを戻そうとしても元のペースのリズム変わってしまっているため着地点が定まらない。
その結果がこれである。
焦ったギター担当がなぜか開くようになっていた段ボール前方部を少し開けた。
無駄な機能性である。
「あいつ何でここに・・・」
あのギターは超絶問題児のギターヒーローさんだった。
「星歌さん、もともと尺長かったんですよね・・・ここ」
「そうだけど、どうしたんだ?」
「一曲枠貰います!次のバンドに説明よろしくお願いします!」
小走りでバックヤードに向かう。
「おい!お前ひとりでどうやって演奏するんだよ」
星夏さんの言うことももっともだが、虹夏たちの演奏もそろそろ終わるため急ぐ。
バックからスティックとテーピングを取り出し、スティックを握ったままの状態の右手を固定していく。
一応混乱を避けるために段ボールヒーローに合わせてそこらへんにあったメックの紙袋を頭から被り、目と口の部分に穴をあける。
遮音ヘッドホンを左手に持ち、ステージに向かう。
もう演奏は終わり、虹夏がやや滑り気味のMCをしていた。
ステージに上がると何かあったのかとびっくりした様子でこっちを見てくる。
「悪い、虹夏。一曲やるからちょっと開けてくれ。」
「えぇ!?米兄!?どうしたの?」
虹夏は明らかに狼狽えている。
「山田も空けてくれるか?」
「面白そうだから乗ろう!」
山田はノリノリだった。
後は問題の問題児である。
前方の開閉部をあけると思った通りの奴がいた。
「えっ?なななななんで?Qさn」
「いいからこれ被って前練習しとけって言った曲を弾け、お前のタイミングで始めろ」
遮音ヘッドホンを渡す。
「む・・・むむむm」
渡すものは渡した。
何か言いたそうにしていたが。まぁ、勝手に自分のタイミングで始めるだろう。
山田と虹夏かMCをまとめてステージから捌けてくれていた。
山田はウキウキで、虹夏は不安そうな顔をしている。
空いてる左手でドラムにマイクをセットしながらドラムの調整をする。
ここでギターヒーローと遭遇するのは考えてなかったがタイミングとしては悪くなかった。
どこか虹夏に先を越されたくないという気持ちがあったのかもしれないが、先ほどの演奏を聴いて腹がたった。
ただ、それだけのはず・・・
──その答えは事故で欠けた記憶の中にあるとも知らずに