スーパードクターU   作:黒い平方四辺形

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オグタマはシングレ時空です。
関西弁はエアプですのでエセでも許して。
長くなっちゃったのでK先生の出番は次回です。


稲妻の行方(前編)

 

 

それは有記念の出走者会見の日。

タマモクロスは、記者たちのインタビューに際し驚きの返答をした。

 

『タマモクロス、この有記念をラストランとする』

 

 

 

 

オグリキャップがタマモクロスを捕まえ、動揺しながら問い詰めた。

 

「どういうことだタマ!私と勝負してくれるんじゃなかったのか!?」

 

「気が変わったんや、すまんな。もうほっといてくれ」

 

「気が変わっただと!?そんなことで…!」

 

激高しそうになったその時、オグリキャップの脳裏に浮かんだのは自身の記憶。

笠松から中央へ移るときにフジマサマーチと交わした会話のことだった。

本当のことが言えずに自分の気持ちを隠したあの時。

タマモクロスもきっと同じだろうと、想像することができた。

 

「…本当の気持ちを聞かせてくれ。何か理由があるんだろう?君はまだ…っ」

 

「やかましい!!!!!」

 

タマモクロスは、体に似合わぬ大きな怒声を響かせた。

 

「…辞める言うたら、辞めんねん」

 

そう言った彼女の顔は悲しみ、怒り、悔しさ、さみしさ、後ろめたさ。

様々な感情が込められているように見えた。

 

オグリキャップにとって、タマモクロスは一生のライバルだと確信していた。

向こうもそうだろうと思っていたのに、違ったのだろうか…。

 

 

 

 

タマモクロスの引退発表以来、トレーニングに熱が入らないオグリキャップ。

心ここにあらずと言った状態で、レースが遠くないと言うのに精彩が欠けていた。

 

心配したベルノライトが声をかける。

 

 

【ベルノライト】

栗毛のウマ娘。オグリキャップとは笠松で出会い、友人となった。

オグリキャップと同時に北原の担当ウマ娘となったが、彼女に比べ実力はかなり乏しく、

笠松のデビュー戦でもボロ負けしてしまう程度。

自分と向き合った結果、競技者としての道は諦めサポーターとしての道を選び、

オグリキャップについて行く形で中央トレセン学園のサポート科に編入した。

オグリキャップからの信頼はかなり厚く、トレーナーと共に彼女の指導を行う。

常識人のため、変人の多い中央ではなかなか慣れない様子。

 

 

 

 

「ねえオグリちゃん、大丈夫?

タマモクロスさんのことが気になるのはわかるけど、

本当に最後になっちゃうなら悔いの残らないレースをした方がいいと思うの」

 

「悔い、か…。」

 

オグリキャップは目を閉じ、あの時のタマモクロスの顔を思い出す。

あの表情、満足なんてしているわけがない。

幾つも悔いが残ってるに違いない。それなのになぜレースから去って行くんだ?

 

「なあ、ベルノ。タマはどうして引退するんだと思う?

私にはタマが本心を言ってるように思えなかったんだ」

 

「本心を言ってない…私もそう思うよ。

でも理由かあ…体がおかしくなったって感じもしないよね。

私も小宮山さんに探りを入れてみたんだけど、はぐらかされちゃって。

でも本人が答えてくれないなら、小宮山さんに聞く以外ないと思う」

 

「そうだな、聞いてみるか。

確かろっぺいの知り合いだと言ってたから、会えるよう頼んでみよう」

 

 

2人は六平の元へ行き、小宮山と話をしたいのでアポを取ってくれと頼んだ。

 

 

【六平銀次郎】(むさかぎんじろう)

北原の叔父で、オグリキャップの現トレーナー。還暦は迎えている。

トレーナーである北原が中央に来られなかったため、

来るまでの間と言うことで代役としてトレーナーを務める。

かなりの実力を持つベテラントレーナーで、若いころから中央でトレーナーをやっていた。

『フェアリーゴッドファーザー』という異名があるが気に入ってはいない。

苗字が読みにくいため、「ろっぺい」と呼ばれることがあるが本人は嫌がっている。

 

 

 

 

「お前らな…俺を便利屋とでも思ってるんじゃねえだろうな?

まあいい。アポだけなら取ってやるから好きにしろ」

 

「ありがとう、ろっぺい」

 

「六平だっつってんだろ。

ところでちょっとベルノ、話があるから来てくれ」

 

六平はベルノライトを誘い、オグリキャップに声が聞こえない位置に連れて行った。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「オグリはずいぶん理由を知りたがってるな。

ありゃタマモクロスが生涯のライバルになる相手だと思ってたからか?」

 

「そうだと思います。タマモクロスさんはオグリちゃんが目標としている人です。

だからきっとなかなか心の整理がつけられなんだと思います。

引退すること自体は受け入れられると思うんですけど、理由もわかってないですから」

 

「まあ仕方ないかもしれねえな。オベイとタマモに負けて以来、

オグリは走ることに迷いを感じているようだからなぁ。

だがよ…小宮山に聞いたからと言って、あいつが答えてくれると思うか?」

 

「…正直、無理だと思います。私が聞いた時もはぐらかされました。

でも、少しならタマモクロスさんの気持ちがわかるかもしれません。

話をすることは無駄にはならないと思いますが…」

 

「その辺理解してるなら助かるわ。オグリのサポートしてやってくれ」

 

 

 

そうして六平にアポを取ってもらい、

タマモクロスのトレーナーである小宮山と話す機会が貰えた。

 

 

【小宮山勝美】

タマモクロスのトレーナー。

ラフな格好をしたボーイッシュな女性で、ガテン系美女と呼ばれたりもする。

タマモクロスからは「コミちゃん」と呼ばれ慕われている。

『フェアリーゴッドファーザー』と呼ばれた六平の弟子でもある。

タマモクロスに対しては献身的なサポートを行っており、

厳格な栄養バランスを考えながら自分で食事を用意するなど、

日常生活も共にすることが多い。

 

 

 

「オグリちゃんとは一度しっかり話してみたかったんだよね!

芦毛の怪物、って名前に恥じない大活躍だもの!」

 

「ありがとうございます。それで、話というのは…」

 

「まあ今のタイミングじゃね。タマちゃんのこと、でしょ?」

 

「はい。タマ…タマモクロスが、どうして引退するのか教えてくれないか?」

 

「引退の理由ねえ…オグリちゃんは聞いたんじゃないの?

有終の美を飾って、綺麗に終われるからってさ」

 

「聞いたさ、でも納得できない。…タマの顔を見たんだ。

とてもつらそうな顔だった。『綺麗に終われて満足だ』なんてこと、絶対にない」

 

「ふぅん。君はそう感じたんだね。でもさ、そう感じたのなら、

『そのうえで君に話さなかった理由があるんだ』、とは思わなかった?」

 

「え…」

 

「『誰にも話したくない』って気持ちは理解できなかったのかって言ってるの。

聞けばなんでも答えてくれると思ってた?

本人が言わないことを、トレーナーの私が喋ると思ってた?」

 

「そ…そういうつもりでは…」

 

「じゃあ何のつもりだったのかな。だってそういうことでしょ?

わざわざ私の時間を取って、こんな話をしに来たんでしょ?」

 

「……」

 

言葉が出ずに俯くオグリキャップを見て、

ベルノライトが口をはさんだ。

 

「あ、あの!私から一ついいですか!?」

 

「なーに?ベルノちゃん。

ベルノちゃんにはこの前少し話したよね?まだ何かある?」

 

「タマモクロスさんの引退の理由、『有終の美を飾る』が本当でも嘘でも構いません。

ただ、これだけ教えてほしいんです。

もしオグリちゃんが、タマモクロスさんとの勝負で勝ったら。

レースで悔しさが残るようなことがあったら、またオグリちゃんと戦いたいと思ったら、

タマモクロスさんは引退を撤回する可能性はありますか?」

 

小宮山はベルノライトの質問を受け、少し考える。

 

「そう来たか。うん…いい質問だね。でも、やっぱり答えられないかな。

まあ…もちろん本人の気持ち次第だから確実なことは言えないけど…

『答えられない』、っていうのでわかってほしい」

 

「…そうですか。ありがとうございます」

 

 

オグリキャップとベルノライトは小宮山の部屋を後にした。

去り際に「有ではよろしくね」と笑顔で言われたが、目は笑っていないようだった。

 

「残念だ。結局教えてもらえなかったな」

 

「しょうがないよ。タマモクロスさん本人が隠してることだもの」

 

「そうだな…仕方がないのか…。

そうだベルノ、さっきの質問はどういう意味だったんだ?」

 

「あれね。まずオグリちゃんに聞くけど、

まだ走れるウマ娘が引退するって例えばどんな理由が思いつく?」

 

「引退の理由…。病気や怪我で走れなくなりそう、やる気がなくなった、

他にやりたいことができた…そういう感じか?」

 

「そうだね。細かく分ければたくさんあるけど、大きく分ければ2つに絞れる。

自分のためと、他人のため、この2つ」

ベルノライトが小さくピースを作る。

 

「自分と、他人…か?」

 

「病気になったとかやる気がなくなったのは自分のためだよね。

他にやりたいことができた、は自分のためのこともあるけど、

例えば家のお手伝いをしなくちゃいけないとか、

他の誰かのためにしなくちゃってことがあると思うの」

 

「確かにそうだ。すると、タマはどちらだろうか?」

 

「もし自分の何かが理由なら、オグリちゃんと勝負して、

レースが楽しい、まだやめたくないって思ったら引退を撤回するかもしれないでしょ?

でも私が聞いたら、小宮山さんはそれもないようなことを言ってた。

だからきっと…自分じゃない何かのためにやめるんだと思う」

 

「自分じゃない何かのため、か」

 

「そうだすると、もう私たちでは何もできないんじゃないかな。

他の人がどうこうできることなら小宮山さんがやってると思うし」

 

「そう、だな…。」

 

ベルノライトの話を聞いたオグリキャップは、状況は理解したようだ。

しかしやはり納得できていないのは、顔を見れば一目瞭然だった。

 

「もっと、タマの事を知りたかったな…。」

 

耳をたらしながら歩くオグリキャップの姿を見て、

ベルノライトは一つの決意をした。

 

 

その夜、ベルノライトは笠松へと電話をかけた。

オグリキャップの相棒、北原と話をするためだ。

 

 

【北原穣】

オグリキャップのトレーナー。

笠松でオグリキャップを見かけ、才能を見出してスカウトした。

オグリキャップには初めは何とも思われていなかったが、

トレーニング等を続けるうちに信頼を得て相棒となる。

オグリキャップの中央移籍に際し、中央のトレーナー資格がなかったため六平に預けている。

資格試験に向けてしっかりと勉強をした結果、普通に落ちた。難しいので仕方ないね。

次回の合格に向けて奮闘中。

 

 

 

「北原さん、少し手伝ってもらえませんか?オグリちゃんのために」

 

『どうした急に。ベルノとろっぺいさんでは手が足りないのか?』

 

「トレーニングとはちょっと違う話です。タマモクロスさんの引退の件、

精神的にオグリちゃんにかなりの影響を及ぼしています。

このままでは有記念で実力を発揮できないかもしれません」

 

『ああ、話は聞いてるよ。

でもそういうのって、今はろっぺいさんがやるもんじゃないのか?

メンタルケアはトレーナーの仕事、残念だが俺はトレーナーじゃない…』

 

「ダメなんです。私もろっぺいさんもあまり変えられなかった」

 

『じゃあ仮に俺がやっても難しいんじゃ…』

 

「オグリちゃんの心を悩まている原因は、

単にタマモクロスさんが引退するからではありません。

引退する理由がわからないからなんです。だから引退に納得ができていない。

心に整理がつけられていないんです」

 

『そういうことか…。じゃあ手伝えってのは…』

 

「はい、タマモクロスさんの『理由』を調べてもらいたいんです」

 

『そういうことなら別にかまわないが…あんまり期待しないでくれよ。

俺は探偵じゃないからな』

 

 

 

電話を切った北原は考える。

 

「つってまあ、俺にできることと言ったらたかが知れてるんだよな。

さしあたっての心当たりは…あの記者に頼んでみるか」

 

 

 

「なんや北原さん。ボクに話って?」

 

「藤井さん。あんたを優秀な記者と見込んで、頼みがあるんだ」

 

 

【藤井泉助】

関西弁の新聞記者。

誰に対しても分け隔てなく接することのできる気のいい人物。

記者としての実力は高く、様々な情報を集め分析もできる。

とはいえこの世界の記者なのでやはり変人であり、

デート中にオグリキャップの追っかけをして彼女にフられた。

オグリキャップが手続き上日本ダービーに出られないとわかった際には署名活動をし、

1万件もの署名を集め直談判をするような熱意と行動力もある。

六平からは蛇蝎のごとく嫌われており、話しかけただけで「塩をまけ」と言われ、

その指示を受けたベルノライトはスイカ大の岩塩を投げつけた。

 

 

 

 

「おうおう、なんやえらく持ち上げてくれるやん。

流石トレーナー、人の使い方がわかっとるがな。で、どんな用や?」

 

「…タマモクロス。彼女の引退の理由を知りたいんだ。

あんたは記者だし、タマモクロスと出身も同じだろう?

何か知ってるんじゃないかと思ってな」

 

「……なんや、そないな話か」

 

ニカニカと笑っていた藤井の顔が、一瞬で真面目なものとなった。

 

「仮にボクがそれを知ってたとして、北原さんに話すと思うんか?

記者にとっての情報はまさに命なんやで?」

 

「勿論タダとは言わん。オグリの情報とか独占インタビューとか、

あんたのことを優遇してもらえるように頼んでみる」

 

「そう言うてもなァ。そもそも、なんで北原さんがそんなこと知りたいんや?」

 

「これは俺が求めてるわけじゃない。

…オグリなんだ。タマモクロスの件で、オグリに迷いが生じてる。

彼女の引退を受け入れられていないんだ。

パフォーマンスが落ちて、このままではレースにも影響しかねない」

 

「ほう、オグリキャップが。あの子、結構サバサバしとると思っとったわ」

 

「けっこうセンチなところがあるんだよ、オグリは」

笠松から中央へ移籍するときのことを思い出す。

オグリキャップは北原との約束に囚われ、走る道を迷っていたこともあった。

 

「お、それ良い情報やな。ラッキー」

 

「てめっ…!そっちは情報隠してるくせにこっちを探んな!」

北原は藤井の頭を軽くひっぱたいた。

 

「いてっ!そら記者やもん、当たり前やないか。

ちっぽけなチャンスを拾って行くんが特ダネの鍵やで」

 

「ふん。俺に教えたくないってんならオグリに直接でもいいんだ。

そうすりゃ有直前の今、オグリの単独インタビューができるぜ?」

 

「ほう、そりゃあなかなか魅力的な話やな」

 

「俺はオグリを助けたい。そんで藤井さんはネタが貰えるし、

オグリが元気になればレースも盛り上がる。

しかも仮にタマモクロスの問題をオグリが解決出来たら引退は撤回されるだろう。

そうなれば今後も面白いレースがてんこ盛りだ、あんただって願ったりだろう?

情報をくれればメリットがたくさんだと思わないか?」

 

「上手い事言うやん、そそられるわ。

でもなあ、ボクはそうそう気軽に協力できる立場やない。

理由を教えるにしてもこれから調べるにしても、

記者として手にした情報は会社の物でもあるんや」

 

「だろうな、だからオグリに関して提供するって条件を出してるんだ。

でもな、もう一つ話がある」

 

「別な話?なんや?」

 

「ここからは俺個人の気持ちを話すが…。

オグリは俺の希望なんだ。アイツがどこまで強くなるのか見て見たい。

そしてタマモクロスがいてくれれば、オグリは心も体も大きな成長を遂げるだろう。

タマモクロスが良いライバルになると、とても喜んでいたんだ。

それにタマモクロス自体も素晴らしいウマ娘。できれば引退なんてしてほしくない…。

あの2人が競い合う姿を見ていたいんだ。

それが叶う可能性があるのなら、俺はそれを追いかけてみたい。

それに、どれほどしっかりしてると言ってもあいつらはまだ子供だ。

困難なことがあるのなら、大人の俺たちが支えてやるべきなんじゃないか?」

 

「う~ん…気持ちはわかるけどな。

でもボクのところに来る前に、タマモクロスや小宮山さんの所には行ったんやろ?

それで教えてくれなかったであろうことをボクが喋るん思うんか?」

 

「その2人は決して話さない、だからあんたに頼みに来たんだ。

さっきから思ってたけど、あんたやっぱり知ってるんだな?

情報を知ってる感じが端々から感じられるし、一度も知らないと言ってないし」

 

「な、なんのことかなァ」

 

「頼む!オグリを救うと思って!

タマモクロスが辞めるのはもう仕方ないだろうが、

オグリにそれを受け入れさせる必要があるんだ。

納得できればあいつは前に進める奴なんだ。

理由を知りたいだけだ。他に話したりはしない。頼む!」

 

「はあ…なかなか熱いやっちゃな、北原さんは。

わかったわ。記者には守秘義務自体はあらへんしな。

オグリキャップと直接話させてくれるんやったら、オグリキャップには教えたる」

 

「本当か!?助かる!!」

 

「ボクがこないな事したのは絶対に秘密やで?

この情報はボクの個人的なルートで知っとることやから、会社を裏切ることにはならん。

でも、すぐ喋るやつって軽んじられても困るんでな」

 

「わかった、恩に着る。オグリにはすぐ連絡するから、明日にでも行けると思う」

 

「おう、頼むわ。ボクもオグリキャップには元気になられた方が楽しいしな。

まあきっと…聞けば納得はしてくれるとは思うで」

 

 

そうして北原はオグリキャップに事情を報告し、

オグリキャップは藤井と会うこととなった。

 

「オグリキャップだ。よろしく頼む」

 

「おう、記者の藤井や。よろしゅうな。直接話すんは久しぶりやね。

今日は単独インタビューってわけやけど…」

 

藤井がオグリキャップの横を見る。

そこにはベルノライトが堂々と座っていた。

 

「彼女はなんや?」

 

「彼女はベルノライトだ。サポーターとして私を支えてくれている。

とてもいいウマ娘だぞ」

 

「あー…紹介してほしいってことじゃないんやけど…単独って言うたやん?」

 

「あ、あの…インタビューで詰まった時があったら助けてって、

オグリちゃんに連れてこられたんですけど…」

 

「ベルノは頼りになるからな。私の相棒だ」

 

「……仲ええんやね。まあええか…。とりあえずインタビューさせてもらうわ」

 

単独独占インタビューという形でこの場ができているため、

藤井とオグリキャップは一通りのやり取りを行った。

しかしオグリキャップはあまり集中はできていないようで、

ベルノライトの支援も多かった。

 

「ふう、お疲れさん。インタビューはこのくらいで満足やな。

2人ともいろいろありがとうな」

 

「あ、ああ…」

 

「うん、まあわかっとったけどオグリキャップはずっとそわそわしてたようやな。

インタビューに身が入ってないのが一目瞭然やで」

取材はある程度できたからええけど、と言いノートを仕舞った。

 

「すまない。でも…

インタビューが終わったのなら、教えてくれるか?タマのことを」

 

「せやな、約束やもんな。じゃあちょっとベルノちゃんには席を外してもろて…」

 

「いや…ベルノにもいてほしい。ベルノは私の相棒だから。

それにこの場を作ってくれたのもベルノだから」

 

「ん?ボクは北原さんに頼まれてきたんやで?」

 

「北原に頼んだのがベルノなんだ。

私のために頑張ってくれていた…。感謝している」

 

「あの…。私も人に話したりしないって約束しますから、教えていただけませんか?」

 

「んー…そっか。まあ1人も2人も変わらんか…。ええよ」

 

「ありがとう。じゃあ教えてくれ」

 

「ああ教えたる。でもな、最初に聞いておきたいことがあるんや」

 

「聞きたいこと?なんだ?」

 

「君らにどのくらい覚悟があるのか、や。

わかっとるか?いくら仲のいいライバルと言っても他人やで。

それが絶対に話したくないと思っとることを暴くっちゅうのがどういうことか?

君らは考えたことがあるんか?もし自分が隠している秘密を勝手に調べられたらどう思う?」

 

「ああ…。そのことはベルノと話し合った。

私はタマの事が好きだ。ずっと一緒にレースをしたいと思っている。

だけどタマは引退すると言った、しかも理由も告げずに」

 

オグリキャップはさみしそうな表情をした。

しかしすぐに拳を握り、力強い表情となる。

 

「タマが何か困っているのなら、もしかしたら私が力になれるかもしれない。

少しでも可能性があるのなら、諦めたくないんだ。

もしどうしても駄目だったとしても、理由が知れれば納得もできる。

これは私のエゴだ。タマのためなんて綺麗事を言うつもりはない。

だけど私にとってはどうしても必要な事なんだ」

 

「このことがタマモクロスに知られたら、たぶんあの子ブチ切れるで?」

 

「それでも、だ。タマに後で土下座して謝るつもりだ」

 

「ふう…レースと同じで猪突猛進やね。やりたいことに突っ走る。

それが強さの秘訣かなァ。よー分かった、約束通り教えたるわ」

 

「ありがとう…!それで、理由はいったいなんなんだ?」

 

「教えたるけど、ボクの口からは話さん約束でな。この人に会いに行って話をしてみ。

ボクがぎょうさん世話になった人なんやけど、この人に話を聞けばそれでわかるやろ」

 

そう言って藤井は住所の書かれた紙を手渡した。

そこに書かれていたのは大阪の住所、そして病院の一室のようだった。

 

「これは…病院の住所…?」

 

「ボクから聞いたとは絶対言わんどいてな。ボクがぶっ飛ばされてまうから」

 

「わかった、ありがとう」

オグリキャップはその紙をしっかりと握りしめる。

 

「こっちもインタビューありがとうな。

じゃあ…レース頑張ってな。応援してるで」

 

 

藤井から住所を受け取ったオグリキャップたち。

大阪なので割りと遠い場所である。

 

「この住所、大阪の病院だね。結構遠いけど行くしかないかな」

 

「今すぐ行こう。ぐずぐずしているとトレーニング時間が減ってしまう」

 

「今すぐ!?…いや、でもそれがベストかも。

今すぐ行けば夜には着くから、明日の朝一で病院に行けるね」

 

「よし、行くぞベルノ!」

 

「わかった!六平さんに話してくるね!」

 

その時のオグリキャップは、希望を持った元気な顔であった。

それを見たベルノライトはの心は少しだけちくりとした。

こんなに意識してもらえて、タマモクロスさんが羨ましいな。

私もオグリちゃんとこんな「ライバル」になりたかったな…。

 

 

 

 

オグリキャップはとベルノライトは六平に状況を話した。

大阪まで行くことは許可されたが、

2人だけでは心配ということで六平も同行することとなった。

 

即座に準備をして大阪に向かい、翌日の朝、その病院へと向かう。

そして指定されていた病院の一室に行くと、年老いた男性がベッドに寝ていた。

 

 

「初めまして、オグリキャップだ。あなたと話がしたい」

 

「なんや…?オグリキャップがどうしてここに?」

男性は驚いた顔でオグリキャップを見た。

会ったこともないオグリキャップが突然現れたのだから当然だろう。

 

「おう三錦、ずいぶん久しぶりだな。まさかお前さんがいるとはな。

なんだ、調子悪そうじゃねえか?」

オグリキャップの後ろから六平が顔を出すと、また更に驚きの表情をした。

 

「む、六平さん!?なんでここに!?いや、ほんま久しぶりやな。

オグリキャップのトレーナーやっとるとは聞いとったが、そっちは元気そうやなあ」

 

 

【三錦】

タマモクロスの元トレーナー。大阪でウマ娘のクラブを経営していた。

『フェアリーゴッドファーザー』の六平や、『魔術師』の名瀬父とは近い世代であり、

担当同士の対戦が何度か行われている。

タマモクロスが小さかったころに出会い、彼女に走る楽しさと技術を教えた。

タマモクロスがある程度成長してからは実力的に中央に行くべきと考え、

中央にいた小宮山トレーナーに託して送り出した。

タマモクロスからはおっちゃんと呼ばれ、今も慕われている。

 

 

 

「トレーナーっつってもオレは代理だけどな。

それにしてもお前さんと会うのは何年ぶりだ?もう記憶にねえな。

まあ俺の事はいい、オグリが話があるそうでな…」

 

「オグリキャップがか?話ってなんや?ワシとは会ったことないと思うけど…」

 

「ああ三錦さん、初めましてだ。お近づきの印にこれを…」

そう言ってオグリキャップが取り出したのは、山のように爆盛りされたフルーツ籠だった。

 

「うおおおっ!!?あ、ありがたいけどワシはこんなに食えねえな!?

誰かほかの連中に配ることにさせてもらうわ。で、用事はなんや?」

 

「私の用事はタマ…タマモクロスの事なんだ。

タマが引退するつもりなのは知っているだろう?その理由が知りたかったんだ。

そうしたら、あなたに聞けば分かると聞いて…」

 

「………タマモクロス。」

 

三錦はタマモクロスの名に強く反応した。

 

「ワシに聞いたら、ってのは誰から聞いたんや?六平さんか?」

 

「俺じゃねえ。お前さんがここにいることを知ったのはたった今だ」

 

「誰からかは…話せない。藤井さんは誰から聞いたか教えるなと言っていた。

だから言うことはできないんだ。すまない」

 

「……あの野郎、ワシの身体が動けるうちにぶん殴っておかねえとな」

三錦はこぶしを手のひらにパン、と軽く叩きつけた。

 

「そんときゃ俺も加勢してやるぜ」

藤井が大嫌いな六平もそれに乗っかった。

 

 

「まあええわ、ここまではるばる来てもろたんや。

まさかマスコミに話そうとか思っとるわけやないんやろ?

六平さんもオグリキャップも変な人ちゃうやろし、話ならしたるわ。

あと、そこの…」

 

「あ、私はベルノライトと言います。オグリキャップのサポートをしています」

 

「ベルノライトか。うん、君も一緒でええやろ。でもくれぐれもオフレコで頼むで」

 

「ああ、人には話さない。ただ私が納得したいだけなんだ。

それに何か困っているのなら助けになれるかもしれない」

 

「そうか。まあ力になるんは無理やろうけど…」

 

三錦がタマモクロスとの思い出を浮かべながら、理由についての話を始めた。

 

「タマモクロス。あいつが辞めるのはワシのためなんや」

 

「あなたのため…?」

 

「ワシはタマの元トレーナーでな。

あいつがチビのころに出会って、そこからしばらくワシが教えてたんや」

 

「ワシがやってたクラブでな、今よりもよっぽどちっちぇえタマが見学に来た。

そん時は豆粒かと思うようなチビやったが…試しに走らせてみたらびっくりや。

粗削りなのに魂を感じる走り…それに並々ならぬ才能を感じてな、

授業料要らんからうちに来いってスカウトしたんや」

 

「タマ自身もようさん楽しそうに走っとったな。

そんでしばらく一緒にやって、めきめき成長してくれてなぁ。

うちのエースとして活躍してくれて、こっちでは有名なウマ娘になった」

 

「でもこっちは阪神レース場があるとはいえ、東京には規模で及ばへん。

中央でも十分通用するあいつをこっちに押しこめたくなかったんや。

だから信頼できるトレーナー、中央の小宮山さんに頼んで送り出した。

彼女は六平さんの弟子やし、たぶん君らも知っとるやろ?」

 

「そこから中央に行って、勝ったり負けたりしながらだが順調に成長して。

いまやあの中央においても最強のウマ娘と呼ばれるようになった。

そんなタマを見てワシもうれしゅうなったわ…。」

 

「そんで先月の事や。ワシが具合悪うなって、病院で調べて貰ったら癌だとよ。

ワシが病気なのは見ての通りやけど、これが結構やばくてなァ。

もう長いことあらへん、持っても2年程度やろって話になったんや」

 

「んでなあ、これがタマに伝わっちまったのが良くなかった。

が控えてるやろ?ここで動揺するようなことはさせたくなかった。

まあもうじき死んでまうし、正月には帰郷して顔を見せに来るやろうから、

が終わったら話すつもりだったんやけどな」

 

「まあとにかくタマに話が伝わっちまって。

そしたらあいつ…ワシの死に水を取りたい言うたんや。

レースやトレーニングやで方々を飛び回ってたら、

死に目に会うどころか葬式にも出られんかもしれんからってな。

だから競技者を引退して、こっちで仕事しながら俺のサポートをするってな」

 

「タマは小せえ頃に父親を亡くしててな、母親と一緒に苦労した生活をしていた。

ワシはあいつの才能にほれ込んでたから一緒に過ごすことも多くて、

あいつにとっては父親代わりみたいに思ってくれたんやな。

だからワシが死ぬっちゅう話を聞いて、死に目に会いたいと思ったんやろうな」

 

「もちろんワシも言ったで?お前がそんなことする必要はないとか、

タマが元気にレースしてる姿を見た方が長生きできるとか。

ワシかてあいつにレースをやめてほしいわけがないからな」

 

「でもあいつも頑固でなあ…ワシが何言っても折れてくれんかった。

しかも会見でも辞めることを言っちまったろう。

もう決めちまったもんは仕方ねえ…と諦めたところや」

 

「だからすまんな、タマが辞めるのはワシのせいや。

だけどワシは癌で転移もしまくりの、お医者さんが匙投げるようなレベルやし、

君らがどうこうできるわけもないわな。

タマの説得はワシも無理やったし…悪いけどタマの事は諦めてくれんか?」

 

 

「そうか…。タマは、あなたのために辞めるのか…。

私は…タマと勝負するのが何よりも楽しみだったけれど、タマにとっては違うんだな…。」

 

「ちょ、ちょっとオグリちゃん!それは失礼だよ!

タマモクロスさんはそんな簡単に割り切れる気持ちでいるわけじゃないよ。

オグリちゃんだって見たんでしょ?本当はやめたくないって顔を…」

 

「そっ…そうだな、すまない。間違ったことを言ってしまった」

 

「ええ、気にすんな。でもタマのことを悪く思わんでやってな。

悪いのはワシなんやからな…。

まあとにかくそういうわけや。残念やがどうしようもあらへん」

 

「ふん、お前がくたばっちまうとは残念だぜ。結構いい腕してたのにな」

六平が名残惜しそうに言った。

 

「六平さんに言われると嬉しゅうなるな。若いころは結構負けとったが、

最後にタマがあんたの教えるオグリキャップに勝って勝ち逃げさせてもらうわ」

 

「バカ野郎、勝つのはうちのオグリキャップだ。

それにそうすりゃ『負けて悔しい!』っつって、

引退を撤回するって可能性もゼロではないんじゃねえか?」

 

「う~~~~~ん…まあ…そりゃ未来の出来事やさかい、ゼロとは言えんけどな」

 

「あの。タマモクロスさんの気持ちを変えることが無理だとして、

それならあなたの体が治る可能性というのはないんですか?」

まだ諦めきれない表情のベルノライトが質問を投げかけてきた。

 

「あー無理無理。さっき言うたやろ、転移済みの癌で医者も匙投げとる。

なんや元々の癌がどこにあるんかわからへんっちゅう話や。

抗癌剤とか放射線治療とかやって延命するのが関の山だとよ。

そんでもせいぜい2年がいいとこやと」

 

「そうですか…そんなに悪いんですね…」

 

「まあ、なってもうたもんはしゃあないやろ。

オグリキャップ、タマもお前さんのことを気に入っとる。

残念だろうとは思うがもう諦めてくれ。引退撤回さすんは諦めて…

思い出として最後に有でタマといい勝負してやってくれや」

 

「……そうか。わかった。

私もタマといい勝負をしたいな」

 

「おう、よろしく頼むで。

それにしても死ぬ前に六平さんに会えるとはなァ。

せっかくの機会や、今夜どこかで一杯どうや?」

 

「バカ言うな、病人のお前さんを連れまわせるか。

まあ、くたばる前にもう一回くらいその面拝みに来させてもらうぜ。

今日は帰るわ、オグリのトレーニングもあるんでな」

 

「はは、そらそうや。ほなおおきに」

 

 

 

病室を後にした3人はしばらく無言のままだったが、

数分ほど歩いたころ、六平がオグリキャップに話しかけた。

 

「どうだったオグリ。タマモクロスの引退に納得はできたか?」

 

「う…ん。理由はわかった、納得もした。でも…でも。

本当に諦めなくてはならないのか?」

 

「それ以外にあるか?原因のあいつが直接説得しても無理だったんだ。

オグリが説得しても無理だろうよ」

 

「なら…体を治すのはどうだ?」

 

「それも無理だって言われたでしょ。もう諦めようよオグリちゃん。

最後に全力の勝負をしてあげようよ」

 

「うう…やはり諦めなくてはならないか…」

 

「癌は転移すると治療が途端にきつくなるって話だからな。

そんなのを治せるような医者がいたら神様みたいなもんだぜ」

 

「医者の神様か…そんなのいるはず…」

 

 

諦めかけたオグリキャップが俯き耳が垂れる。

だがその時、オグリキャップの脳内にある情景が浮かび上がった。

 

 

それはオグリキャップが幼いころの記憶。

幼い自分と母、そして一緒にいたのは大柄な男性だ。

 

『わーっ、走れるぞ!私の脚がこんなに動くの初めてだ!』

 

『ふっ、それは良かった。これで君はもう自由に走ることができるだろう』

 

『色々ありがとうございました。オグリは生まれつき脚が弱くて、

立って歩くことすら奇跡だと言われたくらいなんです。

こんなに走り回れる日が来るなんてないと思っていました』

 

『お役に立ててよかった。ウマ娘は走ることが生きがいの者が多い。

幼いうちからそれが閉ざされていては、かわいそうですからね。

一番はオグリキャップさんを褒めてあげてください。

手術を受ける勇気、手術に耐える根性、リハビリに挑む努力。

そしてあなたも毎日マッサージをして献身的にサポートを行ってくれた。

それらが彼女を元気にしたのです。私はそれを少し手伝っただけですよ』

 

『いえいえ、謙遜なさらないでください。本当にありがとうございました』

 

『もしまた何かあったら連絡してください。きっと私か…代理の者が。

あなたたちを治すために全力を注ぐと約束します』

 

『心強いです。もし何かあったら頼らせていただきますね。

ほら、オグリももう一回ちゃんとお礼をいいなさいな』

 

『うん!おじさん、ありがとう!』

 

『こら、おじさん呼ばわりしちゃだめでしょ。先生って言いなさい』

 

『はーい。じゃあもっかいだ!ありがとう、えっと―――』

 

 

 

「……K先生」

 

オグリキャップがぼそりと呟いた。

 

「オグリちゃん、今何か言った?」

 

「そうだ、しばらく忘れていた。私が小さいころ…私の脚はとても弱かった。

走ることなんて一生無理だと言われるような状態だった。

だけどそれを治してくれたすごい医者がいたんだ。だから今私がここにいる。

お母さんが言っていた。世界で最高の名医、治せないものなどないと言われる伝説の医者」

 

「その名を…『ドクターK』、と」

 

 




シングレ時空のタマちゃんなので父親も兄弟も(たぶん)いません。
おっちゃんに関しては独自解釈が多いです。
彼は名前がなかったので適当につけました。
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