一也がいる西城総合病院には、麻純と別れたはずの宮坂も向かっていた。
車で送られる途中で強引に車を降り、一也がいるこの病院へ行くことを決意したからだ。
宮坂は今の自分があるのは一也のおかげだと思っている。
アレルギーを克服したのも、医学生になれたのも、一也が助けてくれたからだ。
全ては一也が導いてくれたおかげ…だが自分の人生は自分で決めるもの。
導かれているだけじゃない。今度は自分が一也を助ける番だ!
そう決意し、危険を承知で一也の元へと向かったことが、
結果的に車に仕込まれていた爆弾を回避する結果となったのだった。
宮坂が西城総合病院に到着すると、玄関口で大勢の人がひしめき合っていた。
何事かと思い職員に話しかける。
「あ…あのォ…何があったんですか!?」
「ああ、火事みたいで院内に煙が立ち込めてて…それで入院患者さんの避難誘導をしているの」
西城総合病院、その建物の中は白い煙に包まれていた。
職員は火事だと考えたが火元が見つからないため、消火活動より先に患者の避難を行っている。
大きい病院であるため患者も職員も沢山いるが、
急ぎつつも冷静な職員たちのおかげでパニックは起こっていないようである。
宮坂は職員の制止を無視し、一也を助けるために院内に飛び込んでいった。
院内では避難誘導のために職員が各病室を見回っている。
「ゲホゲホ…このフロアの避難は終わったようだ…次へ行くぞ!」
病室の見回りをしている職員が移動するのを、隠れて見届ける3人の男たち。
顔にはガスマスクを着け、この煙の中でも不自由せずに活動ができる装備だ。
この煙は火事ではなく、テロリストが仕掛けたスモークグレネードによるものだった。
「黒須一也はどこにいる?と言うより…本当にここなのか?」
テロリストの1人が呟くと、ひと際体格のいいテロリストがそれに答える。
「帝都大も西城医院も黒須邸も、襲撃チームから連絡がない。
と言うことは作戦に失敗した可能性が高い、裏を返せば奴は間違いなくここにいる!」
この男はバレリ。ロシアから一也を守るためにやってきたビクトルの、双子の兄弟である。
姿かたちは瓜二つだが、思想も境遇も大きく異なった兄弟だった。
バレリの推測は当たっており、一也は院内10階、特別病棟に匿われていた。
護衛に当たっていたビクトルと、院長である西城蓮介は、
特別病棟にいるとむしろ標的になりやすいと考え一也の場所を移動を開始。
実際にバレリらテロリストが特別病棟に向かってきたが、
間一髪のところでエレベーターに乗れたため移動ができた。
外では病院に到着した麻純と譲介が中に飛び込んでいき、
またジリノフスキ、KEI、ナリタブライアンも車で向かってきている。
ナリタブライアンは一度ライスシャワーの援護に向かおうとしていたが、
向かう前に内通者の制圧ができた連絡を受けて無事を確認できたため、
またKEIたちと共に行動することになった。
その移動の最中、ジリノフスキに部下から連絡が入った。
「わしだ、どうした?」
ジリノフスキが応答すると、慌てた様子の部下が報告をする。
『捕えた連中の証言をもとに奴らのアジトで証拠品を押収しているのですが…
そこでとんでもないものを発見しました!
過酸化水素水と塩酸と硫酸、そしてアセトンです!
試験管やフラスコで調合した形跡があります!』
「何…!?連中め、『
ジリノフスキが叫ぶと、横にいたナリタブライアンが声をかけた。
「なんだ、そのマーチ・サタニーというのは?」
「爆薬
調合には技術が必要だが、製造の素材が手に入れやすいためテロに使われることがある!」
「テロで使われる爆薬だと…!?まさかそんなものを使う気なのか!?」
西城総合病院にやってきたテロリストたちは皆リュックを背負っていた。
その中身は武器や道具ではない。ジリノフスキの部下が見つけた、そのTATP。
一也を見つけた時は確実に始末するために、
いざとなれば自分もろとも爆殺しようとして用意されたものである。
西城総合病院の中を、一也を探して駆けまわるテロリストと宮坂。
初めに宮坂が一也とビクトルを見つけて合流し、3階にある手術室横の回復室へと運び込んだ。
次いで麻純と譲介が、院長の蓮介に一也の場所を教えてもらいそこへ向かった。
麻純らがそこへ向かうと、一也、宮坂、ビクトルと合流を果たす。
麻純は一也の無事を確かめ、さらに自分が死を予見した宮坂がここにいることに驚愕するが、
体に触れるとつい数時間前まで見えていた死のイメージが消えていた。
宮坂が他の誰でもない、己自身の行動によって死を克服したことを知った麻純は、
呪いのような予知を自身で乗り越えてくれたことに心から感謝するのだった。
しかしそこに乱入してきたテロリストたち。
「感動の再開はそこまでだ!!」
バレリが一也へ銃を向けて叫んだ。
テロリストの一行は一也の所へ向かう最中の麻純を見つけており、
それによってあちらにも場所を知られてしまっていたのだ。
バレリが一也へ向けて発砲しようとした瞬間、手に激痛が走った。
テロリストの姿を見た瞬間、譲介が即座にナイフを投げつけ、
それが彼の手を串刺しにしていたのだ。
さらに宮坂、麻純、ビクトルが一也の前に立ち、壁を作る。
「人の盾だと!?笑わせる…!」
「そんなもので守れると思ったか!丸ごと全部吹き飛ばしてやる!」
テロリストの残り2人が爆弾を起爆しようとしたとき。
1人はその腕を掴まれ、1人は肩に針を刺された。
テロリストの腕を掴んだ手はそのまま万力のように強く締め上げ、
麩菓子を砕くかのようにテロリストの腕を握りつぶした。
針を刺された方はそのまま何かを注入され、全身の力が抜けてゆく。
テロリストの腕を握りつぶしたのは黒いマントに身を包んだ男。
当代ドクターKの神代一人だった。
「ここまでだ、宗教に名を借りたテロリストめ!!」
Kの怒りの鉄拳がテロリストの顔面に炸裂し、
上顎骨を砕かれながら壁まで吹っ飛んでいき、そのまま動かなくなった。
「ふーう、間に合ったようでよかったねぇ」
もう1人のテロリストに注射をしたのはアグネスタキオン。
起爆しようとする腕を抑えつつ即効性の筋弛緩剤を注入したため、
数秒で効果が表れ腕を動かすことも立つこともできなくなり、その場に倒れた。
「即効性を高めるため多めに注入したからねえ、
肺機能にも影響が出て多少呼吸困難になるが…安心したまえ。
この薬品は効果が切れるのも早くてね、
まあ5分程度で呼吸はできるように戻る、死にはしないよ。
苦しいのは罰と言うことで我慢してもらって…それに嬉しいことにここは病院。
万一呼吸困難が続いても人工呼吸器も置いてある。実に安心だ」
Kはテロリストを制圧したのを見て指示を出す。
「譲介、アグネスタキオン、こいつらのリュックを引っぺがせ!」
「はい!」
「了解だ。これがブライアン君から聞いたTATPだろうね」
テロリストの中で唯一まだ動ける状態のバレリ。
しかしドクターKまで出現した以上、もはや勝利の目は存在しないだろう。
元々玉砕覚悟の身、全てを道連れに神の元へ…
そう思い起爆装置に手を伸ばそうとするが、そこに兄弟ビクトルの声が響く。
「待てバレリ!話を聞け!あの患者は助かるぞ!」
「あ…あの患者?」
「私たちが路上で救った、心筋梗塞を起こした男性だ!」
「彼は…まだ
それがなぜ助かるんだ!?」
「iPS細胞の心筋シートをオーダーした!それを使えば助かる!」
「再生医療だと!?それは我が教団では最も許されぬ方法だ!
定められた運命に逆らい、神の道から外れてまで救う価値があるというのか!?」
バレリは、日本で出会った患者が助かると言われても、
それが教団の理念に違反していることから激高している。
それに対しアグネスタキオンが大声で笑いながら近づいてきた。
「アーハッハッハ!随分と訳の分からないことを言う!
君らの神とやらも、こんな愚かな信者を持って哀れなものだね!」
「なんだと貴様!?我らの神を侮辱するのか!?」
「おおっと、心外だなぁ。私はむしろ君らの神のことは肯定してやったんだがねぇ。
じゃあ質問だ、この世界は君らの神によって運命が定められているのだろう?」
「そうだ!だが貴様らはその運命に反して…」
「それだよ、『運命に反する』とはどういうことだい?
神が完璧なものであるのならば運命に反することなど起こるはずがない。
神が完璧であるならば、この世で起こる全てが神が定めたもののはずだろう。
ゆえに再生医療も、遺伝子操作も、一也君の存在も…
君らの神が望んで作り出した運命ということになるんじゃあないのかな?」
「な…なんだと…?」
「だが君たちはそれを勝手に『神に反する』ことだと、
すなわち『神の行いは完璧ではない』と決めつけているのさ。
面白いと思わないかい?神を信じると言っている君たちこそが、
最も神の力を否定してしまっているのだからねえ…」
「なっ…バカな…そんなことは…」
アグネスタキオンに矛盾を指摘されて狼狽えるバレリ。
そこにKも話しかけた。
「古来より医学は神学との対立の歴史だ。既成概念で理解できないことを人は忌み嫌う。
体にメスを入れる外科手術も、他人の血液を体に入れることも、初めは非難の的だった。
だが医学はそれを乗りえて進歩を続けてきたのだ。
もちろん倫理に反した暴走は止めねばならん。
だが…どんな経緯で生まれた命であろうと医者が奪ってはいけない。
全てを理解しろとは言わん、だったらこう思えばいい。
奇跡を見ているのだと。現代に起きた奇跡…だと。」
Kの声に応えるかのように一也がベッドから起き上がった。
クローン技術によって生まれこの世界に生きる、唯一の人間。
技術と環境と様々な思いによって生まれた、まさに奇跡の存在だ。
バレリはテロリストだが医師でもあり、命を奪うことには迷いもあった。
Kたちの説得を受けて戦意を喪失し、その場で動かなくなる。
「物騒なものはこちらに渡して、自首するんだ…」
ビクトルがバレリから爆薬の入ったリュックを受け取った。
これでようやく事件も解決か…と思われたその時。
Kに殴り飛ばされていたテロリストが意識を戻しており、
脳震盪で震える体で力を振り絞り、スマートフォンを操作する。
それはバレリには伝えられていなかった、爆薬の遠隔操作の起爆システムだった。
(ストーロジ・ジーズニに栄光を…)
事件も終わったと安堵するK一行。
その中でテロリストの操作を、唯一麻純だけが気づいた。
「あぶない…!みんな伏せて!」
麻純はビクトルが持つリュックを奪い取り、
横にいたアグネスタキオンを突き飛ばしながら叫んだ。
皆は即座に状況を理解し、Kは一也、譲介、宮坂をマントで覆い、
バレリはビクトルの前に手を広げて立ちふさがった。
麻純はリュックを少しでも離そうと、柱の向こうへと放り投げた。
「くっ…まずい!」
アグネスタキオンは麻純に突き飛ばされて体勢を崩しながらも、
手持ちのカバンをリュックに向かって投げつける。
その直後、激しい爆音とともに病院全体が揺れた。
テロリスト3人が持っていた全ての爆薬が同時に炸裂し辺りを破壊。
激しい爆発によって、Kたちがいた回復室には瓦礫が散乱している。
Kは爆音に震える体で立ち上がり、マントに包んだ弟子たちに声をかける。
「み…みんな怪我はないか?」
「み…耳が…」
Kが声をかけると、一也たちは痛そうに耳を抑えていた。
しかし一也たちは爆発に対して柱の陰におり、
Kもマントで守ってくれたため体は無事で音のダメージだけで済んでいた。
「うああああ~~!!!み、耳がいたい~~~!!!」
また、アグネスタキオンも麻純のおかげでおおむね柱の陰におり、
元から防爆装備も着用していたため体はほとんど無傷だった。
しかし聴力の高いウマ娘、音のダメージは一也たちよりも激しいようでもがき苦しんでいる。
「バ…バレリ!しっかりしろ!わ…私を庇ったりするから…!」
「グッ…ゴフッ…」
ビクトルはそれなりの傷を負ったが命に別状はない。
一方、彼を庇ったバレリは重傷を負い、出血も多く瀕死の状態である。
「そうだ…母さん!母さんは!?」
一也がハッとして麻純のいた方を向くと、横たわる麻純とそれを診るKの姿が見えた。
一也は慌ててそちらに近づくと、即死したであろうテロリスト2人の亡骸と、
血まみれで苦しむ母の姿を確認した。
「せ…先生…母さんは…?ま…まさか…」
「麻純さんは近距離で爆発を受けた…手足は一次爆傷でひどい状態だ。
頭部は手で庇ったらしく、少し程度は低いが重傷。
それらに比べると胴体部の外傷はかなりマシだが側腹部が抉られている。
また内臓に損傷があるな、肝損傷のグレード2か3と思われる。
このままだと出血多量でもって数分だ。
だが止血をしても内臓の処置をしなくては2時間ほどで死ぬだろう」
「そんな!だったらすぐにやらなくちゃ…」
そこに辺りを確認し終えた譲介がやってきた。
「先生…ダメです!ここから出られそうにありません!
オペ室の出口も、中央手術室への通路も瓦礫で塞がっています!」
「く…この回復室に閉じ込められたか。
道具はどのくらい残っている?麻純さんの止血をしなければ…」
「バ…バレリはどうなりますか!?
肺挫傷か…心臓もやられているかもしれません!一刻を争うんです!」
瀕死の兄弟を前にして狼狽えるビクトル。
Kがバレリの症状を見ると、こちらも数分と持たないであろう重傷だった。
麻純の止血とバレリの処置、数分で行うとしたらどちらか片方しか不可能だ。
「両方を処置するのは不可能か…。ならば選ぶべきは…」
Kが2人を天秤にかけた時、アグネスタキオンがフラフラとした足取りでやってきた。
「あー…ようやく耳が聞こえるようになったよ、右耳はダメなようだが。
すぐに止血しなくてはならないんだろう?私に任せてくれないか。
こういう時のために止血用ガーゼや圧迫止血包帯を携帯していたんだ。
黒須さんのことは私がやろう。K先生はあっちの男の方に行ってやってくれ」
「アグネスタキオン…!でかした、ならば任せる!
譲介、オペの準備だ!」
「お…オペですか!?さっきの爆発でほとんどの器具が壊れてほとんど何もありませんよ!?」
「バレリとビクトルは双子だ!この2人の動脈と静脈を直結させて疑似的なPCPSにする!
その間に負傷した心臓と肺の修復手術を行う!
急いで道具をかき集めろ!この男は10分と持たん!」
Kの号令で譲介が手術の準備を始めた。
一也や宮坂はアグネスタキオンと共に麻純の止血作業を始めていたが、
そこに麻純が声をかけた。
「一也…き…聞こえたでしょ…。私よりも…K先生とオペを…」
「母さん…!で…でもまだ止血が…それが終わったら肝損傷も処置しなくちゃ…」
「し…止血はタキオンさんがやってくれるわ…。それに…K先生も言ってたでしょ…
私の症状なら
一也…あなたは医者でしょ!トリアージなさい…!」
全身を爆傷でボロボロになりながらも、強い口調で言い切った麻純。
そこには一也を医者と信じる、強い気持ちが宿っていた。
麻純の強い覚悟を受け、一也もまた覚悟を決めた。
「わかった…行ってくる!宮坂さんも向こうを手伝ってくれ!
タキオンさん、母さんのこと頼みます!」
「まかせてくれたまえ、私はあちらでは力になれないからね」
一也は麻純をアグネスタキオンに任せ、バレリの手術へと向かっていった。
様々な道具が乏しい中で、肺や心臓といった難しい手術が始まった。
Kたちの手術を遠目で眺める麻純とアグネスタキオン。
アグネスタキオンもなかなか器用であるため、麻純の止血は滞りなく終えることができた。
広範囲の止血だったため、救急用の止血包帯で全身ぐるぐる巻きである。
さらに応急処置として、無事だった生理食塩水を拾ってきて輸液を行っている。
「タキオンさん…ありがとう。おかげで助かったわ…」
「私にできるのはこのくらいだからねぇ。あとは…麻酔の投与をしておこうか。
局部麻酔くらいなら私もできるのでね」
「ありがとう…。あなたがいなければ…私は死んでいたわ。
あなた、爆弾に向かって何かを投げていたわよね…。
私の胴体の傷が浅いのは、きっとあれがあったからでしょう…?」
「ああ、少しは効果があってよかったよ。
爆弾に投げつけた鞄はねぇ、防弾防爆用のリキッドアーマーの素材を入れてあったんだ。
銃撃戦もあり得る以上はそういう装備も必要だと考えたのさ。
だから爆風を少しは抑えてくれるだろうと思ったんだが…
しかし黒須さんの内臓損傷は、たぶんその鞄が吹っ飛んで腹部に当たったんだろう。
もうちょっといいやり方ができればよかったのだが。すまないね」
「いいのよ、おかげで助かったんだから…。あなたは命の恩人ね」
「こちらこそだ。あなたが動いてくれなかったら私含めて皆が爆風をモロに受けただろう。
皆を助けてくれて感謝しているよ」
「ふふ…それじゃ…おあいこね…。」
麻純が一也の方に視線を向けると、手術を必死で行っている姿が見える。
「タキオンさん…少し頭の角度を変えてもらってもいいかしら…
一也の姿をしっかり見たいの…」
「いいとも。いやあ、一也くんは凄いね。
いろいろなことがあって…自分も母親も傷ついているこの状況で。
手術の動きに迷いも憂いもない、立派だねぇ」
「K先生たちの…教育のおかげね…。本当にあっという間…
一也を授かって22年も経つなんて…あの子はKAZUYAさんのクローンとしてではなく…
『黒須一也』として育てて来た…それが良かったことだったのかはわからないけど…」
「なら聞いてみるといいさ。まあ、あの姿を見れば大体想像はつくがね」
「そうだと…嬉しいわ…。ちゃんと話しておきたいわね…
あの子の気持ちも…私の気持ちも…話したい…。私は…幸せだってね…。」
Kたちのいる回復室、その外には救助隊などが集まっていた。
しかし爆発の影響で扉が歪み、瓦礫も積もっているので中に入るのは不可能だった。
蓮介がどうすればいいかと悩んでいると、病院に到着したKEIたちがやってきた。
「兄さん!今はどういう状況!?」
「おお、KEIか!この中で凄まじい爆発音がしたんだ!つい5分前だ!」
「爆発…!?じゃあTATPが使われたのね!それじゃ…中の状況は…?」
「全くわからん…!どうにかこじ開けようとしているところだ!」
KEIたちが完全に封鎖されている扉の前で立ち尽くしていると、
そこにライスシャワーも到着してきた。
「あっ、ブライアンさんたち…!一也さんや黒須さんは…!?」
「ライスか!無事で安心したぞ。一也たちはおそらくこの中なんだが、
中で起きた爆発で状況がわからないんだ。確かめるには何とかしてこじ開けるしかない…」
そこでナリタブライアンは指をポキッと鳴らした。
「ライス、まだ体力は残っているか?」
「もちろん。私、ステイヤーだから」
「よし、私たちでやるぞ。ウマ娘の力ならなんとかなる!
あんた達、それちょっと貸してくれ!」
ナリタブライアンは横にいた消防隊員から手袋をはぎ取り、
自分とライスシャワーに装着した。
「行くぞ!うおらああああ!!!」
「えい…やああああっ…!!!」
ナリタブライアンたちが渾身の力で扉を引っ張ると、
メキメキと音を立て、取り付けられている壁ごと破壊しながら、歪んだ扉をはぎ取ることに成功した。
傍にいた消防隊員は驚愕である。
「す、すごい!これを素手で取り外せるなんて!重機いらずだな…!」
「さすがウマ娘だ!これならいけるぞ!頑張ってくれ!」
「私もウマ娘ですけど、こんな凄いことできるのそうそういませんからね!?」
だがまだ崩落した天井や折れた柱などで塞がり、中に入ることはかなわない。
消防隊員やジリノフスキも参加し、瓦礫を撤去しながら少しずつ前を開いていく。
ようやく人の通れるほどの隙間ができ、先んじてKEIが中に入っていくと、
中ではちょうどバレリの手術が終わったところだった。
横を見ると傷だらけで、包帯でぐるぐる巻きになり横たわる麻純の姿も確認できる。
「K先生たち…!大丈夫ですか!?あっ、麻純さん!?なんて酷い怪我を…!」
KEIが入ってきたことにKも気づき、通路が開通したことを把握した。
「KEIさん!よかった、通路が確保できたんですね!?」
「ええ、ナリタブライアンさんたちが瓦礫を撤去してくれて…
もうすぐ普通に通れるくらいに開通します!」
「よし、それならば麻純さんの搬送の準備を!
彼女は出血が多くて肝損傷の可能性も高く、さらに手足の広範囲に爆傷がある!
すぐに無事な手術室に移動して処置しましょう!」
「麻純さんがそんな状態に…!わかりました、すぐ準備します!
麻純さん、すぐやりますから気をしっかり持ってくださいね!」
KとKEIが手術の準備をしに外へ出て行った。
アグネスタキオンは担架代わりにと壁板を剥がし、その上に麻純を乗せる。
そこに一也もやってきて、足側をアグネスタキオンが、頭側を一也が持って運び始めた。
「母さん…!もうすぐだからね!頑張って!」
「ふふ…一也、とても立派な手術だったわ…。
私のことも…あなたに任せるから…何の心配もないわね…」
「うん…!任せて!オレが絶対に助けるから!!」
ナリタブライアンたちのおかげで、入り口は麻純が通れるくらいには開かれていた。
すぐさま近くの手術室に移動し、Kや一也たちによる手術が始まった。
ライスシャワーは運ばれる麻純の姿を見て、
生きていることへの安堵と重傷を負っていたことへの悲しみで涙を浮かべるが、
一也から「こっちはオレに任せて、中の救助をお願いします」と言われて気を取り戻した。
中には重傷のバレリたちがおり、こちらも救出しなくてはならないことを認識すると、
彼らを助けることが自分の仕事だ、と瓦礫の撤去を再開する。
通路が完全に開通した後バレリとビクトルが運び出され、バレリはICUに収容された。
さらにKと一也たちの手によって麻純の手術も無事に終わり、
こうして命の番人事件は終息を迎えた。