ダンジョンで運命を変えるのは間違っているだろうか   作:ぺこぽん

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時系列はあえてふわっとです。


ある朝

 

 少年との生活は、穏やかなものだった。

 初めの出会いが嘘の様に、今の少年は大人しい。

 リュー以外の人にも、次第に慣れてきたのだろう。

 体に触れない限り、近寄っても逃げ出す事はない。

 

「食え食え。食ってさっさと元気を取り戻せ」

 

 朝食の席。

 ライラがフォークで肉に突き刺したまま、それを少年に向けた。

 リューの隣に座る少年は、先ほどからスープをちびちびと飲んでいたのだ。

 長い艶のある黒髪がスープに漬からぬよう、アリーゼの髪留めを借りて、後ろで括っている。

 大分、少年の肌には血色が戻り、肉も付き始めた。

 

「ライラ。衰弱していた人に肉は駄目です。まずは消化に良いものからだ」

 

「わぁってるよ。うるせえなぁ、お母さんかよ、リオンママ」

 

「な……っ!誰がママですか!?」

 

 リューは顔を少し赤くしている。

 

「そういや、ロキ・ファミリアんとこの、ハイエルフ様もそんな風に呼ばれてたっけか。人形姫に手を焼いてるって聞いたことあるぜ」

 

「リヴェリア様が?」

 

 リューそれを聞いて、何故かちょっと嬉しそうにしている。

 大丈夫かこのエルフ(狂信者)は、とライラが唇を引き攣らせた。

 

「まさか。まだ、この子と一緒に寝ていらっしゃりますの?」

 

「っ、この子はずっと一人で寝ている! 初日の時も寝るまで部屋にいただけで一緒には寝ていない! 空言を流すのはやめなさい、輝夜!」

 

 輝夜の流し目に、リューは息つく暇なく応える 

 

「そうよ、輝夜! リオンを抱き枕にして寝れるのは私だけの権利なんだからね!」

 

「そんな権利は存在しないっ!」

 

 さらにはアリーゼまで突撃して来て、到底リューだけでは捌き切れない。

 思えば、この少年が来てからというもの、自分は揶揄われっぱなしではなかろうか。

 

「ちゃんと一人で寝てるよ、輝夜」

 

 そこで思わぬ援護があった。

 まだ声変わり前の、少女と聞き間違える程の高い声だ。

 

「わ、しゃべった!」

 

 イスカが驚き、食器を音を立てて鳴らす。

 

「てか……毎回アタシら驚きすぎだろ、逆にそっちの方で驚くぜ」

 

 ライラは頭を掻いて、苦笑する。

 少年が話すのは、何も初めてではないのだ。

 こっちの名前を呼んだりして来るし、普通に話す。

 とはいえ、最初の絶叫の印象が強烈すぎた。

 

「ごめん、ライラ」

 

「いや、お前が悪いわけじゃねぇんだけどよ」

 

 この少年は物覚えが悪いわけではない。

 名前も物の使い方も直ぐに覚えていく。

 まるで思い出していくかのようだ。

 知識を急速に吸収していた。

 

「ただ、普通に話せんのが驚きで……。そういや、あん時、なんであんなに叫んでたんだよ」

 

「……痛かったから」

 

 少年は、ぽつりと答える。

 他に言い表す言葉を持たないのかの様に、唇を噛む。

 

「そりゃ、あんだけ血だらけだったなら、痛ぇだろうけどよ」

 

 ライラが聞きたいのは、そういう事ではないのだが。

 どっちにせよ何を聞こうとも、覚えていないのならどうしようもないが。

 

「辛いのなら、無理に思い出さなくてもいい」

 

 少年の苦しげな表情を見て、リューは優しく囁いた。

 

「あんまり甘やかしても、そいつの為にはならねぇぜ」

 

「だが、まだ子供だ」

 

 ライラは頭の後ろで手を組み、椅子毎後ろに仰け反る。

 

「子供っつったって、アタシよりデケぇじゃねぇかよ……」

 

 それに続いて呟いた言葉は、リューには届かなかった。

 

「それに……ほんとに子供かどうかも怪しいもんだぜ」

 

 そこでパンと両手が大きく打ち鳴らされた。

  

「さ、皆!食べ終わったら、都市の巡回に行きましょう!」

 

 アリーゼが立ち上がり、腰に手を当てる。

 

「リオン、今回はあんたも参加しなさい!」

 

 リューは暫くの間、見回りに参加出来ていなかった。

 まさか、謎だらけの少年を一人でホームに置いて行くわけにもいかなかったからだ。

 

「そうしたいのは山々ですが、この子を置いて行くわけにも……」

 

 リューとすれば当然、参加したい。

 いや、しなければならない。

 だが、少年に面と向かって邪魔だとは言えなかった。

 

「何を言ってるのよ、リオン!この子も一緒に行くのよ!」

 

「連れて行くというのですか?」

 

「ええ!外に出て陽の光を浴びなければ気分は沈むし、体にも悪いわ!」

 

「ですが、もし闇派閥(イヴィルス)の襲撃があれば、この子に危険が及びます!」

 

 元々、巡回の目的は闇派閥(イヴィルス)を警戒しての事だ。

 その際に、衝突する可能性は大いにある。

 それ以外でも今のオラリオ治安は悪化しているのだ。

 

「守ってやればいい。それとも未熟なその身では無理な相談か」

 

「輝夜、私達はアストレア様からこの子を任されたのだ。約束を違える気か!」

 

 リューと輝夜が、正面からぶつかり合う。

 

「リオン、この子の為にもよ。アストレア様からはお世話を頼まれたけれど、今なおこの子を知る人は見つかっていない」

 

 アリーゼは鷹揚に頷く。

 

「それに、アストレア様だけに捜索をさせられないわ! 都市の巡回もして、この子を知っている人も探す! 一石二鳥だわ! フフーン、さっすが私!」

  

 アリーゼは人差し指を楽しそうに回した。

 

「それにいざと時の為に、ガネーシャ・ファミリアに応援を頼んであるの。抜かりはないわ!」

 

 ネーゼが食事を終え、荒々しく口を拭く。

 

「まあ、そうだな。そいつの日用品を市に買いに行く必要があるだろうし」

 

「ああ、さすがに今ある服だけじゃ、足りねぇしなあ」

 

 ライラは、少年が着ている古着を見て言った。

 所々補修した跡があり、まさかしく古着だ。

 

「アストレア様が、アリーゼちゃんの昔の服をしまってて下さってて本当助かったわ~」

 

 マリューは両手を合わせて、嬉しそうに笑う。

 

「思い出すわねその服! 迷宮(ダンジョン)で破ってしまった服を何度もアストレア様が夜なべして、チクチクと縫ってくれたものだわ!」

 

 しみじみとアリーゼは語るが、誰もそんな恥ずかし過去は聞きたくもないし、思い出したくもない。

 

「新しい服を買うお金もない貧乏時代。つるつるてんになるまで着たものよ!」

 

「まあ、それでもちょっと丈は長げぇが、胸周りはぴったりだ!」

 

 ライラはにっと、アリーゼに向けて挑発的に笑った。

 

「……その程度では動じないわ!それがいい女というものよ!」

 

 アリーゼは目を閉じたまま、笑みを崩さない。

 

「それにあの頃より只今絶賛、成長期! 清く美しい私は外も中もさらに成長中よ!ライラ☆」

 

「うざ☆」

 

 アリーゼはようやくスープを飲み終わった少年の前に立つ。

 

「ね、君も行ってみたいでしょ?」

 

「うん。行く。行ってみたい」

 

 少年は、素直にこくんと答えた。

 

「じゃあ、決まりね!」

 

 




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