スーパードクターU   作:黒い平方四辺形

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名優(中編)

 

記念当日。

この日は大勢の有名なウマ娘が出場するということで、いつにも増して盛り上がっている。

ビワハヤヒデとナリタブライアンが出走し、待望の姉妹対決の実現。

一年間の休養を経てトウカイテイオーが復帰。

その他、ライスシャワーやメジロパーマーなど、人気の高いウマ娘だらけだ。

 

 

『さあ、いよいよ今年もこの日がやってきました。暮れの中山レース場、

吹きすさぶ寒風をも跳ね返すほどの異様な熱気がターフと観客席を包んでいます。

GI、有記念です』

 

『そうですね。豪華メンバーがそろっていますし素晴らしいレースが期待できます』

 

『毎年ファン投票によって出走ウマ娘が決まるこのレース、

今年はGIタイトルを獲得したウマ娘が幾人とおり、

間違いなく今年の総決算にふさわしいレースでしょう。

細江さんのイチオシはどのウマ娘でしょうか?』

 

『まずはビワハヤヒデとナリタブライアンですね。

2人とも故障により長い休養を要しましたが、現在は復帰。

この有の場で待望の姉妹対決が実現しました』

 

『長い間望まれつつも叶わなかった姉妹対決、実に楽しみですね。

また同じく療養から復帰したライスシャワーとトウカイテイオーもいますし、

メジロの逃げウマ娘メジロパーマー、

ビワハヤヒデの盟友でダービーウマ娘のウイニングチケット、

カノープスからはナイスネイチャとマチカネタンホイザもおります。

さあ果たして今年はどのようなレースが繰り広げられるのか!

記念、間もなく本バ場入場が始まります!』

 

 

 

 

 

(ついにこの日が来た…)

 

トウカイテイオーは控室で静かに待機していた。

今日の相手は一筋縄ではいかないウマ娘ばかりだ。

誰もが勝利するにふさわしい十分な実力を持っている。

ボクと同じく怪我から復帰したハヤヒデもブライアンもライスも、

ボクより早く復帰している分、長くトレーニングをしているだろう。

を勝った経験があるパーマーやタンホイザもいるし、

その中で1年のブランクがあり、本格的なトレーニングができた日数で言えば、

1か月ちょっとしかできなかったボクはかなり条件が悪い。

 

「ボクに、勝てるのかな」

 

トウカイテイオーが少し弱気の言葉を発した。

するとそこでノックの音が響く。

訪れてきたのは、トウカイテイオーにとって永遠の憧れであるシンボリルドルフだった。

 

「あっ、カイチョー!」

 

「勝負服を着ているんだな。それを見るのはダービー以来か」

 

「うん。今日はこれで走りたくって!」

 

トウカイテイオーはビシっと決めポーズを取った。

この勝負服にはいろいろな思い出が詰まっている。

今日のこの舞台も、この衣装と共に走りたかったのだ。

この衣装はボクに勇気を与えてくれる。

だけど、それでも拭いきれない不安があった。

 

「ねえ、カイチョー。変なこと聞いてもいい?」

 

「なんだ?」

 

「カイチョーはさ、どうしてた?絶対に勝ちたい、そういう気持ちの時」

 

トウカイテイオーはシンボリルドルフの目を見つめながらそう言った。

シンボリルドルフは見つめられる表情、微かに震える手、

それを見てトウカイテイオーが不安を感じていることを察する。

 

「…難しいな。レースに出る全員、勝ちたい気持ちは同じはずだ。

勝利のために己を練磨し、力を高め、集中し、勝負に挑んでいる。

にもかかわらず、たとえどんなに万全で最高潮だったとしても勝負の綾はある。

レースに絶対はない…。

だが自分の中にある信念、絶対に揺るがない気持ち、これは誰にも動かせない」

 

「信念…」

 

トウカイテイオーは自分の歩んできた道程を思い返した。

何度も負けて、何度も怪我をして、何度も失ってきた夢がある。

それでもボクはまだ走る。なぜならボクにはまだ信念があるからだ。

 

「カイチョー、ありがとう」

 

「少しは参考になったか?」

 

「うん。見ててね、ボクの走りを!」

 

 

 

 

 

『さあ、ウマ娘が続々とターフに姿を現しました。

まずは小さきヒーロー、ライスシャワー!』

 

『宝塚記念で怪我をして以来長い休養に入りましたが、先日のオールカマーで復帰。

勝利は逃したものの、復帰した姿を私たちに見せてくれました。

は長距離ですから、ステイヤーとしての走りに期待が高まります』

 

 

『次は爆逃げウマ娘のメジロパーマーですね』

 

『逃げウマ娘としての素質は一級品です。

スタートまもなく先頭に立ってペースを作れば、2連覇も十分あり得ます』

 

 

『長距離ならば他者に引けを取らないこのマチカネタンホイザも怖い存在ですね』

 

『彼女も有で勝利の経験がありますからね。

今回は転倒して鼻血を出さなければいいのですが』

 

 

『ナイスネイチャもブロンズコレクターの名を返上し、有の栄誉を手にしたいところ』

 

『チームメイトに先を越された悔しさがあるでしょうね。

ここで勝利してカノープスの力を見せつけていきたいところです』

 

 

『ジャパンカップでは世界の名だたる強豪をねじ伏せ、価値ある勝利を収めたレリックアース』

 

『世界に通用する実力を証明したジャパンカップは素晴らしかったですね』

 

 

『その向こうに見えるのはBNWの1人、ウイニングチケット』

 

『ダービーで勝利した勢いをここでも発揮してほしいところです』 

 

 

『そして一年ぶりにターフに姿を見せたトウカイテイオー、

休み明けもなんのその、四番人気で有記念に挑みます』

 

『彼女の復帰を多くの方が待っていましたからね。

応援する気持ちがこの人気の高さに表れているようです』

 

 

 

『おっと、そして大注目のビワハヤヒデとナリタブライアンです!

一番人気と二番人気、ファンの期待に応えることができるでしょうか!』

 

『ビワハヤヒデは復帰以来十分に力を発揮してきましたし、

ナリタブライアンは復帰後はしばらく不調に苦しみましたが、

阪神大賞典から本来の力を取り戻し連戦連勝。

この有と言う大舞台で念願の姉妹対決、期待せずにはいられませんね』

 

 

 

ターフに出たテイオーが深呼吸をする。

 

「……やっと、戻ってきたんだ」

 

一年ぶりのターフ。芝のにおい、観客の歓声、ライバルたちの足音。

待ち焦がれた舞台へと自分が戻ってきたことを実感する。

 

「テイオー」

 

ターフの風を感じているテイオーのもとに、ナイスネイチャが現れた。

 

「ネイチャ…」

 

「あんたがどんな状態でどんな走りをしようと関係ない。

私はただあんたより、他の子たちより先にゴールするだけ」

 

「うん。ボクも誰にも負けないから」

 

「いいレースにしようね。それと…おかえり。テイオー」

 

「…ただいま!」

 

ただいま、か。そうだよね、ボクはここに帰ってきたんだ。

観客席を見渡すテイオー。こんなボクを今でも応援してくれる人がたくさんいる。

なんて嬉しいんだろう。そして―――

 

「見ていてくれるよね、きっと」

 

 

 

 

レース場には来たものの、レースが見える位置には足がすくんで進めないマックイーン。

 

(怖い…怖くて見られない。テイオーを信じたい…だけどもし負けたらわたくしは…!)

 

この日までに、テイオーがどれだけ頑張ってきたのかを知っている。

だけど、だからこそ、それが報われなかったら、負けてしまったら。

努力をしてもどうにもならない現実を見せられてしまったら…。

 

テイオーが走るのを諦めそうになっていた時、自分たちは彼女を励まし続けてきた。

だけどそれは無駄な努力に終わる可能性もあるのに当人に努力を強いるという、

ある種残酷なことだったと、自分が同じ立場になって初めて理解した。

 

(わたくしは…どうすればよいのでしょうか…)

 

 

 

 

 

『場内にファンファーレが響き渡ります。

さあ今年のナンバーワンを決める有記念、各ウマ娘、枠入りは順調に進んでいきます』

 

 

トウカイテイオーがゲート付近に行ったとき、後ろから声をかけられた。

 

「やあトウカイテイオー。療養明けだというのに調子は良さそうだな」

 

「お前も走れるようになったわけか。会長が喜んでいたぞ」

 

「あっ、ハヤヒデとブライアン」

 

「私たちも大きな怪我で苦労したからな。君も治ったようで幸いだ。

今日はいい勝負をしよう」

 

「うん。一番と二番人気を2人が持ってって、世間では姉妹対決だって騒がれてるけどさ…」

 

トウカイテイオーが鋭い表情となり宣言した。

 

「勝つのはボクだ」

 

ビワハヤヒデとナリタブライアンは、その気迫に少し驚いたようだった。

 

「ほう…気力は衰えるどころか以前より増しているようだな。

どのような走りを見せてくれるのか、楽しみにしているよ」

 

「テイオー、私はお前の前向きな姿勢は嫌いではなかったが…

今日のその顔が一番気に入ったぞ。だが、勝つのは私だ」

 

2人は小さく笑みを受けべ、ゲートへ入っていった。

それを見届けた後、トウカイテイオーもゲートへと入る。

 

(見ていてマックイーン。ボクは、絶対に勝つから)

 

 

 

『それぞれ真剣な面持ちで、応援を送るファンの期待に応えるべく、

ゲートが開く瞬間を待っています。

最後に大外、メジロパーマーがゲートに入ります。さあ14人、ゲート入りが完了しました』

 

ゲート入りが終わり、全員が集中し真剣な表情になる。

この有記念、軽い気持ちで臨む者は一人もいない。

全員が勝利を目指し、全身全霊で挑んでいる。

そして今、勝負の時が来た。

 

『今年最後のGI、有記念…今!スタートしました!』

 

 

『各ウマ娘、一斉にきれいなスタートです!

メジロパーマーはやはり逃げ、一気に先頭を取ります!

先行上位の位置を取るのはビワハヤヒデとライスシャワー、

その少し後ろにマチカネタンホイザやトウカイテイオーが続きます!』

 

 

 

 

 

観客席でレースを見つめるみなみが、ますおに対して話し始める。

 

「トウカイテイオーが最後に走ったレースは前回の有記念、

今日のレースは364日ぶり。久々の復帰戦だ」

 

「どうした急に」

 

「過去のGIレース、そこまでの長期休養明けで勝利したウマ娘はいない」

 

「勝てると思うか?」

 

「それ聞いちゃう?去年11着だぞ?」

 

「悪い…」

 

弱気の分析をするみなみに対して、

キタサンブラックとサトノダイヤモンドが少し怒りながら言った。

 

「強い人がいっぱいいて、難しいのはわかっています!!

でもテイオーさんは走ってるんです!」

 

「その通りです!」

 

「「だな!」」

 

 

 

 

 

 

一年ぶりの復帰戦。

トウカイテイオーも、やはり練習と本番の差を感じずにはいられなかった。

 

(本番のレース、やっぱり全然違う。

みんなの息遣い、勝ちたいって気持ち。いろんなものがビリビリしてる)

 

 

 

誰もが自分の描く勝利に向けて走っている。

シンボリルドルフが言っていた通り、レースに勝ちたい気持ちは全員同じだ。

 

(アタシは逃げが命!誰が相手でも逃げ切って勝ってやる!目指せ2連覇!)

 

(勝利の方程式は揃っている!ブライアンにも、誰にも負けん!)

 

(ずっと越えたかった背中が今ここにある。姉貴、私はアンタを越えていく!)

 

(ライスの脚はまだ万全じゃない。

最終直線のスピード勝負より、ハイペースで削ってスタミナ勝負にもっていく!)

 

(今度はカッコよく勝って、鼻血のイメージを払拭してやるぞ~!)

 

(負けたくない!三着でも二着でもなく、一着で必ずゴールに!)

 

(今度はハヤヒデに勝って、アタシの実力をみんなに見せるんだ!)

 

誰もが強い思いを持ってレースに臨んでいる。

今までだって、どのレースだってそうだった。

どれほど思いが強かろうと勝つのは1人。

トウカイテイオーも何度も経験し、十分理解している。

 

(だけど…だけど負けられない。負けるもんか…!)

 

 

 

『先頭は相変わらずメジロパーマー、ビワハヤヒデは現在二番手、

ライスシャワーとマチカネタンホイザがそれに続きます』

 

『トウカイテイオーは少し下がって中団の位置ですね。

一年ぶりのレース、果たしてどう感じているのでしょうか』

 

『大方の予想通り、今年も先頭でレースを作るのはメジロ家の爆逃げウマ娘、

メジロパーマーですね』

 

『そうですね。ただ今年は14人がほぼ10バ身以内に収まっています。

先頭も大逃げと言えるほどの差は生まれていないようです。

ビワハヤヒデとライスシャワーが、

メジロパーマーを逃がさないように距離を保っているのでしょう。

それに後続もつられてか、全体的にハイペースになっていますね』

 

 

 

 

 

テイオーを応援しつつも、不安がぬぐえないスピカのメンバーたち。

 

「頑張れ!頑張ってくれテイオー!」

 

「テイオー、どうなのかしら?」

 

「左脚は病み上がりだ。やっぱり右の踏み込みの方が強いみたいだな」

 

「力のバランスが微妙だけどよ、あんだけ練習したんだ。大丈夫だろ」

 

「全盛期の走りには最後まで戻らなかった。

だけど…最後の最後まで俺たちは応援し続けるからな。テイオー」

 

 

 

 

 

 

 

メジロマックイーンはいまだにレースを見られずにいた。

場内に流れる実況を聞きながら、トウカイテイオーの走りを想像する。

きっとテイオーは今、頑張って、魂を込めて走っているのだろう。

治療とトレーニングを頑張り、怪我を乗り越えたテイオー。

 

 

『だから見てて。マックイーン』

 

 

そう、わたくしに背中を見せるために。

土砂降りの雨の中、わたくしを迎えに来てくれて、励ましてくれた。

度重なる怪我を乗り越え、この有に出走した。

そのテイオーが見てくれ、と言っていた…。わたくしは、わたくしは…

それに応えなければなりません!

 

メジロマックイーンは意を決し、立ち上がる。

そして観客席へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあレースは第4コーナーに差し掛かります。

ビワハヤヒデ、ライスシャワー、レリックアースがじわじわとポジションをあげていく…

おおっと!ここでビワハヤヒデが仕掛けてきた!

菊花賞ウマ娘のビワハヤヒデ!グングンとスピードを上げていく!メジロパーマーを交わした!』

 

(来るがいいブライアン!お前に誇れる、私の姿を見せてやる!!)

 

(絶対に逃がさない!ライスはビワハヤヒデさんについてく!)

 

(行くぞ姉貴!私は今こそ、アンタを越える!)

 

『ビワハヤヒデ先頭!さらに後ろからライスシャワーが…

いや、さらに後方のナリタブライアンがものすごい追い上げだ!』

 

 

 

 

加速するビワハヤヒデ、後方から追い上げてくるナリタブライアン。

その鬼気迫る走りを肌で感じたトウカイテイオー。

ライバルたちの気魄で身も心も切り刻まれそうなほどだ。

 

 

みんなすごいな。みんな強い強い思いを込めて走ってる。

思いだけじゃない、ハヤヒデもブライアンも凄く強い。

ボクに怪我がなくても勝てるかわからないような相手だ。

 

ごめんねマックイーン。ボクはキミのために走るみたいなことを言ったけど…

それ、ちょっと無理そうだ。

 

だって、ボクは…

 

ボクは。

 

 

『ボクが勝ちたい』から、今ここで走っているんだから!!

 

 

 

 

 

 

 

『ビワハヤヒデの加速に引っ張られるように、トウカイテイオーも来ました!』

 

『…えっ?トウカイテイオーが来た!!?』

 

 

 

 

肺が苦しい。だけど破れたって関係ない!

足が重い。でもまだ動く!

ボクは何度も挫けてきた…。

 

トウカイテイオーの脳裏に流れる、これまでの思い。

 

一度目の故障で三冠の夢を失って流した涙。

マックイーンとの勝負で負け、無敗の夢を失って流した涙。

二度目、三度目の故障で走ることを諦めたときに流した涙。

自分が倒すべき相手だったマックイーンが、ライスに敗れたことも。

人が走っているのを、ただ見ていることしかできなかったことも悔しかった。

 

その悔しさと悲しさの中でボクは一度折れてしまった。

だけどターボやキタちゃん、マックイーンたちに支えられてまた立ち上がれた。

だから今度はボクがマックイーンを立ち上がらせる番、そう思ってた。

 

だけどカイチョーに言われて気が付いたんだ。

ボクの中にある『信念』が何か、ってことを。

 

ターボにもキタちゃんにもマックイーンにもトレーナーにもK先生たちにも、

ボクを支えてくれた人たちには全員に感謝してる。

その人たちへの恩に報いたいという気持ちは本物だ。

マックイーンを励ましたいという気持ちも本物だ。

全部本当のことだけど、でも、本当の本当にボクが走る理由…。

それは誰かのためじゃない!ボク自身が走りたいから走るんだ!

 

ボクはカイチョーに憧れてレースを始めた。

だけどボクはカイチョーになりたいんじゃない!

『皇帝』を超える、『帝王』になりたいんだ!!

ボクが今走っているのは、その夢を追いかけているからだ!!

 

誰よりも悔しい気持ちになったのはボクだ!

誰よりも勝ちたい気持ちが強いのはボクだ!

絶対に譲らない!絶対に!絶対に!!

 

絶対は…

 

 

「ボクだ!!!」(ギュッ)

 

 

信念を元に鍛えた右脚と、仲間と医師たちが救ってくれた左脚。

それに渾身の力を込め、地面を抉るように強く強く踏み込む。

 

 

「勝負だ―――ッ!!」

 

トウカイテイオーの叫声が中山レース場に響き渡った。

 

 

 

 

『トウカイテイオーだ、トウカイテイオーが来た!

ビワハヤヒデとの距離をぐんぐん詰める!

残り200を切った!一年ぶりのターフだトウカイテイオー!

追いつくことができるのか!?必死に迫るぞトウカイテイオー!』

 

 

トウカイテイオーの想像以上の走りにライバルたちも驚愕した。

その走りを受け、さらに脚へと力を込めるビワハヤヒデとナリタブライアン。

 

(テイオー…!まさか病み上がりの君が、ここまでできるとはな!

だが勝利は誰にも譲らん!)

 

(テイオー、昔のお前とは走り方が異なるようだ。おそらく怪我の影響か。

だがその強さ、私とは異なり『新しい強さ』を手に入れたか!面白い…!)

 

 

 

今回の有記念。

トウカイテイオーは一年ぶりの復帰であるにもかかわらず四番人気を果たした。

それは彼女の人気を証明するものであったが、

あくまでも『人気』の得票であり、『強さ』を望まれたものではない。

昔のトウカイテイオーならば実力と言う意味での人気を得られただろうが、

今のトウカイテイオーは諦めない姿を応援されているに過ぎない。

ナリタブライアンが強い走りを失いかけていた時、

それでも応援してくれる者がいた時と同様に、

『実力』ではなく『トウカイテイオー』としての人気だった。

 

それゆえにトウカイテイオーがただ走っている姿を見せてくれるだけで観客は満足だった。

勝ってくれればうれしいが、それは求めすぎだと諦めていた者が殆どだ。

走ってくれる、ただそれだけでよかった。

 

だがそのトウカイテイオーが、魂を込めて走っている。

今までの走りとは異なるフォーム、なのにビワハヤヒデを追い抜かんと、

ナリタブライアンを引き離そうと力強く走っている。

それはトウカイテイオーが、怪我に負けず勝利を目指して戦っている証だった。

 

その走りを見たメジロマックイーンは、驚きと感動で涙を流した。

あんな大がかりな怪我と治療を行ったのだから、元のような走りになるなんて無理。

そう思っていたトウカイテイオーが素晴らしい走りをしている。

どんな困難にも立ち向かっていくテイオーの姿、

その誇り高い輝く姿は、自分の心を覆っていた闇を晴らしてくれるようだった。

 

「…行け!!」

 

メジロマックイーンが叫ぶ。

それと同時に、有記念を見ていた沢山の観客も叫んだ。

 

 

「行け!」

トウカイテイオーを応援している大勢のファン。

 

「行っけー!」

BNWを応援していた親子。

 

「行け…!」

はちみー屋の店主。

 

「頑張れ!」

開店準備をするバーテンダー。

 

「行けぇ!」

美容室の店主と客。

 

「行けー!」

キタサンブラックとサトノダイヤモンド。

 

「頑張ってくれ…!」

電車を待つ乗客たち。

 

「行けテイオー!」

アトムみたいな髪型をした番長。

 

「行け!」

チームリギルの東条。

 

「行け…!」

皇帝シンボリルドルフ。

 

「テイオーさん…行け!」

トウカイテイオーの主治医。

 

「頑張れ、テイオーちゃん!!」

病院で中継を見る寺井。

 

「負けるな、ブライアンさん!!」

診療所で観戦する麻上。

 

「テイオーさま…!」

メジロ家のじいや、おばあ様。

 

「テイオーさん、お願いします…!」

メジロマックイーンの主治医。

 

「行ってくれ、トウカイテイオー!!!」

鼻水が出るほど泣きながら応援する富永。

 

「……行け」

そしてドクターK。

 

 

 

 

『追いかけるトウカイテイオー!迫るナリタブライアン!譲らないビワハヤヒデ!

3人の差は1バ身以内、あと少し!あと少しの差が縮まらないトウカイテイオー!

しかしトウカイテイオーが詰める!ターフに舞い戻った帝王がじりじりとその差を詰めていく!

レースは残り100mを切った!最後の攻防!ここで3人が並んだ!3人が並んだ!』

 

 

 

 

 

誰もが自分の勝利を目指して走りぬく。

だが勝つのは常に1人。

この有記念の激闘を制したのは――――

 

 

『トウカイテイオー、トウカイテイオーだ!トウカイテイオー、奇跡の復活!!』

 

 

 

 

「…やった」

 

トウカイテイオーが小さくつぶやいた。

 

 

 

 

『一年ぶりのレースを制しましたトウカイテイオー!

ミラクル、まさに奇跡の…奇跡の復活を見せましたトウカイテイオー、

こんなことがあるんでしょうか。

去年の有記念以来、まさに一年ぶりのレースであります。

トウカイテイオーが見事13人を蹴散らしました!細江さん、しかしびっくりしました』

 

『信じられません。歴史に残る勝利でしたね』

 

『そうですね、ここまで長期休養明けで挑むGI勝利はこれまで無い史上初の快挙です。

三度の骨折で元の走りに戻るのか不安視され、もうだめだと言われていたトウカイテイオー。

怪我に負けない不屈の精神を見せつける歴史に残る勝利となりました!』

 

『一年ぶりのGI出走でこのそうそうたるウマ娘たちを相手に見事な勝利、

トゥインクルシリーズの常識を覆す凄いレースでした』

 

『ビワハヤヒデとナリタブライアン、

最後の直線に差し掛かったときはこの2人で決まったかと思いましたが、

トウカイテイオー、執念ともいえる末脚で見事に勝利しました』

 

『どのウマ娘が勝ってもおかしくない面々でしたが、

最後はトウカイテイオーの信念が勝利を掴みとりました』

 

 

 

2着、3着に敗れたビワハヤヒデとナリタブライアンは、

悔しそうではあったが優しい表情でトウカイテイオーを称賛した。

 

「テイオー、君は大したものだな。素晴らしい走りだった、完敗だ。

また次のレースを楽しみにしているよ」

 

「ふ…まさかこれほどまでに走れるとはな。驚いたぞテイオー。

しかし私は3着か…次こそは、お前も姉貴も打ち倒す」

 

「2人とも…ありがとう!また勝負しようね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「テ・イ・オー!テ・イ・オー!テ・イ・オー!」」」

 

 

『おおっと、ここでテイオーコールが起きています!

日本ダービーの優勝の時と同じ、いやそれ以上の勝者を称える声援が中山レース場に響きます!

多くのファンを魅了するトウカイテイオー、常識を覆し、

諦めさえ置き去りにしたその走りは有記念にまた一つ新しい伝説を刻みました!』

 

 

「帝王は皇帝を超えたかもしれない…!」

 

「天才はいるな、悔しいけど…!」

 

 

 

 

息を整えながらスピカのメンバーに近づくトウカイテイオー。

 

「ありがとう、みんな」

 

「お゙ま゙っ…ずげ…デイ゙…」

「ぐすっ、もう何言ってんのかわかんないわよ…!」

「やったな、テイオー…!」

「ぐすっ、テイオーさんおめでとうございます~!

スズカさんも喜んでくれてますよ!あれ、出ない…」

 

スペシャルウィークはサイレンススズカと繋がっているはずのスマートフォンを覗き込むと、

背後から突然サイレンススズカ本人が登場した。

 

「本当にいいレースだったわ。おめでとうテイオー」

 

「え…。ス、スズカさん!?どうして!?」

 

「ふふ、直接応援したくて飛んできちゃった」

 

「スズカさ~ん!来るなら来るって言ってくださいよぉ~!」

 

スペシャルウィークは、サイレンススズカに泣きながら抱き着いて行った。

 

「アハハ、仲いいな2人は…あっ!」

 

人ごみの奥のほうからメジロマックイーンが近づいてきた。

瞳に涙を浮かべているが、同時ににこやかに微笑んでいる。

その晴れやかな顔を見て、トウカイテイオーも笑みを浮かべる。

 

「えへへっ、見ててくれた?」

 

「ええ…ええ!ありがとう、テイオー」

 

さらに今度は2人の男もやってきた。

Kとメジロマックイーンの主治医である。

 

「素晴らしい走りだったぞ、トウカイテイオー。

俺の予想を大きく超えていた。これも君の努力有ってのものだな」

 

「テイオーさん、お見事でした」

 

「あっ、K先生とマックイーンの主治医さん!

ありがと、見に来てくれてたんだ!」

 

「あら、K先生!?お久しぶりですわ!

しかしK先生はともかく、なぜ主治医までここに…?」

 

「それは、私がお嬢様の主治医だからです。

お嬢様が再びレースに出られる、その可能性の高い治療法を準備しました。

我々メジロ家の医療チームと、スーパードクターであるK先生。

全員が一丸となり、お嬢様のためにご用意いたしました。

お嬢様がその気ならばすぐにでも始められます。いかがでしょうか?」

 

「そ、そのような治療法が…?」

 

「確実に治る、と断言はできません。それに長く苦しい治療となるでしょう。

ですので無理をせず、通常の治療を選ぶのもよろしいかと思います。

しかし…私はお嬢様が再び走る日を夢見ております!

お嬢様、いかがでしょうか…!?」

 

「主治医…ありがとうございます。

わたくしは大丈夫です、テイオーから勇気を頂きましたから。

可能性があるのなら、わたくしはそれを追いかけて見たいと思います。

是非ともお願いいたします!」

 

「お嬢様…!承知いたしました!

お嬢様の脚が治るよう、全身全霊を込めて治療にあたります!」

 

主治医はうれしそうに涙を浮かべていた。

 

「ボクは奇跡を起こしてやった!きっとマックイーンだってできるよ!

それにほら、K先生たちがいるもんね!ボクみたいに治してくれるはず!」

 

「トウカイテイオー、君が走れるようになったのは奇跡ともいえるが、必然ともいえる。

君の回復力は目を見張るものがあったが、それは何よりも君の努力が実を結んだからだ。

俺たちが行った治療も、あくまで君へのサポートに過ぎない。

奇跡と表現するのは簡単だが、簡単ではない道を走りきった、君の努力によるものだ」

 

「そ、そうかな?

でも、それを言ったらやっぱりボクの脚を治してくれたK先生たちの力も相当大きいよ。

ボクの主治医さんと寺井先生、手伝ってくれた富永先生や助手の人たちもね!

みんなが力を合わせれば、出来ないことなんてないってことだ!」

 

「そうですわね!主治医、K先生。わたくしに力を貸してくださいませ。

わたくしもテイオーのように、再びターフに立ってみせますわ!」

 

メジロマックイーンを包んでいた心の闇は晴れた。

トウカイテイオーとまた一緒に走る日を目指し、新しい一歩を踏み出す覚悟を決めた。

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