ダンジョンで運命を変えるのは間違っているだろうか 作:ぺこぽん
「ただいま帰りました! アストレア様!」
「みんな、今日も無事で何よりだわ。おかえりなさい」
主神である女神アストレアのお出迎えだ。
倦怠感も疲労感も、全てが吹き飛ぶというものだ。
「あら、リュー。今日は変わったお客さんを連れているのね」
リューの影に隠れるように子供がいた。
今もリューを離さまいと、左腕に必死にしがみついている。
「そうでした! アストレア様! 実はかくかくしかじかで!」
「そう、だったのね……。いえ、ごめんなさい、アリーゼ。それだけではわからないわ」
アリーゼのざっくばらんな物言いに、アストレアは柔和な笑みで悪乗りする。
「団長……。私が話そう」
可哀そうな子を見る目で、輝夜がアリーゼを見た。
「嘘、冗談よ。待って! 私、ちゃんと説明出来るわよ。団長なんだから!」
「「「いいから黙って!」」」
わいわいと騒がしい眷属達を、主神は愛おし気に見守っていた。
子供を連れ
「ギルドに行方不明者の確認をお願いしたのに、まともに相手もしてくれなくて!」
「まあ、こんな薄汚ねえガキを直接連れて行ったんだ。門前払いは当然だけどよ」
アリーゼの肩を竦める嘆きに、ライラが自重気に答えた。
「
輝夜がこれで何度目か。
子供の顔を覗き込もうとしたが、またもや逃げられた。
「でも、こんな時だもの! あーだこーだと泣き言を言っても仕方ないわ!と納得したの!」
そこで、とアリーゼは前置きをした。
「アストレア様のお力をお借り出来ないでしょうか」
「ええ。勿論、構わないわ。このままだとリューが困り果ててしまいそうだものね」
アリーゼが両手を合わせると、心優しき主神は快諾してくれた。
リューは不甲斐ないとばかりに項垂れる。
「すみません、アストレア様。私が子供の扱いになれていないばかりに」
「リオンは末っ子で一番の子供だものね。それはしょうがないでしょう?」
「はは、確かにな」
リャーニャの揶揄いに、ネーゼが笑う。
「私は子供ではないっ!」
「そういう反応をする所が、まさに子供と言われる由縁でございましょうに」
リューの叫びに輝夜が顔を袖で隠し、なおも揶揄う。
「輝夜、貴様ァ……!」
「そこまでよ、みんな! 目的を見失わない事!」
間にアリーゼが入り、喧嘩を仲裁した。
アストレアはゆっくりと子供の前に進み出る。
「この子、随分と血だらけだけど、もう怪我の方は大丈夫なのかしら」
「はい。骨折も他の傷もすでに治療済みですわ」
マリューが自信に満ちた返答をする。
アストレアはそれでも痛ましそうな表情で、子供の前にしゃがみこんだ。
「駄目です。アストレア様! この子は……!」
オラリオに帰って来ても、
敬愛する主神に、何かあってはならないとリューは警戒したのだ。
「大丈夫よ。何も心配はいらないわ」
アストレアは慈愛に満ちた表情で、子供に手を伸ばす。
それに逃げる事なく子供は、優しく頭を撫でる手に身を任せていた。
見開かれていた白銀の瞳が細まる。
逆立っていた全身の気迫が、徐々に静まっていく。
「さすがアストレア様! 美人で完璧で、私が敬愛してやまない女神様! こんなに傷付いた子供の心まで癒やすなんて!」
「なんで団長が偉そうなんだよ」
ライラの突っ込みが走る。
だが、主神の在り様は眷属である自分達にとっても誇りだ。
それを否定する者などいるはずがない。
「ありがとう、アリーゼ」
リューの腕から子供の手が、ゆっくりとだが離れた。
アストレアは優しい口調で話しかける。
「私の名前はアストレア。貴方の名前を教えて貰えないかしら」
「…………っ」
子供は叫ぶ以外の機能を失ったかのように、口を開く。
だが、そこから言葉は出てくる事はない。
アストレアは急かす事なく微笑んだ。
「まずは休息ね。それから
「この子の主神もきっと心配している事でしょうから」
アリーゼは子供の手を引いた。
「ちょうど用意が出来た所だから、お風呂に入りましょう」
「アストレア様もですか!?」
「ええ、この子を一人で入らせるわけにはいかないわ。リュー、貴方も手伝ってくれるかしら」
アストレアの願いに、リューは少し顔を強張らせた。
いくら子供とはいえ、家族でもない
だが、今の所この子が心を許しているのは、リューとアストレアだけだ。
「行ってあげて、リオン。だってその子、今も手を離してないわよ」
「……あ」
見ればアストレアに引かれる反対の手が、リューのローブを握っていた。
「良いのよ、リュー。貴方が嫌なら私一人でも大丈夫だわ」
「い、いえ。アストレア様。問題ありません」
リューは問題ない、問題ないと言い聞かせる様に呟きながら付き添っていった。
アリーゼ達もまずは埃を落とし、お風呂が空くまで団欒室で休憩を取る事とした。
片腕を伸ばし、伸びをしきった所で、アリーゼは思い出したかの様に、あ、と呟く。
「……リオンったら、もしかして気付いていないかしら」
暫く後。
「なぁああああああああああああああっ!!!」
リューの悲鳴が風呂場から聞こえてきた。
それからどたばたと騒がしい音。
けたたましい衝突音を響かせ、リューが団欒室に現れた。
「な、な、な、な、な……!」
装備は矜持からか脱がなかったのかそのままだ。
お湯で濡れた衣類が肢体に張り付き、妙に艶めかしい。
ただ顔だけが、茹で上がったかの様に真っ赤だ。
「つ、つ、つ、つ、つ……!」
先ほどから一音しか発せれていない。
「どうしたリオン。ついに名実ともにポンコツエルフと成り果てたか」
「違ぁーうっ! 私はポンコツなどではないっ!! ……いや、そうではない!」
輝夜が嘲笑を浮かべ、リューは激昂した。
「つい、つい、つい!」
「「「つい?」」」
「ついている!!」
「「「何が?」」」
「だから! ……その!」
尻すぼみとなって消えていくリューの声。
「ああ、リオン。本当に気づいていなかったの!?」
アリーゼが、頬を掻きながら驚いている。
少し悪い事をしたかな、という罪悪感と共に。
「あの子、
「「「「「「「「「…………は?」」」」」」」」」
一瞬だけ団欒室が静まり返る。
それから天地を引っくり返したかの様な騒動となった。
「いや……。アタシは薄々そうじゃねえかと思ってはいたんだが」
「ライラ! だったら教えて下さいっ!!」
「あん時は……。血で鼻がやられてて気付かなかったなぁ」
「ネーゼ! 遠い目しないで下さいっ」
リューは殆ど涙目浮かべている。
「ぶ、ぶわあああああああぁぁぁぁかめ!! 気付かない貴様が悪いのだ!」
「輝夜! 貴方こそ気づいていなかっただろうに! 自分の事は棚に上げるのか!!」
誤魔化すように声を張り上げた輝夜とリューの応酬が始まる。
「ごめんなさい! 私もすっかり言い出すのを忘れていたわ!」
アリーゼが陳謝する。
「アリーゼ、貴方のせいでは……ない!? え、ええ。ないはずだ」
「そうだ。糞鈍妖精様が悪い!常々言っているであろう。周りにもっと気を配れと!」
「貴方という人は……言わせておけばぁ!」
リューは体をふるふると震わせ、拳を握る。
「ふん、それで、清廉潔白、穢れなど知らぬなエルフ様は一体、お風呂場で何をご覧遊ばれたので?」
「~~~~っ!!」
輝夜の挑発にリューは黙り込むしかなかった。
「みんな、ちょっと来てくれるかしら」
そこでアストレアから、声が掛けられた。
風呂場にと全員で向かう。
「私は何も見ていない……! 見ていない! そうだ、あれは夢だ。そうだ。そうに決まっている。あんな可愛らしい子についているはずが……」
自己暗示の様に言い放つリューは最後尾だ。
「アリーゼ、困ったわ」
そこで主神の湯浴み姿に出くわした。
普段の服は濡れない様に脱ぎ、薄い布を体に纏っている。
見えてはいないが、見てはいけないものを見てしまった気になる。
「どうされました?アストレア様」
同性であれ、思わずアリーゼ達は目を逸らした。
アストレアのその落ち着き払った佇まいからは、余り困った様には見えない。
アストレアが横にずれ、風呂場の中を見せた。
石台の上に座る子供。
いや、少年だ。
汚れはすっかりと落ち、素肌を見せたその後ろ姿。
年頃の少女が多いこのファミリアは、少年の姿に目が奪われる者が多数。
ある者は目を閉じ、かつて弟がいた者は平然としている。
だが、それよりもその背中。
長い黒髪に覆われる中、僅かに除くのは
「この子、Lv.7よ」
「「「「「「「「「「「…………はい?」」」」」」」」」」」
主神の一声に、全員の目が点になった。
アストレアレコードを読みつつ書いてます。
出来るだけ地の文を減らして、会話だけにしたいな。
その方が長続きする筈!(迫真)