まあ3期世界も2期世界より10年以上経ってる謎世界ですし細かいことは気にしない。
ここでは数年たって譲介が村にやってきた後ごろだと思います。
血脈(前編)
『最強』と呼ばれるウマ娘がいる。
讃えれ方はそれぞれ少し異なるが、
凄まじい実力で三冠を手にした『シンボリルドルフ』や『ナリタブライアン』のような、
圧倒的な力で特出した成績を叩き出したウマ娘のことだ。
戦う者を震わせ、見る者を奮わせる、人々に羨望と恐怖を与えるウマ娘。
今もまた、その『最強』を目指すウマ娘がいた。
いや、彼女の場合は少し違う。
『最強』は目指すものではなく、証明するもの。
勝利は目標ではなく、前提。
それは彼女に流れる『血』がそうさせる。
輝かしい成績を持つアスリートが大勢いる一族に生まれた。
彼女の名はドゥラメンテ。
クラシック二冠を圧倒的な走りで勝利し、『最強』と呼ばれるに相応しい成績を叩き出す。
だが、彼女の『最強』への道はここまでだった。
二冠を獲った後は順当に菊花賞に出る予定だったが、故障によって回避。
長い治療が済んだ後に宝塚記念で復帰したものの、再び故障を発生させてしまう。
腱や靭帯の損傷によりいつ復帰できるかの見込みも立たない大きな故障。
それでも彼女はまだ、『最強の証明』を目指して日々のリハビリを続けている。
「ふっ、ふっ、ふっ…」
トレセン学園のトレーニングルームに響く、ドゥラメンテの声。
脚の故障は未だ治る兆しはない。
今できることを、と上半身のトレーニングを一心不乱に続けている。
腐ることもなく、焦ることもなく、ただやるべきことを淡々と。
ドゥラメンテはとてもストイックで、歩むべき道を常に真っすぐ歩き続ける。
だがそんな彼女でも、ゴールの見えない道程に少しずつ心がすり減っていく。
道を歩いているつもりでも足踏みをしているだけ、もしかすると後退している気すらする。
(いつになったら、また走ることができるようになるだろうか)
リハビリをしていると言っても、これと言った成果は何も出ていないのだ。
今のリハビリやトレーニングは『やるべきこと』と言うよりも、
『これしかやれない』からやっているだけに過ぎない。
そうしてしばらくたったころ、やはり脚には改善の兆しが見えなかったが、
その一方で体調が良くない日が続いた。
数日前から腹痛が続くようになったのである。
「ぐっ…また腹痛が…。今日もトレーニングはやめておこう…」
ドゥラメンテは後ろ髪を引かれる思いをしながら、
トレーニングルームを素通りして帰宅していく。
中でトレーニングを続ける他のウマ娘と比べると、随分と差がついてしまったものだ。
部屋に戻ったドゥラメンテはベッドに横になった。
遠くから聞こえるどこかのウマ娘たちの掛け声を聞きながら、ひとり眼を閉じて考える。
「ふっ…。随分と酷いありさまだ。
『最強の証明』を掲げたあの頃が、遠い昔のように思える」
リハビリはうまくいかず、近ごろは体調も悪い。
こんな状態の自分はいったいなんなのだろう。
怪我をしても心が折れることは無かったが、これだけ状況が悪いのならば、
そろそろ別なことを考えた方がいいのかもしれない。
「うん、そうだな。そろそろ決めることとしよう」
数日後。
キタサンブラックが教室で片づけをしていると、ドゥラメンテに話しかけられた。
キタサンブラックとドゥラメンテは宝塚記念でライバルと認め合った仲だ。
あれ以来友人として接するようになっている。
「キタサン。少しいいか?」
「あ、ドゥラちゃん。何か用?」
「ああ。君に謝っておきたくてな」
「謝る?何かあったの?」
突然の話に少し困惑するキタサンブラック。
「以前、共に走った宝塚記念。
私と君はライバルとしてともに戦っていこう、と誓い合ったな」
「う、うん…」
「すまないがあの誓いは果たせない。私は引退することにした」
ドゥラメンテは顔色を変えることもなくそう言った。
一方、言われたキタサンブラックの顔色は大きく変わる。
「い、引退!?なんで!?」
「私の脚が復調する見込みがないからだ」
「だ、だって…それでも復帰を目指しているって、ずっとリハビリしてたじゃん!」
「程度と言うものがある。リハビリが上手くいかないだけならまだしも、
近ごろは体調も芳しくない。これは私の体が衰えてしまったのだろう。
そろそろ別な道を考える時期だ」
「そ、そんな!諦めないでよ!
私はずっと、最強のウマ娘だったドゥラちゃんを目標にしてたんだよ?
宝塚記念で私のことをライバルだって認めてくれてうれしかった…。
それからまだ一回も走ってないのに…!」
「ああ、だから君に謝りたかったんだ。すまない」
キタサンブラックは引退を宣言してきたライバルを前にして、
どのようなことを言えばいいのかわからない。
励ましの言葉なら、リハビリを頑張っていた今までに散々している。
今更言っても意味はないだろう。
「ドゥラちゃんは…それでいいの?最強を証明するって言ってたでしょ…
まだ途中なんじゃないの…?」
「『最強の証明』…。確かにまだ道半ばだ。
しかしダービーまでの成績である程度は出来ただろう。
我が血族の実力を皆に見せることができた。
だが今後走ってもそのような成績を出せるとは思えない。
今の私では、今までに築いた評価をも下げてしまうことになる」
これまでドゥラメンテは淡々とした表情としゃべり方だったが、
ここで少しだけ寂しそうなものへと変わった。
「これまでの『最強』の評価だけを残し、潔く引退する。
それが刹那を生きるウマ娘にとって、儚くも美しい姿なんじゃないだろうか」
ドゥラメンテはそう言うと、「まだほかに挨拶するところがあるから」と言って去っていった。
キタサンブラックはしばらく放心したようにその場に佇んでいたが、
気を取り直すと荷物を抱えて走り出した。
向かった先はスピカの部室、トレーナーである沖野の元である。
「と、とととトレーナーさぁん!!!」
キタサンブラックが扉を破壊しそうな勢いで部室に入ってきたので、
部屋にいた沖野やスペシャルウィークは驚いてひっくり返った。
「ど、どうしたキタサン。そんなに慌てて」
「あっ、あのあのっ、ドゥ、ドゥラドゥ、ドゥラちゃんが!!」
「落ち着けって、何言ってんのかわからねえぞ。
ってまあ、ドゥラメンテの話ならまあ想像はつくが…」
「トレーナーさんも知ってるんですか!?
ドゥラちゃん、引退するって言ってました!!」
「オレは彼女のトレーナーから話を聞いて知ったんだ。
宝塚以来ずっと休んでたが、そんなに状況が悪いんだなあ…」
「ドゥラちゃんが引退なんて嫌です!!あたしはどうすればいいですか!!?
何かできることは無いんでしょうか!!?」
キタサンブラックは焦った表情で手をぶんぶんと振り回す。
「できることなあ…お前もこれまで色々励ましては来たんだろ?
それ以上やれることと言っても…うーん…」
「そんなあ…!ドゥラちゃんは本当に諦めちゃったんでしょうか…!?
もう戻ってくれないんでしょうか…!!」
「まだそうとは言い切れないが。
彼女のトレーナーや家族は引退の件、
ひとまず了承はしたけどまだ説得を諦めてないらしいぞ」
「そうですか…それじゃあドゥラちゃんのトレーナーさんたちに任せるしかないのかな…」
キタサンブラックがしょんぼりと項垂れると、部室の扉が開いて大声が響き渡った。
「話は聞かせてもらったよ!!」
「と、トウカイテイオーさん!!」
やってきたのはトウカイテイオーだった。
チームスピカの有名人、三度の骨折を乗り越えて復活を遂げたウマ娘である。
「ドゥラメンテはそんな感じになってるんだねー。
彼女はボクと境遇が似てるからさ、ちょっとシンパシー湧いてるんだよね」
そう、トウカイテイオーとドゥラメンテは共に二冠を獲ったものの、
故障によって三冠目を諦めた共通点がある。
そして故障が治った後でまた故障を繰り返し、
治る見込みがないと言われるほどの状況に陥ったところも同じだ。
「テイオーさん、何かいい案ありませんか!?」
キタサンブラックは、頼れる先輩の登場で元気そうな顔になった。
「あるよ、と言ってもまあ案と言うか当たり前の話だけど。
簡単だよ、『脚を治せばいい』のさ!」
「お!おお~っ……!?」
トウカイテイオーの提案に対し、キタサンブラックは拍子抜けした表情だった。
内容が当たり前すぎるからである。
「あ、キタちゃん、今『それができれば苦労はしない』って思ったでしょ。
でもねえ、それができそうな人がいるんだなあ。
キタちゃんは特に故障とかしてないからちゃんと会ったことないだろうけど…」
「そ、その人とは…!?」
キタサンブラックが尋ねると、トウカイテイオーはどこからともなく黒いマントを取り出して羽織り、ポーズをとった。
「強靭な肉体に神業のウデマエ!その名も『ドクターK』!!!」(ギュッ)
「ど、ドクターK…!
その方、テイオーさんやマックイーンさんを治してくれたお医者さんでしたよね?」
「そうそう。すっごくいいお医者さんだからね。
きっとドゥラメンテのことも治してくれると思う」
ドクターKの名を聞き、沖野も懐かしそうに過去のことを思い出した。
「K先生がいて本当助かったよなあ。スカーレットもお世話になったことあるし。
確かにあの人ならなんとかしてくれるかもしれないな」
「それじゃあドゥラちゃんに話してその人に診てもらいましょう!
まだあきらめてほしくないですから!」
キタサンブラックが嬉しそうにそう言うと、沖野が少しいやらしい笑みを浮かべる。
「でもいいのか~?
ドゥラメンテが治ったら、また注目を全部持っていかれちまうかもしれないぞ~?」
キタサンブラックの耳がピクリと動く。しかしその瞳に迷いはない。
「いいんです!それだったら、あたしが奪い返してやりますから!」
キタサンブラックは三冠路線に挑んだ時のことを思い出した。
皐月賞、ダービー共に注目されていたのはドゥラメンテ、勝ったのもドゥラメンテ。
自分はその脇役に過ぎなかった。
ある時は『ドゥラメンテがいなければ自分が勝てるのに』などと、
情けないことを考えてしまった時もあった。
だが、今は違う!
「あたしは、まだ一度もドゥラちゃんに先着したこともありません。
なのにこのまま引退されたら負けっぱなしじゃないですか?
あたしは勝ちたい!ドゥラちゃんに!
それも怪我で不調のドゥラちゃんじゃない、強くて最強のドゥラちゃんに勝ちたい!
だから戻ってきてほしいんです!戦うために、勝つために!」
キタサンブラックの強い表情を見て、沖野も問題なさそうだと安心したようだった。
「よし、じゃあK先生には俺がアポ取っておくから、ドゥラメンテに話してみてくれ」
「わかりました!!」
ドゥラメンテと再び勝負をすることを夢見るキタサンブラック。
翌日からキタサンブラックはドゥラメンテに声をかけ、
『凄腕の医者に診てもらおう』と話をしたのだが、
しかしドゥラメンテは首を縦に振ることは無かった。
元々強い人脈から優秀な医師には診てもらっていたし、
現状かなり落ち込んでいるので前向きな気持ちは出てこないのだった。
数日後、キタサンブラックは部室で机に突っ伏していた。
「ああ~…!説得ができません…!!あたしじゃ力不足なんでしょうか…!?
あたしあんまり口が上手じゃないからなぁ~!!」
落ち込むキタサンブラックを眺めながら沖野が言う。
「まあ気にすんな、俺もドゥラメンテのトレーナーに話をしておいたんだがな。
今はちょっとトレーナーでもうまくいかないらしい」
「そうなんですか…。でもそれじゃ、このままじゃ本当に引退されちゃうかも…」
そこでトウカイテイオーが呟いた。
「うーん、それじゃあここは劇薬を投与するしかないかもね」
「あ、テイオーさん。劇薬って…?」
「うん。まあ…ちょっと…ボクの経験を話すのは…恥ずかしいんだけど…
ほら、ボクが引退せずに済んだ一番の理由ってさ、
引退ライブをカノープスが襲撃してターボのレースを見せてくれたからじゃん。
冷え切った心には、ああいう強引な手段が効果的だと思うんだよ」
「あれは凄かったですね…。
じゃあ無理矢理あたしのレースを見せてやればいいんですか!?」
「いや、ドゥラメンテは引退ライブする感じでもないからね。
まあここは単純に、『力技』で行こうって話さ」
「力技…ですか?」
キタサンブラックがきょとんとしていると、トウカイテイオーが手をポンポンと叩く。
するとスペシャルウィークが何やら荷物を持ってきた。
そこにあったのはサングラス、マスク、ロープ、麻袋。
「可愛い後輩のためにボクたちが一肌脱いでしんぜよう!」
「これを使うのは久しぶりですね、キタさんにも伝授しますよ!
ゴルシさんたちから教わった、チームスピカ伝統の技を!」
「え?スピカの伝統…?」
翌日。
授業が終わり、ドゥラメンテが1人で歩いていた。
(脚の調子は良くならないし、腹部も痛い…食あたりでもないようだ。
キタサンは諦めるなとしつこく迫ってくるが、やはり私の体は限界なんだろうな)
そうやって考え事をしながら歩いていると、前にいた誰かにぶつかってしまった。
「あっ、すまない。私の不注意だった……えっ?なんだ?」
ドゥラメンテが謝罪しながら前を向くと、
そこにいたのはサングラスとマスクで顔を隠した謎のウマ娘の集団だった。
その中の1人が号令をかける。
「よーし、キタちゃん、スペちゃん、やっておしまい!」
「はい、テイオーさん!!でりゃあっ!!」
状況がつかめずに動きがフリーズしたドゥラメンテ。
そこを容赦なくロープで縛り付け、顔から麻袋が被せられた。
「うおおっ!?なんだこれは…!?」
「ドゥラちゃんは力が強いからさらに念入りに縛りますね!!!」
「キタさん、いい感じですよ!
それじゃあマックイーンさんが用意してくれたリムジンに詰め込みましょう!」
「それじゃ運搬開始!」
「「「わっしょい!わっしょい!」」」
「一体なんなんだ!?くっ、放せ…!」
謎のウマ娘たちはドゥラメンテに有無を言わせず拉致し、
メジロマックイーンが待つ車へと運んでいった。