スーパードクターU   作:黒い平方四辺形

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時の事務人(前編)

 

 

ここはトレセン学園の最前線、事務室。

大勢の事務員が働いており、それでも毎日様々な仕事がある。

ウマ娘は学生としての側面、アスリートとしての側面、アイドル的な側面。

これらが絡み合っているため、ありとあらゆる業界と関りが起きる。

それを取りまとめる事務作業は、まさに無間地獄の様相である。

レース申請、取材対応、楽曲作成、施設管理、あれやこれやと無数の仕事が湧いてくるのだ。

 

その中でも特に激しく働く1人がいる。

名を駿川たづな。

その手腕により、理事長から全幅の信頼を得ている事務員である。

 

彼女の業務はまさに激務だ。

 

 

 

無許可営業をするゴールドシップの指導。

 

 

「焼きそば~。焼きそばはいらんかね~。1食500円だよ~。

美味くて栄養満点のゴルシ焼きそば、早くしないとなくなるよ~」

 

取材陣やトレーナーが集まるコースの周辺で焼きそば販売をするゴールドシップ。

 

「お、一つ貰おうかな」「こっちは二つ!」

 

「毎度あり!あったけえうちに食ってくれよな!」

 

ゴールドシップは腕がいいため、ゴルシ焼きそばはそれなりに人気なのだ。

にんじんがたっぷり入っており、ウマ娘からも好評である。

 

「まあ、焼きそばですか。これはゴールドシップさんがお作りに?」

 

「おう!あたしが真心こめて焼き焼きして…アッ」

 

ゴールドシップが声のかけられた方を向くと、たづなが立っていた。

 

「ゴールドシップさん!また無許可で焼きそば販売をしてますね!?」

 

「ヤベッ、見つかっちまった!逃げろーっ!」

 

「待ちなさーい!営業は許可を取ってからやりなさいと何度も言ってるでしょう!?」

 

 

 

 

授業をさぼるウマ娘の指導。

 

「午後の授業超ダルだわ~。それに今日は新作の発売日だし。

へへ、最近は結構真面目にやってるし今日くらいサボったっていいよね~」

 

トーセンジョーダンが授業を抜け出し、学外に出ていこうとしていた。

そこに現れる緑の影。

 

「あら、トーセンジョーダンさん。どちらに行かれるんですか?」

 

「ゲッ、たづなさん!!今日は許して、最新のコスメが売り切れちゃうんだって~!

2時間後には戻ってくるから~!!」

 

「それもう授業終わって放課後じゃないですか!戻りなさい!」

 

「いやっ、ここは行くしかないっしょ!!

うおおおお!!いくらたづなさんでも、脚が治った今のあたしなら撒くくらい…っ!」

 

「あっ、こら!待ちなさい…!」

 

トーセンジョーダンが逃走を始めた直後、物陰から飛び出してきた者がいた。

 

「うおらっ!食らいやがれジョーダン!!」

 

「ブゲッ!!!!」

 

飛び出してきたのはゴールドシップ。

勢いよくドロップキックをかまし、直撃したトーセンジョーダンが吹っ飛んだ。

 

「ゴルシかよ!!何すんだコラァ!!!」

 

「何じゃねえ、授業サボってんじゃねえぞ~。

はい、たづなさん。ジョーダンを捕獲したぜ。

これでこの前の分チャラにしてくんね?」

 

「ゴールドシップさん…!ありがとうございます。

でも危ないからドロップキックはやめてくださいね」

 

「善処しまーす。」

 

ゴールドシップは舌を出して一切悪びれない顔でそう言った。

間違いなく今後も続けるやつである。

 

「それではジョーダンさん、教室に行きますよ」

 

「ああ~!!!あたしのコスメが~!くっそー!アホボケゴルシ~!!!」

 

「ちゃんと授業は受けるもんだぜ!じゃあな~」

 

「あ、ちょっと待ってください」

 

ゴールドシップが立ち去ろうとするのをたづなが止めた。

 

「なんだい?アタシも結構忙しい身でな。

地球を守るために火星のドラゴンと合体しに向かわないと…」

 

「ゴールドシップさんはなんで今ここにいるんですか?

あなたも授業中ですよね?」

 

「…………ふっ。」

 

「確保します。一緒に行きましょうね」

 

「バーカ!ゴルシも道連れな!」

 

ゴールドシップはトーセンジョーダンとともに引きずられていった。

 

「へっ、この世界はなかなかおもしれーな…!」

 

 

 

 

 

謎の実験を行うウマ娘の指導。

 

アグネスタキオンが実験室で作業をしていると、たづながドアを開けて入ってきた。

 

「アグネスタキオンさん…!また空き教室を黒焦げにしましたね!?」

 

「うわっ…たづなさんか。いやあ、科学の発展に犠牲はつきものさ。

少々広いスペースが必要だったので使用させてもらったんだが、大失敗だよハッハッハ!

でも安心したまえ、黒焦げにしてしまったことは申し訳ないと思っている。

うちのトレーナー君に頼んで修復作業の準備をして貰っているよ」

 

まあ気にするな、と言う表情で答えるアグネスタキオン。

 

「直せばいいってものではありませんよ!今後気を付けてください!

繰り返すようだったらこの実験室も没収しますからね!」

 

「そっ…!それは困るな。わかった、極力被害が出ないようにもっと考えるよ」

 

「まったくもう…。それにしてもあなたのトレーナーさんは苦労が絶えなさそうですね…。

今日も虹色に発光しながら学内を歩いていたと、いろんな方から苦情が届いてるんですよ?」

 

「うん、あれも実験の結果だから仕方ない。彼も受け入れてくれているので問題はないはずさ」

 

「せめて不気味な見た目になるのは抑えてください…

外部の人に見られると変質者として通報されることもあるんですから」

 

既に学内では発光する人物=アグネスタキオンのトレーナーだと定着している。

もはやそのこと自体を疑問に思うものはおらず、

眩しすぎるとか気色悪いという理由で文句を言われているだけなのである。

ただし外部の人間に見られると頻繁に通報が行く。

 

 

 

 

他者に噛みつくウマ娘の指導。

 

「シンコウウインディさ~ん。またほかの子に噛みつきましたね…?」

 

「し、仕方がなかったのだ。だってあいつがちょっかい出してきたからお返ししただけなのだ」

 

「もう…。だからって噛みつくのはダメでしょう。

噛まれた子は制服に穴が開いたと言っていましたよ」

 

「穴が開いたのか?そ、それは悪かったのだ…」

 

シンコウウインディ、噛み癖のあるウマ娘。

色々な人に物理的に噛みつく問題児で、噛み癖もなかなか治らないが、

少し前に起きたとある事件によって、自分のトレーナー以外の体に噛みつくことは無くなった。

そのかわり物には噛みつくことがあるので、

未だにたづなやヒシアマゾンに度々指導されることとなる。

 

「すいませんたづなさん。

制服は弁償しますし、ウインディには俺からもしっかり言っておきますので…」

 

「トレーナーさん、しっかりしてくださいね。

あまり続くようだと、あなたの指導に問題があると捉えられかねませんから」

 

「はい、すいませんでした。じゃあウインディ、噛んだ子に謝りに行こうか」

 

「い、嫌なのだ。あいつが先に謝ってきたら、ウインディちゃんも謝ってやってもいいけど…」

 

「そういうこと言ってるとずっと仲直り出来ないぞ。

それに、服を破ったことに関してはウインディが良くない」

 

「どうしてなのだ!お前はあいつの味方なのか!?」

 

耳を絞ってトレーナーに詰め寄るシンコウウインディ。

トレーナーは頭をやさしく撫でながらそれをなだめる。

 

「俺はウインディの味方だから、ウインディを嫌う人がいてほしくないんだ。

ウインディはいい子なんだから、過ちをちゃんと謝れる立派なウマ娘のはずだろう?

そういう素晴らしいウマ娘だから俺はウインディを親分として尊敬してるんだよ」

 

「……わかったのだ、ウインディちゃんはできる子だからな。

でも、ウインディちゃんが謝った後はあいつにも絶対に謝らせるからな!」

 

「うんうん、そうしような。それではたづなさん、俺たちは失礼します」

 

「はい、よろしくお願いしますね~。」

 

立ち去っていくシンコウウインディとトレーナーを見つめるたづな。

 

「うーん、トレーナーさんがいうと結構素直ですね。

とても仲がいいようですが、何かちょっと良すぎるような…?」

 

 

 

「ウインディちゃんが謝るなんて、かなり気持ちを我慢しなくちゃいけないのだ。

だからトレーナー、今日はたっぷりとストレス発散させるのだ!」

 

「ちゃんと仲直りできたらね。そしたらいっぱいしていいよ」

 

「よしよし、なのだ!」

 

シンコウウインディのトレーナーは、人前ではどの季節でも長袖でタートルネックを着ている。

その服の下、腕や首筋、肩などには、何者かの歯形がいくつもついていた。

 

 

 

 

 

 

備品を破壊するウマ娘への指導。

 

 

タニノギムレットがトレーニング場を歩いていると、とても蹴り心地のよさそうな柵を見つけた。

 

「ほう、いい柵だ。興奮(エンスーズィアズモス)してきたな…」

 

タニノギムレットは柵を優しく撫でた。

 

「おお…この感触、ワタシの鼓動(カルディア)が跳ね上がる!

間違いない。俺が今日ここに来たのは、こいつが作り出した重力(ヴァリティタ)に引き寄せられたモノ!!」

 

「ならば答えるしかあるまい!!行くぞォ!!!」

 

タニノギムレットが脚を上げ、力を込めると…

その柵へ目がけて全力の蹴りを入れた。

 

木製の柵ではウマ娘の脚力に耐えることはできず、

爆音を放ちながら数多の破片と化し一帯に撒き散らされる。

 

「アーッハッハッハ!!!!この感触、なんという素晴らしさ!!

アーッハッハッハ!!!!」

 

タニノギムレットは楽しそうに何度も何度も蹴り飛ばした。

そのたびに破壊音が響き渡り、柵の命が消えてゆく。

さっきまで柵だった物が辺り一面に転がる。

 

「なんと…なんと素晴らしい!!

しかし、ワタシの美学を受け止めるには、(いささ)か俺の(アガペー)が強すぎたかもしれないな。

だが安心するがいい!お前が砕け散り、冥界(エレボス)へと(いざな)われた後は!

また生命の輪廻に従ってまた別の生を受けるであろう!!」

 

 

 

生命の輪廻(ギム様グッズ)

タニノギムレットが破壊した柵の破片を使用して作られたグッズのこと。

破壊された柵を捨てるだけではもったいないということで、

ファングッズとして活用されるようになった。

ストラップ、ペンダント、木製人形、スマホスタンド等が作られており、

ギムレットファンの方々に大好評発売中。

 

なお、売り上げはすべて破壊した柵の修理代金に充てられている。

しかし売り上げ額は柵の代金よりは安く、破壊を許可されている柵を無視し、

コースに設置してある柵を平気で壊すので、破壊行為をやめろと学園側から何度も言われている。

だが破壊神は止まらない。

 

 

 

「ハッハッハッハ!!!アーッハッハッハ!!!」

 

タニノギムレットが美学(はかい)を貫いていると、背後から声をかけられた。

 

「あらあら…タニノギムレットさん、何をしていらっしゃるんですか?」

 

「フッ、見てわかるだろう。これはワタシの美学、俺の衝動(パトス)!!

我が道を貫くこのワタシの、溢れ出る美学!!ハッハッハ…」

 

タニノギムレットが声のした方に振り向くと、そこにはたづながにこやかに立っていた。

だが、にこやかなのは顔だけだった。その内に秘める地獄の業火のような激しい心持。

まるで彼女の背後には具現化した金剛力士がいるかの如き迫力、

空間が捻じ曲がっているような圧倒的な威圧感を醸し出していた。

 

「……ハッハッハ!!!」

 

タニノギムレットは少しの間、たづなと見つめ合う。

たづなはずっと無言だった。

 

「フッ、たづなさん。この世界において、破壊と再生は表裏一体。

今は創世記における大洪水と同義だが、これから生命が再び地に満ちるであろう…」

 

タニノギムレットはどこからともなく工具と板を取り出した。

 

「俺の破壊(シヴァ)が巻き起こるとき、ワタシの創造(デミウルゴス)が呼び覚まされる!!

アーッハッハッハ!!!!!」

 

タニノギムレットはそう言って破壊した柵の修理作業を始めた。

 

「全くもう…。壊すのはやめてくださいと何度も言ってるのに…」

 

「それはできかねる!!

鳥が空を飛ぶように、魚が海を泳ぐように、ウマ娘が大地を駆けるように!!

これはアダムとイブが禁断の果実を口にしたときから生まれたワタシの原罪!

俺の命が潰えるその瞬間まで、永遠に続くのさァ!!」

 

「だったら私は何度でもやめてくださいと言い続けますからね。

それが私の使命ですから」

 

「クク、たづなさんのそれもまた美学!!

決して相容れないものであっても、俺はその美学に敬意を払おう!!」

 

タニノギムレットが順調に修理を進めていく傍ら、たづなは破壊された柵の片づけをしていた。

 

「今日はいつにもましてバラバラです…。部品に出来る破片が少ないですね…

そうしたら今度は小瓶に詰めたインテリア用のものでも作ろうかしら?」

 

たづなが考え事をしながら片付けていると、突然手に激痛が走った。

 

「あ痛っった!!!つぅ~!!やだ、釘が刺さっちゃった…!」

 

柵に使われていた釘の先端が飛び出ているのに気づかずに強く握ってしまったのだ。

釘は手のひらに深々と刺さり、赤い血が滲みだしてくる。

 

「たづなさん、どうした?おおっと、血が出ているではないか!

ここはワタシに任せて、たづなさんはその傷を洗浄(カタルシス)してくるといい!」

 

「そ、そうします…。ちょっと離れますけど、ギムレットさんも気を付けてくださいね…。」

 

そうしてたづなが保健室に向かうと、保健室は生徒が何人もおり、混んでいるようだった。

どうも模擬レースを走っている最中に、複数人がもつれて転んでしまったらしい。

 

「あらあら、ずいぶん忙しそう。

うーん…私のは釘が刺さっただけですし、洗ってから救急箱の道具で処置すればいいかな」

 

生徒の対処で忙しいなら、自分に手をかけさせるわけにはいかないな。

そう思ったたづなは自分で傷口を軽く洗い、絆創膏を貼った。

その後またタニノギムレットの下へ行き、一緒に片づけと修理を行った。

 

 

 

 

それから3週間ほどたった後。

たづなの手の傷は10日ほどでよくなり、今は完全に塞がっている。

特に問題もなく業務をこなしていく日々が続く…のだが、ある日。

朝、いつも通りの時間に目を覚ましたたづな。

 

「うーん…!なんか最近、体が強張ってる気がするなあ。

筋肉が硬いというか…なんだろ、疲れちゃってるのかなあ」

 

体をぐりぐりと動かすたづな。

最近、どうにも体の動きが悪いような気がする。

 

「熱とかはないみたい。疲れてる感じもあまりしないけれど…

もっとひどくなったらマッサージでも行こうかな!」

 

たづなは深く気にすることは無く、学園へと出勤していった。

 

 

その日の昼、理事長と共に食事をするたづな。

今日のたづなはずいぶんとゆっくり食事を進めていた。

 

「もぐもぐ、もぐもぐ…」

 

「疑問ッ!たづな、食べるのがずいぶんゆっくりだな!

今日の学食は口に合わなかったか!?」

 

「いえ、そういうわけでは~。美味しいですよ!

ただちょっと最近口が開きにくいし、飲み込むのもしづらいんですよね。

喉の調子が悪いんでしょうか?それとも顎関節症とかでしょうか?」

 

「危険ッ!体の不調があるのなら、休んで病院に行ってもよいぞ!」

 

「いえ、休むほどではないんです。

でもありがとうございます、これ以上悪化したら考えますね。」

 

「そうか!だがもし問題があったらいつでも言ってくれッ!」

 

「もちろんです!」

 

笑顔で答えるたづな。

しかし彼女の右手、癒えた傷。

その内側に、かすかにじくじくとした疼きが生まれていた。

 

 

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