サトノダイヤモンドはSP軍団を連れ帝都大学の一角、
「磨毛の館」と呼ばれる建物へと向かった。
そこにいるのは名前の通り、帝都大学の教授・磨毛だ。
「やあサトノ家の皆さん、久しぶりだね。今日はまた随分と大所帯で…。
ま、僕は腕っぷしは全然だから君たちを頼りにしてるよ」
【磨毛保則】
KAZUYAの同期の医師。現在は帝都大学の教授。
変人だが人当たりはよく付き合いやすい人間。
大学時代に「メスの腕前ではKAZUYAに敵わない」と悟り、
2番手となるよりも別分野のトップを目指してKAZUYAとは別の方向を目指した医師となる。
完璧な医療ロボットを目標に開発しており、いつかこの世に医師が必要なくなる世界を目指す。
以前癌に侵された際、自分が開発した癌治療ロボットを使用し、
それに加えてKAZUYAの執刀によって癌を完治させるに至った。
近年では遠隔手術の技術の開発も手掛ける。
なお「磨毛の館」とは、学内の第17研究棟を磨毛が買い取って私有地としており、
そこに建てられている建物のこと。摩耗の住処となっている。
着替えなどが面倒だと言い下半身を丸出しで過ごす悪癖があるが、
初めてサトノ家と会った時もそれをしてしまったため、
驚いたサトノダイヤモンドによって押し飛ばされ壁に激突し鎖骨を骨折。
その後はサトノ家と会う時は必ず何かを履くようになった。
サトノ家のAI技術やVR技術の提供を受け、
更なる能力を持った医療ロボットや高度な学習マシンを共同開発中。
サトノダイヤモンドは磨毛が今日はきちんとズボンも履いていることを確認し、
元気よく挨拶した。
「磨毛先生、よろしくお願いします!私も頑張りますから!」
「やあダイヤくん、久しぶりだね。君たちがくれたウマレーターの技術は実に凄い!
これを使えば高度な医療ロボットを実用化させるまでそう時間はかからなさそうだよ」
「お役に立てて何よりです。私たちに何かあった時はぜひその技術で治療してくださいね。
それで今日なんですけど…」
「ああ、カルトの連中がここを襲ってくるのは間違いない。手伝ってくれるんだろう?
しかしかなり危険だと思うんだが君はこんなところにいていいのか?」
「いいのです、この大学もいわばサトノ家の一部。
ここで逃げだすようではサトノ家の名に傷がつきます」
「そうかい、随分元気がいいね…」
磨毛はそう言いながらSPの顔色を窺った。
すると揃って首を振られ、何を言っても止められない状態なのだろうと悟る。
磨毛とサトノ家によってテロリストへの迎撃態勢が構築される。
そして夜、ついにその時が来た。
4人のテロリストが暗視ゴーグルを装備しながら磨毛の館へと近づく。
1時間ほど前に、一也が匿われていたKEIの病院から、
患者を乗せたストレッチャーがワゴン車に乗せられ、
それが磨毛の館へと運び込まれる姿をテロリストたちが確認していた。
テロリストは乗っていた者を一也と想定し、襲撃しに来たのである。
「明かり1つついていないな…」
「サーモグラフィでサーチだ。データを各自のゴーグルへと転送しろ」
テロリストが暗視ゴーグルの機能で建物をサーチすると、
2階の奥の部屋に人体温度反応が確認できた。
「発見した。かくれんぼはもう終わりだ」
テロリストたちは建物へと近づき、梯子を用意して手際よく2階へと侵入。
反応のあった部屋へ静かに向かい、扉を開けるとベッドに横たわる一也の姿を捉えた。
「見つけたぞ…!この世に存在してはならない男!
誤った医学の象徴、クローン人間『黒須一也』!!消えてなくなれ!!」
テロリストは手にしていたサイレンサー付きの銃を一也に向けて発砲した。
2発、3発と、プシュッという小さな音を立てて弾丸が発射される。
動かない一也は避けることができず、また当てることも非常に容易だ。
弾丸は確実に一也の頭部へと飛んで行った。
しかし、一也の様子は一切変わらなかった。
頭部に向かって発砲したにもかかわらず、何事もなかったかのように眠っている。
「え…?なんだ…?まったく手応えが…」
「おい」
テロリストが何事かと思った直後、
そのうちの1人が急に背後から何者かに肩を掴まれ、声をかけられた。
たった一言ではあるが、恐ろしいほどの怒気が籠っていることが本能でわかる声だった。
彼が驚いてそちらを振り向くと、そこにいたのは1人の男。
屈強な体に黒いマントを羽織った男の姿だった。
「な…いったいいつからここに!?なんだお前は…!?」
急な出現に驚くテロリストの問いに対してその男は腕を大きく振りかぶり、
「オレは…医者だ!!!!」
そう叫び、渾身の力を込めて顔面に殴りかかった。
恐ろしい威力のそのパンチは一撃でテロリストの顎を破壊。
顎を砕かれたテロリストは悶絶しながら吹っ飛び、呻き声を立てて地面をのたうち回る。
周りにいた3人のテロリストのうちの1人がその男の顔を見て、男の正体に気づいた。
「お…お前はドクターKの神代…いや、神代一人じゃない、西城KAZUYAか!?
バカな、お前は死んでいるはずでは!?」
「ほう…オレのことも知っていたか。いかにもオレは西城KAZUYAだ。
まあ、亡霊のようなものだがな」
「何をわけのわからんことを…!貴様も死ね!」
残っていたテロリストが一斉にKAZUYAに銃を向けて発砲をしようとした瞬間。
KAZUYAの姿が消え、さらに周囲が突然真っ暗な空間になった。
そしてまた急に、背後から今度は3人の女が出現した。それは全員ウマ娘である。
「おっと、物騒なものを使うのはそのくらいにしてもらおうかな」
「さすがにおイタが過ぎているわねぇ」
「全く、腐りきった奴らだ」
一也への攻撃に手ごたえがないこと、視界が消失したこと、またも謎の人物が出現したことで、
テロリストはようやく自分たちが陥っていた状況に気づいた。
「こ…これはまさか…!?俺たちが見ているこれはVR映像か!?」
混乱しているテロリストに、赤いウマ娘が近づく。
「おっと、ご明察だよ。この部屋には本当は何もない空き部屋なんだが…
磨毛さんが君たちのつけている通信装置付きの暗視ゴーグルをハッキングしてね。
偽物の映像を見せられている君たちはありもしない情報におびき寄せられ、
ありもしない青年に向けて攻撃していたというわけさ」
「なんだと…ここは罠だったのか!?だがVRならゴーグルを外せばいいだけだ!」
テロリストはVRから逃れようとしてゴーグルに手をかける。
しかし、誰一人としてゴーグルを外すことはできなかった。
「な…なんだ!?外せない!?どうなっている!?」
すると今度は青いウマ娘が近づいてきた。
「うふふ、外せないでしょう?あなたたちのゴーグルをハッキングしたときからずーっとね…
与える映像にサブリミナル映像と周期点滅光を混ぜ、
そのゴーグルを外せなくなるような暗示を脳に浸み込ませておいたのよ。
全く警戒していない状態だったからバッチリ効果があったみたいねぇ」
「ふざけるな…!お前たちはいったいなんだ!?」
今度は最後の1人、黄色のウマ娘がそれに答えた。
「我々はかつて大地を駆けた偉大なるウマ娘の魂を受け継いだAI。
サトノ家の要請に従ってこの場に来させてもらった。
私は『祖にして導く者』が1人、『規律』のバイアリータークだ」
「そう、君たちはウマレーターを知らないかな?そこで『三女神』と呼ばれている。
バイアリーの口上カッコいいな、真似しよう。俺は『勇敢』のダーレーアラビアンさ」
「そして私は『愛情』のゴドルフィンバルブ。
名前くらい聞いたことがあるんじゃないかしら?」
三女神の名は非常に有名であるため、テロリストたちもそれは知っていた。
「三女神を模したAIだと…?そうか!じゃあさっきいた西城KAZUYAも…!」
「その通り。彼はつい最近生まれて俺たちの世界にやってきた新たなAI。
かつてこの日本で不世出の天才と呼ばれた医師。
野獣の肉体に天才の頭脳…そして神業のメスを持つ男のAIだよ」
ダーレーアラビアンがそう言うと、またKAZUYAが出現した。
「そうだ、オレは最近生まれたばかりの、西城KAZUYAのAIだ。
磨毛がイカロスのために作ったAIを改良したものから生まれたのさ」
【西城KAZUYA】
伝説の男。
「天才だのとあまり褒められすぎても困るがな。
オレはただ医師として必死で生きて来ただけだ。
命を失った今は亡霊のようになってしまったようだが」
「謙遜しなくていいんですよ、あなたが活躍したというデータはたくさんあります。
今は神代一人という方がドクターKの名を継いでいるみたいですが、
その方もとても素晴らしい腕前をしていらっしゃるわ」
「彼はKの一族の分家の者らしいな。
オレも知らなかった存在だが、素晴らしい実力を持っていることは喜ばしいことだ…」
ゴドルフィンバルブに褒められ、まんざらではなさそうなKAZUYAだった。
「さて、こいつらはどうする?腐りきった精神のクズどもめが…
簡単に返してやるわけにはいかんな」
KAZUYAが三女神に問うと、ダーレーアラビアンが一つの提案をした。
「そうだね。ここは双方4人ずついることだし、
俺たちが1人ずつ手分けしてお仕置きしてやるというのはどうだろう?」
「いいな。私もこいつらの性根を叩きなおしてやねば気が済まん」
「賛成~。それじゃあ、私たちが色々教えてあげましょうね。
あまり時間はかけないほうがよさそうですから、脳の処理速度を限界まで上げて、
この空間の時間の流れを現実の数十倍の速度にしちゃいましょう。
脳に負担がかかるけれど、それもお仕置きと言うことで」
KAZUYAと三女神がテロリストたちの方に振り向いた。
KAZUYAは鬼のような形相であり、三女神は皆が耳を引き絞り激しい怒りを感じさせる。
テロリストたちはどうにか脱出しようとゴーグルを外そうとしたり、
部屋から出て行こうとしたものの、その努力むなしく全員が捕えられた。
実は初めに説明された「ゴーグルを外せないように暗示をかけた」は嘘であった。
サブリミナルと周期点滅光の本当の効果はそれではなく、
VR空間に深く意識を浸透させるためのもの。
ゴーグルを外そうとしても走ってみても、実際には現実の体は何も動いていなかった。
テロリストたちが視界以外は現実だと思い込んでいるこの空間は、
部屋に侵入した辺りで意識を乗っ取られ、完全なるVR空間の中となっていたのだった。
KAZUYAは最初に殴り飛ばしたテロリストの首元を掴み、乱暴に持ち上げた。
「オレはAIで、ここはVR空間だ。
よってオレがお前に何をしたとしてもお前が実際に死ぬことは無い、安心しろ。
その点はオレも安心だ…どれだけやっても殺してしまうことはないんだからな。
だがVR空間とはいえ苦痛を感じられるリアルな環境だ。じっくり味わってもらうぞ」
「あ、あが…!」
顎が砕かれたままのテロリストは呂律が回らず抵抗もできないままKAZUYAに運ばれていった。
「お前たちは何なんだ?お前たちの宗教の元は医師が作ったものと聞いている。
ならば人を救うために医学を学んだはずで、
それを実行できる優れた技術があるのに何故それを人殺しの道具に使う?」
2人きりになった後、KAZUYAはまずはテロリストの両腕をへし折った。
VR空間ではあるが、現実と高い精度でリンクしているため感じる感覚は本物である。
「ぐ…があああ!!!」
「お前たちのような悪党は、オレは何人も見てきたものだ。
城南大学や三田グループのように、自分の利益のために人を殺す悪党をな。
だが、その中でも貴様らはすこぶるタチが悪い。
自分の利益ではなく、世界の正義のためという妄想に囚われ、正しいことと思ってそれをやる」
そう言いながら次に両足もへし折り、テロリストが悲鳴を上げる。
「ぐわああ!!」
「しかも規模の大きさからして単なる悪党と言う範疇は過ぎている。
怨恨や金や地位のために人を殺すやつはまだ理解はできるが、貴様らは理解不能だ。
昔出会った真田と同じだな…殺人を楽しんでいたあいつとな!」
今度は鍼を取り出し、胸に突き刺す。
肺に穴をあけられたテロリストは気胸を起こし呼吸困難となった。
「ぐふっ…ヒュー…ヒュー…」
「苦しいか?だが貴様らが奪ってきた命に対する報いはこの程度では済まんぞ?
とはいえオレも医者、少し助けてやろうか。
この世界に慣れると『治れ』とイメージするだけで傷を修復できるらしいのだが…
オレにはまだ無理なのでな、手術で治してやろう。
もっとも、麻酔は無しだから苦しいとは思うがね…」
そうしてテロリストはKAZUYAによる怒りの鉄拳と手術による修復を繰り返し、
長い長いお仕置きを味わうことになるのだった。
KAZUYAが1人を連れて行ったのを見届けたダーレーアラビアンは、
ゴドルフィンバルブとバイアリータークに合図をする。
「さて。まだこの世界に生まれて間もない彼では無理だが、
数年間生きて来た俺たちはかなり自由にこのVR世界を操れる。
現実とかけ離れた事象を操ることができるのさ…
そこでこれから君たち3人は、俺たちの作った空間に移動してもらうよ」
そう言って手をパンと叩くと、ダーレーアラビアンの作り出した空間にテロリストの1人が封じ込まれた。
辺りを見回すとそこはトレーニング場だった。
レースに出るウマ娘ならば馴染み深い、様々なトレーニングが行える場所である。
「な…これはトレーニング場…?」
困惑するテロリストにダーレーアラビアンが近づく。
「どうだ、素晴らしい場所だろう?
俺が普段いるここには、未来を目指して努力する大勢の子羊たちが集う。
全ての夢がかなうわけではないが、勇敢にそれを目指す姿は美しいものさ。
それに対して人の未来を奪う君たちは真逆だな、非常に醜悪で歪んだ姿だ。
だからこれから君には子羊たちと同じ体験をしてもらう。
未来を目指す者と同じ体験をすれば少しは変われるかもしれないからね」
「おい、ちょっと待て!これはウマ娘用のトレーニングだろう!?
ただの人間の俺に出来るわけがないだろうが!」
慌てるテロリストに対し、ダーレーアラビアンは冷たい笑みを見せた。
「大丈夫、出来る出来ないじゃない。やってもらうよ。
君の体がどうであろうと俺が強制的に君を動かす。
折れても砕けても裂けても修復するし、無理やりにでも動かしてあげるから」
ダーレーアラビアンが手をかざすと、テロリストの体が勝手に動き始めた。
「お、おい!くそ、体が勝手に…!」
「さあて、体験してもらうのは鍛えたウマ娘でも根を上げることのある、
最高のレベル5トレーニング。
それを俺の能力で強化し、レベル5を超えたものとなっている。
まずはタイヤ引きからやってもらおうか。
では、真人間を目指して頑張っていこうな!」
そうしてテロリストはトン単位の重量を誇る巨大なタイヤを引かされたり、
数百キロのバーベルスクワットなどをさせられた。
人間に耐えられる負荷を遥かに超えたトレーニングにより、幾度となく脱臼や骨折を繰り返す。
しかしそのたびに修復され、また何度もそれを繰り返した。
こちらの1人はゴドルフィンバルブの作り出した、青の領域。
どこまでも続く澄み切った海と空のように、ただ青いだけの何もない空間が広がっている。
そこに存在するのはゴドルフィンバルブとテロリストの2人だけだった。
床すらもないそこは、まるで空中浮遊でもしているかのような状態である。
「な…なんだこれは…」
テロリストは辺りを見回すも、全く何もない青いだけの空間。
そこに自分以外で唯一存在するゴドルフィンバルブに目を向ける。
「これは私の世界、私の領域。これからあなたには『罰』を与えます。
ダーレーやバイアリーは別なやり方をするでしょうけど、私はシンプルにね」
「罰…何をする気だ?」
「これからあなたの脳に、直接『苦痛』をインストールします。
痛み、熱さ、痒み、恐怖、窒息など…ヒトの味わえる様々な苦しみを直接流し込んでいきます。
それがあなたへの罰。あなたの意識が続く限り苦しんでもらうわ」
ゴドルフィンバルブがそう説明した直後彼女の目が開き、
同時にテロリストの体中を激痛が襲った。
「は…?ぐあっ!!!うああああ!!!や、やめろ…!!」
「あなたたちが殺した人たちは、あなたたちにやめてと言っても聞き入れてもらえないでしょう?
他人にやったんですから、虫のいいことを言わずに自分も受けてくださいね」
「うわああああ!!謝るから助けてくれ…!」
「いけません。現実では決して味わえない、仮想現実ならではの体験…
せっかくの機会ですから、じ~~~~っくりと味わってもらいます」
テロリストがどのようなことを言ってもゴドルフィンバルブは一切聞き入れることは無かった。
現実では不可能な、ありとあらゆる苦痛を味わうこととなった。
これもある意味では貴重な体験と言えるだろう、受けたくはないが。
最後の1人はバイアリータークが作り出した空間。
そこは草木の茂る草原のような場所だった。
テロリストはこれから何が起こるのか、と戦々恐々である。
「草原…?いったいなんだ…?」
そこにバイアリータークが姿を現す。
「VR…仮想現実というものは現実では体験できないことを実現するのが利点だ。
例えばこの地球上から失われた生物と触れ合うことができることなど、な」
バイアリータークが手をかざすと、周囲に巨大な生物が現れた。
数千万年以上もの昔、太古の世界を支配していた爬虫類、恐竜である。
出現した恐竜は、大きな咆哮を上げてテロリストを睨みつける。
「きょ…恐竜だと…!?」
「彼らは我々三女神や西城KAZUYAと同じく、
彼らを思う者たちによってこのVRの世界に生まれた。
人は亡くなったものを偲び、祈りを捧げる。
生きている姿を見たいという祈りがこれらを産んだのだ。
貴様らのように破壊することしかできない愚者には理解できないだろうがな…」
恐竜は興味深そうにテロリストとバイアリータークを見つめ、
においをかいだりして近くをうろつきまわる。
「さて、これから貴様にやってもらうのは恐竜との並走…いや、逃走だな。
今はまだ本格的に目覚めていないので大人しいが、これからそれを目覚めさせる。
捕まれば想像の通りだ。彼らに食われることとなる」
「おい、ふざけんじゃねえ!そんなことしたら死ぬだろうが!?」
「案ずるな、ここはVR空間。本当に死ぬことは無い。
とはいえその際の恐怖と激痛は本物として味わえるがな。
安心しろ、貴様が食われたら修復してやる。そうしたら休憩をはさんで何度でもこれを行う。
それに1人にはせん、共に私も参加してやろう。
貴様が私よりも速く走れればおそらく逃げ切れるし、
仮に追いつかれても私が先に食われることになる。
それでは開始する。覚悟を決めろよ!」
バイアリータークが合図をすると、激しい咆哮と共に恐竜が動き出した。
テロリストは急な出来事に対応できず、その場でへたり込んでいる。
恐竜はゆっくりと近づき、肩にゆっくりと嚙みついた。
「こ、こっちへ来るな…ぐあっ!!」
テロリストが捕食される様を離れた位置で観察するバイアリーターク。
その表情は呆れ気味であった。
「おっと、1回目は逃げ出すこともできずに食われる、か。
何度目から私と共に走れるようになるだろうな?先が思いやられるな」
テロリストは何度も体を修復され、そして何度も恐竜に捕食された。
修復されるたびに恐竜の種類が変わり、ティラノサウルス、デイノニクス、
ヴェロキラプトル、アロサウルスなど様々な恐竜と対峙することになった。
恐竜と出会うのが動物園のように眺めるだけだとしたら実に魅力的な体験だが、
何度も捕食される恐怖と苦痛を味わうテロリストの心中はいかほどだったろうか。
KAZUYAと三女神にこってりとお仕置きされたテロリストたち。
現実では10分そこらくらいしかたっていないが、
肉体に損傷はなくとも精神に多大なるダメージを受け、全員放心状態となっている。
ダーレーアラビアンはそれを確認したのち、テロリストたちの制圧を磨毛たちへと連絡した。
「よし、お仕置き完了だ。バルブ、バイアリー、KAZUYA、みんなご苦労様」
「お疲れ様。みんなきっちりとお仕置きできたみたいねぇ」
「私の所は根性の足らん奴だったな。これで少しは考えがまともになればいいのだが」
「三女神、名は知っていたが噂に違わぬ実力だ。
VR空間を自由自在に操る能力、使えるようになれば何かと便利そうだな。
オレも同じようなことができるのだろうか」
KAZUYAは自分の手を見ながら力不足を感じていた。
三女神のようなことができれば、様々なことに応用ができるだろう。
できれば自分もやれるようになりたいものだ。
「きっとできるさ、君は俺たちと同じなんだからね」
「そうか、ならば努力しよう。
三女神たち、今回はオレたちの問題なのに助力していただき感謝する」
「気にしなくていいわ、私たちとあなたは仲間だもの。
生を全うした後、人に願われて蘇り、人を導くためにいる存在。
目指す場所は違くとも、誰かの助けになるために生まれた仲間。
異なるネットワークだから今後会うことは無いでしょうけど…
同じ道を歩む同志としてこれからの幸せを祈っているわ」
「ああ、オレも君たちの多幸を祈っているよ」
「我々が指導するウマ娘には日々、怪我や病気が絶えない。
私自身の指導力の不足を痛感するばかりだが…そうなった際は頼む。
この病院に君がいるのなら信頼できるというものだ」
バイアリータークは「お互いまだまだだな」と言ってKAZUYAの背中をたたいた。
「ふ、治療であれば任せてくれ。
この帝都大学には磨毛、大垣など頼れる医師が多くいる。
患者なら誰であろうと必ずや救って見せるさ」
KAZUYAと三女神はそれぞれ握手をし、挨拶をしてネットワークが切れた。
再び会うことは無いかもしれないが、自分と同じくVRの世界に生まれ、
他人を導くために生きる同志の存在を知ったことは大いなる励みになったのだった。
テロリストたちをおびき寄せた部屋の外側で、
お仕置きが終わるのを待機していた磨毛とサトノダイヤモンド一行。
皆が待機する中、そこに一つ通信が来た。VRにいる三女神からの連絡である。
「おや、女神さまから連絡だ。『処置完了、拘束してよい。我々は帰還する』だってさ。
それじゃあSPの皆さん、よろしく頼むよ」
「承知しました」
SP軍団が部屋へと入り状況を確認すると、
放心状態となりピクリとも動かないテロリストたちが見える。
彼らが所持していた銃も、持ち主が動かなければ危険はないので安心して拘束できた。
SPや他のメンバーは心から安堵した。
サトノダイヤモンドに危険が及ぶような戦闘にならずに済んだからである。
お仕置きされたのはVR空間であるため肉体には何のダメージもないのだが、
その分脳へのダメージは甚大で、精神の回復にはそれなりの時間がかかるだろう。
ウマレーターを用いたお仕置きの結果を見て、磨毛は感嘆の声を上げた。
「いやあ~!ウマレーターの技術は実に素晴らしい!
簡易的なVRでもこれほどのリアルさと影響を持つとは驚きだね。
これなら共同開発中の医療学習用VRにもかなりの期待が持てる。
手術や解剖の練習をクランケなしでできそうなのは実にありがたいな」
天才と名高い磨毛から絶賛され、気をよくするサトノダイヤモンド。
「お褒めいただき光栄です!これはサトノ家が夢に向かって努力した結果です。
ウマレーターの技術で私も強くなれ、悲願のGI制覇も成し遂げられました。
これから医療分野でも活躍し、他のウマ娘や病気の方などの役に建てるのなら嬉しい限りです」
「ああ、是非頼むよ。僕が作っていたAIのKAZUYAくんも、やけに精度の高いものになったし。
僕はあそこまで細かくプログラムした覚えはないんだけど…
というかアレさ、完全な自我を持ってるようにしか見えないな。
彼、僕が知らない情報も持ってたよ?」
「そうなのですね、では三女神さまと一緒です!
三女神さまも突如として自我を持って誕生したAIなんです。
ウマレーターには何か特別な力があるのかもしれませんね!」
「えっ…あの3人は誰かが作ったわけじゃないの?」
まさかの事実に驚愕する磨毛だった。
「ところでふと思ったのですが、磨毛さんは経歴を拝見するとタキオンさんに似ていますね」
サトノダイヤモンドの突然の言葉に少々あっけにとられる磨毛。
「え?タキオンって…アグネスタキオンのことだよね?
今のドクターKの所で研究してるっていう。似てるってどこが?」
「はい!まず研究者として優秀なところ、優しいお方であるところです!」
「ほう、いいね。確かに僕は天才だし、アグネスタキオンも色々な研究で活躍してるもんな。
彼女の開発した薬品のおかげで悪性腫瘍の検査精度がかなり上がってありがたい。
それで他には?」
「それとですね、変な性格なところと、自分も実験台にすることに躊躇がないところです!」
サトノダイヤモンドは満面の笑みで悪意なく言い放った。
とても誉め言葉には聞こえないが、磨毛もそれに傷つくような男ではない。
「プハハッ!そりゃあ僕と似てるね!そうかそうか、あの子もそういうタイプだったか。
やっぱりねェ、自分は一番扱いやすい実験体だからね。
ただサンプル数が1つしかないのが難点だな。
うん、ちょっとアグネスタキオンに興味がわいたよ。
ドクターKと一緒にこっちに来ているそうだし後で会ってみようかな」
「はい、きっと気が合うかと思います!いいお友達になれるかもしれませんね!」
「さすがに年代が違いすぎるから友達はどうだろう…。しかしアグネスタキオンか。
ここに来た連中は撃退できたからいいが、他のチームの所はどうなってるかな?」