HENTAIの野望〜キヴォトス同人誌化珍道中〜   作:伝説の超三毛猫

102 / 149
前回の続きです。

シリアス「やっとだ…やっと動ける…!」
ギャグ「どーせすぐ死ぬのにな」
シリアス「ヤメロォ!!!!」


HENTAIの野望/Zero・後 君に捧ぐ聖酒(ビンクス)

 俺とサザナミさんの出会いは、病院だった。

 当時の俺は……トリカス共の差し向けた不良どもに負わされた傷のために、集中医療棟へ運ばれていた。

 一命は取りとめたが……後遺症がヤバかった。

 まず、目の色覚異常。視力が落ちたのは眼鏡やらコンタクトやらで補える。だが色覚は違う。世界から青っぽさが抜け、全てがピンクがかって見えるのは…当時の俺からすれば、違和感しかなかった。

 

 加えて、記憶が混線しているというのもあった。

 かつて地球という惑星の日本という国で、二十数年生きていた前世の(■■■)としての記憶。

 キヴォトスで十数年生きていた、本来のいち中学生(間島スバル)としての記憶。

 それらが混ざり絡まり合って、常に酩酊感と気持ち悪さに襲われていた。そのせいで、マトモに食事も喉を通らない。酷いときには、看護師ともろくにコミュニケーションが取れなかったらしい。

 

 常に意識が薄れ、起きているハズなのに悪夢の中にいるような感覚。

 その中で俺がやっていたのは、ノートに記憶を書き出してイくこと。

 憑依転生から間もない時だから状況がイマイチわからなかった……というのもあるが、それ以上に俺がそんな事をした理由には、『こうでもして脳の中を整理しないと頭がおかしくなって死ぬ』―――という、確信に満ちた強迫観念からであった。

 なので、書いてはまとめ、書いてはまとめ…自分の知識を少しでも整理しようとしたのだ。

 あの時は、マジに自分の事でいっぱいいっぱいで……そのノートに何を書いたのか、何を綴ったのか……そこまでは気にも止めなかった。留められなかった。

 

 だから、なのだろう。

 入院した病室の向かい隣に誰がいたか、なんて分かりもしなかった。

 

『あの…』

 

『んぁ…?』

 

『これ落としたの、貴女ですか?』

 

 これが、サザナミさんと俺がした会話の中で、イチバン古い記憶だ。

 紙に描かれていたのは、絵であった。記憶を整理していた中でたまたま出ていたのであろう、美少女の官能的な絵。それを拾ってくれたのが、サザナミさんだった。

 

 透き通った緑色の髪。美しい桃色の瞳―――今思えば、目がイカレていた影響だからそう見えただけで、本当は海のような青色の髪と果実のようなオレンジの瞳だったんだろうが―――をした彼女は、このとき間違いなく俺の運命を変えた。

 

『すっごい!あなた絵が上手いのね!』

 

『あぇ……?』

 

『ねえ、名前は何て言うの?

 私はサザナミ。17歳だよ!』

 

『あ、え、え、えっと…………』

 

『あ…! ご、ごめんなさい。急にビックリしたよね?

 私、絵なんて描けないから普通にスゴイって思っちゃっただけで……』

 

『だ…だい、じょぶ……』

 

『ほんと?』

 

『えーと……まず……俺?私?…は、スバル。間島スバル』

 

『! スバルちゃんね!』

 

 マトモに会話できているかも怪しい上に一人称もあやふやで、しかも相手の言葉にワンテンポ遅れてしか答えを返せない。

 そんな状態の俺に、嬉しそうに、本当に嬉しそうに、優しく接してくれたのだ。

 当時の、弱り切っていた俺にとっては、本当にありがたいことだった。

 

『おはよう、スバルちゃん!』

 

『あぁ……おはよう、サザナミさん』

 

『元気? 今日は頭痛くない?』

 

『ええ…まぁ』

 

 あの人は、常に元気だった。

 常に笑顔を浮かべ、俺にも健康観察や診察にやってきたお医者さんにも朗らかに接し、誰に対しても分け隔てなく楽しい話題に花を咲かせていた。

 

『ねぇ…スバルちゃん』

 

『何すか……?』

 

『この地図……キヴォトスの地図じゃあないよね……どこの地図なの?』

 

『!!』

 

 ノートに書いていた、日本の世界の知識のことを見られたのがきっかけで、転生のことを話したこともあった。

 まぁ、信じがたい話だったから、そん時は「死にかけたことがトリガーで、今の自分とは違うヤツの人生数十年分の記憶が流れ込んできた」的なニュアンスで俺の秘密を共有したこともあったっけ。

 荒唐無稽な話に彼女は、「黙っててあげる」「私とスバルちゃんの二人きりの秘密だね」と言ってもくれた。あの人は、気配りも出来た人だった。

 

 

『私ね、オデュッセイアってところに通ってたの』

 

『オデュッ…セイア…聞いたことがある……』

 

『海の学校だよ。ほら、船が学び舎、で有名な!』

 

『なんだっけ………バニー、チェイサー…』

 

『え?』

 

 サザナミさんは、自分のことを本当によく話してくれた。

 オデュッセイア海洋高等学校に通っていたこと。成績はまぁまぁ良かった事。友達が何人かいたこと。

 

『私ね、船長になるのが夢だったの!』

 

『船長…? まぁ、オデュッセイアだからそうなるのか…』

 

『それでね、みんなで歌うの!絶対楽しいだろうなぁ〜!』

 

『お、音楽て…関係あるか?』

 

『モチロン! スバルちゃんが書いてくれた「ビンクスの酒」って詩、大好きなんだから!あれにメロディつけてさ……一緒に歌おうよ!!』

 

『アレ海賊の歌なんだけど…』

 

 オデュッセイアを卒業した暁には船長になり、みんなで楽しく歌でも歌いたいという夢を持っている―――いたこと。

 でも1年次が終わる直前になってから病気になったこと。その病が命を落としかねない重病で、療養のためにこっちに入院してきたこと。

 更には―――その病に、治療法が見つかっていないことも。

 

『………は?』

 

『あはは。私ね、もうすぐ死んじゃうんだって。

 今月の頭にね、最後の余命宣告を受けたんだー。「今月いっぱい持たないかも」って』

 

『なにを、言って』

 

『もうそろそろなんじゃないかな。私がいなくなるの』

 

 ―――そして、自分自身に、もう時間が残っていない事さえも。

 初対面の人間に、よくもそこまで話せたなというくらいに、ゼンブ話してくれたのだ。

 でも、自分の死期について語っていたサザナミさんの笑顔が、普段のソレより痛々しく映った。

 

『…どうしてだ?』

 

『え?』

 

『どうして、そんな顔が出来る…?』

 

『スバルちゃん…』

 

『死ぬんだろ? 明日生きてるかもわからないんだろ?

 ならどうして、そんな笑顔を浮かべられるんだ…?

 死にたくないって…死ぬのが怖いって、思ったことはないのか?』

 

 当時の絶不調な俺も、もうすぐ死ぬかもしれないサザナミさんが、そんなものを微塵も感じさせない明るさを持ち続けていたことに違和感を覚えない程、鈍感ではなかった。

 

 夢を語る彼女に、嘘はなかった。

 入院前の楽しい日々を語る彼女にも、嘘はなかった。

 俺のウソみたいな話を真剣に信じた彼女にも、嘘はなかった。

 にも関わらず、目の前に訪れつつある死をまったく恐れていないように見えた。

 受け入れたら……すべてなくなるハズなのに。

 

 しかし…そんな俺の問いにも、サザナミさんは。

 

『私にはね。目標があるんだ』

 

『目標?』

 

『うん。「楽しく生きること」。これが私の目標。

 だからね、最後の最後……死んじゃう瞬間まで、笑っていたいんだ』

 

 貼り付けた笑顔でそう言う彼女。

 その笑顔だけは、どうにも好きになれなくて。

 だが、何て言えば良いのかわからない。もうすぐ死にゆく人に、何て言えば良い?

 何を言っても彼女の心を逆撫でする気しかしない。

 だからだろう。俺は、無意識にペンを手にとっていた。

 

『――――』

 

 描くしかない。そう思った。

 俺の描いてきた話の中で、イチバン面白かった作品を。

 ストーリーなら覚えてる。ラフから描いていけば、絶対に思い出せる。

 

『スバルちゃん? 何してるの?』

 

『サザナミさん。ちょっと待っててくれ』

 

『え…?』

 

 根拠はない。

 でも、気に入ってくれるハズだ。

 気に入ってくれると、信じている。

 だから。

 

『この漫画が描き終わるまで死ぬなよ。

 ぜってぇ面白い(モン)見せてやる』

 

 そう言って、()()()()()初めて漫画を描くことにした。

 頭の整理は大丈夫。描き続けたお陰で慣れていた。

 問題は体力だった。この時の俺は、前の肉体…つまり三十路の男の体力のペースで描いていたのだ。

 そのつもりはなかったんだが、中学生女子の体力が完成まで持つはずがなかったんだ。

 

 その結果、俺はネームを描き終わる前に体力が尽きダウンしてしまった。

 そこからしばらく寝て回復し、また描いては力尽きる。そんな日を繰り返した。

 

『だ、大丈夫―――ゲホッゲホ!!!』

 

『サザナミさん……大声出すな…体に障るだろ……』

 

『すっ…スバルぢゃん゛だっで…無茶゛じで…』

 

『2人とも黙って寝てなさい!!!!』

 

 二人まとめて看護師さんに怒られた事もあった。

 でも、どうしても描きたかったから。

 そして、完成品を見て欲しかったから。

 俺は、描き続けられた。

 

『ねぇスバルちゃん』

 

『うん?』

 

『何を…描いてるの?』

 

『―――見てのお楽しみ。ネタバレになっちゃうだろ』

 

 時折、彼女に内容を聞かれたこともあった。でも答えなかった。教えてしまったら、サザナミさんが死んでしまうかもしれなかったから。

 ネームを描き終わり、ボールペンで完成させるまでは、何を描いているのかを一切見せも教えもしなかった。

 ………やがて、ソレが完成すると、俺は真っ先に彼女に見せた。

 

『これは……』

 

 

 それが……それこそが―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ってエッチな本じゃないの!!!

 

そうだよ♡

 

 「俺の優雅な幼馴染」のプロトタイプだったってワケだ。

 そのエッチな本を読んだ彼女は、かわいい顔を真っ赤にしながら、こう非難した。

 

『いや、すごいよ?

 クオリティ高いよ?

 でも、この場面で見せるものじゃなくない!!?

 私ヘンなこと言ってる!!?』

 

『あー、最後ちょっとヒロインをイカせすぎたか?

 後で修正するか…』

 

『そういうことを言ってるんじゃない!』

 

『俺個人的には力作だと思ったのにな~。

 キスシーンとかロマンティックに持って行けたと思ったんだが』

 

『そうだね!!ロマンチックだったね! でもその後のエッチで台無しだよ!!!?』

 

 ひとしきりツッコミを入れた後で、サザナミさんはベッドに倒れ込む。

 しかし、あれだけ批判した俺の漫画は持ったままだった。

 

『はぁ~~ぁ。こんな予想の外れ方ないよ~』

 

『……つまらなかったか?』

 

『……ううん。面白かった。

 ここまではしゃいだのも、入院してからは初めて』

 

『楽しかったか?』

 

『!!』

 

 確かに俺は、サザナミさんにエッチな本を描いた。

 どうして、あの場であのチョイスをしたのか?

 どうして、もっとマジメな話を描かなかったのか?

 前世でエロ同人しか描いていなかったから、それしか描けなかったのか?

 フザけていたのか?それとも大真面目だったが故にあんなことをしたのか?

 ……今となっては分からない。あの時の記憶は、俺もあまり詳しく思い出せない。イチバン混乱してた時期から立ち直ったばっかりだったからな。

 

 でも、これだけは分かる。

 あの時の俺は、サザナミさんを笑顔にするためにペンを振るっていたこと。

 そして。

 

『―――うん! 楽しかった!』

 

 サザナミさんのこの時の笑顔に、貼り付けたようなウソは一切なかった、ということだ。

 

 

 

 

 

 だが、そんな楽しい生活も長く続かない。

 もともと、余命幾ばくもないサザナミさんだ。

 いつその命の灯火が消えてもおかしくなかったのだ。

 

 容態が急変したのは、彼女が俺の初の漫画を読んだ二日後だった。

 すぐさま集中治療室に運ばれ………その夜中に、帰ってきた。

 戻ってきた彼女は、呼吸が浅く、前も見えているか怪しかった。

 たぶん手術は成功したのだろうが…………体力が保たなかったのだろう。

 

『サザナミさん……俺が、見えるか?』

 

『スバル、ちゃん? ダメだよ、立ち歩いたら』

 

『人を心配できるクチですか。

 今はゆっくり休んでください。

 …そんで、また、明日にっ……俺の描いたマンガでも、読みましょう……?』

 

 

 こうは言ったが……俺は分かっていた。

 きっと、サザナミさん自身も分かっていたのかもしれない。

 次の朝日が登る前に……彼女は、命を落とすだろうことは。

 

 

『私ね』

 

『?』

 

『スバルちゃんに救われたんだ』

 

『なんのこと、ですか…

 俺は、何もしてないですよ』

 

『ううん。救ってくれたよ』

 

 彼女は、見えないはずの目でこっちを見て、

 

『あなたの前世を教えてくれた』

 

 真っ青になりそうな唇を開いて、

 

『あなたのマンガが楽しかった』

 

 声を、涙で滲ませながら、そう言った。

 

 

私は怖かった…!死にたくなかった…!

 だって……なにも悪いことしてないのに…イキナリ不治の病ですって言われて……卒業前に死にますって言われて…!!

 私がこれまで頑張って来たことが、ゼンブ消えちゃうって…誰からも忘れられちゃうって……そう思ったら……!!!』

 

 

 それは、サザナミさんの心の奥底に眠っていたモノの発露だった。

 当然だ、唐突に訪れた理不尽な死を受け入れられる人間がいったいどれだけいるだろう。

 しかし、サザナミさんはその恐怖さえも俺が救ってくれたという。

 

 

『スバルちゃん、教えてくれたよね。

 あなたが別の世界の人生の記憶を持ったって』

 

『! ま、まさか!』

 

『私もね、これで終わりじゃないかもって、思えるようになったんだ。

 こことは違う、別の世界で……違うだれかとして、生まれ変われる奇跡を、信じてみたくなった…!!』

 

 そんなの奇跡でしかない。

 俺は、サザナミさんを騙しているかのような気分になった。

 ここで彼女が死んだとしても、生まれ変われる保証などないというのに。

 しかし、それと同時に、俺の存在が、死にゆくサザナミさんに恐怖に立ち向かう力を与えているのもまた、理解できた。

 

『……そんなの、保証できません。俺だって、生まれ変わったメカニズム知らないんですから……』

 

『…いいよ。私が勝手に信じるだけだから

 だから…スバルちゃんは生きてね。生きて、あの面白いマンガを描き続けてね

 

『!!』

 

 サザナミさんのその言葉を聞いて、俺は。

 心に決めた。

 

『そう、ですね。なら、俺からも一つ』

 

『?』

 

『貴方の事は、俺が覚えておきます。

 この俺が……キヴォトスの生徒として生きて、死ぬまで』

 

 サザナミさんを忘れないこと。

 それが、俺が課した約束だった。

 サザナミさんの無茶な希望を受け入れるために。

 

『嬉しい…なぁ…ありがとう……』

 

 サザナミさんは、俺の決意に、何度目かの嬉し涙を流した。

 でも俺はコレで終わらせない。最後まで、彼女を送る。

 

『サザナミさん』

 

『な…に…?』

 

『歌を……歌いませんか?

 あなたが気にしてた…「ビンクスの酒」を…!』

 

『……! いいよ!!!』

 

 俺の最後の提案を、彼女はとびっきりの笑顔で受け入れた。

 

 ―――ビンクスの酒を、届けにいくよ

 ―――ドンと一丁歌お (うなば)の唄

 ―――どうせ誰でも いつかはホネよ

 ―――果てなし あてなし 笑い話

 

 水平線が、少しずつ明るくなっていく。

 伴奏はただ、ベッドの木枠を叩く音のみ。

 ヨホホホ、ヨホホホと歌うのは、もうほぼ俺一人だった。

 それでも、サザナミさんは、楽しそうで。

 苦しいのを一切見せずに、最後の唄まで笑って歌いきった。

 ヘイローが形を崩し、壊れていくのも気にせず、歌いきったのだ。

 

 

『どうでした?』

 

『―――最高だった…!

 

 

 その言葉を最後に、サザナミさんのヘイローは砂のように形を崩し、空気へ溶けていった。

 穏やかな寝顔の彼女は、もう目を覚ますことはない。

 涙と色覚異常でマトモに見えない視界で、手探りで彼女の顔を探し出し、撫でた。

 彼女のあたたかさが、まだそこに残っていた。

 

 

―――俺の運命の人よ。安らかに眠れ……

 2度と覚める事のない…幸せな大海原の夢を見続けながら…

 

 

 俺とサザナミさんの出会っていた期間は…2週間にも満たなかった。

 でも、ずっと…昨日のことのように思い出せる。

 これは、そんな思い出さ。

 

 

*

 

 

「―――とまぁ、こんな出会いがあったのさ」

 

「「「「「「………」」」」」」

 

 そんなサザナミさんの出会いを、俺は先生とプレアデス性団のみんなに話していた。

 もちろん、憑依転生の下りは抜きにして、だけど……嘘や誇張は一切ない。

 俺は、その話を終えると、呆れたように息をついた。何故かと言うと…

 

「うわあ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!! お姉様のお姉様があああああっ!!」

「頑張っだん゛ズね……ズバル゛ざん゛……!!」

「つまり私たちがこうしているのも……サザナミ先輩のお陰か……」

「どぼじでもっどばや゛くい゛っでぐれ゛なかったんでずがぁぁぁぁっ!!」

「う゛う゛う゛~~~~っ……苦労したんですね…スバルさん……!!」

 

 プレアデス性団の皆が、滂沱の涙を流していたのだから。

 誰もかれも、干からびそうな勢いの号泣だ。アギト先輩やユマみたいな、冷静沈着な人さえすすり泣いていたり、空を仰いで顔面に川を作っている。

 

「まったく…やめてくれよな。もう3年も前の話なんだからよ」

 

「で、でも~…ズビッ」

 

 各々がティッシュやらハンカチやらで溢れるものを拭き取る作業を尻目に、俺は続ける。

 

「もう大丈夫なのさ。

 確かに、サザナミさんとの約束もある…

 『あの人を忘れないこと』『生きて面白い漫画を描き続けること』……

 でも今はもう、俺の意志で漫画を描き続けている。そこについて、一切のウソも誤魔化しもないよ」

 

 俺は再び手を合わせる。

 そこに、真っ先に隣に座って俺に倣った人がいた。

 先生だ。彼は、線香に火を点けて備えてから―――

 

 

「初めまして、泡辺サザナミさん。

 私は、この間キヴォトスに来た、シャーレの先生です」

 

 ―――まるで、そこにサザナミさんがいるかのように語りかけた。

 

「本当は、君が元気でいる間に、会いたかったんだけど…

 代わりと言ってはなんだけど、見守っていてくれないかな?―――君を救った人と、その仲間たちを。

 私は、私の精一杯出来る事で、彼女達の力になるつもりだからね」

 

 先生……やはりあなたはこのキヴォトスの救世主だよ。生徒ハーレムの主はあなたしかあり得ない。

 手を合わせてお祈りが終わった後、先生は俺の方を向いた。

 

「スバル」

 

「はい?」

 

「自信を持って良いんだよ。

 君はきっと、この子を救った」

 

「…いや。それは違うでしょう。死の恐怖を紛らわせただけかもしれない」

 

「そうだったとしても…彼女の力になれたのは他でもないスバル自身だ。

 だって私は……3年前は、キヴォトスにいなかったのだから」

 

「!!!」

 

 いくら先生とて、過去を遡って生徒を助けるなど出来る訳がない。

 もしくは『大人のカード』があれば…なんて意見もあるだろうが、そんなことをして代償がタダで済むハズがない。

 

「泡辺サザナミは……“シャーレの先生”には救えなかった。“間島スバル”だから救えたんだよ」

 

「そうですかね?」

 

「そうだよ」

 

 アリウスの件を思い出す。

 この人は、その時も似たような考えを言っていたっけか。

 いなかったことさえも、「大人の責任」……一歩間違えれば、傲慢ともとれるそれの大きさを、再び目にした気がした。

 

 

「そうだ、お姉様!

 せっかくですし、歌を歌いませんか?」

 

「歌?」

 

 いつの間にか涙を拭ききって立ち直ったセラに呼ばれた。

 急な提案に何を歌う気だ、と問えば、どうやら俺の回想に出てきた「ビンクスの酒」が気に入ったらしく、それを俺の部員としてのあいさつ代わりに合唱したいという話になり、詳しい事を知っている俺に歌詞を聞き出す流れになったそうだ。

 俺と先生が話をしている間に、そういう流れになったらしい。

 

「セラにしては、珍しいね?

 君達の事だから、てっきりエッ……同人誌を備えるとか言い出すと思ったよ」

 

それは備えるのは大前提ですのでその先の話なんです、先生

 

当たり前だな

 

当たり前なんだ……

 

 こうして、なんだかんだで墓参りは賑やかになった。

 自分の部屋にキーボードやギターやを取りに行ったヤツらも出てきて、夕陽に照らされながら、楽しく歌った。

 

 ―――ビンクスの酒を、届けに行くよ

 ―――海風 気任せ 波任せ

 ―――潮の向こうで 夕陽も騒ぐ

 ―――空にゃ 輪をかく鳥の唄

 

 

 その歌は、夕陽が海に沈むまで響いていた。





Tip!
 ―――夢を見た。
 近未来の世界で、病気と闘った少女の夢を。
 死の間際に、自分を励まし救ってくれた不思議な子供との日々を。

「船長!佐々波(さざなみ)船長!大丈夫ですか?
 この輸送が滞ったら日本中の電気が止まるんですから、しっかりしてください!」

「…大丈夫だよ。ちょっと、仮眠中にイイ夢を見ただけ」

「ならいいんですが…」

「ほら、行こう。シンガポールまで来たんだ。日本まであと一息だよ!」

「了解です!!」







おまけ・泡辺(あわべ)サザナミのプロフィール

泡辺サザナミ
元オデュッセイア海洋高等学校・3年生

年 齢:18歳(誕生日の日の出に死亡)
身 長:166㎝
誕生日:7月3日

武器種:SMG
役 割:STRIKER
攻 撃:貫通
防 御:弾力装甲
POSITION:???
屋 外:A
市 街:A(専用装備SS)
屋 内:A
クラス:アタッカー

趣 味:ボトルシップ 船上音楽 楽器演奏
好きなこと:楽しいこと、魚料理全般
嫌いなこと:楽しくないこと、つらいこと

プロフィール
3年前までオデュッセイア海洋高等学校に所属していた生徒。病気にかかる前は名を馳せた優等生らしかったが、死の危険があり治療法もない重病にかかり、闘病の末逝去。死の間際に入院してきた間島スバルと知り合い、彼女の世界観を偶然知った事で自暴自棄から救われる。スバルに漫画を描くきっかけを与えた人物でもある。
嚮導者は、すべてを救うが、過去に埋もれた死者は救えない。キヴォトスに彼女が降り立つこともない。奇跡でも起きなければ、生きた人間として彼女と触れ合うなど不可能だ。

サザナミさんの転生は

  • できた
  • できなかった
  • てか自分の知り合いにいる()
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。