超昂大戦SS 時駆ける超昂戦士! 未来少女の架けた虹 作:環 藍河
超昂戦士と幻魔の壊滅を目論んだ、科学者の数十年越しの野望は、時を超えた戦士たちの活躍で、未然に阻止された。
……
…
「待ってたわよ、過去のアカリちゃん、ちょっと未来のミキちゃん!」
狂科学者カインのアジトでは、ルビーたちに遅れて入ったダイビートのスタッフが証拠品と研究データを回収中。
そして、この時代のさやかとルカとヒビキが、作戦を完遂したルビーとダイヤを歓迎する。
「戻ってきたアカリくんに一部始終を聞いてから20年あまり。その後産まれたミキくんに知られぬよう、ダイビート一同でずっと秘密にしてきたが、それも間もなく終わりとは…寂しいねえ。」
「こらっ、まだ終わっていないわよ?! 私たちの時代を過去の事象と整合させるまで、油断は大敵っ!」
(?)
さやかが説明する。
確かに今日、ルビーとダイヤの活躍で、危機は回避された。
…だがこのままだと、カインの手引きによるクレイドのダイビート襲撃(および超昂戦士たちの危機)が無くなってしまう。
一見良いことに思われるが、これではミキが過去に跳ぶ理由が消えてしまう。過去のアカリたちが未来の危機を知らないままになり、この作戦自体が消滅してしまう…。
「だから、危機を我輩たちで再現するのさ。
この後、こっちの時代のルビーたち超昂戦士には、我輩謹製のダミークレイドをけしかける。少〜しばかり痛みと麻痺を起こす泥を吐かせて、ダイビートの諸君を泥まみれにしてやるのさ。もちろん無毒だがね。」
「戦士のみんなには治療室で種明かしをするけど…ルビーは今日のバトルの当事者だから、事の顛末…全部知ってるのよねえ…?」
「ご子息の前で、笑わずに演じきれるかねえ? 何なら、ダミーのルビーも作るが。」
…?
………
………!
「あ…あああ〜っ!!」
母と娘が、ようやく言葉の意味を飲み込む。
「つ…つまり、ミキちゃんを、ダイビートのみんながグルになって、ダマすんですかーっ?!」
「わ…私、本当にダイビートが全滅しちゃう、ママが死んじゃう、って必死だったんですよ!
だから時間逆行に飛び込んだのに…!
皆さん、ヒドいですうっ!!」
「わ…わかるけどっ! 悪く思わないでっ!
このダマしが失敗したら、ホントに私たちは絶体絶命なんだからっ!!!」
「あ…あははっ…。」
呆れるアカリ、怒り出すミキ、なだめるさやか。
なお、既にこの時代のアカリからオルバに、オルタナスタインに消滅したフリをしてもらうよう頼んでいるのだが…こっちも不安しか無い。
「そして私が、ことごとく倒れるダイビートの仲間たちを前に、過去に戻ってアカリやみんなを救うんだと宣言する。そこで私の身代わりを決意したミキにD2エナジーを吸われて倒れれば、正史と繋がるわけだ。」
「ヒビキちゃんは、帰ったら満タンまでDチャージよ! ミキちゃんに持って行ってもらうD2エナジー、たっぷり蓄えなきゃ!」
「なっ…! 何をおっしゃるんですか、さやかさんっ!」
…というわけで、時代を股にかけた前代未聞の巨大スケールで送る、超昂戦士の命運を賭けたドッキリ大作戦が始まるのだが…その一部始終は、ここでは割愛する。
…
……
「…よっし、ワクチンの解析完了、危険性は無し! さ、ミキちゃん、腕を出してっ!」
強心剤が間もなく切れるミキに、カインの金庫から確保したワクチンを打つ。
(うっ…く…、うう~っ…!)
「はい、接種完了! これで発作も再発しないはず!」
「あ…ありがとう、ございます!」
「うん…。そして最後に、肝心のミッション。
アカリちゃんをもとの時代に、ミキちゃんをもとの未来に返さないとね。」
「あっ…!」
「アカリ、この珠を必ず過去の我輩に託してくれたまえ。ワクチン組成を解析し、過去のダイビートすべての戦士に接種するんだ。」
ダイヤが回収した珠は、確かに遺伝子マップを記録した幻魔のストレージ記憶媒体だった。
「あとね、出発までに接現力のデータも用意するから。過去の私にダミーの石を作らせて、閃忍さんをこのアジトに潜入させて、囚われた人たちとすり替えてもらってね。この人たちも救わなきゃ!」
「ミキは私をたばかって過去に飛んだそうだからな…たっぷりお説教だ。
あと、アカリはともかく、親バカのお父上は相当のおかんむりだろうな…覚悟して帰れよ。」
…
「…そっか…。お別れだね、ミキちゃん。」
「…はい、私が産まれる前のママ…お騒がせしました。」
わかっていたはずの離別なのに…曇らせた顔を見合わせる、アカリとミキ。
「ま、ビートポータルの準備もあるから、出発は明朝にしましょう。今夜は親子水入らずで語らうといいわ!」
…
……
案内されたのは、ダイビートでは正月恒例の慰安旅行で御用達、郊外の温泉旅館。
平日ながらもなかなかの繁盛だが、2人は人目を避けるため、アカリの時代に無かった離れの庵に通された。いわば家族風呂付きのスイートルーム。
(ゴメンねー、2人を基地に泊めると、アレコレややこしくなるからっ!)
過去のアカリと会いたがる戦士たちの野次馬でパニックになる程度なら良いが、本人同士が出くわしてタイムパラドックスが起きたり、この時代のミキにネタバレしてしまうのは禁忌。
どれが起きてもよろしくないと考え、隔離を兼ねて2人は温泉1泊となった。
「ママ、お背中流そうか?」
「あはは…いらない、いらないっ。」
年の差僅かの不思議な母娘は、最後の一夜に湯煙りの中で語らった。
「終わってしまえば、あっという間でした…本当にお騒がせしました。」
「…ミキちゃん、改めて聞くけど、その…あの、えっと…ね?」
もじもじしながらアカリが尋ねるのは…
「私が選択を間違えると…ミキちゃんは産まれなくなったり、しないの?」
「…あ、選択って、パパのことですか?」
つまりは…アカリの未来の結婚相手。
「そこは大丈夫みたいです。仮にママが…アカリさんが違う相手と結婚しても、そのペアとは別に、私のパパと結婚したママも並行して存在しているんだそうですよ?
だから、私が消えたりはしないんですって。」
(む…難しいなあ…!)
「でも、パパが誰かは…私から教えても科学的には問題ないんですけど…私からは言いません。
ママの自由恋愛を奪いたくないので。
あなたが選んだ人が、私のパパだったら嬉しいな、っていうだけです!」
「ど…努力します…!」
まだお湯に浸かって僅かなのに、のぼせそうになる。
「…あ、ミキちゃん。家出少女の未来は、見つかったかな?」
「えっ…? やだなあ、作り話ですよ、アレ?」
「そうなの? 超昂戦士になりたいのを、パパに猛反対されてる、ってのも?」
「…やっぱりママには、わかっちゃうんですね…。」
家出の話はフェイクだったが、父の猛反対は本当であった。
「…超昂戦士って、大変だよ。
卑劣な敵に何度も罠にかけられて、人間の醜さや弱さだって、いっぱい見せられる。
自分が弱くて未熟で、まだまだだー、ってときは、ホントに悔しいし…。
何より、命の危機。今回はダイヤだって、死ぬ一歩手前だったでしょう?
…ミキちゃんは、それでも超昂戦士になりたいの?」
「…確かに、怖かったです。苦しかったです。
今回、勝手に過去へ来て、勝手に変身して、死にそうになって、ママや皆さんに救われて…。
現実の恐ろしさや、私のダメダメさ…いっぱい、いーっぱい痛感しました。
憧れだけじゃダメだな、って…。」
だが、ミキが続ける言葉は、決意を込めた眼差しとともに。
「でも、私が憧れるダイビートの戦士さんたちは、それも覚悟して戦っているんだって。
自分の未来も、みんなの未来も護れる人は、だからこそ強いんだって、わかったんです。
私もきっと、そんな力をつけて、正しく使えるようになりたい。」
そして最後は、母への感謝を込めて。
「『未』来に、『希』望を…。
パパとママがくれた、この名前に相応しい、そんな私になりたいんです!」
「…そっかあ…。」
……。
(…あれ?)
流れる沈黙に耐えきれず、ミキは母を覗き込む。
「ママ…?」
湯けむり越しに星空を見上げるアカリは、湯あたり以上に顔を赤く染め、瞳を潤ませていた。
「ああ…ゴメンね…。
でも…私のママも…、ミキちゃんのおばあちゃんもね、私がダイビートに入るって話したとき、こんな気持ちだったのかな、って…!」
トキサダと出会い、無鉄砲に、戦いに身を投じた。
でも、それを見守ってくれた父や母は、いま自分が感じている以上に、胸が苦しかっただろう。
そして、それでも信じてくれた父と母の素晴らしさに、アカリは胸打たれる。
「ミキちゃん…。私、頑張るから。
あなたのママになれたら、きっと素敵だろうなあ…。」
春の夜風は、アカリの火照る頬と、ミキの長旅の疲れを優しく冷ましてくれた。
そして二人は翌朝、それぞれの時代へ戻っていった。
(…ホントはね、ママ…。
私の名前、もう一つルーツがあるんだ。
『美』しき『樹』となれ。
…ママとパパを巡り合わせた、あの公園の樹からもらったんだよ…。)
…
……
ここに書き残すアカリとミキの物語は、この後起きうる未来のうちの一つに過ぎない。
確定した一つの世界の歴史だが、他の選択を排除するものではない。
シュレーディンガーの猫箱という概念がある。
箱の中には一定確率で死んでしまう猫がいる。
普通、蓋を開けて猫が生きていたなら、開けた人は「初めから猫は生きていた」と考える。
だが、ある科学者は言う。
猫は箱を開ける前から生きて(死んで)いたのではなく、その時間には生死両方の猫が実存するのだと。
そして、箱を開けた瞬間、生きた猫を抱きしめる自分も、冷たくなった猫に涙をこぼす自分も、両方実存するのだと。
…さて。
ダイビートには今や170名を超える超昂戦士たちが集うが、我々はまだ、箱の蓋を開け、その未来を一つに絞る術を持たない。
だから、ここまでご覧いただいたアカリとミキの物語は、あるいは我々が選び取る正史となり得るし、あるいは選ばれず、別に実存する我々が見届けることもあり得る。
だから例えば、こんな未来を見届ける我々も、きっとどこかに…。
「お初にお目にかかります、敬愛する母上。
先日、閃忍試験に合格しましたが…母上のようになりたくて、辞退しました。」
/『初めまして、母さん…ううん、偉大なヒーローにリスペクトを込めて、先輩と呼ぶべきねっ!』
/〔わ〜…ママってば全然変わらない…。ひいおばあちゃんといい、恐るべし・歴代エリザベス…!
…あっ、一人でべらべらと、ゴメンね~。〕
/《ハロー!! マイマムっ!! さあ、そんな私は何者か?!》
/[もうっ! ちょっとは修練してよっ! 悪知恵だけじゃ生き残れないんだよ!
…ああ~っ! あんたがだらしないから私まで、こんな過去くんだりまで跳ぶハメにい〜っ!!]
「『〔《[私(は)…未来から来た、
あなたの娘(です/よっ/なんだっ/でしたー/なのっ)!]》〕』」
選ばれる未来は…この中の一つかもしれず、はたまたいずれでも無いかもしれない。
だが、ヒビキ、うらら、エリー、イノリ、ライカ…いずれの娘も、アカリの娘・ミキと同じように。
いずれの世界線で、いかなる危機が立ちはだかろうとも、正しく熱い心を抱き、勇敢に立ち上がることだろう。
そして母を…人類の希望を護り歴史を創った超昂戦士を、閃忍を…尊敬し、憧れ、その背中を追い。
母の危機に…ダイビートと人類の危機に絶望せず、果敢に時を超え、未来を護ることであろう。
【完】
長編長文、最後までご覧いただきありがとうございました!
筆者・環藍河より御礼申し上げます。
終わってみれば、自己初の3万字超え(章数は最多の10章に及びませんでしたが、1章あたり分量を大きく取りました)…お付き合い賜りました読者様に、今一度の感謝を。
一応ルビー主役なので、いわゆるオリ主SSではありませんが、それでも読者様を選んでしまうのがオリキャラの厳しいところ。長編を書くたびに頼ってしまっておりますが、何とか魅力的に描けるよう…まだまだSS作者として修行は始まったばかり。忌憚なくご意見賜れば幸いです。
タイムパラドックスは…これを書いている最中に原作でロリ斗羽さんが爆誕し、第2部自体がタイムリープありありの展開なので、
(…斗羽さんも過去から跳んできたら、自分と出会ってやべーんじゃ…?
いやむしろ、自分と出会っても超昂大戦ワールドではセーフなのっ!?)
…とか焦りましたが…結局は、若返って戻れないご本人とのこと。ビバ猫屋敷。
あとは、とにかくトリックも複雑、各キャラの手持ち情報・未知の情報がどこまでかがさらに複雑。
矛盾していないことと、読者様に正しく伝わる表現になっていることを切に祈ります。
(イヤ、マジで神頼みレベルです。ぼっちSS書きですので、校正できる友人がいない…!)
最後に、思いっきりアウトなチラシの裏を。
ミキがお父ちゃんに超昂戦士志願を反対される本当の理由ですが…。
…親子でDチャージなので。
(アウトおーーー!! …いや、アリスなら朝飯前?)
とりあえず、当面はルビーからエナジー分けてもらい、長期的には上弦衆の新頭領(さすがに元服してる歳ですし)に龍輪功の要領で。
後日まとめて、pixiv様にも投稿いたします。
次回作はまだ白紙ですが、新作投稿の際は、是非ともお立ち寄りを。
今後ともよろしくお願いいたします!