スーパードクターU   作:黒い平方四辺形

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老いた狼(前編)

 

夜も開ける前、まだ空が白み始めたころ。

トレセン学園のトレーニングコースには1人のウマ娘の足音が響いていた。

何度も何度もコースを回り、何度も何度もタイムを取る。

そしてそのたびに少し苦い顔をして、また次のトレーニングへと移る。

 

彼女はその後も黙々とトレーニングを続ける。

日が出てしばらく経ち、教師たちが出勤してくるような時間になりようやく脚を止めた。

汗をぬぐい、用具を素早く片付け、あまり人に見られぬうちに帰還する。

帰り際に自分の脚に視線を向けると、ぼそりと呟いた。

 

「まったく…容易くはない、ということらしい」

 

それはかつて『最強のウマ娘』と呼ばれたウマ娘。

ナリタブライアン、そのウマ娘だった。

 

 

 

 

 

 

『ナリタブライアン、故障により出走中止』

 

そのニュースが流れたのは、春の天皇賞直前だった。

ナリタブライアンは脚部に関節炎を発症し、数か月の休養を余儀なくされた。

休養中でも脚以外は万全だと言い、ハードな筋力トレーニングをこなすナリタブライアン。

故障にもひるまないストイックな姿勢は、周囲に畏敬の念を憶えさせるほどだ。

 

数か月の療養を経て、再び走力トレーニングに復帰したナリタブライアン。

周囲の人間のほとんどはそれを歓迎し、トレーナーでさえも素直に喜んでいる。

しかしナリタブライアンの胸中にあったのは全く別の感情だった。

 

(これは…。これが、こんなものが、今の私にできる走りなのか?)

 

まだトレーニングの段階であるためか、

傍から見ている分には彼女の異変にほとんど誰も気づくことはできなかった。

だがナリタブライアンはすぐに理解した。

自分の脚が、故障の前とは異なった動きになってしまっていることを…。

 

 

 

ジャパンカップを控え、前哨戦として挑んだ復帰レース、秋の天皇賞。

観客も、実況者も、トレーナーも、再びナリタブライアンの走りを見られると喜んだ。

復帰レースだというのに、GIだというのに、圧倒的な一番人気。

勝つことは大前提、その上でどのようなレースを見せてくれるのか?

そういった横綱相撲のようなレースとなることを誰もが期待していた。

それほどまでに彼女の実力を誰もが信じていたのだ。

 

だがそのレースの結果は衝撃的なものだった。

 

『まさかまさかの、ナリタブライアン12着!』

 

 

「まだ病み上がり1発目だったから仕方ない」

「もしかすると完治してないのかも」

「完全復活は次回からだな!」

「次は必ず勝ってくれるはず!ジャパンカップに期待!」

 

結果に満足のできない周囲の人々は口をそろえて「病み上がりだから」と説明をした。

それを本心から言っている者もいれば、

そうあってほしいという願望から口にしたものもいる。

いずれにせよ、ナリタブライアンの実力はこんなものではないと思っているものが大半だった。

 

 

 

一方で周囲の大きなざわめきを気にする素振りも見せずに、

トレーニングに打ち込むナリタブライアン。

 

「はあ…はあ…ふう。トレーナー、トレーニングは一通り済んだぞ。次はどうする?」

 

「お疲れブライアン。今日はここまでにしておこう。

まだ病み上がりだからな、やりすぎてぶり返しても困る。

ジャパンカップに向けて調整をしていこう」

 

「そうか、わかった。じゃあクールダウンだけして終わりにする。

また明日もよろしく頼む」

 

「ああ、頑張って行こう!」

 

ナリタブライアンは今までと同じように接してくれるトレーナーを見て、

騒いだりしないことをありがたいと思うと同時に少し落胆もしていた。

 

(病み上がりだから…か。アンタもそういう風に思っているんだな)

 

ナリタブライアンは、自分の脚が故障のする前と大きく違うとわかっていた。

だがそれについて他者に話すことは、トレーナーや家族でさえも一度もなかった。

 

だから観客ならわからなくても無理はないが、だがトレーナーであるアンタもそうなのか?

トレーナーにも詳しい説明をしないことを選んだのは私ではある。

でも、アンタはトレーナーだろう?そう思っていたが、観客の1人だったのか?

トレーナーの事をそれなりに信用していたナリタブライアンにとって、

自分の異変に気付いてくれなかったことはかなり残念な気持ちだった。

 

結局ナリタブライアンはそのことをトレーナーに報告しなかった。

わからないのならば、理解してくれないのならばそれでいい。

私は1人でいいんだ。

自分の胸中に納め、自主トレーニングで補えばいいんだ。

自分の努力でどうにかなるならそれでいい。

勝つことができれば、この渇きを潤わせられればそれでいい。

 

『もっと自由に走ってみるといい』

 

初めてトレーナーにあった時のことを思い出す。

 

(あの時、少しは私の事を理解してくれていたと思ったんだがな…)

 

ナリタブライアンは少しだけ寂しそうな顔をした後、すぐにまた前を向く。

 

(それならば…悪いなトレーナー。私は…今の自分で走ることを選ぶ)

 

トレーナーも理解してくれないのなら、私は自分だけを信じる。

孤高とはこういうものだと思いながらも、それはひどく孤独な心持ちだった。

 

 

 

 

そのナリタブライアンのトレーニングを遠くから見ていた2人のウマ娘。

2人はナリタブライアンの動きを見て微かな疑問を感じていた。

 

 

「怪我は治ったって聞いたのに、なんでだろう…

ブライアンさんの走りを見てるのに、ワクワクしない。

なんだかモヤモヤするよ…。」

 

 

「ブライアンちゃんの走り、やっぱり違う気がするなあ。

この前のレースも12着だなんて…絶対に普通じゃない。

ブライアンちゃん、私の太陽のようなブライアンちゃん。

あなたの輝きがなんだか…翳ってしまっているのかな…。」

 

 

マヤノトップガンとサクラローレル。

2人はともにナリタブライアンに魅せられ、

ナリタブライアンを目標としているウマ娘だった。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ジャパンカップの日。

Kの診療所では、患者が来ていなかったためメンバーはテレビでレースを観戦していた。

 

『ナリタブライアン伸びない!

女傑ヒシアマゾンは2着、ナリタブライアンは6着となりました!』

 

 

「あああ~っ!!ヒシアマゾーン!!惜しかったぞォ~!」

 

ヒシアマゾンの2着を見て涙目になる富永。

彼の推しはどうもヒシアマゾンだったようだ。

 

「ヒシアマゾンさん惜しかったですね。でも私は…ブライアンさんが気になります。

前回は病み上がりだったから調子が戻ってなかったのかと思ってたけれど、

あれから時間もたったのに今回も6着だなんて…」

 

麻上の推しはナリタブライアン。

だが休養からの惨敗続きを見ると、

彼女はまだ治っていないのではないかと考えてしまうらしい。

 

「麻上くんはブライアン推しだったもんね。

正直さ、ヒシアマゾンが勝つかナリタブライアンが勝つかっていう、

この2人の対決になるのかと思ってたんだよね。まあ勝ったのはドイツのウマ娘だったけど…。

6着か…成績だけ見れば悪い数字ではないけど、クラシックで出たダービーよりタイムが悪いね。

なんか調子が戻ってるようには全然見えないな。なんだろう…K先生はどう思いますか?」

 

「ナリタブライアンか?俺は彼女を詳しく知ってるわけではないがな。

だが確かに走りに違和感はあるようだ。

三冠のレース映像を目にしたことはあるが、その時と走り方が違うように感じる」

 

「走り方ですか?フォームとかはそれほど変わってなかったように思いますが。

どのあたりの部分ですか?」

 

「そうだな、この映像でわかるのは踏込みの鋭さや重心移動の素早さの変化か。

見る限り脚の動きが以前よりぎこちないようだ。

それにフォームも重心の位置が少し変わっているな。

やはり怪我が治っていないか、もしくは後遺症が残っているのだろうと思う」

 

「ええっ、今の映像だけでそれがわかるんですか!?さすが先生…。

でもやっぱりそうですか、ちゃんとは治ってないんだなァ」

 

「気になるのは原因だな。ナリタブライアンはかなり有名なウマ娘だけあって、

治療に関しても高いレベルのものを受けているはず。

それでもダメということはおそらく簡単に治せるものではないのだろう…」

 

「ブライアンさんも大変ねぇ。

前にお姉さんのビワハヤヒデさんも怪我をして今もまだ休養中だけど、

姉妹そろって苦境に立たされちゃってるわね。

私はこれからもブライアンさんを応援しますけどね!」

 

麻上はキッとした表情で拳を握った。

 

「よく言った麻上くん!

ネット見ると『ブライアンが弱くなってガッカリ』とか、

冷たいことを言ってる人も結構いるんだよね。

こういう連中はブライアンが好きなんじゃなくて、

強い子にくっついてるのが好きなだけなんだよ、楽だからね。

本当のファンなら落ち目の時にこそ応援するものだ」

 

「本当です!こいつら殴り飛ばしてやりたいわ!

私にもK先生のような医療マッスルがあったらよかったのに…!」

 

憤慨しながら素振りをする麻上を見て、富永とKが一言。

 

「あ、麻上くんがレース会場に行ってなくてよかったなァ…。」

 

「もしかすると俺たちの仕事が増えていたかもしれんな」

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ジャパンカップの直後、トレーナーはナリタブライアンの分析をしていた。

 

 

「やっぱり力が出し切れていない感じだな。

それに以前のような重心の低いフォームも…」

 

その時、コンコンと扉がノックされる音が響いた。

中に入ってきたのはナリタブライアンの姉、ビワハヤヒデ。

 

「突然すまないな、邪魔をする」

 

「ハヤヒデか。珍しいね、君が訪ねてくるなんて」

 

「ああ、なにかと世話をかけている妹のことで話があってな。

世間では『怪我が完治していないのでは』という噂が立っているようだが…」

 

その噂はかなり大きく言われていることだった。

誰もが、ナリタブライアンに『勝てない理由』を求めていたからだ。

本当の実力はこんなもんじゃないと信じたい人々は、

事実も願望もごちゃまぜにして、自分の希望へ辻褄を合わせた言葉を紡ぎだす。

 

「よく言われてることだけど、それはあくまで噂だよ。

走る素振りを見ても、間違いなくブライアンの怪我は治ってる。

病院でCTとかを取ってもらっても特に異常はないって言われたしね」

 

「だろうな。君がブライアンに無理をさせるとは考え難い」

 

姉であるビワハヤヒデは妹のトレーナーに関してもしばらく注視していたことがある。

だが結論としては『信頼に足る人間である』と判断し、

トレーナーがおかしなことをするとは考えていない。

 

「だが、しかし。結果が出ていないのも事実だ。

そんな状況でも、君は『有記念』を走らせるつもりなのか?」

 

「ブライアンが望むならね。人気はいまだに十分ある。

出るかどうかは彼女の意思を尊重したい」

 

「だが次も同じように負けてしまったら、今度は君の指導力に疑問を持たれる可能性もある。

それでも走らせるというのか?」

 

「言ったとおりだよ。彼女が望むなら、俺はそれに応える。

それがトレーナーである俺のやるべきことだから」

 

トレーナーが強い意志を持って答えると、ビワハヤヒデが頬を緩ませた。

 

「ふふっ、なるほど。それを聞いて安心した。やっぱり君は信用できるトレーナーだ。

もし出すつもりがないというのなら、ぜひ出してほしいと頼みに来たんだよ。

だけどそれは杞憂だったな、ブライアンを第一に考えてくれる君なのだから」

 

「そう言ってくれるとうれしいよ」

 

「そんな君だから伝えておこう。秋の天皇賞の日に私が見たアイツの姿を。

いくらなんでも12着という結果で終わるのは私も予想外だった。

でな、レースの後に声をかけに行ったのだが、その時にな…」

 

 

「え、ブライアンが泣いていた…?」

 

「そうだ。アイツが泣くなんて一体いつ振りか私でも思い出せないくらいだ。

それだけブライアンにとっても予想外で辛い事だったのだろうな。

 

だが、アイツはそれでもあきらめるような奴ではない。

それは常に前を向くという心の強さともいえるし、

何があっても止まれないという心の弱さともいえる。

君も分かっていると思うが、アイツは簡単には心を外に出さない。

それも今言ったことと同じで、強さであり弱さだ…」

 

ビワハヤヒデはトレーナーに頭を下げた。

 

「トレーナー、今のアイツには支えてやる者が必要だ。

妹の力になってやってくれ。…頼む」

 

 

 

 

夜のコースに響く足音と呼吸音。

使用時間はとっくに過ぎているため、消灯されており辺りは真っ暗だ。

それゆえにその走る音が響き渡る。

 

「はあ…はあ…」

 

荒い息を吐きながらまだ走ろうとするウマ娘のもとに近づくトレーナー。

 

「もうコースの使用は禁止の時間だぞ、ブライアン」

 

「チッ、トレーナーか…。見つかってしまったか…。

記念は目前だ。悠長なことを言っている時間はない。

なのに、トレーナーは私を止めに来たわけか?」

 

「いや、君の姿を見に来たんだ」

 

「…私の姿を?」

 

「ハヤヒデから聞いたよ。秋の天皇賞、そのレースの後の事を」

 

「……!」

 

ナリタブライアンは、ハッとした表情でトレーナーを見つめた。

 

「君の涙の意味は、今の俺にはわからない。

だけどあのレースは君にとって、とても大きな出来事だということはわかった」

 

「…なるほど、だから私の姿を見に来たというわけか。

それでどうする?有記念の出走は取りやめにでもするか?

レースに負けて涙する…そんな情けないウマ娘には、グランプリに出る資格なんかないと!」

 

ナリタブライアンは睨みつけるような鋭い視線をトレーナーに向けた。

その瞳には、普段の彼女では決してなかったであろう微かに光るものが浮かんでいるようだった。

 

「いや、有記念に出るぞ」

 

ナリタブライアンの鋭い視線にひるむことなく、トレーナーもまた強い視線で答えた。

 

「…なぜ、そうしようと?」

 

「君の涙の意味が少しだけ理解できたからだ。君の心は折れていない。

ならば俺は君の好きにさせる。ウマ娘を支えるのがトレーナーだから」

 

少しの沈黙の後、ナリタブライアンは微かにほほ笑んで言った。

 

「…そうか。悪かった、責めるような言い方をしてしまって。

そして…感謝する。」

 

「勝ってこい、ブライアン!俺は君の強さを信じている!」

 

「ああ、全力で挑もう!」

 

トレーナーは、なぜナリタブライアンの調子が戻らないのかはわかっていない。

彼女が涙を流した真意もわからない。

だが、それでも彼女を信じていた。あの眼差しに込められた強い視線を。

 

 

 

その日のトレーニングを終えて帰宅したナリタブライアンは。

 

「トレーナー、アンタは今の私のことも信じてくれているんだな…。」

 

「………すまない、トレーナー。裏切っているのは、私の方か」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

訪れた有記念の日。

 

 

「どうだブライアン、調子の方は?」

 

「万全だ。アンタがしつこく調整してくれたからな。

全く、24時間体制で管理しやがって。

おかげで自主トレをする時間が1秒もなかったぞ」

 

「はは、おせっかいで悪いな。でも君に勝ってほしいから」

 

「ふん、死力は尽くす。アンタは私を見ていてくれ」

 

「ああ、勝ってこい!」

 

「ああ!」

 

ナリタブライアンとトレーナーは拳をぶつけた。

 

 

ナリタブライアンがコースに出ると待っていたのは、

前回の菊花賞を制したマヤノトップガンだった。

 

「あーっ、ブライアンさん!今日はよろしくね!」

 

「……」

 

ナリタブライアンは無視して歩いて行った。

 

 

「…って、無視するなんてひどいよー!ぶーぶー!」

 

無視されたマヤノトップガンが、すかさずナリタブライアンの前に回り込む。

 

「うるさいな。よろしく。これでいいか?」

 

「よくないですー!マヤはブライアンさんと勝負できるのずっと楽しみにしてたんだよー!?

なんかこう…もっといい感じの対応をしてください!」

 

「なんだそれは…。お前もウマ娘なら、言葉でなく走りで興味を持たせてみろ。

菊花賞を勝ったんだ、十分な強さがあるだろう」

 

「あっ!ブライアンさん、マヤが勝ったことを知っててくれたんだね!

うれしー!ブライアンさんはずっと前からマヤの憧れでね!

菊花賞に出たのだってブライアンさんが出てたから、それを追いかけて行ったんだよ!」

 

「私を追いかけて…?そういえばお前は三冠を狙ってはいなかったそうだな」

 

「あんまり興味なかったからねー。マヤは自分がワクワクできることをしたいだけだから!」

 

「自分楽しめることを…か。ふっ、それには同意する」

 

「あっ、ブライアンさんもマヤに興味出てきた?

今日の勝負、ワクワクしてくれてる!?」

 

「ワクワク、ね…。」

 

ナリタブライアンは目を閉じて少し考え、

 

「想像に任せる」

 

そう言って去って行った。

 

「あっ、まだ話の途中なのにー!もー…。」

 

ナリタブライアンが去った後のマヤノトップガン。

先ほどまでの子供らしい無邪気な表情は消えていた。

 

「想像に任せる、か…。でもマヤ、わかっちゃった。

ブライアンさんは全然、ワクワクなんてしないみたい」

 

 

 

マヤノトップガンの予想は正しかった。

ナリタブライアンの胸中にある気持ちはワクワクという希望の感情ではない。

自分の走りそのものに対するとてつもなく大きな不安。

それでもそれに立ち向かうのは、希望を求める闘いではなく、

絶望に負けたくないという気持ちからくるものだった。

 

 

 

『さあ年末の有記念、ナリタブライアンや菊花賞ウマ娘のマヤノトップガンなど、

大勢の優駿がそろっております!はたしてどんなレースを見せてくれるのか!』

 

 

(今日までトレーナーと共に努力を積んできた。

だがはたして勝てるか…自信はない。私は挑む立場であるからだ…!)

 

(ブライアンさんがワクワクしてないのはなんでだろう?

マヤにあんまり興味がないから?それとも最近負け続きだから落ち込んでる?

でもそれなら、マヤの走りを見せて、いっぱい楽しませてあげるからね!)

 

 

 

『今、ゲートが開かれました!』

 

 

全員がそろって綺麗なスタートを切る。

マヤノトップガンは逃げの構えを取り先頭集団に、

ナリタブライアンは差しの構えを取り後方の集団に位置した。

レースはつつがなく進行し、最終コーナーを回り最終直線へと差し掛かる。

 

 

『ナリタブライアン、絶好のポジションで最終直線へ入ります!

さあ、今日は来るのかナリタブライアン!!』

 

『先頭は菊花賞を制したマヤノトップガン!

ナリタブライアン、必死に追いかける!』

 

『しかし伸びない!ブライアン、ここでもあの驚異的な脚は出てこないか!?』

 

『ナリタブライアン、その差は縮められない!マヤノトップガンの独走だ!』

 

『マヤノトップガン、1着でゴール!菊花賞を制した勢いのままに有記念も制しました!!』

 

 

 

「アイ・コピー!マヤちん1ちゃーく!」

 

マヤノトップガンが勝利を喜びポーズをとった。

その直後ちらりと見た、彼女の視線にあったものは。

 

「はあっ、はあっ。…くそっ。」

 

4着に終わり、肩で息をしながら敗北をかみしめるナリタブライアンだった。

 

(勝てたのはうれしいけど、マヤもあんまりワクワクしなかったなあ。

ブライアンさん、やっぱり調子が戻ってないみたいだもんね。

心の問題か、身体の問題かはマヤにはわからないけど…)

 

 

そしてそのナリタブライアンに強烈な視線を向けるウマ娘がもう1人、観客席にいた。

サクラの一門、サクラローレル。

その瞳に宿る桜の花弁が紅く揺らめく。

 

(ブライアンちゃん、ぜんぜん『らしくない』走りだった。

やっぱり調子が戻ってないみたい。

心の問題か、身体の問題かは私にはわからないけど…)

 

 

マヤノトップガンとサクラローレル。

2人はともにナリタブライアンに憧れてきたウマ娘。

その憧れが今、消えようとしてる。

ならば、この自分がその憧れにできることは…?

 

 

(マヤの憧れのブライアンさん)

(私の憧れのブライアンちゃん)

 

 

(ブライアンさんの強さが失われてしまってるなら、マヤがやることは…)

(ブライアンちゃんの強さが失われてしまってるなら、私がやることは…)

 

 

(ブライアンさんが強さを取り戻せるように、マヤがワクワクを取り戻させてみせる!)

(ブライアンちゃんがこれ以上衰えないうちに、私があなたに止めを刺してあげる。)

 

 

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