スーパードクターU   作:黒い平方四辺形

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鼻の血(前編)

 

「むぅ~ん…むぅ~ん…むにゃ…」

 

とある朝、マチカネタンホイザがベッドで横になっていた。

しかしそろそろ起きないと遅刻しそうな時間である。

 

「おマチさん、おマチさん!そろそろ起きないとまずいですよ!

福が離れて行ってしまいますよ!」

同室のマチカネフクキタルがゆさゆさと体を揺さぶると、

マチカネタンホイザはようやく目を覚ました。

 

「ふえ~…おはようございます…フクちゃん先輩…」

マチカネタンホイザは眠そうに目をこすりながら、なんとか起き上がった。

 

「おはようございます、おマチさん。なんだか最近寝起きが悪いですねぇ」

 

「はい~…夜更かししてるわけでもないんですけど…

布団に入ってもすっきり眠れないことが多いんです」

 

「そうですか…体調がよろしくないのかもしれませんね。

わかりました、私がシラオキ様に健康祈願をしておきます!」

 

「ありがとうございます!それが叶えばすっきりお目覚め、ばばば~ん!ってなれますね!」

 

「それでは早速!括目せよ!ここに取り出したるは、

神々の気が集う霊験あらたかな金峰山より産出せしめた水晶玉!

ここに念を込めまして…かしこみかしこみ~…」

 

「おお~!出ました、フクちゃん先輩の祈祷です!なんだか元気が湧いて来たような…!」

 

テンションが少し上がったマチカネタンホイザだったが、祈祷には特に効果はなかった。

しかも遅刻しそうな状態だというのにこんなことを始めてしまったので、

二人とも見事に遅刻し怒られてしまったのだった。

 

【コンディション:夜更かし気味】

 

 

 

 

 

「レシーブ!」「トス!」「アタック!」

場所はトレセン学園の体育館。

そこではウマ娘がバレーを楽しんでした。

 

「うおりゃああああああ!!!!いっけー!イクノ―――ッッ!!!」

 

「任せてください!」

ツインターボが上げたレシーブを受け、イクノディクタスがアタックを仕掛ける。

好位置に飛んだ球は、イクノディクタスの力を最大限活かした打撃となるだろう。

 

 

「うわっ、イクノのスパイクが来る!頼むタンホイザ!前衛は任せるよ!」

 

「ふっふっふ、お任せあれ~!このタンホイザめが防いで見せましょう!」

 

後衛に立って臨機応変な対応を考えるナイスネイチャと、

前衛に立ちブロックすることを目的とするマチカネタンホイザが迎え撃つ。

 

「はあああっ!」

イクノディクタスのスパイクは、マチカネタンホイザの真正面に飛んで行った。

しかしマチカネタンホイザの腕の締めが悪く、防ぎきれず腕の間を通り抜けた球は――

マチカネタンホイザの顔面にシュートされた。

 

「ぶべぇっ!?」

顔面にもろに受けたマチカネタンホイザは、奇声を発して吹っ飛んでいった。

 

「おわあっ!?ちょっ、マチタン!大丈夫!?」

 

「タンホイザさん!?」

 

「うわーっ!!マチターン!!」

 

 

「えへへ…大丈夫です。ちょっと失敗しちゃいましたね」

そう言って起き上がったマチカネタンホイザ。

しかし彼女の鼻からは赤い液体が滴り落ちていた。

 

「大丈夫じゃなーい!!鼻血出てる!!ほらこれティッシュ!!」

 

「し、死ぬなマチタン!!!ターボを置いていくなぁぁぁ!!」

 

「あれま、また鼻血が出ちゃいましたねぇ。大丈夫、こーいうの慣れてますんで!」

慌てる周囲とは裏腹に、平然としているマチカネタンホイザ。

 

「そんなの慣れんな!それにアンタが慣れててもアタシたちが気にするんだっての!」

そう言いながらナイスネイチャがマチカネタンホイザの鼻血に対処する。

 

「すいませんでしたタンホイザさん。私の打ったところが悪かったようです…」

友人を傷つけてしまったことでしょんぼりと耳垂れるイクノディクタス。

 

「気にしない気にしない、私が変なブロックをしたから顔に飛んできちゃったわけですし…」

マチカネタンホイザは慣れた様子で鼻を拭いた。

 

「もう…トレーナーさんにはアタシから言っとくから。

タンホイザは保健室行ってきなよ」

 

「それがいいと思います。私も付き添いますので…」

 

「あ、じゃあターボもついてく!」

 

「ターボはこっち。」

今にも走り出しそうなツインターボを、がっしりと掴むナイスネイチャ。

 

「それでは行きましょうタンホイザさん」

 

「んー、別にいいんですけどねぇ。でもみなさんがそう言うんじゃ、行っちゃいましょ」

 

マチカネタンホイザは、イクノディクタスに引っ張られ保健室に連れられて行った。

 

 

そして保健室へ移動した2人。

「失礼します。先生はいますか?」

 

イクノディクタスが保健室の扉を開けると、常駐している校医が迎え入れた。

「あらイクノさん…と、タンホイザさん。あらぁ、また鼻血出しちゃったの?」

 

「ずいまぜん…ボールを顔にぶつけちゃって…」

 

「私の打ち方がいけませんでした。申し訳ありません」

 

「謝らなくていいっていってるのに~。鼻血なんてもう慣れたもんですから。

ね、先生?」

 

「慣れないでほしいですね。鼻は敏感で大切なところなんですから」

 

校医はそう言いいながら、慣れた手つきで処置を施した。

実はマチカネタンホイザは頻繁に鼻血を吹き出すウマ娘として、

何度も保健室にお世話になっているのだ。

 

「うん、血も大体止まってるし大丈夫そうね。

でも今日はあんまり激しい運動はやめておきなさい。やるなら軽めのトレーニングよ」

 

「は~い…」

 

「大事なくてよかったです。ありがとうございます先生」

イクノディクタスが丁寧に礼をした。

 

「イクノさんも付き添いありがとうね。

一応もうちょっとだけ様子を見ますけど、あとは私に任せてくれていいわよ」

 

「わかりました。ではタンホイザさん、私は先に戻ります」

 

「はいは~い。またね~」

 

2人は軽く手を振り合い、イクノディクタスは保健室を後にした。

 

 

イクノディクタスが去ったことを確認してから、校医がマチカネタンホイザに話をする。

校医が気になるのは今の鼻血のことではなく、数日前に相談された睡眠不足の事だった。

「鼻血そのものは大したことは無いようだからよかったわ。

でもあなた…よく眠れないのは治ったの?」

 

「いえ、それがまだでして…寝不足だからか、あんまり力が入らないんですよねぇ。

今日のこれも、それが原因と言いますか…」

 

「まあ、やっぱり治ってないのね。どうしたものかしら」

 

「寝不足だからですかねぇ、なんだかお肌の調子も悪いんです」

 

「見せて頂戴。…うん、確かに肌荒れしてるわね」

 

「ちゃんとスキンケアはばっちししてますし、決まった時間にお布団に入ってるんですよ?

でもでも。なんか、なかなか寝付けなくって」

 

「うーん、それなら一度病院で調べた方がいいんじゃないかしら?

前に診た時はあんまり深刻そうではなかったから様子見にしたけれど。

トレーナーさんにも話しておいた方が…」

 

「あ、あのっ!原因はきっと、私が緊張してるからだと思うんです。

今度出るジャパンカップ。強い子がいっぱい出るからって、気後れしてるのかな。

だめですねぇ、もっと頑張らないと!」

 

「うーん…まあ寝不足も肌荒れも、見た感じそこまで深刻そうではないけれど…

調子が出ないなら、やっぱりトレーナーさんには相談しておいた方がいいわよ。

とりあえず安眠枕とハンドクリームを出しておきますから、また様子を見てみて。

これで改善しないようなら…一度しっかり調べた方がいいと思う」

 

「わかりました、ありがとうございます!これでがんばりますよぉ、えい、えい、むん!」

マチカネタンホイザの気合を入れた動き。しかしそれは、強がりであることも明白だった。

 

「私はこんなことでへこたれちゃいけないんです。

だって、私だって…『主人公』になりたいから!」

 

 

 

その夜。

 

「枕はやわやわ、ふわふわで気持ちいいし、クリームはしっとりすべすべ!

ふふ~、これは効きそうですねぇ!」

 

 

 

「……や、やっぱり眠れない…!」

 

 

 

受け取った安眠枕とハンドクリームはとても質がいい物であったが、

マチカネタンホイザの症状が改善されることは無かった。

 

【コンディション:夜更かし気味】

【コンディション:肌荒れ】

 

 

 

 

マチカネタンホイザの次の出走レース、それはジャパンカップ。

GIのレースにして、中距離レースの代表格のようなレースである。

当然出走するウマ娘は強豪ばかりであり、一筋縄ではいかないレース。

しかし同時に、マチカネタンホイザもその強豪の1人として、

大きな期待を寄せられているウマ娘だった。

 

ファンの、仲間の、トレーナーの。みんなの期待に応えたいという思い。

それは彼女の背中を後押しすると同時に、脚に纏わりつく枷にもなっていた。

 

多少の不調を抱えながらも全力でトレーニングに励むマチカネタンホイザ。

皆が応援してくれているという喜びが彼女の足を急き立てる。

寝不足、肌荒れにより体力ややる気が減少し、

トレーニングの効率が下がっていることは自覚していたが、

誰にも言わず、その分トレーニング量を増やして頑張ればいいと自分に言い聞かせていた。

 

「見てくださいトレーナー!明日のジャパンカップ頑張るぞーって投稿したら、

頑張ってーってコメントがわんさかわんさか!」

 

差し出されたスマホを見ながら、トレーナーの南坂が言う。

「これはこれは。嬉しいですねぇ。

みなさんがタンホイザさんのことを応援してくれているみたいです」

 

「はい!こういうの見ると、頑張らなくちゃ!って思いますねぇ!

…もう一回だけ、走ってきます!」

 

「わかりました、付き合いますよ」

 

南坂は気合の入った動きをするマチカネタンホイザを見た。

元々元気なウマ娘だが、最近はいつも以上に気合が入っているようだった。

その割には記録の伸びが今一つだったが、着実に成長はしていたため、

ジャパンカップで本領を発揮できれば、きっと―――。

そう考えていた。

 

 

そして訪れたジャパンカップ当日。

 

朝、目を覚ましたマチカネタンホイザ。

今日は待ちに待ったレース当日。早めに起きていろいろな準備をしなければならない。

だが…

(なんだろう…体がすごく重いし…頭も痛い…それに膝も…?)

 

(でも…でも…!今日は待ちに待ったジャパンカップなんだ…!

あんまり目立たない私だったけど、応援してくれる人が増えて!

みんなが期待してくれてるんだ!だから頑張らないと!)

 

(頑張る…頑張…る…頑……)

 

フラフラとした足取りで立ち上がり着替え始めようとしたマチカネタンホイザ。

しかし彼女の意識はそこで途絶え、派手な音を立てて倒れた。

 

 

 

 

 

 

その日、Kは所用により朝から帝都大学付属病院を訪れていた。

帝都大学の大垣から依頼され、難病患者の手術を執刀することになっていたのだ。

お供として一也も一緒に来ており、Kの手術を見学して学ばせるつもりである。

 

【大垣蓮次】

厳しい指導で周囲から「鬼軍曹」と呼ばれている教授。

先代ドクターKの西城KAZUYAの先輩でもある。

現ドクターKの神代一人と出会ってからは、彼を現代のKと認め、

良好な関係を築いている。

 

【黒須一也】

先代ドクターKである西城KAZUYAの息子…

というのは対外的な建前であり、実際は西城KAZUYAのクローンである。

そのため当然ながら西城KAZUYAとは瓜二つの容姿をしている。

ところで、同じく非常によく似た容姿の現ドクターKの神代一人は、

単によく似ているだけでただの遠い親戚である。

 

 

Kと一也が大垣に挨拶をする。

「おはようございます、大垣先生」

「おはようございます!」

 

「よォK!一也くんも!よく来てくれたな、今日は頼むぜ。

手術は午後からだ、それまではゆっくりしててくれや」

 

「いえ、せっかくの機会ですから他の手術の見学などをさせてもらいますよ。

一也の勉強にちょうどいい」

 

「はは、それならまあ好きにしてくれ。

しかし一也くんはその年で医学生クラスの勉強するってわけだから末恐ろしいぜ。

俺もうかうかしてられんな」

 

「僕は未だ勉強中の身ですが、

K先生のようになるためには足踏みなんてしていられませんからね!」

 

「へっ、言動までやたらしっかりしてやがる。俺の知ってるお前の父親…先代ドクターKは、

実力はすごかったが野獣みたいな男だし、不愛想で無口だったぜ。

顔が似ててもやっぱり別人なんだなァ。一也くんがどんな医者になるか楽しみだ」

 

そうしてKたちが会話をしていると、そこに一本の連絡が届いた。

「大垣教授、救急外来へ連絡です!

トレセン学園のマチカネタンホイザさんが倒れたということです!」

 

「んだとォ、トレセン学園の?受け入れるぞ、今すぐ連れてこい!」

大垣がそう答えると、院内はすぐに受け入れの体制を始めた。

 

「急患が入っちまったようだ、俺も準備しに行くわ」

 

「ふむ、私も手伝いましょう。一也も一緒にいいですかな?」

 

「ああ、構わねえ。よろしくな」

 

「はいっ!」

 

3人はすぐに休憩室を離れ、患者の受け入れ準備に走った。

 

 

 

 

ほぼ同時刻、駅周辺。

トレーナーの南坂はジャパンカップ会場へ移動するためにマチカネタンホイザを待っていた。

しかし彼女は約束の時間を過ぎても集合場所に現れない。

 

「タンホイザさん、遅いですね。レースなのに遅刻するような子ではないはずですが…」

 

南坂が心配して電話をかけようとしたとき、ナイスネイチャから電話がかかってきた。

 

「はいもしもし、ネイチャさんですか?おはようございます」

 

『おはよ、トレーナーさん。あのね、落ち着いて聞いてくれる?

タンホイザがね…倒れちゃったの』

 

「タンホイザさんが…!?」

 

『いま病院に運んでいるところ。

詳しくはこれからだけど、今日のレースは無理だろうってさ。

トレーナーもこっち来てくれる?帝都大学付属病院に向かってるよ』

 

「…わかりました。すぐに向かいます」

 

南坂はジャパンカップに向けてトレーニングをした日々を思い出す。

マチカネタンホイザが言っていた言葉。

『私が、主人公になりたいです…!』

 

「……タンホイザさん」

 

南坂は少し目をつむり、息を吐いてから歩き出した。

ジャパンカップの出走取り消しの申請を行い、マチカネタンホイザのいる病院へと向かう。

 

 

 

 

救急車内から状況を聞いた大垣がKと一也にも説明する。

「救急からの連絡だが、患者は倒れた直後にルームメイトが介抱したそうだ。

最初は意識がなかったが今は回復しているとのこと。

出血があったが転倒時に顔を打ったことによる鼻出血で、もう止まってるらしい。

呼吸も脈拍も正常なので、見る限り命に別状はなさそう、ということだ」

 

それを聞いた二人は少し安堵の息を吐いた。

「命に別状がないならそれはよかった。

しかし転倒時に頭部をぶつけて脳内出血を引き起こした、などの可能性もあります。

精密検査はした方がいいでしょうね」

 

「そうだな。しかしマチカネタンホイザって言うと、

今日のジャパンカップに出るはずだった子だろう?

俺の娘がファンだって言って応援してたんだよ。かわいそうになあ」

 

「そうでしたね、富永先生も応援してたっけ。

『天才というわけじゃない、特別というわけじゃない。

だけどひたむきに頑張る姿が自分に重なって推せるんだ』って言ってました」

 

「へえ、まあおめえらみたいな…

伝説の王家みたいな凄まじい連中と一緒じゃそう思っちまうのかもな。

だがあいつも親は医者で、そのうち後を継ぐんだろ?言うほど普通ってほどでもねえな」

 

「ふふ、それなら大垣先生の娘さんも同じですね」

 

「お、俺の娘!?そりゃまあ、娘も医者を目指してるみてえだが…

俺はそこまですごい人間じゃねえから関係ねえって!」

自分とその娘に話が飛び、慌てる大垣だった。

 

 

 

 

 

病院に到着したマチカネタンホイザは、大垣たちに検査をされ、

結果が出るまで病室で待つこととなった。

 

「さて、血液検査やCTやレントゲンその他もろもろ…

一通り検査は終わったな。これと言った異常はないように思うが、Kはどう思う?」

 

「ええ…血液は正常。頭部に出血の気配はなし。骨折しているところもなし。

意識もはっきりしてましたし、他も問題はないように思いますね」

 

「だなぁ。すると原因はストレスとかオーバーワークかね。

彼女が出るのはジャパンカップっていう大舞台だ。

緊張しちまったり、頑張りすぎて体を壊すってのは他のウマ娘でもよく見かけるよ」

 

「私もそう思います。しかし…」

Kは検査結果をじっと眺めたのち、おもむろに一也の方へ向き直った。

 

「一也。お前の意見も聞かせてくれ」

 

急に話を振られて驚く一也だが、すぐに所見を述べる。

「ぼ、僕ですか?はい…僕もお二人と同意見です。

緊張やオーバーワークによって自律神経に乱れが生じたのかと思います」

 

「ふむ…二人とも少し待っていてくれ。少し調べたいことがある。長くはかからん」

Kはそう言うと、引き留める間もなく部屋を出て行った。

 

「おい、K!?なんだ…?意味深な感じじゃねえか。

何か気になることがあるんだろうが…一也くんはわかるか?」

 

「いえ…でもK先生がああいう動きをするときは必ず何かありますよ。

僕がそれに気づけるか試してるんだとしたら…」

一也は検査結果を再び見始めた。

 

「おいおい、それじゃ同意見だった俺まで一緒に試されてるじゃねえか。

くそっ、いったい何なんだ?」

負けてられねえ、と大垣も一緒に参加する。

 

 

 

数分後、Kが戻ってくる。

「待たせましたね。気になる所があったのでちょっと調べてきました。

…と、二人ともなんだか自信ありげな表情ですね」

 

自分もわかったぞ、という表情をする大垣と一也。

「おめえに言われてしっかり見返したからな。そんで、何を調べて来たんだ?」

 

「ええ、トレセン学園の校医さんに連絡を取り、

マチカネタンホイザさんの普段の様子を聞いてきました。

すると頻繁に鼻血を出していること、

ここしばらく寝不足や肌荒れに悩まされていたことが確認できました」

 

「なるほど、それじゃあ間違いなさそうですね」

一也もうなずく。

 

「じゃあ戸倉のところには俺が連絡しておくから、患者への説明は頼んだぜ。

準備はすぐにできるだろうから時間は気にしなくていい」

 

「お願いします、大垣先生。では我々はマチカネタンホイザさんの所へ。

行くぞ一也」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

南坂が病院につくと、ベッドで休むマチカネタンホイザの姿があった。

 

「タンホイザさん!」

 

「あっ。…トレーナー。」

 

南坂に気づいたマチカネタンホイザは、悲しそうな顔をすぐに笑顔に変えて言った。

「いや~、またやっちゃいました!本当、ここぞってときにやらかすんですよねぇ!

今日も気合が入りすぎちゃったのかなぁ。クラってきて、バタンっていって、もー…。」

 

「……もー!」

マチカネタンホイザの瞳から、大きな涙がぼたぼたと零れ落ちた。

それでも続ける作り笑顔が、かえって痛々しさを感じさせる。

 

「タンホイザさん…」

 

「なんだろ、なにやってるんだろ…!

私、期待されて嬉しくて、頑張りたいって思ってて、

それで、それで、それなのにこんなの…!

みんなの期待を裏切っちゃった…!」

 

涙を流しながら悔しがるマチカネタンホイザ。

南坂は涙が落ち着くまでひとまず待とうと思い、傍に寄り添いながら話を聞いていた。

 

そこに響くノックの音。

そちらを向くと、扉を開けてナイスネイチャが入ってきた。

「タンホイ…ありゃ、泣いてら。トレーナーさんも到着したのね」

 

「え、ネイチャ!?今日はバイトがあったんじゃ!?」

 

「めっちゃヘコんでるアンタを置いてバイトなんか行けますかっての!

だいいちアンタの病院の手続きやったのもアタシですよ?最後まで付き合うわ!

…今日に向けて頑張ってきたのは、ずっと見て来てきたからさ。」

 

「頑張ってきた?…うん、そうだね。私、いっぱい頑張った。

でも、でも、全部だめになっちゃった。なんかね、頭も痛いし、膝も変なの。

私の体、だめになっちゃったんだ!もう主人公になんてなれない…!」

そう言って涙を流すマチカネタンホイザ。と、そこへ現れたのは…

 

「いや…マチカネタンホイザさん。悲観的になるのは早いかもしれません」

 

そう、ドクターKである!

 

「そうそう、アタシはお医者さんを連れて来たんですよ。

タンホイザの検査について説明してくれるってさ」

 

「あわっ!さっきのお医者さんだ!」

泣き顔を見られるのが恥ずかしいのか、マチカネタンホイザは強引に涙をぬぐう。

 

「あなたがタンホイザさんを診てくれたお医者様ですか?

お世話になります、私はこの子のトレーナーの南坂と言います。

おや、そういえばあなたは学園内でお見かけしたことが…

ここに勤めていらっしゃったんですね」

 

「これはご丁寧に。いえ、私は臨時で来ているので勤務医というわけではないんです。

私はK。こちらは助手の一也です」

 

「黒須一也といいます、よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします。あの、それで…さっき言ってましたよね。

悲観的になるのは早いと…それはどういうことでしょうか?」

 

南坂が先ほどの言葉の説明を求め、Kが答えた。

 

「まず検査の結果について。

倒れた原因はストレスやオーバーワークによる自律神経の乱れによるものでしょう。

心当たりはありますね?正直に話してもらえるとありがたいのですが」

 

うっ、と一瞬怯んだマチカネタンホイザだったが、隠すことはせずに最近の生活について話した。

 

「それならきっと、オーバーワークかなぁ…最近ちょびっとだけ眠りが浅くてですね。

それでやる気が上がりにくくてトレーニング効率が悪かったんですよね。

だからその分いっぱいトレーニングすればいいって思って、毎日むんってしてきました」

 

「それとその眠りが浅いのも、どうせ眠れないんだったらこの際お勉強しちゃいましょ!

って思って、夜更かしして勉強してました…。

ほら、私ってすごい才能があるわけじゃなくてですね。

だったら人一倍頑張らないとGIで勝つなんてできませんから…」

 

「なるほど、ならばやはりオーバーワークでしょうね。

検査では特別な異常は見受けられませんでしたから、

ゆっくりと休養すれば体も治ると思います」

 

Kの話を聞いて、南坂とナイスネイチャは安堵の表情をした。

 

「だってさ、タンホイザ。よかったじゃん、休めば問題ないらしいよ」

 

「そうなんですか…。休めば治る…。お医者さんがそう言うならそうなんですね…」

しかしマチカネタンホイザはKの話を聞いても今一つ納得していない様子である。

 

 

「さて、実は本題はここからなのです。

マチカネタンホイザさん、あなたはいまいち納得ができていないようですが…

それはあなたがオーバーワークに至る原因となった、

睡眠不足などは解決しないだろうと考えているからですね?」

 

「あっ、そ、そうです…。バレちゃいましたか」

 

「ここで確認しておきたいことがあります。

あなたは今日倒れてしまったわけですが、それ以外の不調について。

聞き取りでは頭痛があること、膝関節に違和感があることということでしたね?」

 

「はい…」

 

「それとトレセン学園の校医さんに話を聞いてきました。

今あなたもおっしゃっていましたが、近ごろ眠りにくいこと、

それに肌荒れにも悩まされていたそうですね」

 

保健室に行っていたなんて聞いてませんよ、という表情を向ける南坂の視線を受け、

マチカネタンホイザは少し脂汗を垂らしながら答える。

「うっ、はいぃ…そうですぅ…。それも関係あったんですか…?

すいません…こんな大ごとになるって思ってなかったから…」

 

「そしてもう一つ。今日もですが、あなたは普段から頻繁に鼻血を出していますね?」

 

「あっ、はい。私けっこうドジなところがあって、顔をぶつけちゃうことが多いんですよね。

でもでも、ぶつけて出しちゃうことが殆どなので、病気とかではないと思います!」

 

「ふむ、鼻血そのものはそうでしょうね。ちょっと失礼…」

Kがマチカネタンホイザの首の横のあたりを触る。

 

「あびゃぁ!そ、そこ、痛いです~!」

 

「なるほど…。これまでの話で一つ思い当たる疾患があります。

それの検査もしていただきたい」

 

「検査ですか…?頭の中とかですか?

私は脳内メーカーで調べたらお金と悩みと遊びがいっぱいだったんです!

これってお医者さんが調べても同じになるのかな?」

 

「いえ、脳ではありません。すでに確認をして、出血等がないことは確認済みなのでご安心を」

 

「ほぇ、それじゃあなんですか?」

 

「マチカネタンホイザさんに受けてもらいたい検査…それは耳鼻咽喉科の検査です」(カッ)

 

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