超昂大戦SS 時駆ける超昂戦士! 未来少女の架けた虹   作:環 藍河

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※原作第1部15章「黒鉄の記憶」の内容に準拠した記述を含みます。
ネタバレ注意&分かりにくい場合は原作ストーリーの再読を…?


第7章 最終決戦! 未来に重なる2つの星光

「ぐううっ…あああ~~~っっ!!」

(ミキちゃん…!)

過去に降り立った日から、泥の毒の発作に苦しみ続け、衰弱するミキ。

それでも、自分が同行しないと、アカリを決戦の舞台へ送ることができない。

決戦の刻へと時計の針を進めるため、ビートポータルをくぐった2人。

到着までは一瞬のはずだが、光速の時間跳躍は、少女の弱り切った体にはブリザードを総身で受け止めるような苦痛を伴っていた。

 

 ぎゅ…っ…

(あっ…!)

 

アカリは、ミキを容赦なく苛む時空の風圧から護ろうと、自らを盾にして小さな体を抱きしめる。

(ママ…!)

その心地よい温もりが、アカリの想いが、ミキの苦痛を何より癒やす。

 

……

アカリたちの時間からは遥か先の未来。

ミキたちの時間からは、僅か数日前のこと。

だが初春の柔らかな風は、2人の旅立ちの日と何も変わらない。

 

時を超え降り立った、閂市。

既に日は落ち、澄んだ夜空に満天の星が瞬く。

だが、平穏もつかの間、アカリの端末が激しい明滅を繰り返す。

「…レーダーが…! もう始まっているの?!」

「…ミキちゃん、行こうっ!」

 

……

未来と過去の戦士が到着する直前、廃校跡地のアジト。

「接現力ストレージ、貯蔵量・濃度よお~し! ドレーン配管・リーク箇所なあ~し!

チェックリスト・オールグリーン! これよりまずは、幻魔王の毒殺実験を開始する!」

施設の主たる科学者は、タンクのバルブを解放し、十年蓄えた憎悪の堰を切る。

 

十数年前、閂市郊外の廃ビルに隠匿された実験牢が、ダイビートに暴かれた。

そこでは一人の老科学者が、人々を拉致し、おぞましい人体実験を繰り返し、科学をもてあそんだ末に欲望に精神を侵され、遂にはサイエンフラストに墜ちた。

マッキンリーたち幻魔につけ入り、実験とうそぶいて猟奇と暴虐の限りを尽くした狂人は、遺作となった合成怪獣もろとも、エスカチームに倒された。

 

だが…その息子・カインは、実験牢がダイビートに接収される直前、施設に忍び込む。

そこで見つけた虹色の珠に封じられていたのは、父の記憶として遺された実験データ。

「こお〜んな美味しい技術を、幻魔なんかに貢ぐ? じ~じ~い~、心底バカじゃねえかあ?

てめえで使えば、この世と幻魔界、両方の王になれるだろうによお!」

 

以来…その実証を果たすXデーを、その日だけを心に刻み、カインは自ら興した研究施設ごと息を潜めてきた。

「研究バカのくだらねえ生涯なんざ、知ったこっちゃねえ。

けどよ、遺産はありがたく、世界征服に使わせてもらうからなあ~。」

 

膨大な歳月を隠者として過ごす苦痛と屈辱。

だが、その報酬は幻魔王と超昂戦士の全滅、そしてその後釜への即位。

この日いよいよ、積年の大願が成就するはずであった。

 

 ぶしゅうううう……っ!

 

解き放たれたバルブから、配管まるごと壊す勢いで人間界から幻魔界へ迸る濁流。それは絶対摂理の支配者をも弄び、滅びの洪水となるはずの接現力。

その瀑布は、確かに次元を超えて奔り…

 

 ぼふううううっっ!!

 どごおっ! ぶしゅっ、ぼごっ、べこっ…

 

逆巻いて、タンクを穿った。

 

「な…なあああーーーーっっ!?」

完全勝利に快哉を叫ぶはずが、カインの口から漏れたのは素っ頓狂な悲鳴。

 

行き場を失った接現力の流体は、倍返しで貯蔵庫の底を撃ち抜き…

 

 ぴゅううううーーーーっ!!!

 ……ぼふっ。

 

恐れの力に乗せた呪詛が解き放たれ、その圧で膨張し…爆ぜる。

タンクの穴が底に抜けたのが幸いし、できの悪いペットボトルロケットのごとくアジトの天井を突き破り、雲を突き破るほど浮き上がった接現力タンクは…成層圏の手前で失速し、水平線へ消えた。

 

 「か…かはあっ、はあっ…!」

数十年の雌伏の成果が一瞬で雲散霧消したカインが、過呼吸のように呻き、やっとの思いで継いだ言葉は…

 「なあーーーんじゃあっ、これわあーーーっ!?」

 

……

刻を同じくして、時空の果て、幻魔界。

 

「…これでもう、王は大丈夫。」

「…まさかまさか、小鬼に護られる日が来ようとはなあ。剣呑、剣呑。」

「アカリが十数年前、王の危機を知らせてくれた。

魔女たちも、王を蝕む力を読み解いて、私に教えてくれた。だから護れた。」

 

ルカやプカルルは、その後も研究を積み重ね、仇敵たるオルバに惜しみなくその成果を伝え続けた。

カインが幻魔王に差し向ける毒の接現力を止めようと、十数年の間、手ぐすね引いて万全に備えた幻魔の巫女。

遂に迎えたその瞬間、オルタナスタインが毒を吸い上げる間際、オルバはその杖で接現力を打ち返す。

 

一度反転したベクトルは、そのまま人間界に位相を戻し、タンクを野望ごと貫く。

オルバは、幻魔王の護衛を果たした。

 

「超昂の者なら…この毒で我を屠ることもできたであろうに。」

「それは無い。アカリもトキサダも、王との共存共栄を心から願っている。」

「幻魔が人の子に望まれる現世…よもやよもや。」

 

……

 

「砕けろっ、幻!!」

 ぱりーーーーーーんっっ!!!

 

レーダーがその位置を暴き、導かれるままアジトにたどり着いたルビーは、その拳でエントランスの擬装を打ち砕く。

ルカが託したブレスレットの輝きが、いよいよ敵の尻尾を白日の下に晒した。

 

「なあっ…超昂、戦士いいいっっ!!?」

「エスカルビー、悪のアジトにただいま参上!」

 

蓄え続けた毒の逆流と、タンクの崩壊。

隠し続けたアジトに踏み込んで来たのが、寄りによって抹殺対象のターゲット。

眼前の事実が意味するものは…作戦の完膚なきまでの失敗。

 

「諦めてください! あなたの切り札は無くなった…。もう、オルタナスタインさんを消すことは、できない!

降参して、石に変えた人たちを元に戻してください! そうすれば…」

 

「ひいいいいっっ!! わ…わかったっ、投降するうううっっ!!

拉致した連中も解放する、このアジトも放棄するからあああっっ!!」

 

「あ…あれ…っ?」

最終兵器を潰されたとは言え、あっさりと白旗を揚げるカインに拍子抜けするルビー。

 

「武器は持っていないっ、ボディチェックでも何でもしてくれえっ!!」

両手を挙げ、無抵抗をアピールしながらすたすたと歩み寄るカインに、一瞬虚を突かれるルビー。

 

にたあ~りっ。

「今だあああっ! クレイドおおおっ!」

「なっ…!?」

 

 《【〘クラエエエエッッ!!〙】》

 

 ぶしゅうううーーーーーっ!

 

「きゃああああーーーーーっ!!!」

 

カインを追い詰めたはずのルビーは、逆に取り囲まれていた。

幻魔王を呪い殺したらすぐにも出撃させるよう、待機させていたクレイドの一個小隊。

何十体もの泥人形は、そのまま溶けてルビーに抱きついたかと見間違うほどの、おびただしい量の毒泥を、四方八方から一斉にルビーとカインに噴き出した。

 

「ああっ…げほおっ、ごぶっ…うっ!

あ…っ、ああ…っ…! 

…うっ…うあああああーーーーーーっっっ!!!」

 

エスカルビーは毒に悶え、空を仰ぐ。

 

「ぶひゃーーーっ、ははははーーーーっっ!!

幻魔王暗殺はしくじったが、コッチは効果覿面だなあ~っ、あん?」

「うぐうっ…ぐふっ、げぼっ…!」

 

ルビーもカインも膝まで浸かるほどぶちまけられた汚泥は、強力な毒。

輝く戦闘服を穢し、ブーツ越しでも皮膚を灼き、鼻からも口からも分け入り、ルビーを体の内と外から冒す。

 

揺らぐ意識、支えを失う体。

「うあっ…!」

怒りに燃える翠緑の瞳も、今やついに焦点を失い…ルビーはとうとう膝をつき、毒の発作に屈する。

 

「そ…そんな…っ、自分もろとも、毒の泥を浴びるなんて…!」

「ぶわ~~かっ、自分の毒にあたる科学者がいるかよお~っ?

ちゃあ~んと、ワクチンくらい用意してるさあ~!」

 

「なぜ…。ダイビートの科学者たちは、遺伝子がめちゃくちゃで…ワクチンが作れないって…みんなギブアップしてたのに…。」

「そりゃ~あ、十数年前のオリジナルの毒からあ、ワクチン精製済みだからさあ~!

今から作ろうったって、当時の遺伝子マップが無けりゃあ、無理ゲーだろうよお!」

「ぐっ…ううう~~~っ!!」

悔しさに握り締める拳も、床の泥に沈むばかり。今やルビーは、カインのなすがまま、クレイドに汚されるまま、苦痛と屈辱を噛みしめることしかできなかった。

 

最強の超昂戦士が、自分の生み出した毒に完全に屈服し、惨めにのたうち回る。

ああ、あのエスカルビーが、地を這い、絶望し、俺の目の前で息も絶え絶え…!

 

カインの下卑た空想。

(このまま毒をもっと浴びせて、貴重なデータを採取だ。超昂戦士の精神力は致死量まで折れないかなあ〜? その前に発狂するか、命乞いを始めるか…人類初の楽しい実験だあ〜!

ついでにライブ配信して、人間界を恐怖支配してやる。エスカルビーの絶命、廃人、実験動物化…どれが録れても、人類は絶望だぜえ…!

順序は狂ったが、幻魔王抹殺の方法は、後でたあ~っぷり開発してやる。そうすりゃあ、モルモットもペットも、選び放題じゃねえかあ〜!)

 

カインは、クレイドに目線をやる。

「やれえ、クレイドどもお〜!

エスカルビー! 超昂戦士もくびり殺せる毒泥、実証第一号はテメエだあ~っ!」

「あ…ああっ…!」

 

カインの罵声と同時に、クレイドが一斉にルビーに畳みかけた瞬間。

 

 「ワクチンって、これですか?」

 

背後の実験室から響く、少女の無邪気な声。

 

「が…がああああっっっ!!?」

180度反転した科学者は、声の主…エスカ・ダイヤの掴む薬瓶を見て、たちまち顔面蒼白。

 

「おじさん? ダメですよ、秘密兵器をこんなにわかりやすい金庫にしまっちゃ。

火事対策ならともかく、私みたいな正義の怪盗さんにとっては、こんなのむしろ《どうか盗んでくださーい》アピールでしたよ?」

特殊合金製の重厚な金庫も、ルーキー超昂戦士の絶大なパワーの前では、おもちゃも同然だった。

 

「一緒に入ってたこっちのボール、触ったら何だかうじゃうじゃ、アルファベットが頭の中に入ってきたんですけど…これが遺伝子マップですよね?」

「か…かはっ、はひっ…!」

目を見開き、わななくカインの狼狽えぶりが、何よりの証左だった。

 

 「やったねダイヤ、お見事っ!」

 「なっ…!?」

 

背中側から響く声に、もう180度反転するカイン。

 

すくっ。

 

先ほどまで罠に屈し、床をのたうち回っていたルビーが…けろりと立ち上がっていた。

 

「うえ~っ、べとべとです…。」

「なあっ…なっ、な…。演技だとおーーーーっっ!!?」

 

思考が追いつかない。

このアジトに飛び込まれただけでも想定外だが…。

全ての超昂戦士に1度目の泥毒を重々仕込んだはずなのに。

エスカルビーは2度目の泥で、もうくたばりかけていたはずなのに。

人類を支配する王だけが持つはずのワクチンまでも、伏兵に奪われてしまった。

 

「なあーーーーっ! なぜだああーーーーっっ!!

 なぜ、なぜっ、なぜだあっ、

 な~あっ、ぜ~えっ、だあーーーっ!!! あーーーーーっ!?!」

全ての切り札を簒奪されたカインは、駄々っ子のごとく叫び散らかすばかり。

 

……

ルビーの心に、熱い思いがこみ上げる。

(イチかバチかだったけど…泥の毒、平気だった…。

私、ダイヤにちゃんと護られていたんだ…!)

ミキのデビューバトルは、失敗などでは無かった。

毒泥からルビーをかばいきり、今日ルビーが浴びた泥を2度目の猛毒ではなく、1度目の無症状で抑えてくれた。

 

(うんっ…プカルルさんの強心剤…バッチリ効いてる!)

出発前に渡された注射器は、自分が受けた毒泥の発作を1時間だけ抑えるアドレナリン。

直前まで毒に耐え続けていたダイヤは、この薬で一時的に回復。視界や聴力、指先からつま先まで、自らのベストコンディションを確かめていた。

真の敵なら確実に持っているはずの治療薬を奪取するチャンスを逃さないための、NAU科学班の全てを注ぎ込んだ逸品であった。

 

(ダイヤ、ありがとう…。あなたの頑張り、ムダにはしないっ!)

(ママ…いや、エスカルビー…。

私、戦うよ! 

ママを助けるためだけじゃない…自分の未来は、自分で護りたいんだっ!)

 

「フラックスプロージョン・ビート・エヴォリューション!」

「【[〔ギャアアアアーーーッッッ!!!〕]】」

 

まばゆい星々の煌めきが、クレイドの大半を汚泥ごと吹き飛ばす。

 

「超昂戦士・エスカルビー・アステライズ! 時空を超えて、悪の現場にただいま参上!」

「超昂戦士・エスカ・ダイヤ! 闇に隠れた卑劣な悪意、白き輝石は見逃さない!」

 

「ひゃ…ひゃひ…いいっ…!」

(っ!!)

積み重ねた覇王への階段が瓦解し、今や絶望の崖っぷちのカイン。

その現実を受け止められず、精神が脆くも崩れたところを、クレイドの瘴気に蝕まれ…

 

 《オルタナッ、チューニーーン~グ!》

 

覇王のなりそこないが墜ちた先は、父と同じサイエンフラストだった。

 

「…ダイヤ、一緒に。」

「えっ…ルビー、これは…?!」

ダイヤの双肩には、2対のブースターユニットが現れていた。

 

エスカ・ダイヤのADDDは、ミキが病床のアカリから無断拝借したもの。ゆえに、アステライズフォームも装備されていた。

とはいえ、超昂戦士であっても、誰でもおいそれと、まして初見で使えるものでは無いはずだが…。

 

「あなたなら使えるはずだよ。誰よりも私を見続けてきた、ダイヤなら…!」

「!」

不安に表情を曇らせるダイヤを、優しくも力強く励ますルビー。

(初めて会った日のバトル…ダイヤのデビュー戦だったんだね。それでわかったんだ。

ダイヤは何度も私のバトル映像を見て、自分の動きにしようと、こっそり練習し続けてきたんだ…!)

 

「あなたのガッツ、私に見せてっ!」

「…はいっ! 決めます! 全力で!」

母の信頼に、身が打ち震えるダイヤ。

 

決戦のバトルフィールドは、天井を失い、星空に包まれていた。

雲一つ無い春の夜空に、2つの輝石は、どの星座よりも強く輝く。

 

 「『スターバースト…!』」

 

右から、紅蓮の彗星が。

左から、純白の流星が。

 

 「『エスカレーーションッ!!』」

 《グハ…アッ…、ショ~・テエ~~~ンッ!!》

 

 ドゴオオオォォ…!!

 

閃光の挟撃が遂に、時の狭間に潜み続けた悪を貫く。

 

 「『正義の、勝利です!』」

 

両手を握り締め、ファイティングポーズを…母と同じ決めポーズと勝ち名乗りを決める。

(はあ…はあ…、…やった…!)

エスカ・ダイヤは初勝利と、憧れの戦士との共闘を果たした喜びを噛み締め、熱い胸の鼓動に身を委ねていた。

 

【続く】

 

 




作者の環藍河です。第7話、いかがでしたでしょうか。
本業が年度末デスマ進行のため、投稿ペースが乱れてご迷惑おかけしております。
とはいえ中一日でデリバリーですので、どうか寛大にお許しくださいませ〜。

次回第8話、平和を取り戻した戦士たちに、遂に訪れる別れの刻。乞うご期待(目標は中一日で、火曜投稿予定です)。
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