超昂大戦SS 時駆ける超昂戦士! 未来少女の架けた虹 作:環 藍河
『さっすが、過去の私っ! こちらの送信シグナル、きっちり拾ってくれたわね!』
《一昼夜、ずっと…ミキちゃんを探して呼びかけていたの。
さやかちゃん、呼びかけに応えてくれて…本当にありがとう…》
さやかが司令室に持ち込んだのは、急ごしらえの通信機。そのモニターに映るのは…
「まさか…未来のさやかさんと、ユーノさん…なんですか?!」
「ふふ~ん、正解よっ! あー、凄いっ、私!」
さやかは、未来との通信回線を開くことに成功した。接続は困難を極めたが、ミキが未来から持ち込んだ所持品と、失踪したミキを探すため未来のユーノが発し続けた神力が糸口となった。
「ちょ…ちょっと待て。」
「長官さん?」
「さやかくんは今、自分と喋っているが…タイムパラドックスは大丈夫なのか?!」
トキサダが危惧するのは、未来と過去の同一人物が出会い、会話や行動で過去の決断を変えてしまう行為。
例えば、親の結婚相手を変えてしまったために、自分が生まれなくなったり。
例えば、ダイビート設立の動機そのものを無くしてしまったために、自分がこの時代に来なくなる世界線を作ってしまったり。
過去の自分を変えることは、ときに自身の存在を消しかねない、危険な行為なのだが…。
「ちっちっちっ、長官さんや。
このさやかさんが、何の対策もしないはずがあろうか! 否っ!」
いわく、二重の対策を挟んでいるらしい。
(1)通信にAIを挟んで、ぜんぶ又聞きの体裁をとり、致命的な未来改変に関わる情報を遮断する
(2)未来の自分の言葉を聞き入れた自分と、無視した自分の世界線を併存させ、修正された未来が自然な軌道で、いま話している未来の世界線に合流するよう誘導する
(シュレーディンガーの猫箱、か…!)
「ともあれ、この通話はすべて無問題! ノープロブレムっ!!」
ダブルで胸を張る、未来と現在のさやか。
(ただ…石がっ、蝶鉱石がじゃんじゃん溶けていくのはっ…キビシイ…。ぐすん…!)
そして受話器の先とこちら、ダブルで泣くさやか。
その理由も、ぴったりシンクロしていた。
……
…
『順を追って話すよ。こちらの時代では…超昂戦士が何人も倒れている。昏睡状態よ。』
「「!!」」
《知性を持ったクレイドが出没し、その泥を少量浴びたの。たったそれだけで倒れ、目覚めないばかりか、どんどん衰弱しているわ…。》
『こちらの時代で最先端の医学と魔法の知見をもってしても、この呪いは解けなかった。
根絶させようにも、数十年の潜伏期間を経た毒の泥は、生物で言う遺伝子がぐちゃぐちゃに変化して、もう元をたどれない。対症療法で一部を叩いても、他からすぐさま汚染が広がって、手が付けられない。
悔しいけど、八方塞がりよ。』
「そんな…!」
『でも、同じ攻撃で無事な戦士もいた。だから私は、その違いを解析したの。
倒れた戦士の共通点は、ある時期以降、知性を持ったクレイドと交戦して、やはり少量の泥を浴びていたことだった。』
「そうか…その一発目が、俺たちの今の、この時間…!」
『ええ…恐らくは、一度では発症しないけど、二度目では猛毒になるような呪い。』
「…アナフィラキシーショックかっ…!」
一度目の感染が弱毒でも、二度目の感染で免疫機能が過剰反応し、危篤に陥り、ときに致命傷となることがある。
だが、幻魔の呪いで同じ反応を起こすとは。
《だから私たちは、戦士をそちらの時代に送り、感染を防ぐ作戦を決行した。
敵クレイドの出現を確認し、撃退する。感染を防ぎ、敵の存在をあなたたちに知らせる…ね。》
「その使命を受けたのが、この子、ミキくんだったというわけか…。」
《…違うの。》
「えっ…?」
《本当は…ヒビキちゃん。エスカ・サファイアを送るはずだった。でも、ビートポータルを起動する直前、ミキちゃんが無理矢理割り込んで、身代わりに過去へ跳んでしまったのよ…!》
「なっ…!?」
〈…不覚を取った。〉
「ヒ…ヒビキちゃん…なの?!」
映像に現れた、アカリもトキサダもよく知る女性。
年輪に磨かれた大人の魅力を備えた未来のヒビキは…、決まり悪そうに自らの手落ちを語る。
〈出立間際、ミキに別れの握手をせがまれたんだ。必ず帰ってきてください、と。
だが、手を握った瞬間、私はD2エナジーを根こそぎ、持って行かれた。
そのまま動けなくなった私を置いて、ミキは既にセーフティ解除済みだったビートポータルに飛び込んだんだ…!〉
「…そうか…。だから変身できたんだ…!」
ダイヤのD2エナジーは、ヒビキから強奪したものだった。
《こっちでは変身はおろか、戦闘訓練なんか全くしてなかったのよ…。
ADDDも、病床のアカリちゃんから外したものを持ち出していたわ。
倒れた母親が心配だからって、まさかこんなスタンドプレーをするなんて…!》
〈アカリ…やっぱりミキはお前の娘だ。親子そろって無茶ばかり…!〉
「わ…私、ミキちゃんをしつけた覚えは無いんだけど…?」
ヒビキの理不尽な叱責。
《ヒビキちゃんを思っての行動でもあるけどね。わかっているでしょう?》
(?)
《この作戦には、2つの欠陥があるの。
まず、過去の自分とは会ってはいけない。タイムパラドックスが起きちゃうからね。》
つまり、ヒビキは過去の自分に会わないよう、隠密行動を強いられる。
だからミキは、当時まだ生まれていなかった自分なら大丈夫だと、ヒビキに代わって過去へ跳んだ。
《そしてもう一つ。ただ危機を知らせるだけではダメ。
原因を断ってしまい、呪い自体を無かったことにすると、そもそもこの作戦が消滅してしまう。
だから、誰か一人…過去に跳んだ人間が、そちらの時代で呪いに感染しなくてはならないの。》
「! …じゃあ、ミキくんは、こうなる覚悟で…!」
「そんなっ!」
〈…だから、私なら良かったんだ。ミキを…未来ある若い芽を、むざむざ未曾有の危機と苦難にさらすくらいなら、私のこの身など惜しくは無かったのに!〉
ヒビキも相当な無茶をしているじゃないか…!
アカリは一瞬怒るも、その覚悟に、出かかった批難を飲み込む。
〈…母親の責任だ。アカリ、必ず呪いを封じて、ミキをこちらへ返せ。私がたっぷり説教してやる。〉
「ヒビキちゃん…!」
〈若頭領…私の不徳の後始末…。恥を忍んで、なにとぞお頼み申し上げます…!〉
「…ああ、任せろ。」
ここまでの話でわかったこと。
家出とうそぶき、ママの聖地巡礼だよー…などと呑気なバケーションを装う、ミキの時間逆行。
その真実は…あまりにも孤独な、覚悟の決死行だった。
気遣いばかりを重ね、黙って未来を飛び出し、黙ってアカリをかばい、そして毒と戦っていた…。
《ダイナライトは時間逆行1回分ギリギリで、援軍を改めて送ることもできないの。
トキサダ…勝手ばかり言うけど、どうか…!》
「わかった。こちらの戦士たちを信じてくれ。
これは俺達の危機でもある。現在も、未来でも、これ以上の被害は必ず防いでみせる。」
《トキサダ…!》
『…緊急事態はもう一つ。
戦士が倒れ始める直前、オルタナスタインが消滅したのよ。』
「(!?)」
『前日まで何の兆しも無く、ぴんぴん元気にしてたらしいよ。それが突然、心臓発作のように呻きだして…まるひと晩悶え苦しんで、そして消滅した。
王を突如失った幻魔は大パニック、内部抗争や無秩序な人類襲撃を始めているの!
国防陸軍・上弦衆・魔女と協力して鎮圧しているけど…いつまで保つか…。』
《逆に言えば、オルタナスタインを消すまで、超昂戦士に二度目の呪いをかけて来なかったのは…。
私たちが真の目的に気づかないよう、潜伏しながら毒を植え付けるため。
幻魔王の暗殺と同時に、一気に2度目の毒を撒き、短期決戦でケリをつけるため…ね。》
「じゃあ、これは…。
超昂戦士と幻魔…両方を潰そうとする勢力のしわざかっ…!」
こくり。
《…こちらのダイビートは、もう動けないの。
今は無事な戦士も、いつ2度目の感染で倒れるか…。
そして、そちらの危機も、防げなかった…。》
「えっ…?」
未来のユーノが告げる、過酷な現実。
《そちらのミキちゃんが危篤なのは、アカリちゃんからの垂直感染が防げていないことを意味するの。》
垂直感染…妊娠中に、母胎・アカリの受けた呪いが、胎児・ミキに伝播してしまう感染形態。
《もし、ミキちゃんがアカリちゃんを正しくかばいきれていたら、後日産まれたミキちゃんも未感染。今回の泥は1回目だから、発作は起きなかったはず。
でも、そうじゃなかった。
つまり…まだ過去は修正できていない。アカリちゃんの一度目の感染は防げていないのよ…!》
「そんなっ! ミキちゃんが体を張って護ってくれたのに…!」
アカリは、自分が既に呪われているという事実に怯えるより、ミキの身を挺した献身が失敗だったことへの悔しさを滲ませる。
「ならば…ますます、俺達の時代で、病の原因を完全に断つしかないな。」
「長官…私、絶対にミキちゃんを助けます。
この子は命がけで、私を…私たちを助けにきてくれた。
その全力の思いに…私も、全力で応えたいんです!」
かくしてダイビートは、自らに迫る呪縛を断ち切り、未来の超昂戦士を救う使命を背負うことになった。
敵は人間と幻魔、2つの世界で暗躍し、時限爆弾で超昂戦士と幻魔の抹殺を目論む。
超昂戦士よ、敵の正体を突き止めよ!
時空を超えて牙を剥く、その野望を打ち砕け!
ここに、惨劇を回避するための、時間軸を超えた総力戦が始まる。
【続く】
第4話、ミキの言動の謎解き回をお届けしました。
ややこしい部分は多少読み飛ばしていただいても次話以降に支障ないかとは思いますが…とんでもない矛盾が無いことだけを祈るばかり(投稿ボタンを押す指がガクガク震えます)。
次回第5話は、敵の正体に迫る捜査が始まります。