ダンジョンで運命を変えるのは間違っているだろうか 作:ぺこぽん
リューとアリーゼは、共に受け持ちの場所に訪れていた。
その間に、挟まれる様にいるのは少年だ。
初めは恐る恐る足を進めていたが、次第に街並みにも、人混みにも慣れたのか質問をして来る様になった。
巡回の聞き込みは主にアリーゼに任せ、リューは少年の相手をする。
「リオン、あれは何?」
「あれは屋台といって……」
「あっちは?」
「工場といって……」
「あの人は何をしているの?」
「しッ! 見てはならない!」
アリーゼが補足してくれながら、いつもと違う巡回となった。
本当に、この子はよく喋る様になったものだ。
ただ、少年の時折通りかかる人を振り返る癖が、リューは気になっていた。
そんな時決まって少年は、その人をひどく気に掛ける様な表情をしているのだ。
「誰か、見覚えのある方でもいましたか?」
「……ううん。ねえ、あのでっかい建物は?」
「あれはバベルです。
「バベル……」
冒険者ならば、親の顔よりも見ているはずの白亜の塔。
少年はしばし、小さな口を半開きにして食い入るように見詰める。
「リオーン!ヤッホー!」
突如、場をぶち破る明るい声が響いた。
「アーディ!」
「そうだよ!迷子の子猫ちゃん探しから、姉妹喧嘩の仲裁まで、困った事があれば何でも解決してみせるアーディ・ヴァルマだよ!じゃじゃーん!」
ガネーシャ・ファミリアの応援とはアーディの事だったのだ。
奇天烈な自己紹介の後、アーディは少年の前で急停止する。
「この子が話題の迷子ちゃんかぁ。初めまして!」
「アーディ。もしかしてこの子を知っている人が見つかったのですか?」
「ううん、ごめん。まだ、見つかってないんだ。団員で手分けして都市中を回ってるんだけどね」
捜索をお願いするに当たって、少年の
こればかりは無用な混乱を避けたいからというのが理由だ。
「でも、こんなに可愛い子だったらきっと直ぐに見つかるさ! さらっちゃいたい位可愛い女の子だもん!」
「アーディ……。非常に言いにくいのですが、この子は男の子なのです」
「えっ!そうなの!? あはは、ごめんね、女の子って言っちゃって!ほら、仲直りの握手!」
「あ……!」
リューは止める暇がなあった。
アーディはあっと言う間に少年の手を握ってしまっていたのだ。
「………!」
だが、少年はただ驚いただけだった。
何の抵抗もなく、暴れる事もない。
ただ、衝撃を受けたかの様に言葉を失っている。
「えへへ、よろしくね!」
少年は、はにかむ様に返事をした。
「うん。よろしく、アーディ」
アーディが急にぷるぷると震え始める。
「ほんっとに可愛い子だなあ!食べちゃいたいくらい!」
「でしょ、でしょ!」
アリーゼが同意し、アーディが少年に飛びつきそうになる。
それを察して、リューは自分の身体でアーディを受け止めた。
「アーディ、離れてくださいっ」
「ねね! 君、うちのファミリに来ない!? 三食ご飯に昼寝付き、今なら五月蠅いガネーシャ様の雄叫び付きだよ!」
「主神の事を五月蠅いと言ってもいいのですか、貴方は……」
「駄目よ!この子はうちの子よ!渡せないわ!」
アリーゼとリューで共同戦線を張った所で、アーディは諦めたようだ。
ちぇーっ、とアーディが唇を曲げた後、
「ま、でもそんな可愛い君には、このジャガ丸君を進呈しよう!じゃーんっ!!」
アーディは袋から取り出し、少年に渡した。
「ありがとう。アーディ」
少年はゆっくりと、口元に運び一口齧る。
そして、白銀の瞳を大きく見開いた。
「こ、この味は……」
「まさか、思い出した事でも……!?」
三人は固唾を呑んで見守る。
「……美味しい」
ずこっと全員見事に肩が落ちた。
アーディを連れて巡回を終えた後、買い物に向かう。
女三人の姦しさに、少年は目を丸くしながらも付いていくしかない。
隙あらば、少年に女装をさせようとする二人を止めるのに、リューはいたずらに体力を消費する事となった。
だが、そんな日常がリューには好ましかった。
―――ああ、こんな平和がずっと続けばいいのに、と。
さっそく団欒室で集まり、会議を開く。
「まず、この子のファミリアについてなのだけれど」
アストレアは、そう切り出した。
「ロキとフレイヤにも確認をとってわかったわ。このエンブレムの主神、この子が所属しているのは―――ハデス・ファミリア」
「……ハデス?」
「貴方達が、聞き覚えがないのも無理もないわ。彼が降臨したのは数百年前も前の事。かつてゼウス・ファミリアと抗争を繰り広げ、その争いに敗れ彼はオラリオを去ったそうよ」
「では、今その神ハデスはどこにいるのでしょうか?」
「その後の彼の消息は不明なのよ、リュー。すでに送還されているかもしれないし、今なお地上で活動しているかもしれない所在不明な
「じゃあ、その眷属が今更どうしてオラリオに現れたっていうんだか」
ネーゼは腕組みして、謎に頭を振る。
「現れた……ねぇ」
ライラは鋭い視線を少年に向ける。
「それも不明なのよ。ギルドにも古い記録を全て当たって見てもらったのだけれど、記録にある限り、ハデスの眷属はすでにこの世ににはいないはずなのよ」
「アストレア様……では、この子は独りぼっちという事ですか」
リューは少年と視線を合わせない様に、頭を下げた。
自分がアストレア・ファミリアと共にいない未来など考えられない様に、もしかしたらこの少年にも大切な家族がいたかもしれないのだ。
「決めた!」
アリーゼが声を張り上げた。
「この子を、私達のファミリに迎えましょう!」
「正気か、団長。この子供は謎が多すぎる。どう転ぼうとも危険としかいいようがない」
「輝夜、きっと大丈夫よ!こればかりは私の勘だけど」
「
「いいえ、彼にはない。女の感よ!それもとびっきり美人で完っ璧な私のね!」
「まあ、団長のカンには、結構救われてるけどね」
ノインがしょうがないなぁ、という感じで呟いた。
「アストレア様、構わないでしょうか?彼を迎え入れても」
「ええ、アリーゼ。私も貴方が言い出さなければそのつもりだったの」
アストレアは微笑んだ。
それに慌てている者の残りは、リューだけだ。
「しかし、アリーゼ。この子は男性です、今迄、ファミリアに男性を迎え入れた事はないはずだ」
「別に男性禁止って訳ではないわ!ただ、ファミリアの正義にかなう相応しい人物が現れなかったってだけよ!」
「それならば、この子はまだ幼く、到底正義など……!」
なおも食い下がるリューにアリーゼは告げた。
「いい、リオン!」
アリーゼは真剣な眼差しだ。
「可愛いは正義なのよ!」
「貴方は何を言っている!? アリーゼ!」
リューはただただ困惑をまき散らしただけだった。
「アストレア様と団長がお決めになったのだ。そもそもお前が口出しする問題ではない」
輝夜がずばっと言い放ち、リューは口ごもる。
「ね、リオンこそ、本当は賛成しているんじゃないの?一番あの子に接してきたのはあんたでしょう」
「本当は、……そうです」
リューは遂に認めた。
つい、反対してしまったが心の奥底では葛藤していたのだ。
この子を正義の戦いに巻き込んでいいのだろうかと。
「正直な所も言うけれど、このままこの子を孤児院にでも預ける訳にはいかないの。この子には謎がある。放置は出来ないわ。それを解き明かすことが、この子と出会った私達の責務だと思うの」
アリーゼは少年の言葉を待った。
「君は、ここにいたい? 望むのなら私達の
少年はゆっくりとだが、確かに頷いた。
「うん。ここにいたい。ここは……暖かくて、明るいから」
少年は微笑んでいた。
初めて見せるかもしれない、自分からの笑顔。
その笑顔に思わず心を撃ち抜かれる者が数名続出。
「そうと決まれば、名前を付けてあげましょ!いつまでのこの子やその子じゃ、呼び辛いったらないわ!」
「名前かぁ……」
全員が尻込みをする。
この少年の容姿に相応しい名前など、そうそう出てくる筈もない。
「アストレア様ぁ~。何かいい名前はないでしょうか?」
結局の所、神頼みとなってしまったのだった。
「そうね。ではティア……いいえ、テアなんてどうかしら」
「賛成!」
二つ返事でそう決まった。
「いい!貴方の名前はテアよ。記憶を取り戻す間の、仮初めのものだけどね!」
「俺は……テア。うん、テア」
少年―――テアは名前を名乗れることが嬉しいのか、何度も何度も繰り返す。
「団員も一人増えた事だし、さあ、みんな!恒例のヤツをやりましょう!」
「えっと、ヤツって何?」
リューにいつもの様にテアは質問し、リューは顔を赤らめるしかない。
しかし、恥ずかしがっていては新団員に示しがつかないだろう。
「アリーゼの後に復唱すればいいのです」
そして、十一人の少女と一人の少年から紡がれるのは誓いの言葉。
『正義の剣と翼に誓って!』
この日、アストレア・ファミリアに一人の
つまり、アーディは正義!