-ZERO of HELL- 地獄の虚無   作:相沢something

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〇はじめに
 この作品は小説版『ゼロの使い魔』(全22巻+メモリアルブック)をメインに、OVA版『マジンカイザーSKL』(全3話、計90分)をクロスオーバーさせた内容になります。
・アニメ(ゼロ魔)、漫画、小説(SKL)版との一部齟齬
・各種媒体、スピンオフ、関連作品の設定採用
・捏造&改変&独自解釈の大盛り合わせ(→後述)

 以上の要素をご留意の上で御笑覧ください。

〇注意事項
・捏造あり(特に魔法の名称&ルビの追加等々、多数)
・改変あり(崩壊や別人にならない程度に配慮しつつの台詞、行動、展開)
・独自解釈あり(SF的要素を含む設定、各キャラの内面や背景)
・R-15&残酷な表現(SKL的バイオレンス!!)
※特殊な装飾タグや括弧、…や─の多用(ルビ、傍点、脚注、‘’や《》など)(→後述)

〇推奨(スマートフォンから閲覧する場合)(筆者の環境で)( おま環の可能性あり )
・PC版閲覧モードの場合は『プリセット:大(改ではない方)』
→ルビや傍点によって文字が縮小してしまう為
※筆者のお勧めはスマホ版閲覧モードからの『スマホ横倒し(画面横向き)』です。


 どうぞよろしくお願いします。

 


< 第一章 撃ち砕く志 - Break the Wall - >
0_Prologue of “Z”/独白、魔と人と


 

 

 闘いの快楽は、死をも超越する────とは、何処の誰が放った言葉か。

 

 

 獄炎の名を冠する熱線が黒鉄(クロガネ)の皇を灼く。

 核の引力に従い地殻を潜る、制御体を失った事により臨界暴走した炉に呑み込まれ、焃き奔流の中へとその姿を消す。

 執念ひとつで地獄から蘇り、(ソレ)を奪ったが故にこの星を滅ぼしかけた、愚かな男と共に。

 

 重力炉(グラビトン・リアクター)同士の崩壊が爆発的なエネルギーを放出し、衝突し合い、互いを道連れに対消滅へと至る。

 血潮の如く光を噴き上げながら──。

 

 

 闘いたいが為に闘い、潰したいが為に潰し、世界の命運すら巻き込んで死闘に昏れた俺達もまた────

 

 

 刻々と破滅へ向かうと知りながら、尚も加速する欲望が行き着く果てになど、俺達は欠片たりとも興味がなかった。

 

 コックピットを侵蝕する熱量、視界を白く染める閃光、焼き付ける全てに同量の興奮すら覚える。

 己の裡を焦がす危機感、神経を削る緊張。切望する一切がこの場には充ち足りていた。

 ────本物の馬鹿とはよくも言ったものだ。

 

 ただ闘争を。ただ生存を。ただ証明を。俺達が俺達であることを──。過去もこの先もただ、『それだけ』の理屈で(ことごと)くを捩じ伏せる。

 球形を成して眼前に迫る“死”に抗う為には、それ以外に他の何をも必要としなかった。

 呑まれなどしない。()()()られもしない。俺達の往く先は俺達が決める。──それだけでいい。

 二人分の共鳴が二基の炉心を無制限に(れい)()させる。ぶつかり合い、増幅し、溢れる光がフィールド状に(かたち)を変えてゆく。

 

 

 二つの“0”が衝突する。

 

 空間が歪み、飽和し、融合を始める──────

 

 

 

 

 

 

 ────それは小さな奇跡であり、あるいは大きな不運であったのかもしれない。

 

 

 


 

 

 

 “ この世のすべての物質は、小さな粒より為る。”

 

 “ 我が系統はさらなる小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり。”

 

 ────『始祖』、()く語りき

 

 

 

 

 


 

 

 春の初旬。

 

 (あまね)き光満ちるハルケギニア大陸、トリステイン王国立魔法学院・傍近──。

 広く豊かな草原の一角で行われる、『使い魔召喚の儀式』にて。

 

 

 メイジにとって“使い魔”とは、その一生を共にする不変のパートナーであると同時に、己の誇る力量を端的に示す‘看板’でもあった。

 マンティコアを従えた者は俊傑ぶりを賞賛され、ドラゴンを従えた者はその威風に感服される。

 梟や猫を召喚した者ですら、市井の隅に到るまで(さと)い眼を行き渡らせるとされた。

 さすれば、“使い魔”を持たない者は────

 

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール──!」

 

 

 その少女は、幾度となく唱えた口語の呪文を繰り返す。

 ……使い魔を持たない者は、(すなわ)ちそれを喪ったか、あるいは。

 

「五つの力を司るペンタゴン。我の運命(さだめ)に従いし、“使い魔”を召喚せよ!」

 

 

 響く爆発音。立ちこめる砂塵。丸く露出した土の地面。

 

 ‘そこ’には、他の何も存在しなかった。ただ、己の実力を証明せんとするだけの少女以外には、何もだ。

 周囲から見飽きた光景に向かって野次が飛ぶ。かれらはもうずっと前に、()すべきことを終えて待ちぼうけをくっていた。

 

 ────あるいは、それを得ることすら不能の、“落ちこぼれ”。

(そんなわけないでしょ……!)

 彼女が躍起になって否定する現実が、(はな)からそれが()()かのごとき顔をして、いつものように──そこに横たわっていた。

 

「おいルイズー、まだ終わらないのか? 他のクラスのやつらはとっくに教室に戻ったのにさぁ」

「いつまでやっても結果は同じでしょ。今までだってそうだったじゃないの」

「いいから外野は黙ってなさい! 次で成功するわ!」

 

 彼女は負けん気が“人一倍”強かった。

 心ない野次を一歩も退かずに一喝し、強く睨みつければ、周囲も溜めていた不満をめいめいにぶち撒けはじめる。

 

「なんだと! 人に迷惑かけておいて、なんて言い草だよ!」

「みんな貴女のせいで待たされてるのよ!」

「こらこら、神聖な『儀式』の邪魔をするのはよしなさい────」

 

 生徒同士で始まった口喧嘩を、冴えない中年男性といった風貌の教師が(いさ)める。

 だが次に、彼は難しげな顔をして少女──ルイズを見つめると、どこか重々しい口調でそれを告げた。

 

「ミス・ヴァリエール。挑戦はあと一回限りにしなさい。それ以上待っていたら、次の授業が始まってしまう」

「ミスタ・コルベール! でも……!」

「『でも』ではない。心苦しくはあるが、君一人のみを特別に扱うわけにもいかんのだ。これで召喚できなければ、残念ながら……諦めてもらうしかない」

「っ!」

「さあ、早く、まだ時間が残っているうちに……」

 

 教師──コルベールは沈痛に声を潜め、穏やかに……しかしはっきりと横に首を振る。

 彼は優しい教師だった。せっかちで、たまに世間一般と少々価値観がズレていることもあったが、それでも生徒への思いやりを感じられるので嫌いではなかった。

 今日だって、ギリギリの時間まで『儀式』の場に残って、ルイズの召喚を見届けようとしてくれていた。

 だから…………仕方なくルイズは頷き、そして俯いてこくりと喉を鳴らした。もう後はない。

 ……大丈夫。だって、次で成功するって言ったんだから。

 

 春の『使い魔召喚の儀式』は、この由緒あるトリステイン魔法学院において、二年次の履修登録を兼ねる形で行われるものである。生徒はここで召喚した使い魔の特性を鑑みて、その年度で修める専門課程を決定するのだ。

 とあれば、儀式の未了は落第も同義であり、おまけに“魔法を使えない者”は()()()ではないがゆえに……魔法学院の生徒という立場からみれば、留年どころか退学すら視野に入れねばならないものであった。

 失敗は許されない。崖っぷちで最後に与えられたチャンスを前に、杖を握る手はわずかに震えた。

 

 それでも…………きっ、と気丈に顔を上げ、気高き少女は短杖(ワンド)をはるかな天に向けて掲げる。

 腰ほどまでの美しい桃ブロンドの髪が、上向くルイズに合わせてふわりと柔らかに揺らめいた。心を落ち着かせようと深呼吸し、最後となる詠唱に備えて大きく肺に息を貯める。

 また始まるぞ、と呆れかえる観衆のことなど、きっぱりと意識から排除して。

 

 何度も繰り返したそれが、己の()()()に従った結果であるというのならば。

 ────次の《サモン・サーヴァント》 使い魔の召喚 は、絶対に、成功させる自信があるわ。

 

 

「宇宙の果ての()()()にいる、わたしに()()()()近きものよ──!」

 

 『常』と違う、喉から(ほとばし)る祈りが草原を震わせる。

 真青な空を見上げる鳶色をしたルイズの瞳は、他のなにものでもなく……唯一自らの決意のみを寄す()にして、杖の向く先を据えていた。

 

 今、わたしの物語はここから始まるのだ────と。

 

 

「神聖で、美しく、そして“最強”の使い魔よ!」

 

 その様相に誰もが驚き、詠唱を続けるルイズを見やる。

 口語の呪文は意味こそが重要であり、その表現は多少異なっても効果を発揮する。それはみな知っていた。

 だが、こんな詠唱は──独創的で()()な呼びかけは──はたして呪文といえるのだろうか?

 

「わたしは心より求め、訴えるわ!」

 

 見出した一筋の光明を手繰り寄せるように唱える彼女の心に、もはや恐怖は存在しなかった。

 ただ理不尽な運命への“怒り”を胸に、杖先を地上に向かって振り下ろす。

 

「『運命(さだめ)』の(くびき)を超え────我が導きに応えなさい!」

 

 

 眩い光と衝撃が(はし)ると同時。

 

 今まで唱えた中で一番の爆発が、その場に顕現した。

 

 

 

 ……それは小さな奇跡であり、あるいは大きな不運であったのかもしれない。

 

 爆風にあおられて二、三歩後退(あとずさ)ったルイズの目の前で、土煙の間から黒い人影(シルエット)が覗く。

 

 

 

 ────だが、(しか)してその出遭いは、ある一つの必然である。

 

 

 

 

 ルイズは手のひらで土煙から目を守りながら……呆然として立ち尽くした。

 誰かが()()()()()。人だ。他ならぬ“人間”が、度重なる爆発によって拓けた大地の中心に在る。ただただ、それにびっくりしたのだ。

 ────《サモン・サーヴァント》の結果は?

 

 煙が晴れると同時に、二人は目元に(かざ)していた手を下ろした。

 一人は閃光防御を兼ねていた。戻る視界を確かめるように、(すが)めた目を一度閉じた後、ゆるやかに両の(まぶた)を持ち上げる。

 

 身体を覆う黒い服は、見たことのない奇異な形状をしていた。平滑で余裕が少なく、一繋ぎになっているようにも見えて、どう着用したのかすら不思議だ。

 腰にはベルトと思しきものが二つ。何かの革からそのまま切り出したみたいな印象の、縫い目の見当たらない手袋やブーツを身に着けている。

 

 指先まで隠した漆黒の装いと、無造作な濡色の黒髪……その(あわい)に覗く白い肌は、ひときわに鮮明なコントラストを描いて目に映った。色はある。血色の薄いゆえの白さだ。

 上げられた視線がこちらの視線とぶつかり合った。目が合う──ルイズは思わず息を呑む。

 

 暗い灰がかった瞳は、その奥に切先を思わせる鋭靭な眼光を宿している。

 地に片膝をついた姿は受勲を待つ騎士を彷彿とさせるようでいて、しかし今にも巨大なドラゴンに挑みかからんと身を屈める戦士のようにも見えた。

 さながら囚われの姫が見る光景、お伽噺(とぎばなし)の中に入り込んでしまった錯覚にさえ陥る。現実感が遠い────。

 

 自由な身の少女(ルイズ)は、土埃をかぶった白いブラウスに、グレーのプリーツスカート、そして“貴族(メイジ)”を象徴する長い黒色のマントを春風に翻し……己がようやく、目の前に()()()()であろう男を見つめた。

 

「…………あなた、誰──?」

 

 

 

 

 その男は戦士だった。

 

 男は静かに立ち上がった。正面の少年少女と奇怪な生物たちの群れを一瞥し、四方にどこまでも広がる空と草原の境界を眺めやり、

 

 ────()()()を見据えた。

 

 

 

 

 コルベールは研究者気質の教師だった。己の発明で生徒たちの興味を引き、技術というものの素晴らしさを説くことに意義を見出す理想家であった。

 彼の研究内容は魔法の技術的利用であって、魔法それ自体に関する研究はとりたてて行っていなかったが、しかし、今しがた目の当たりにした“召喚”の異質さについては、この場の誰よりも明瞭に気付いていた。

 

 (すなわ)ち“人間”が、魔法の『(ゲート)』を通ってやってきた──ということに。

 

「なんだ……誰だ、あれ……?」

「そこらの平民じゃないのか……? マントも羽織ってないし」

「さっきの変な呪文で、まさか平民を召喚したってこと?」

「でも、あんな恰好見たことないぞ」

 

 異様な雰囲気に呑まれていた生徒のうちの数人が呟き、少しずつ、場にどよめきが広がってゆく。

 コルベールもまた思いがけない結果に戸惑って──まじまじと、そこに現れた男を観察した。

 

 そもそも“使い魔”とは、この世に存在する生物……動物や幻獣といった種が魔法によって選ばれ、()()()()()()それに応じたものを指す。自分が学院に奉職してからもう二十年は経つが、人を使い魔とした例なんか一つとして見たこともないし、聞いた試しもなかった。

 というのも、使い魔とは則ち、根本的な魔法の仕組みからして『獣』を示すものであり……そのうえで、人には優れた知性が備わっているからであると考えられる。

 本来なら人が選ばれることはなく、仮にあったとして──その人物が、“使い魔”としてメイジに仕えることに()()するだろうか?

 

 男がコルベールを見る。その鋭い眼差しに、コルベールはちょっとたじろいだ。

 これはやはり、ひょっとすると……()()かもしれない。

 何らかの要因で、偶然どこかに開かれたゲートをくぐってしまい、当人の意図しないところで召喚されてしまった可能性がある──。

 

 ────そして、(コルベール)もまた、“貴族(メイジ)”であった。

 

 春の『使い魔召喚の儀式』は神聖なものであるからして、やり直しは原則認められていなかった。だが、先までのルイズは‘失敗’という形であったため、まだ‘成立していない’という解釈のもとで挑戦を継続させていたのだ。

 しかし今は、すでに召喚自体が完了してしまっている。

 たとえ原因が事故であったとしても、『儀式』の中でそこにいる彼が()()()()のは事実──。であれば、彼にはいかなる理由があろうとも、彼女の“使い魔”になってもらうしかない。と、コルベールは判断を下した。

 それに……人間が使い魔になったならば、その際の“契約”が及ぼす影響についても気になるところだ。

 

 メイジと“契約(コントラクト)”した使い魔は、往々にして何らかの特殊な能力を得ることがある。

 例えば、犬猫や鳥が人の言語を話すようになったり、幻獣が元から(そな)える器官に顕著な強化が見られたり、などだ。バグベアー(一つ目玉)なんかは《錬金》 アルケミー みたいな能力でも獲得したのか、視線で物質を石に変えたりもしていたような…………気のせいだったかな?

 ともかく、コルベールは単純な好奇心からそのデータを集めており、それぞれに刻まれた『使い魔のルーン』すらも、逐一確認しては持参した手帖に書き留めていた。

 “人間”が契約したならば、得られる能力はどのような例があるだろう? 力が強くなるとか、足が速くなるとか?

 

 コルベールは大いに探究心を揺り動かされた。

 それゆえ、必ずやそこの彼を説き伏せようと、再び顔まで目線を持ち上げたところで──向けられる視線の温度が氷を思わせるほど冷えきっていたことに気がつき、凍りついた。

 

「ッ────!」

 

 

 これは──殺気だ。理解した途端に背筋を駆け昇る悪寒が、己の想起した()()を告げる。コルベールは目を見開いた。

 

 男が腰のベルト付近に当てた右手の下で、カチ、と小さな音が鳴る。

 目を遣るコルベールの視角からは、そこに下がった見慣れぬ道具の正体までは判らなかったが……それが紛れもなく、“凶器”に値するものであると直感した。

 それは勘であった。

 

「────あー、諸君。無事に最後の召喚も終わったということで、これにて解散としますぞ!」

 

 やっとかー、などと悠長にぶつくさ言う生徒たちに向け、続けてコルベールは的確な言葉を選んで急かす。

 

「さて、次の授業はたしか、ミスタ・ギトーが担当ではなかったかな? 遅刻すると大変でしょうなぁ」

 

 途端に一同はざわついた。忘れてた、まずい! ……と慌てる者を皮切りに、口々に《飛行》 フライ を唱えては、教室まで急ぎ飛んでいく。

 それを横目に確認したコルベールは、ほっと一息ついた。これで、あの生徒たちに危害が及ぶことはない。

 残るは《コントラクト・サーヴァント》 使い魔の契約 が控えているルイズと……

 

「………………」

 

 その温度には覚えがある。どうして今まで気付かなかったのか。彼は()()()()()()。本能が警鐘を鳴らす。

 ファースト・コンタクトは最悪の形に近い。当然、彼は確実に、自身に“契約”を強いようとする我々を『(エネミー)』と認識していることだろう。

 目を閉じても察せそうなほどの存在感、圧迫感。実力と()()が窺い知れる。彼に恭順を求めることは不可能だ。そう直感が語る。

 

 コルベールは錆びついていた()()()の勘と、忘れようもない記憶の歯車が急速に回り始めるのを実感した。

 あたかも強制的にスイッチが切り替えられたかの如く、不意に押し黙ったコルベールの無表情……その瞳の奥と視線を交えた男が、こちらもほんの(わず)かに目を(みは)ったように見えた。

 おそらく、彼の眼は誤魔化せない。やはり自分もまだ、()()()()の目をしているのだ──。無常にも醒めてゆく心中でコルベールは悟った。

 

 相対する男の無機質めいた端麗な顔立ちからは、どこか冷ややかで怜悧な印象を受けた。それが“表情を変える”。

 その瞳孔を覗いたコルベールは戦慄した。これは、違う──覚えがあるどころでは済まなかった。

 

 ────“憶え”がある。 首の後ろがひりついた。

 

 

「名乗られよ。其方(そなた)は何者だ? ……何ゆえここに参られたのか?」

 

 彼は平民ではなかったか? 召喚は事故だったのではないか? そんなものはもはや、いや、最初から『彼』にとっては関係のない事だ。

 そう、忘れられようもない……よく知った“狂気”を彼は宿していた。

 

 いったいなぜ、あの純粋で真摯な少女の使い魔に、このような男が選ばれたのか。まるで非情にも見える運命の導きに、コルベールは震えた。

 男は数秒のあいだ沈黙を保ち、そして短く発音した。

 

 

「────真上遼。」

 

 

 

 その男、真上(マガミ)(リョウ)は、向かいの時代錯誤じみた風体をした──棒状の長い直杖(ロッド)を所持する黒いローブ姿であるが、奇械島の連中の件を考慮すれば、それほど奇抜というわけでもない──前頭から頭頂部にかけて禿げあがった男を見据え、先までの腑抜けた顔から一転して覗かせた“圧”を歓迎した。

 気迫と言うにはまだ物足りない。しかし“それ”だけでも、彼が只者には到底収まりきらない実戦を経ていることが察せようというものだ。

 真上の放ってみせた威圧に怯むでもなく、逆に触発されたような反応を見せたことからしても、それは確実だ。

 

 なぜ、初めに彼が真上をあのような目で見たかは解らない。だが()()不快ではない。真上は目を細めた。

 自然と唇の端が釣り上がる。同時に、彼が戦慄の色を能面さながらの顔に浮かべた。しかし恐怖はそこに()()

 

 試してみたい、と単純に好奇心から思った。

 この直ぐには理解不能な状況下で──可能性としてはそれこそ、奇械島のように外部と隔絶された特殊な環境にでも紛れ込んだか──何はともかく、唐突に降って湧いた遭遇を楽しんでみたくなった。無論、本来であれば、そんなことをしている場合ではないが…………

 

 なにせこの男からは、今()()()()()真上を殺せそうな気配すら感じられるのだ。

 すなわち、心理的な余裕の一種である。真上は腰の拳銃を引き抜いて撃つまでの時間、コンマ数秒程度で目の前の男を殺せる。

 同じように……この男もまた、目の前の真上を僅かな隙に殺傷できる自信があるのが、姿勢や眼の動きで判る。

 それが果たして()()()()であるのか、未だ凶器を隠したままの男からは判断する材料に欠ける。面白い。

 

 あるいは、先の集団と共通し、男が(しき)りに意識を向けている右手の──。

 

 

 だが……しかしそれとは別に、先ほどから用いられている言語が著しく奇妙だ。

 聞き取れる限りでは────おそらくベースはフランス語。

 それも相当昔のものである。西欧の一方言に過ぎなかった時代、ひいては俗ラテン語の名残とでもいうべきだろうか。そういったものの影響がよほど強く滞留しているように感じられる。

 知識にある既存のどれとも(いささ)(かい)()が大きい。

 

 “何ゆえここに参られたのか?”

 耳慣れない語形を整理するためには多少の時間を要した。

 既にここにはいない──超能力か何かで飛び去っていった、どこかの生徒であろう集団が交わしていた囁きや、それに呼びかけていた男の発音から推測を組み立て、端的に答える。

 

 

「…………?」

 

 日本の姓名は馴染みがないのだろう。聞き取りきれなかったという反応をその男は返した。

 (すい)()されたのは間違いない。それと、ここに現れた理由を問われている。

 理由はこちらにも不明だ。ゆえに返答は不能。仮に判明したとして、説明が通じるかという疑問もある。

 ただ名前だけをそのまま名乗って口を閉ざした真上に、その男は警戒を隠さぬまま緊張を高めてゆく。

 

 それでも構わない、と真上は思った。……むしろ、それを意図している節が彼にはある。フッ、と満足げに呼気を()らした。

 

「両手を上げなさい。ここは貴族(メイジ)の集うトリステイン魔法学院の土地。浅はかな振る舞いは許されませんぞ」

 

 男は警告を口にし、一歩進み出る。近くに一人残った生徒を庇いにも向かえる位置だ。

 

「“浅はかな”──とは?」

「…………。」

 

 真上は露骨な挑発を投げ掛けてみせた。

 微動だにする素振りもない真上の前で……本人に自覚があるかは定かではないが、真上の主観的には間違いなく『浅はかな』行動をとっていた男は、また少しのあいだ沈黙した。

 観察した限りでは、こちらからの発語も通じているように窺える。……と、真上はその様子のどこかから判断した。

 

「ミス・ヴァリエール。君もいったん教室に戻りなさい」

「…………え?」

 

 状況を全く理解していないであろうその生徒は、呆けていた目を丸く開いて男を見つめた。

 

「それは……あの、いきなりどうしたんですか? ミスタ・コルベール」

「いいから早く。話は後だ」

 

 両名の態度と言動からして、男が教師であることは確定とみていいだろう。

 察するに、生徒の身の安全を最優先に据えたうえで、指示に従う意思のないこちらの鎮圧を図りたいものと思われる。

 真上が未成年にも無差別に危害を加えるような人物だと思われている点については、まあ遺憾ではあるが置いておく。

 さて。そういった意味では期待できないかもしれないが……どうしたものか。あるいは──“どう出る”?

 

「───」

 

 コルベールと呼ばれた男が、さりげない仕草を装って口元に死角を作り、押し殺した声で何事かを呟き始め──真上は反射的にその場を跳び退いた。

 

 次の瞬間、風が動いた。

 不可視の力が働き、直前まで真上が居た場所に収束したことを、空気の流れる(かす)かな音で理解する。

 

 やはりその気ではないようだが────“甘い”な。

 真上は相手の出方から次の行動、その目的を推考する。表情に僅かばかりの愉悦を滲ませつつ低く地を蹴り、此方へ向けられた杖先の軸を避けながら一気に接近を仕掛けた。

 

 

 

「な──!」

 

 完全に不意を突かれた。

 コルベールは先手を取って不可視の《拘束》 バインド を密かに唱え、武器を扱うための腕を封じようとして察知され──()()()()を持っていると判断した相手から、まっすぐに()()()()()()()()

 完全なる、予想外。いや……メイジを相手に距離を取ろうとする戦士はいないのかもしれない。

 だが、それでも彼の微細な振る舞いから、交戦になれば遠距離からの反撃がくると推察したのだ。彼は何らかの武器を使用して……この距離からコルベールを仕留める気でいると。

 

 実際のところ、コルベールの推察は間違ってはいなかった。真上は“その気”であれば、いつでも銃でコルベールを撃ち抜けたからだ。

 一方で、それはコルベールにも同じことが言える。彼が本気で放つ炎を受ければ、いかに真上とて無事では済まない。そう、“お互いに”それを察知していたのだ。

 

 なればそれを()()するのは自然なことだ。

 真上の真骨頂は射撃戦にあるが、それは普通のものではなかった。

 ……もちろん、それだけが理由というわけでもないが。

 

 コルベールは急ぎ《炎壁》ファイヤー・ウォールで阻止しようとしたが、間に合わずに一跳びで越えられる。

 なにせ彼我の十メイルにも満たない距離を、躊躇いもせず一直線に詰めてくるのだ。

 右手を見れば、コルベールの知る“拳銃”にも似た形状の物体を握っている。そうか、あれはホルスターの形を──

 

 《ブレイド》 杖刃 を唱える間もなく、二人は右手の銃と杖を互いに(しりぞ)け合うように衝突させた。左は──?

 瞬間、コルベールは自身の失策を悟った。ホルスターは腰のベルトに付帯するように装着されていた。先ほど観察した際、それが角度を変えて()()あることは確認済みである。

 咄嗟に身体を(ひね)り、男の背後から今まさに突きつけられんとする左の銃を、こちらの空いた左手で抑えようと試みる。だが────

 

 

「──!」

 

 真上は突如、脳を揺さぶられるような()()()()に──こう表現するほかにない感覚だった──大きく跳躍して現在位置から距離を取る。

 直後、先まで真上のほぼ直下に近い位置にあった地面が────爆発した。

 

 

 真上には当然ながら、それが何を()()するかなど、全くもって理解できない。

 

 コルベールには、この現象を引き起こした“原因”がおおよそ、ほぼ百パーセント完全に……察せられる。

 しかしなぜ、という部分に関しては、やはり全部わからない。

 

 まるで地雷である。

 だが、そうではない。真上は咄嗟に左の銃口が向いた先を……忠告を受けたにも(かか)わらず、ずっとその場に突っ立っていた少女に対し、ようやく横目に視線を送った。

 

 直接ではないものの、至近距離から爆風を受けて吹っ飛ばされたコルベールは、右の銃口を向けられて身体を硬直させたまま……驚愕の表情で彼女を凝視した。

 

 

 その少女、すなわち召喚主なのに蚊帳の外に置かれるはめになっていた、他ならぬルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは────。

 

 真上(人名である)に向けた杖を片手に、可愛らしい柳の眉間をぎゅっと寄せ、仁王立ちでついっと整った顔を持ち上げ。

 目の前の惨状(クレーター)と、上半身を起こしかけた状態のコルベールと、そして無傷で立ったままの真上を見下して*……。

 

 いかにも怒り心頭といった様子で…………あろうことか、こう言い放った。

 

 

「────(ひざまず)きなさい」

 

 

 そう。お察しの通り、相変わらず…………

 

 彼女にはまだ、《コントラクト・サーヴァント》という名の()()が残っている。

 

*
なお見下(お)ろせる身長ではないので、ただの上から目線である。




〇後書き
 御閲覧ありがとうございます。
 この作品は初っ端から真っ赤に熔けた炉心に中指立てながら沈んでゆくアイアンカイザー(今後出番なし)の姿で始まるバイオレンス・ラブ?・コメディです。
 たまに熱血やシリアス的要素が混入する予定ですが、全体としての雰囲気はゼロ魔準拠となります。

 虚無と聞くと豪快(ダイナミック)的な意味で嫌な予感がされるかもしれませんが、プロット上では最後まで虚無りませんのでご安心ください。

 どうぞ宜しくお願いいたします。


〈おすすめ〉
①歌詞を見て『ゼロの使い魔』本編を思い浮かべつつ、『LEGEND of KAISER』(SKL挿入歌)を聴く。

 ↓(大いなる剣……新たな伝説……)

②そのまま『I SAY YES』(ゼロ魔2期OP)を聴く。

 ↓ (運命……永遠に…(Forever)…)

③両方の歌詞を見比べてシンクロ率の謎の高さに震える。

 是非。

 つまりこの作品の1期はOP曲『I SAY YES』ED曲『LEGEND of KAISER』の構成でお送りいたします。

 往年の名アニソンです。ぜひ。


 地獄の果てまでも(君の傍にいるよ)…… 世界は炎に包まれた(ピンチな出来事)…… ん?
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