超昂大戦SS 時駆ける超昂戦士! 未来少女の架けた虹 作:環 藍河
※原作に出演しないオリジナルキャラクターが登場します。
朝の陽光が木々を照らし、モノトーンの気怠げな森に命を吹き込む。
遠目に見える公園の梅や桜が彩られ、街が目覚めていく。
「きれい…。閂市って、こんなだったんだ…!」
山の中腹、ほどよく街を見下ろせる高台からの景色に、不思議な感銘を口にする少女。
ありふれたファストファッションとスニーカーに身を包む、ごく普通の女の子は…
(待っててね。私、必ず…!)
一人きりの決意を小さくつぶやくと、ボストンバッグを提げて、美しい街へ駆け出す。
…
……
「アカリちゃんっ。わりぃ、ちょっと時間あるかい?」
午前の定期巡回を兼ねて街をランニングで駆け巡るアカリを呼び止めたのは、肉屋のおじさん。
「さっきな、アカリちゃんそっくりの…まあ、アカリちゃんよりちょっと小さいくらいの女の子が、コロッケ5個買っていったんだよ。覚え、あるかい?」
「ほへ? 私…そっくりの?」
「ああ。でもよ、アカリちゃんにいとこがいるなんて、聞いたこともないからよ。まさかな~とは思うけど、一応、な。」
ぶんぶんぶん、ぶんっ。
(い…いとこなんて、いないよ?)と、全力で手のひらを左右に振って否定するアカリ。
「でも、初めて見る子なのに、うちのコロッケ、いとおしそうに抱えてさあ。そのまますぐにでも食いたいそぶりで行っちゃったんだけどよ。
なんか、ちょっと前のアカリちゃんみてえな雰囲気で、気になっちまってさあ。」
「た…他人の、そら似?」
ぶーっ、ぶーっ、ぶーっ。
「あっ…おじさん、ちょっとゴメンね。」
ぴっ。
『あっ、繋がった。アカリ、いま大丈夫?』
「翔さんっ?!」
電話の主は、神騎ヘプタスロンこと、可南太翔。
ライカたちと同じ月想館学園で陸上競技・混成七種に打ち込むアスリート。
『私、いま閂スタジアムでシーズンイン直前の強化練習会なんだ。
そしたらさっき、中学生くらいの子が個人利用で来てて、すごい記録を連発しててさあ。
走っても跳んでも、そのままインターハイ行けそうな凄いバネなんだ。
走り高跳びなんか、君のストライク・エスカレーションが重なって見えたよ!』
「そ…そうなんですか。でも、それをどうして私に?」
『あ、画像送るね。』
ぴろっ。
「…えええっ!?」
アカリと同じツインテールながら、留め具はリボンではなくゴムバンド。他にも、カチューシャで髪を上げていたり、顔立ちが明らかにアカリより幼いなど、多少の違いはある。
でも…まるで自分が陸上部を続けていたら、こうだったんじゃないかと錯覚するような面影。
『声かけようと思ったけど、速攻で帰っちゃってさ。
ねえ、この子、アカリの親戚? 進路決まって無かったらさ、月学に進学、絶対勧めてほしいんだ!
やりと砲丸投げをあたしが教えれば、オリンピックだって狙える逸材だよっ! 頼むっ!』
「い…いやっ、そもそも私、この子初めて見るんですけどおっ!!」
『…ええ~っ、違うのか…。
…わかった。…あっ、でも、もし見かけたら、絶対私に教えてよっ。必ず!』
ぴっ。
「ちょ…ちょっと、その写真、みせてくれるかい?」
「えっ? …あっ、ハイ。」
アカリが翔の送った写真をおじさんに向けると…。
「やっぱり! この子だよっ。さっきのコロッケの子!」
「ええええええっっ!!」
…
……
(わ…私の、そっくりさん? 何で…?)
頭に血を上らせながら、巡回ジョギングを続けるアカリ。
幻魔が化けて、ニセエスカルビーとして悪逆非道の限りを尽くして、アカリの評判を落とそうと…?
(…いやいやいや、それでコロッケ買ったり、朝練したり、しないでしょ…!)
まさか…生き別れの双子の姉妹で…辛酸をなめた妹が、平凡に幸せに生きる姉に復讐を…?
(…うちのパパやママがそんな修羅場展開…ないない、まずあり得ないっ!)
分析→仮説→検証→判定の脳内シミュレーションを回すも、10秒ごとに停止する。
それでも走りを止めず、商店街と神社を抜けて、次は公園…。
「あっ…あああーーーっっ!!」
コロッケとたい焼き、二つの紙袋を左腕で抱え、たい焼きを味わう少女が一人。
目を細めて空を仰ぎ、数ある公園の植樹の中でも、特別な一本の枝先を見つめている。
恐らくこの子が、翔とおじさんが見たであろう、自分のそっくりさん…。
「っ…!」
素っ頓狂な驚きの声に、アカリの存在に気づいた少女は、臆せずこちらに歩み寄る。
(あ…あれっ? ドッペルゲンガーって、見たら死んじゃうんだっけ…?)
アカリのぽんこつシミュレーターが再び回るも、双葉と三ツ葉の例を思い浮かべ、ちょっとだけ安堵する。
もちろん、それでも少女の正体はわからない。
そうしている間にも、少女は歩みを止めず…遂にアカリの真ん前に。
すう…っ…。
少女が深めに息を吸い、両手を後ろに組み、背筋を伸ばす。
「初めまして、ママ!」
(…ほへっ?)
「私…ミキって言います。
未来のあなたの娘ですっ!」
(…え?)
甘えるような上目遣いで少女が発した挨拶が、アカリの度肝を抜く。
園崎アカリこと、超昂戦士・エスカルビー。
地球の平和のために日々頑張る、もちろん未婚の少女戦士は…
「えええええーーーーーっっっ!!?」
この日、初対面の少女の母となった。
……
…
平日の公園は人もまばらだが、それでも有名人のアカリは衆人の目にとまる。
ましてや横には…
(そ…園崎アカリの…妹? いとこ?)
(お…お父さんに、隠し子がいたとかっ?)
(幻魔かノロイの幻覚…!? に…逃げなきゃ…?)
ざわざわ…っ…
(ミ…ミキちゃん…だっけ?)
(はいっ! ミキです! ママ?)
(と…とりあえず、走るよっ!)
(え…えええっ!?)
ぐるぐる巡る思考回路で、必死に人目につかないところを考えながら。
アカリは娘を名乗る少女の手を引き、公園を離脱した。
……
…
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「ふ…2人です…。」
人もまばらな、ランチタイム前の喫茶店の、一番奥。
仕切りのついた目立たないブースにミキを引き連れて座ると。
「わ~っ、新しいなあ。テーブルも…椅子もまだ傷んでない。」
「…もしかして、未来でこのお店…?」
「ハイ、ママと何度か来ました。ママが勧めてくれたここのオムレツ、大好きです!」
(ま…まさかホントに、私の子どもなの…!?)
アカリも、この喫茶店のオムレツは大好物。
少なくとも、自分に子どもができてこの店に一緒に来たとき、真っ先に勧める程度には。
「あ…あの、ミキちゃん? ホントに未来から来たの?」
「証明する方法はないですけど…。未来の写真はスマホごと置いてきたので見せられませんし。」
(じゃ…じゃあ、私のことを調べればできる、ドッキリって可能性も…?)
「だから、今すぐとは言いません。少し時間をかけて、私を見て、私と話して、私と過ごして…それで判断してくれればいいです。」
屈託のない笑顔でアカリに自分をさらけ出すミキは、ウソを取り繕っているようには見えなかった。
「あ…あのね、ミキちゃんはいつ、この時代に来たの?」
「今朝です。」
「どうして真っ先に陸上競技場に行ったの?」
「あのスタジアムは郊外に移転しちゃったんです。だから、改装前の…ママが走った競技場で走りたくて。朝なのに、あんなに人がいるとは思いませんでした。」
「その後の買い食いは?」
「ママが好きなコロッケは…未来ではおじさんが高齢で店じまいしちゃって、私も食べるの初めてだったんです。未来のママに持って帰ることはできないけど、土産話ができました!
そしてたい焼きは…オルバさんと出会うきっかけになった、思い出の味なんですよね。」
「あっ…!」
それは、市民に広報するほどでもなく、エスカチームのみんなや長官など、ごく一部しか知らない話。
「…ま…まだ、イマイチ信じられないけど…?」
ここまでの話には矛盾がない。本当にこの子は…未来から来た、私の子ども…?
「お待たせしました。オムレツ、卵ダブルです。」
「あっ、ありがとうございます。」
「…ミキちゃん、たい焼きとコロッケも食べたんだよね…?」
……
…
かちゃん。ごくっ、ごくっ、ごくっ。ことっ。
ふうっ…。
「ごちそうさまでした!」
フォークを置き、氷のすっかり溶けた水でのどを鳴らし、一息。
(ま…まさか、残さず完食…!)
健啖家のアカリですら驚嘆する、ミキの食べっぷり。
はっ。
「み…ミキちゃん? あなたは、どうしてこの時代に来たの?」
タイムトラベルは、相当の覚悟と決意が無いとできないはず。
何しろ、現代唯一の実例…トキサダとユーノの時間逆行は…膨大なエナジーを費やす、破滅の未来を修正するための決死行だった。
だとすれば、ミキのタイムトラベルも、世界破滅の危機を回避するための重大ミッション…?
「…え~と、怒らないでね、ママ。
その…実は、家出…なんだ。」
「…ほへっ?」
電車に飛び乗って親戚を頼って来ましたー、くらいの感覚で、事もなげに語るミキ。
未来のテクノロジーは、タイムトラベルを親子げんかの逃避行に使えるレベルにしてしまった…のだろうか?
「だ…だってね!
パパは過保護で…私が超昂戦士になるのに猛反対で、何にも私の話を聞かないし!
ママは自分で決めなさいとは言うけれど、味方もしてくれない!
だから…しばらくこっちで距離を置いて、パパとママにいろいろわからせるのっ!
お願いっ! こっちのママなら…、賛成してくれるでしょ!?」
「だ…ダメだよっ! と、とにかく未来の私に連絡しないと…!」
「ムリですよ。この時代のテクノロジーだと、未来人と話せる通信機なんてまだ無いですから。」
「うっ…でも、私だって保護者に無断でミキちゃんのこと、勝手にどうこうできないよ!」
「保護者はママだよ? あなたが私の保護者だよ?」
「…あっ。」
「むしろ、ママのところに居たいと希望する娘を見捨てたら、保護責任を問われちゃうよ?」
「え…っ…? うええええっっ!?」
ミキは…アカリのところで居候する気、満々だった。
「と…とにかく、基地に戻ろう? 長官に…ユーノさんやさやかさんにも、いろいろ相談を…」
「あ、その前に一つ、お願いがあります。」
「…?」
「ママの母校を…閂学園を、見学したいです!」
【続く】
常連読者さまも、お初の読者さまも、お立ち寄りありがとうございます。筆者の環藍河です。
前作投稿から2週間のご無沙汰ですが、本日から超昂大戦SS、長編(弊社比)新シリーズをお届けします。
現在、第7章まで準備中。新章はなるべく毎日、夕方に投稿ができるよう予定しておりますが…書くのも読むのも持久走ですので、気長に気軽にチェックいただければ、と思います。よろしくお願いします!