「さあ。戦おうか、良牙くん」
「……っ。良いだろう、ならお前を倒して乱馬を追わせてもらうぞ!!」
笑みを浮かべながらそう言った祐希に良牙は一瞬怯むが、すぐに気を持ち直し戦闘体勢に入った。
「でやあっ!」
良牙は素早い動きで祐希に近づき蹴りを放つ。
バシッ!
「何……!?」
しかし祐希はそれをいとも簡単に番傘で受け止めてみせた。そしてそのままもう片方の手で足を掴み地面に投げつける。
「ぐっ……まだだ!」
背中から叩きつけられた良牙はすぐに起き上がるが……
「
ドーンッ!!
一瞬で目の前に迫っていた祐希に胸元に強烈な突きをお見舞いされた。その瞬間、胸元を中心に凄まじい痛みが良牙の全身を駆け巡る。
「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」
体の外側と内側から来る激痛に思わず地面をのたうち回る良牙。それから数分良牙は痛みに苦しみ続けていた。
「どう?少しは頭が冷えた?」
ようやく痛みが和らぎ動きを止めた良牙を見下ろしながら祐希はそう尋ねる。
「ハァ…ハァ……ああ、だいぶ頭が冷えた。まだ全身に少し痛みがあるがな」
良牙は息を切らしながらフラフラと立ち上がると、祐希の問いに対しそう答えた。
「さっきのは何だ、一体俺に何をした?」
「今良牙くんにやったのは僕の持つ技の一つ、地獄突き。人はどんなに修行をしても体の内側までは鍛えることはできない。この技は体の外側と内側の両方にダメージを与えるもので、その身に受けること自体がダメってことになるんだよ」
祐希からそれを聞いた良牙は絶句した。それはすなわち腕や足での防御もその技の前では何の意味も無いと言うことになるからである。
「この技は戦いの他にちょっとしたお仕置きにも使えてねぇ、乱馬や父さんが何かトラブル起こしたらこれを毎回やってるんだ。一体これまで何度使ってきたか………」
そう話す祐希の額にはいつの間にか青筋が浮かんでおり、笑みを浮かべながらのため余計に怖さが増していた。
「そ、そうか……それより、乱馬はどこだ?」
なんだかそれ以上聞くのが怖くなった良牙は話を切り替えた。
「あ、そう言えば……もう十分時間は稼いだと思うけど、どこ行ったんだろう?」
良牙からの問いに乱馬のことを思い出した祐希は辺りを見回すと、駐輪場の屋根の上にあかねと一緒にいるのが見えた。
「あそこにいるよ」
「そうか!乱馬ああああ!!」
祐希が駐輪場の方を指さすと、良牙はその方向へ走っていき、生徒たちの大半もそれに続いていった。
「乱馬の姿見えてた筈だし、まさか迷ったりしないよね……?」
「なあ、お前ホントに祐希なのか……?」
祐希が走っていく良牙を見ながらそう思っていると、その場に残っていた生徒の内の1人である海斗がそう尋ねてきた。
「あ、うん。ほとんど別人に見えるだろうけど、正真正銘早乙女祐希だよ」
「マジで祐希なのか……」
「いや、髪型以外全然面影ねぇな。身長も高くなってるし顔も男前になってるしよ」
祐希の発言に海斗は唖然とし、はるきは面影が無さ過ぎるとツッコミを入れる。
「中国でそういう体質になったとは聞いてたけど、いざ見るとすげぇな………ん?じゃああのおさげの子ってお前の兄貴か!?」
「あー、うん」
「嘘だろ……俺割と本気で狙ってたのに……」
祐希の体質を目で見たことでらんまの正体に気づいてしまった海斗はその返事を聞き確信に変わり、その場に崩れ落ちた。
「それにしても……祐希くん凄くかっこよくなったよね……」
「うん、いつもの小さい姿も可愛いけど、こっちのイケメン姿も良いわ……」
青年になった祐希を見て女子達はヒソヒソとそのようなことを話しており、中には頬を赤くしている者もいた。
「クッソー!やっぱモテるよな!そんなイケメンで性格も良いんだから!」
「世の中不平等だぁー!!」
女子のその姿を見てはるきや海斗を含めた男子達は地面を叩きながらそう叫ぶ。
「そんなにショック……?でも僕には許嫁がいるから告白も受けるつもりは一切無いよ?」
『………は?』
しかし、直後の祐希の発言にその場の男女全員が耳を疑うことになった。
「え、祐希お前……許嫁いたのか?」
「うん。……あれ?言ってなかったっけ?」
「初耳だわ!兄貴の方だけだと思ってたら、お前も許嫁いたのかよ!?」
祐希の口から出た許嫁がいるという発言に驚きを隠せない様子の男子達。事実、乱馬と異なり祐希は自分に許嫁がいることは今まで学校では話していなかったのである。
「でもよく考えたら納得かもね。お兄さんが許嫁いるんだから弟の祐希くんにも許嫁いてもおかしくないし……」
女子達は乱馬にあかねという許嫁がいた手前、祐希にも許嫁がいてもおかしくないと納得していた。
「ど、どんな子なんだ!?可愛い子か!?一緒に住んでるのか!?」
男子の方はやはりすぐには冷静になれず、祐希にどんな人物なのか聞いていた。
「凄く可愛い子だよ。あの子の作るお好み焼きは美味しいし、僕のこと"祐ちゃん“って呼んでてね、笑った時の表情なんてもう目に入れても痛くないくらい可愛いんだよ!!」
「え……お、おう……そうなのか(汗)」
「今は花嫁修行してるらしくてね、手紙でしかやり取りしてないんだけど、この前の手紙でなんとなんと!近いうちに会いに来るんだってーー!!」
『……………。』
いつもと違い
「もう何年も会ってないから楽しみで楽しみで!あ、それとね……」
「あーー!待て待て!分かった、お前の許嫁についてはよーく分かったから!」
「あ、そう?まだまだ話すこといっぱいあるんだけどなぁ……」
「はは……(もう十分過ぎるわ!今の話だけで口の中が甘くなってんだよ!)」
心の中でそう思った海斗が周りを見てみれば、口元を手で押さえている生徒達が何人もいた。
「そ、そうだ!お前の兄貴の方はどうなったんだろうな?」
話を逸らすため海斗は祐希の兄である乱馬の話題に切り替えた。
「あ、確かに乱馬とあかねちゃん大丈夫かな?」
ドドドドッ!!
「大丈夫……じゃないみたいだね」
駐輪場の方から聞こえてきた騒音に、祐希は何かあったことをすぐに理解した。そしてすぐに音がした方に走り出す。
「あ、ちょっと待ってくれよ!」
「お前が走ると速すぎて追いつけないんだよー!」
海斗とはるき含めた生徒たちは瞬く間に遠ざかっていく祐希の背中を必死で追いかけていった。
【祐希side】
僕が着いた時、場はしーんとした空気に包まれていた。らんまが呆然としているあかねちゃんの前に立っていて、あかねちゃんの方は長かった髪がバッサリと切れてしまっていて、切れた髪が地面に落ちていた。
らんまと良牙くんが冷や汗をかいている所から、2人が原因だということがなんとなく分かった。
「何があったの?あかねちゃんの髪が短くなっちゃってる原因、そこの2人にあるんでしょ?」
2人に近づいてそう尋ねると、向こうも僕の存在に気づいた様だった。
「あ、いや、これはだな……」
「女の子にとって髪は大切なものなんだよ。それをこんなにしちゃって、どう責任とるつもりなの?」
「そうよ、髪を切られるのって女の子にとって凄いショックなことなのよ!」
「アンタも同じ女だから分かるでしょ!」
僕の言葉に同調してか周りの女子もらんまに言葉を投げかけている。
「……ところでアンタ誰?」
「え……」
女子から言われたその言葉にらんまは固まる。そういえばここにいるみんなはらんまの水を被ると女になる体質について知らないんだっけ。
「俺もさっきから気になってたんだ。こんな子うちの学校にいたか?」
「つーか早乙女はどこ行ったんだ?」
「い、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろーが!あかねの問題の方が……」
そう言ってらんまはあかねちゃんの方に視線を向ける。気まずくなって話を逸らしたな。
「ケガがなくて良かったじゃないか」
「ケガは無くても
『…………』
らんまのその発言に全員無言になり周りが妙な空気になる。まさかそれ狙って言った訳じゃないよね?あ、ちょっと顔赤くなってる。
「と、とにかくだ。あかね、おれを殴れ。お前の気が晴れるならいくらでも殴って良いぞ」
「俺も殴って良いぜ。遠慮せずにガーンッと、思いっきりやってくれ!」
おぉ、思い切ったね2人共。特にらんまはあかねちゃんが力強いの知ってるのに、それぐらい責任感じてるみたい。
あかねちゃんは呆然としてたけど、2人の言葉を聞いて悲しさを含んだ表情で拳を構えた。
………そこからは凄かった。悲しみの表情のままらんまと良牙くんの顔をボコボコに殴ったから。本当に遠慮が一切ないぐらい殴りまくっていた。
そしてある程度殴って気が済んだのか、あかねちゃんはその場から立ち去り、後には顔がパンパンに腫れ上がったらんまと良牙くんが残された。
「素直な女だな……」
「あ、ああ」
「何言ってんの、遠慮しないでってそっちが言ったんじゃん」
「け、けどよぉ、まさかこんなボコボコに殴られるとは思わねぇだろ」
「むしろ殴られるだけで済んで良かったと思うよ?家を出ていけとか言われるよりはマシでしょ?」
「う………」
僕がそう言い返せばらんまは何も言えなくなる。
「まあとにかく、らんまはあとであかねちゃんに改めて謝ること。あ、それと良牙くん。この番傘返すからね」
良牙くんに番傘を返し、僕もその場を後にしようとする。
「あのー……それであなたは?うちの学校で見ない顔ですけど……」
すると周りにいた女子の1人が話しかけてきた。さっきグラウンドに残ってた子じゃないから僕の正体知らないのか。
「ああ、そいつ祐希だよ」
僕が答えるより前に、いつの間にか追いついていた海斗達が僕の正体を明かした。
「えぇ!?嘘、あの祐希くん!?」
「いやいや、冗談だろ!?」
やっぱりみんな驚いてるね。海斗達と同じ反応だ。でも嘘じゃないんだよねぇ。
「信じられないと思うけど、僕は正真正銘、早乙女祐希だよ」
「おいおい、マジかよ……」
「あの可愛い祐希くんが、こんなにカッコよくなっちゃって……」
カッコいいって、やっぱりそう言われるとちょっと照れるな……。
「で、でもなんでその姿に……?」
「中国に行った時色々あって、それからは水を被るとこうなっちゃうんだよ。お湯をかければ元の姿に戻るけどね」
「お、おい祐希……!(小声)」
横かららんまが焦った様子で声を掛けてくるけど、僕にとっては別に隠すようなことでもないからね。まあらんまは性別が変わっちゃうからできるだけ隠したいのかもしれないけど。
「へぇ〜、そんなことがあったんだ」
「中国ってヤベェな……」
「あ、あれ……?」
「へぇ、思ったより普通に受け入れられたねぇ」
割とあっさり信じてもらえたことにらんまは戸惑ってる。まあとりあえず、これでこの体質を隠す必要はなくなった。
「じゃ、僕も帰るよ。らんまはあかねちゃんにしっかり謝ってね」
最後にらんまに対しそう言うと、僕は帰路についた。さっきから服がキツキツで苦しいからね、早く帰って着替えたい。
ちなみにその後あかねちゃんは髪も切って東風先生のことも諦めたとのことだった。それとなんやかんやあって乱馬との仲も少し進展したっぽい。良かった良かった。
やっぱオリジナルの展開は難しい……。