異世界日記~ファンタジーはいらない~   作:kohet(旧名コヘヘ)

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異世界日記④奪う者と奪われる者

50日目

冒険者ギルドに登録する。簡単な試験もあったが、メッセージカードとして使用した。

待ち時間に魔法使いとヒーラー(面倒臭いので役職で呼ぶことにした)が、仲間の遺品を故郷に送るという。

死者に対して、負け犬と嘲笑する猿共がいたので吊し上げにしていたら副ギルド長が出て来た。

何故か理不尽にも自分が怒られたが、揉め事を起こしたくないので寛大に対処した。

割とどうでも良かったが、思いのほか高いランクのD級ライセンスを貰った。

しかし、精神的に疲れたので吊し上げた猿共を焼こうとしたら身内2名に止められた。

 

51日目

ノルド王国エクステーロ辺境伯領というのが現在いるところになる。

南東に呪われた森が、南西に川沿いにノルド高原という場所がある。

身内2名の亡き仲間はノルド高原出身であり、一代騎士という元冒険者の貴族階級に教えを受けていたとのこと。

ノルド高原は『進○の▽人』に出てくる主人公の生まれ故郷に壁がないような土地である。

人類は毎日脅威を思い出している修羅の国だ。

 

低級冒険者が再起不能になったら奴隷同然に肉盾兼用農民として出荷されている。

だが、C級以上の冒険者が引退等する場合、ノルド高原の村落の村長又は一代限定の貴族として赴任している。

魔王軍の略奪に耐えている間に冒険者ギルドが援軍に行くらしい。

…肝心の辺境伯は何をしているのかというと隣の公国を見張っているとのこと。

商人と身内2名に聞いていたが人類の愚かさを感じずにはいられない。

 

魔王側は森が邪魔で本格的な侵攻をしてないだけで、森さえ何とかなれば水運の要所のエクステーロは地獄絵図待ったなしだ。

身内2名のメンタルを考え、元仲間の村落に直接見舞うことにした。

冒険者ギルドの依頼と並行してであるが。個人的にも略奪はNGなので躊躇する気はない。

 

52日目

ノルド高原の仲間の亡き元仲間の村落に出発した。ギルドの支援要請依頼を受注した。

転移は金がかかる為、低級であるD級冒険者は簡単には使えないとのこと。

仕方がないのでモンスターをしばいて馬車替わりにすることにした。

身内二名、特にヒーラーが激しく抵抗したが問題なく出発した。

なお、支援要請は緊急ではないが人手が欲しい時に出される依頼なので急ぐ必要はない。

モンスター馬車は中々の速度で走っている。時速80キロ行くかもしれない。

魔法使いが馬車の耐久度を向上する魔法を必死で唱えているが、止めると死ぬので頑張るように応援している。ヒーラーは気絶した。

 

53日目

モンスター馬車での魔法使い耐久度調査は限界値が見えたので中止した。

魔法使いを気絶させ、ヒーラーにモンスターの気を宥める魔法を使用して貰っている。

初めからこうすれば良かったのではないかとヒーラーに言われたがその通りなので肯定した。

ヒーラーにド突かれたが、この二人が成長して貰わないと危ないので仕方がない。

時速80キロの馬車のお陰で暗殺者と思われる人間も撒けた。

仮に追ってきても魔王軍のせいに出来るのでどうにでも調理できる。

もし、自分がまともな紳士なら約2名が黙っていなくなる可能性があるので、予め距離を壊すのが最善である。

…嫌われるのも恐れられるのもケースバイケースで最良の手段だと自分は知っている。

ヒーラーを気絶させ、暴走したモンスター馬車で村を通り越した。

なお、モンスターは事故死して貰った。衝撃を和らげるクッションである。

安全の為に犠牲になった彼に黙祷を捧げていたら、魔法使いに殴られた。

目的地を通り過ぎたが、第二の馬車は作らずに歩いて目的地へ行くことになった。

 

54日目

件の村についた。遺族から理不尽に怒りをぶつけられそうになったので背負い投げした。

仲間2名から怒られたが仕方がない。

…村長から謝罪されたが、人権持ち元冒険者だけあり勘が鋭い。

自分が遺族でも投げ飛ばす奴と認識されたので残りは理性的に対応してくれた。

魔法使いもヒーラーも心の重荷が取れたようだ。

今日は雨が降っていた。冷たい雨だった。

 

55日目

仲間二人が村長に何か吹き込まれたようで自分へ謝罪してきた。

思わず出た言葉でダブル顔面パンチされたので問題ない。

 

遺族には改めて第三者から見た最後の戦いを詳細に伝えた。

だが、勇敢な戦士であったと個人的に感じた補足は余計だったかもしれない。

…三人の両親は成功できなかった元冒険者であるらしく思うところがあったようだった。

 

依頼の内容は昨日確認したが、年明けの備蓄を狙って魔王軍が攻めて来るので予め戦力が欲しかったとのこと。

裕福ではないので依頼料もそこまで高くないと村長から言われた。

知っていて来たので問題ないと返答した。

自分は一目しか見ていないが、教え子の仲間の力で見える物があるだろうとも。

…村長から改めて礼を言われたが、間に合っていれば最善だったので礼は不要と返答した。

 

56日目

魔王軍もとい略奪者が攻めて来た。

想定よりもずっと早く、村人のみならず村長も少し動揺していた。

だが、数日暇があれば幾らでも対策は容易だった。

高原というだけあり、冷気が強い土地柄である。

 

魔法使いには耐久度を上げる魔法を全力で使わせていた。

ヒーラーの方は気を宥める、ある種の麻痺を全力でやって貰っていた。

二人にクイズを出すことにした。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

その日、魔王軍は予期せぬ速さでノルド高原の村々を蹂躙しにやって来た。

村長は亡き教え子の最後を伝えに来た冒険者を逃がすべきかと思った。

まだ三名しか来ていないが、本来ならば十数人で防衛する体制を築くはずだった。

だが、D級冒険者が依頼失敗どころか逃げたとなればギルドからの評価は地に落ちる。

分かり切っている一瞬の苦悩、村長は逃げられる前に戦力として巻き込むことに嫌気を感じ…。

 

「さて、お二方。ここで問題です」

男が村長よりも先に喋りだした。

教え子の最後を仔細に語った口調とは打って変わった飄々とした口ぶりだった。

 

「今、ふざけている場合じゃ…!」

魔法使いの少女が男に怒りの感情を向けた。

青いローブを被った曲がりくねった杖。典型的な、だが歴史を感じさせる装備。

冷たさを感じる蒼い瞳と長い緑髪の美少女は会って数日の村長さえ知る程に熱い感情の持ち主であった。

 

少女の言葉を遮り、スッとした佇まいで男は言葉を続ける。

それは、かつて依頼で見ることになった舞台の指揮者のようであった。

 

「魔王軍の進軍経路はモンスター馬車でメタメタになり、先日の雨でぐしゃぐしゃです」

男は改めて問題を提示した。

 

村でも話題にならないわけがなかった。凄まじい勢いで通り過ぎた巨体のモンスター。

村に被害はなかったが荒地を蹂躙し、その距離は目で見えるかも怪しかった。

更に翌日の雨で塗れ、冷気により蒸発しないが凍らない絶妙なバランスになっていた。

 

その時、高位の元冒険者村長は気が付いた。

雑そのものであるが、そのモンスターの通り道は弧の字に村を包んでいた。

 

「…まさかとは思うけれど」

村長は呟いた。自分に黙って勝手にされたことなどこの際、どうでも良かった。

 

「道具の損耗を抑える…要するに環境を維持する魔法。

 精神を安定させると宣いながら、荒れ狂うモンスターすら朦朧とさせる魔法」

男は二人に付け加えた。命懸けで予習して貰ったのだから使わない手はない。

 

「…ああ、はい」

男の考えに気が付いた純白のシスターは曖昧な表情で笑う。

聖職者として常に魔法で清潔な白い装いを崩さない、だが最近崩しまくる問題児。

亡き仲間の故郷を見捨てる気は元々なかったが、活路が見えた。

 

白魔法が冒涜的な魔法と暴言を吐いた男と目を合わせる。

同時に同胞である魔法使いも気が付いた様子だった。

 

「ご明察。要するに…殺戮の権利はこちらにある」

男は奪う者に奪われる恐怖を与えることを宣言した。

幸いにも殺しに慣れた村人達である。しかも殺されかけたのだ。

良い仕事をしてくれるだろうと男は他人事のように思った。

 

 

魔王軍の略奪部隊は公国の内通者から得た情報とは裏腹にまるで成果なく帰還することになった。

それどころか下級とはいえ多くの兵が戦死し、帰還兵の中には足を失った者が多くいた。

 




・ノルド高原
ノルド王国エクステーロ辺境伯の南西にある高原。
隣に呪われた森があり、更にその先には魔王軍が拠点としているナーム山脈がある。
ノルド王国本土は川の上流にあり、下流はナーム山脈を過ぎた先まで延びている。
珈琲やダイコンが名産品。中央への小麦等の生産地としても機能している。

冒険者の流刑地とも評される場所。
D級以下で再起不能と判断されれば冒険者ギルドから勧められる場所である。
人手が足りず、多少腕に自信がある人材を欲している等と勧誘する。
嘘ではないが、人類の食料確保と魔王軍の肉盾という役割が強制される。
現地人は魔王軍が遊び半分で襲ってくる場所と認識している。
C級以上なら実情を説明した上で多少の越権行為も不問としている。
村長に従わない低級冒険者移民に対し、最高刑として死刑等も許可されている。

今回の村長は人類のことを考えて移民してきた数少ないケース。
それでも従わないで騙された等と騒ぐ元冒険者は死刑にすることもある。


人類はナーム山脈以南の情報を欠いている。
だが、魔王軍第5軍が滞在していること、ロギスモイという八人の幹部の一人である『L.P.A.』と略称される存在がいることは判明している。
敵陣での書簡により判明した『P.A.』は姓名だと上層部は推測している。
もし仮に真実だった場合、教会勢力と冒険者ギルドであることが合意されている。
教会も冒険者ギルドも人類全体の組織であって特定の国家に属する組織ではない。
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